閑話・昔からのダチ

突然の訪問者に慌てたユウナギは、

あえなく気絶しミラーズ達の手によって小屋で寝かされていた・・・。


寝かせ終えたミラーズ達は再び外へと出ると、

お茶を飲みながら久方ぶりの『友』と談笑する事にした・・・。


{しかしまさか御二人がお知り合いだったとは・・・}


小皿の中の水を飲みながらそう言ったらぶりんに、

その創造主である『卑弥呼』が笑みをこぼした・・・。


「はっはっはっ!こいつとアタシはそりゃ~遠い昔からの『ダチ』なのさ♪

 アタシとイザナミと・・・そしてこいつ・・・」


「こ、こいつってっ!?ちょっと卑弥呼?

 酷い物言いじゃない?

 またシメてあげてもいいんだけど?」


卑弥呼の物言いに抗議したミラーズの口調は少しおどけていたが、

それを見ていたらぶりんは『目の奥が笑ってないですね』と、

そんな感想を持っていた・・・。


そしてそのミラーズの声に反論しようと卑弥呼が噛みついた・・・。


「シメてって・・・今のあんたにはソレって難しいっしょ?」


「・・・・・」


「一体何処で何をしていたかはしんないけどさ~?

 連絡の1つも出来ない訳~?

 地球では常識なんだけど、『報連相』って言葉知らないの?」


お茶を飲みながらジト目を向ける卑弥呼に、

ミラーズは複雑そうな顔をしていた・・・。


その表情に色々と察した卑弥呼は何があったのかを尋ねると、

ミラーズはお茶を口にした後・・・説明したのだった・・・。



話が一通り終えたミラーズがしんみりと俯くと、

卑弥呼は『やれやれ、面倒臭いね』と言い、言葉を続けた・・・。


「つまりは『絶』の任務でさっきの坊やを選んでは見たものの、

 惚れちまって言い出せないでいる・・・って事?」


ミラーズは俯き顏を赤らめながら『コクリ』と小さく頷いた。

その様子に『はぁぁぁ~』と、大きく溜息を吐いた卑弥呼は、

『やってられねーっ!』と言い捨てると、

先程『黒い穴』で引っ掛かっていた白い大きな袋の中に腕を突っ込んだ。


「そう言うシミったれた話・・・アタシが嫌いだって事、知ってるよな~?

 だからそんな話を聞くのなら・・・もうさ~・・・

 飲むっきゃないでしょっ!?」


そう言いながら白い袋に手を突っ込んだ腕を抜き、

その手には『大吟醸』と書かれた『一升瓶』を取り出した・・・。


そして小気味よく『ポンっ!』とその一升瓶の蓋を開けると、

ミラーズが飲み干したカップにそのまま注ごうとした・・・。


「待って・・・卑弥呼・・・」


一升瓶の口を押えながらそう言うと、

卑弥呼はミラーズのその雰囲気に何かを察し『酒』を注ぐのを止めた・・・。


「・・・で?何か言いたい事あんでしょ?

 聞いてやるから、とっとと話しなよ」


「・・・わかった。有難う卑弥呼」


「・・・礼などいらねーよ。

 どうしてもっつーなら・・・お代は『酒』で頼むわ♪」


「・・・本当に貴女って人は♪」


そう笑い合う2人に、らぶりんは創造主である卑弥呼の印象違いに戸惑っていた。

だがこうも思っていた・・・。


(本来の卑弥呼様はきっとお優しい御方なのでしょうね?

 いつも私が見ていた『ごくつぶし』的な御方なのは仮の姿と言う事かしらね?)


目の前で笑い合う2人を見て、

気が付けばらぶりんの頬も緩んでいたのだった・・・。



そして卑弥呼は口を開いて行った・・・。


「でもあんたさ~?

 これからどーすんのさ?」


「・・・どうするって?」


小首を傾げキョトンするミラーズに、

卑弥呼は『素で色っぽいのが腹立つわねっ!』と言い捨てると、

声のトーンを落とし話の続きをしていった・・・。


「いつまでもこーしてらんないでしょ?

 いい加減見切りをつけるか・・・いっその事、打ち明けるか・・・。

 そう時間があるとは思えない。

 だから結論を出すなら早いうちの方がいいんじゃね?」


静かなトーンでそう言った卑弥呼に、

ミラーズはただ俯き苦悩していた・・・。


「アタシらの中じゃ~あんたが一番聡明で力もある・・・。

 なのに・・・あんたは・・・」


テーブルの上に置いていた卑弥呼の手に、

言い様の無いほど拳が強く握られていた・・・。


するとミラーズは俯きながらも口を開いた・・・。


「・・・残された時間はどれくらいあるの?」


腕組をし背もたれに体重を預けた卑弥呼は、

目線を夕暮れ時の空へと向けると、ポツリと呟いた・・・。


「そうさね~・・・。

 ざっと・・・1年・・・無いと思うわ」


卑弥呼の言葉に勢いよく顔を上げたミラーズは、

『そ、そんなに少ないのっ!?』と驚いていた・・・。


「そりゃ~そうでしょ?

 例の堕天使・・・ヤツの消息が掴めそうだと情報がはいったからね?」


「・・・グ、グローサーの居場所がっ!?」


そう声を荒げながらテーブルを『バンッ!』と叩き、

勢いよく立ち上がったミラーズの瞳には『憎しみ』が見て取れた・・・。


そんなミラーズの心中を察した卑弥呼は、

憤慨する『ダチ』を諭す為に静かに口を開いた・・・。


「あんたがそう憤慨する気持ちはわかるわ。

 私の仲間だってヤツに・・・手痛い目にあわされているしね?

 仲間を多く失ったあんたが声を荒げるのは仕方がないわね。

 でも・・・。ヤツに仲間を殺されているのはあんただけじゃない・・・。

 それはわかってるのよね?」


『コクリ』と無言で頷いたミラーズに、

卑弥呼は肩を竦ませると話の続きをした・・・。


「アタシんとこに入った情報で言うと・・・。

 グローサーのヤツはもうある意味・・・

 私達の手には負えないほどの力を得た・・・と」


そう卑弥呼から聞かされたミラーズは、

怒りに肩を震わせながら声を発していった・・・。


「神でも・・・手に負えない相手に・・・

 どうして『弱き人族』が駆り出されないといけないのよ・・・」


全身を怒りで震わせて居るミラーズの声に、

卑弥呼は大きく頷くが、色々な意味で私情を挟んでいるミラーズに、

こう反論したのだった・・・。


「・・・あんたにもその理由はわかっているばずでしょ?」


「・・・・・」


「神は神に対し『捕縛』する事は出来るけど、

 『魂』を『消滅』させる事が出来るのは・・・

 その『弱き人族』しかいないと・・・」



※ 神は神の手によってその『魂』を『消滅』させる事が出来ず、

  『捕縛』のみ出来る。

  そして捕らえられたその『神』は・・・。

  『無限牢獄』と言う名の『亜空間』に閉じ込められ、

  永久的にそこに閉じ込められる。


  そんな『神』を『消滅』されられるのは、

  『弱き生命』・・・そう、『人族』に属する者達だけなのだ。



卑弥呼の言葉に顏を顰めたミラーズは、

『・・・無力な己を呪うわ』と涙を流した。


そんなミラーズに卑弥呼は話を続けた・・・。


「ミラーズ・・・ヤツの討伐チームの候補を1人・・・見つけたわ」


「・・・えっ?」


『候補者を見つけた』と聞いたミラーズは涙を拭いながら顏を上げると、

卑弥呼は白い大きな袋から一枚の富士山が描かれている封筒を差し出した・・・。


その封筒を受け取ったミラーズは、

封筒を裏表と見たが、差出人の名などなかった・・・。


「・・・誰から?」


「・・・イザ子からよ」



※ イザ子・・・ダチ達の間で呼ばれるニックネーム的なモノ。

  因みにイザナミは『イザ子』・卑弥呼『ヒミぞう』・ミラーズは『ミラパン』



差出人の名が『イザナミ』だと知ったミラーズは、

慌てたように封筒を開けると、その中からは1枚の『写真』と、

数枚の『手紙』が同封されていた・・・。


「・・・この子が・・・候補者・・・なの?」


そう戸惑った声を発したミラーズに、

卑弥呼は肩を竦めると『アタシはまだ見てないんだよね~』と言って、

ミラーズから候補者の『写真』を受け取った・・・。


そして何気なく『写真』に写る人物を見た時、

突然卑弥呼の顏が『ボッ!』と赤く染まった・・・。


「ヒ、ヒミ・・・ぞう?」


予想もしなかった事態に、ミラーズは思わず『愛称』で呼ぶが、

当の卑弥呼はその『写真』に写る人物に・・・息を荒くしていた・・・。


「ヒ、ヒミぞう・・・?

 あ、貴女・・・ま、まさか・・・?

 まさか・・・よね?」


卑弥呼の様子にミラーズは差し伸べた手が『ブルブル』と震えていたが、

そんな事もお構いなしに突然卑弥呼が立ち上がり・・・『絶叫』した。


「こっ、この子ぉぉぉぉっ!?

 アタッ・・・アタシの・・・すんげぇぇぇっ!タイプぅぅぅぅぅぅっ!

 イケメン男子来たぁぁぁぁぁっ!

 じゅるっ♪」


『ガタッ!』


卑弥呼の絶叫に手を差し伸べたミラーズはバランスを崩し、

テーブルに顔面を強打し地面で悶絶していた・・・。


『〇△◇✕・・・うぐぅぅぅ』


そして一連の様子を水を飲みながら見守っていたらぶりんもまた、

創造主である卑弥呼の叫びに、飲み込んだ水を噴水が如く吹き出したのだった。


{ひ、卑弥呼っ!?}


思わず呼び捨てでそう声を挙げたらぶりんだったが、

完全にイカれて夢中になっていた卑弥呼には届かなかった・・・。


卑弥呼はそんな1人と一匹の様子など気にする事もなく、

その人物が写る『写真』を夕日に向かって掲げ、

『やっっっべぇぇぇ~♪た、高まるぅぅぅっ♪』と舞い上がっていた・・・。


{ドクズだったぁぁぁぁっ!?

 こ、こいつ・・・まじでクズねっ!?

 さっき感動した私の気持ちを返しなさいよっ!}


怒りに震え前脚を『プルプル』させるラブリンを他所に、

創造主である卑弥呼は完全にキマっていた・・・。


『痛ったたたたたた・・・』と這い上がるように、

顏を押さえたミラーズはテーブルに捕まりながら身体を起こし、

舞い上がる卑弥呼の様子に顏を引き攣らせた・・・。


「そ、そうだった・・・忘れていたわ・・・」


そう呻くように声を発したミラーズに、

吹き出した水でずぶ濡れになっていたらぶりんが尋ねた。


{・・・ミラーズ様?一体何のお話ですか?}


その問いにらぶりんに視線を向けたミラーズは、

視線を再び舞い上がり発狂している卑弥呼を見ながら説明した。


「ヒミぞうってさ~・・・

 昔から、若い男の子が好きなのよ・・・ね。

 しかも・・・クールなイケメン男子限定で・・・。

 あは・・・ははは・・・」


{えっ!?}


「所謂・・・ショタってヤツなのよ・・・」


{わ、私を創造した人が・・・ショ、ショタコンっ!?

 う、嘘・・・ですよね~?

 い、いくら何でも・・・近年コンプライアンス的に~・・・

 まずい時代で・・・ま、まさか・・・の?

 いやいやいやいやっ!?

 で、でもっ!卑弥呼・・・ですよっ!?

 とある星では超有名人なんですよねっ!?

 そ、そんな人が・・・ま、まさか・・・まさかですよね~?}


らぶりんはその事実を認めたくないのか・・・。

眼前で狂喜乱舞する卑弥呼が目に入っていないかのようにそう言った・・・。


するとミラーズは項垂れながら首を左右に小さく振ると、

更に言葉を続けたのだった・・・。


「らぶりんさん・・・貴女にとってはトラウマ級になるかもしれないけれど・・・」


{ト、トラ・・・ウマ・・・級っ!?}


「・・・好みの男の子を見つけたヒミぞうは・・・」


{・・・ヒ、ヒミぞう・・・は?}


「・・・犯罪者レベルなのよっ!

 し、しかも・・・超が付くほどの極悪犯罪者っ!」


そう声を挙げながら、その顔を両手で覆うと、

らぶりんは壊れたブリキのオモチャのように・・・

カクカクとした動きで狂喜乱舞する卑弥呼を見た・・・。


そしてらぶりんは絶叫した・・・。


{なっ!何ですとぉぉぉぉぉっ!?

 ぎ、犠牲者が出ない内に・・・し、始末・・・始末をっ!

 や、やはりここはこのクズの部下としての・・・せ、責任を・・・

 責任を取らねば・・・。

 い、今なら・・・こんな私でも・・・殺れるはずですっ!}


その声はこの『閉鎖空間』に木霊した・・・

ような気がするくらい・・・らぶりんにとっては『魂』の叫びとなるモノだった。


それから暫くの間・・・。


手の付けられない卑弥呼を放置し、

その狂喜乱舞する姿と声を聞きたくなかったミラーズとらぶりんは、

『遮音結界』を張った後、その姿が見えないように、

内壁に綺麗な野原と鳥たちの囀りが聞こえる結界へと作り替えた。


『ちゅんちゅん・・・ちゅんちゅん』


{あぁ~・・・綺麗ですね~ミラーズ様?}


「でしょ?この景色はね~私が旅をしていた時の星で見つけた、

 一番の御気に入りの場所なのよ♪」


{へぇ~♪私も一度この目で見たいです♪}


「フフフ♪」


お茶を飲みながらそんな会話を30分ほどしていたのだった。



暫くして我に返った卑弥呼がミラーズの作った特別な結界の壁をノックすると、

その気配を感じ取ったミラーズが、

まるで家から小窓を開けるように、結界の壁を丸く開けたのだった・・・。


「・・・何か御用かしら?

 私は今・・・。

 とあるクズな上司を持つ、いたいけな『蜘蛛さん』の愚痴を聞いていて忙しいの。

 邪魔・・・されたくないのですけど?」


「・・・うっ」


ミラーズのその突き刺すような冷たい視線と言葉に、

卑弥呼は呻くと日本の伝統芸でもある『土下座』をして見せた・・・。


「すっ、すまなかったっ!この通りだから許してっ!

 つ、つい・・・テンションが爆上がっちゃって・・・うへへへ♪

 じゅるっ♪」


(こ、このショタぞうが・・・)


土下座と言う『日本伝統芸の神髄』を垣間見たミラーズは、

テーブルの上に居るらぶりんに『どうする?』と尋ねると、

『首を掻っ切るポーズ』をしながら『ギルティーっ!』と声を挙げた。


結界の外ではらぶりんの声が聞こえたのか、

卑弥呼は顏を真っ青にしていると、『フフフ♪』っと、

突然笑みを浮かべたミラーズが空を見上げ手をかざしながら声を挙げた。


『ショック・ボルトッ!』


『ピッシャーッ!ドーンッ!』と強烈な落雷が直撃すると、

『プスッ、プスッ』と黒焦げになった卑弥呼が口から黒い煙を発していた・・・。



それからまた暫くして・・・。


許しを得た卑弥呼はテーブルに座ると、

ミラーズがイザナミから送られた手紙を読みながら、

その『写真の人物』について話し始めた・・・。


「名は~・・・『カミノ・ユウト』」


「・・・ユウトきゅんね?♪」


『イラッ』


「コホン・・・続けるわね。

 年齢は~・・・って・・・この子・・・転移者なのね?」


「・・・転移者か~♪」


『・・・・・』


「・・・ノーブルに転移して24歳から15歳に若返ったらしいわね?

 って事は~・・・リョウヘイと同じような感じね?」


「転移者で~・・・元は24歳♪

 ぬほっほっほっ♪別に何も問題ないわ♪

 ノ~・プロブレ~ムッ♪

 一体アタシを何歳だと思ってんのよ~♪

 年齢が障害に・・・?

 フンッ!そんな戯言・・・アタシに通用する訳ねーだろうがっ!

 伊達に歳を食ってるわけじゃねーんだよっ!

 この『天上天下唯我独尊の卑弥呼様』を舐めんじゃねーぞゴラァァァっ!

 ぬわっはっはっはっ!」


先程の『土下座』は一体何だったのか?

呆れた目で見ていたミラーズに、らぶりんから『念話』が入って来た。


{い、今のうちに始末しておいた方が・・・

 よ、世の為人の為になるのでは?}


{・・・その時は、私が始末しますから安心してね♪}


{よ、宜しく御願い致しますっ!}


{・・・らじゃ~♪}




『・・・でね?』と・・・。

『念話』を終えたミラーズが話の続きをしようとした時だった・・・。


突然卑弥呼が『んっ!?』と唸り何かを思い出すと、

ボソッと呟いた・・・。


「ノー・・・ブル?ん?ノーブルの『カミノ・ユウト』って・・・

 どこかで・・・って・・・あ、あっ!?

 た、確か・・・その子・・・」


「・・・彼がどうしたの?」


「確か~・・・今、死んでいてイザ子が蘇らせる為に、

 ノーブルの子達と『冥界の始まりのダンジョン』に潜ってるって・・・」


「はぁぁぁっ!?し、死んでるって・・・何でよっ!?」


「そ、そんな事・・・アタシが知る訳ねーしっ!

 あ~・・・でもさ?

 確か~・・・『絶』絡みとか何とかってイザ子が・・・」


「・・・はぁ~」


深い溜息を吐いたミラーズは、

その後、手紙に書かれていた事を把握し、

今後の対策を定期的に行うと決めると、

ただの『女子会』へと切り替わったのだった・・・。


それから暫くすると・・・。

卑弥呼によって気絶したユウナギが目覚め、

小屋の外へと出て来たのだった・・・。

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