第71話・突然の訪問者

らぶりんの雰囲気を感じ取ったミラーズは、

ユウナギと話しながらも『念話』を飛ばし声を掛けた・・・。


{・・・らぶりんさん?何か気になる事でもあるのかしら?}


ミラーズの問いに向き直ったらぶりんは、

主であるユウナギの力の弱さに不安の声を発した・・・。


{ユウナギ様の御力の弱さに少々不安を覚えまして・・・}


{・・・確かにそうね。

 私が一度神力を補充したのだけれど、所詮は付け焼き刃・・・。

 根本的に何とかしないとこのままじゃ・・・}


そんな2人の心配を他所に、ユウナギは上機嫌で口を開き、

『飯にしようぜ~♪』と早々に小屋の中へと消えて行った・・・。


その後ろ姿を見ていたミラーズは哀し気な視線を向けていると、

不思議そうにしていたらぶりんが声を掛けたのだった・・・。


{・・・どうしてそのような視線を向けるのか、

 私にはわかりませんが、ただ・・・。

 今のユウナギ様に何を言っても伝わらないかもしれませんね}


『ふぅ~』っと溜息を吐いたらぶりんを見る事もせず、

ミラーズは一言だけ呟いた・・・。


「・・・彼はとても苦しんでいるわ」


{・・・そうでしょうか?}


「・・・ふふふ♪」



小屋の中へと入ったユウナギが扉を閉めると、

先程とは打って変わって真剣な表情へと変わり、

壁を『ドンっ!』と叩き再びその表情を曇らせた・・・。


(・・・まじでヤベー。

 どんどん力が・・・神力が俺の身体から抜け出るような・・・

 そんな感覚が・・・ちっ!)


ミラーズやらぶりんに心配かけまいと強がり、

そして明るく振舞うものの、

その致命的とも言える不安からは逃れる事が出来なかったのだ。


(・・・いくら冥界の神力との相性が悪いって言ってもよ?

 それはねーだろ?ってもんだぜ・・・。

 ったくよ・・・俺は今後どうなっちまうんだよっ!?)


ユウナギは小声ながらも『くそったれっ!』と言い捨てると、

テーブルを拭きクロスを広げ、セッティングを始めたのだった・・・。



一方ミラーズ達はと言うと・・・。


ユウナギに声が届かないよう『念話』で会話をしていた・・・。


{冥界の神力との相性と言いましても、

 そもそも冥界の力を人族が使用する事など有り得ません・・・}


{・・・そうね。

 確かにそう・・・なのだけれど・・・}


そう言いながらミラーズは小屋に視線を向けると、

らぶりんが質問を口にした・・・。


{ミラーズ様?少しお聞きしたい事が?}


{ん?何かしら?}


{ユウナギ様とミラーズ様のご関係は一体・・・?}


そうらぶりんに問われたミラーズは『クスっ』と笑みを浮かべると、

簡単ながらも説明したのだった・・・。


{えっと~・・・私と彼の出会いは~・・・偶然?って言えばいいのかしらね?}


{・・・偶然・・・ですか?}


{えぇ、彼と出会った時、私は極秘で『とある人』から任を受けて、

 色々な星を旅していたの・・・}


そんな話をし始めたミラーズに、らぶりんはの顔色が青ざめ始めた・・・。


{ん?どうかした?顔色・・・悪いわよ?}


{あははは・・・。

 わ、私如きに・・・そ、そんな話をしても大丈夫なのですか?}


ミラーズの顔色を確かめるようにそう聞いて来たらぶりんに、

微笑みながら口を開いた・・・。


{別に構わないわよ?

 だって・・・貴女とリョウヘイは会話・・・出来ないでしょ?}


『っ!?』


{まぁ~今は私の任務で彼を苦しめたくないし・・・ね}


そう呟いたミラーズの表情はとても悲しく、

一目見てその心中を察したのだった・・・。


{つまりそれは・・・。

 ユウナギ様を『何かの理由』で戦地に赴かせなければならないと?}


{・・・・・}


無言ではあったがミラーズはらぶりんに視線を向けると、

ただ微笑んで見せ、

それを見たらぶりんはやるせない気持ちになったのだった・・・。


{私がその任務をリョウヘイに話さなければ、

 彼は赴く事もないはず・・・でも・・・

 彼は私が何かを隠している事には気付いているはずだから、

 いずれ・・・バレるでしょうけどね?}


そう言葉を続けたミラーズの黄金色の瞳は哀し気に揺れていたのだった・・・。



そんな時だった・・・。


突然らぶりんの頭の中に『ピヨピヨピヨ♪』と言う音が響いて来た・・・。


『っ!?』


(・・・こ、この音って何っ!?)


突然その小さな身体を『ビクッ』とさせたらぶりんに、

ミラーズも驚いた顔を見せていた・・・。


{・・・ど、どうしたの?}


小さならぶりんを覗き込むように顏を近付けたミラーズに、

咄嗟に両方の前脚を『ブンブン』と振り、

何事もないかのようにアピールし始めたが、

ミラーズは『ふーん』と言いながらジト目を向けて来た・・・。


(私が嘘ついてる事・・・絶対にバレてる・・・うぅぅ)


項垂れつつそんな事を思っていると、

再び『ピヨピヨピヨ♪』と音が響いて来た・・・。


『はぁ~』っと嫌々ながらも『念話』を繋げると、

苛立ちを隠す事もせず、らぶりんは声を挙げた・・。


{・・・はいはい、一体何ですか~?

 連絡してからそれほど経っていませんよね~?

 って言うか・・・『ピヨピヨピヨ』って何ですか?

 暇なんですか?バカなんですか?

 そろそろ『獄中死』してもらえると、大変有難いんですけど?}


座った目をしながらその『念話の相手』に告げると、

『うぅぅぅ』と言う『念話』が返って来た・・・。


{・・・何ですかー?

 言いたい事があったらさっさと言ってもらいたいのですけどー?

 私だって暇じゃないんですから}


{ひ、ひどくないっ!?}


{・・・酷くありません。

 部下のメンタルケアも出来ない上司なんて必要ありませんから・・・}


淡々とそう告げたらぶりんに『念話の相手』は項垂れているようだった・・・。


{・・・それで?今回は一体何でしょうか?}


嫌々ながらもそう告げたらぶりんに『念話の相手』は口を開いた。


{・・・あぁ~、もう・・・面倒なんでそっちに行くからシクヨロ~}


その返答にらぶりんは驚き『はぁぁぁっ!?』と声を挙げたが、

もうその『念話の相手』は切ったようだった・・・。


そしてらぶりんは視線を上げ、

心配そうに見守るミラーズを見るとこう言った・・・。


{・・・ミラーズ様。

 大変恐縮で申し訳ないのですが・・・}


{・・・ん?何?}


覗き込むミラーズに、らぶりんは大きく呼吸すると、

大きな声でこう言った・・・。


{・・・バカ上司が来ますっ!}


{・・・は、はい?バ、バカっ!?}


{はい、バカな上司が来ますので、

 気に入らなかったら・・・ブチ殺してもらって結構ですので・・・}


{・・・ブ、ブチ殺してってっ!?

 ちょっと、らぶりんさん・・・落ち着いて?}


慌てた様子で憤慨するらぶりんを宥めるミラーズだったが、

らぶりんは落ち着く様子も見せなかった・・・。


そんな時だった・・・。


突然この閉鎖空間の中に、渦を巻くようにぽっかりと黒い穴が開いた・・・。


その黒い穴の中から漏れ出る威圧感に思わずミラーズは立ち上がり身構え、

テーブルの上に居たらぶりんを肩に乗るよう促した・・・。


「何者なの?出て来なさい・・・」


静かな口調だが、その声からは緊張が伺えたが、

ミラーズはじっとその黒い穴を見つめていた・・・。


すると肩の上に乗ったらぶりんが、ミラーズに『念話』を送って来た・・・。


{ミ、ミラーズ様・・・恐らく私の上司・・・かと?}


「・・・えっ!?上司っ!?」


{は、はい・・・}


らぶりんの言葉に緊張を解いたミラーズは、

その黒い穴を見つめていると・・・。


「お、重い・・・ってか・・・。

 い、一体何に引っかかって?」


と、そんな声が黒い穴から漏れて来た・・・。


ミラーズは肩に乗るらぶりんに小首を傾げて見せると、

らぶりんは申し訳なさそうに『よくあるんですよね・・・』と、

溜息混じりにそう言ったのだった・・・。


そして『よっこらしょっ!』と声を挙げながら黒い穴から出て来ると、

それを見ていたミラーズを見て一言・・・こう言った・・・。


「ちーすっ!って・・・あ、あんたっ!ミラーズじゃんっ!?」


「・・・ひ、卑弥呼っ!?

 な、何っ!?らぶりんさんの上司って・・・あんただったのっ!? 」


ミラーズと卑弥呼が驚きの声を挙げる中、

突然『バタンっ!』と小屋の扉が勢いよく開いた・・・。


そしてその中から姿を現したのは、

夕飯の支度をしていたユウナギだった・・・。


「ミラーズっ!らぶりんっ!そこから離れろぉぉぉっ!」


そう叫びながら全身に魔力を纏ったユウナギは、

烈火の如く突進し唖然とする卑弥呼に蹴りを放った・・・。


「そいつらに手を出すんじゃねぇぇぇぇっ!

 うぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!」


突進する中、様々な『バフ』を重ね掛けしたユウナギの蹴りが迫る中、

卑弥呼は『ニヤり』としながらミラーズに視線を向けた・・・。


その視線の意味とは、そう・・・。


『こいつぶっ飛ばすけど?』と言う意味で、

状況を把握する間もなく突っ込んで来たユウナギに非があると判断し頷いた。


『おけ~い♪』


そう楽し気な表情でそう言った卑弥呼は、

迫り来るユウナギの蹴りを人差し指一本で衝撃もなく止めた・・・。


「・・・えっ?」


「ふっふ~ん♪」


この状態が認識出来ず硬直したユウナギに、

卑弥呼は痛烈な一言を浴びせた・・・。


『・・・よっっっわ♪』


「っ!?」


そして次の瞬間・・・。


『トンッ!』と、首筋に当て身を食らわせると、

ユウナギは今日何度目かの気絶をしたのだった・・・。


『ドサッ!』と地面に落ちたユウナギを見ると、

その視線を言葉なく見ているミラーズ達に向けた。


すると『あちゃ~』と言わんばかりに渋い顔をしているミラーズ達を見ると、

卑弥呼は口を開いたのだった・・・。


「ってか・・・こいつ・・・誰?」


地面に転がるユウナギを指差しながらそう言うと、

ミラーズは渋い顔をしたままこう返答した。


「・・・元・勇者様よ」


「・・・へっ?」


瞬きを数回繰り返した後、視線を下ろし地面で気絶しているユウナギを見て、

『・・・まじでかっ!?』と驚いていたのだった・・・。



それから暫く時間が経過して・・・。


『ハッ!?』と目を覚ましたユウナギが天井を見上げると・・・。


「・・・俺ってば今日何度目だよ?」


そう呟き嘆くと気だるそうに身体をお越し小屋を出たのだった・・・。


するとユウナギの視線の先には、

白いテーブルとチェアに座り楽し気に談笑しているミラーズと、

派手な赤と黒の花柄の着物を着た女が居た。


その2人は楽し気に談笑していたのだが、

小屋から出て来たユウナギを見ると『ピタリ』と談笑をやめ、

ミラーズが手招きでユウナギを呼んだのだった・・・。


「ったく・・・」


頭を掻きながら足取り重く歩いて行くと、

ユウナギは視線を目を閉じ黙ってお茶を飲む女に眼を止めた・・・。


「・・・え~っと・・・そのなんだ~?

 さっきはよくもやってくれたな~?

 つーか・・・てめー・・・何者だよ?」


そんなぶっきら棒な物言いをするユウナギに対し、

女は『カタッ』とカップをソーサーの上に置くと口を開いた・・・。


「よくもって言われてもさ~?

 勝手に突っ込んで来て勝手に気絶しただけじゃんね?

 てか、人に名を尋ねる前にさ~?

 まずは自分から名乗るのが・・・礼儀っしょ?」


「ちっ!」


女の物言いに舌打ちしたユウナギは、

ミラーズに視線を移すとお茶を飲みながら『コクコク』と何度も頷いていた・・・。


そしてその肩に視線を移すと、

配下であるらぶりんまでも『コクコク』と頷いていたのだった・・・。


「ったく・・・どうなってんだよ・・・。

 わかったっ!わかったよっ!

 俺が悪ぅ~御座いましたっ!すみませんでしたっ!」


嫌々ながらもそう謝罪を口にしたユウナギに、

一同が笑みを漏らしていると、

突然『バンっ!』とテーブルを叩きながら女を威嚇するように見つめこう言った。


「つー事で・・・俺はユウナギってんだ・・・宜しくな?

 でだ・・・。てめー様は一体何者なんだよ、この野郎っ!」


挑発・・・いや、そんな生易しいモノではなく、

これはあからさまに敵対行動と取られても可笑しくない物言いだった・・・。


そんな言葉に緊張が走り、ミラーズの肩に乗るらぶりも震えていると、

突然その女が『ププッ!』と吹き出し笑い始めた・・・。


「プファァァっ!あぁ~はっはっはぁぁぁぁっ!

 ダ、ダメ・・・は、腹が・・・腹が・・・く、苦しくて・・・」


その笑いに『カチン』と来たユウナギが声を荒げようとした時だった・・・。


テーブルに座って居るはずの女が突然姿を消すと、

唖然とするユウナギの肩に『ポン』と手が置かれ耳元で囁いた・・・。


『坊や・・・活きがいいのは嫌いじゃないけどさ~?

 でも・・・無粋な物言いは・・・頂けないね~?』


その耳元で囁かれた瞬間・・・。

ユウナギの全身に『悪寒』が走り、毛穴が開いたのだった・・・。


そんなユウナギにその女は話を続けた・・・。


『いいかい坊や・・・よ~くお聞き?

 アタシの名は『卑弥呼』

 あんたが・・・『浅野涼平』が一度は聞いた事がある『卑弥呼様』だ。

 ・・・これで満足したかい?『元・勇者様』』


その女が耳元でそう囁くと、ユウナギは呟くように『まじか?』と口にした。


そして振り返った瞬間、その場には卑弥呼の姿はなく、

椅子に座りお茶をすすっていたのだった・・・。


「・・・卑弥呼って、架空の人物じゃなかったのかよ?」


お茶をすする卑弥呼にそう言うと、

軽く頭を振りながら嘆いて見せた・・・。


「はぁ~・・・。

 ま、まぁ~坊やからしたらさ~、

 遥か遠い悠久の彼方って事なんだろうけどさ~?

 それでもイマイチ認知度が薄い現状に、

 お姉さんは項垂れっちまうね~?」


『あははは』と乾いた笑いを見せる卑弥呼に、

ユウナギは素直に『す、すまねーな』と謝罪した。


そんなユウナギに今度は『フフッ』とミラーズが笑い、

怒りそうなユウナギに対し、新たな椅子を用意すると、

座るよう促したのだった・・・。


椅子に座ったユウナギにお茶を差し出したミラーズは、

対面に座る卑弥呼を見て何やら催促しているようだった。


それに気付いたユウナギが、お茶を口にした後、

痺れを切らすように口を開いた。


「って言うか・・・お前ら・・・。

 何か言いたい事があるんだったら・・・さっささと言えよ?」


やや不機嫌そうにそう言ったユウナギに、

肩を竦めた卑弥呼が『しょうがないわね~?』とボヤきながら口を開いた。


「単刀直入に聞きたいんだけど~・・・。

 坊やにとって『正義』ってなんなのさ?」


「・・・はぁ?正義?」


「何だよ・・・突然」


「坊やは『元・勇者』なんだろ?

 なら・・・さ?その坊や流の『正義』ってのがなんなのか、

 アタシに教えてほしい訳さ・・・」


そんな卑弥呼の言葉に違和感を感じつつもユウナギは、

『正義・・・ねぇ~?』と夕日に染まる空を見上げ呟いた・・・。


そして『そうだな~?』と言いながら更に言葉を続けた。


『正義って正直よくわかんねーっ!

 それに『勇者』だからってよ~?

 人間に害を及ぼす『魔物達』を始末しても、

 所詮はただの殺しだ・・・。

 それ以上でもそれ以下でもねーよ・・・。

 いや、違うな?

 それ以上はなくても・・・それ以下なら腐るほど沢山ある・・・。

 それに互いにその『正義』ってヤツはあんだろ?

 立場が違うだけでそれぞれに『正義』がある』


そうユウナギが熱弁し言い終えると、

卑弥呼は楽し気な顔をしながら『・・・それで?』と尋ねて来た。


そんな表情を見せる卑弥呼に、

ユウナギは『コホン』と咳払いをするとこう言って締めくくった。


『・・・正義なんてくだらねー。

 俺はそんなくだらねー『正義』よりも、

 『信念』を『ココ』にっ!

 持っている事が大切なんだと思うぜ?』


ユウナギは自分の胸の辺りを『ドンドン』と叩きながらそう言うと、

渇きを癒す為、お茶を一気に流し込んだのだった・・・。


そしてそれを見ていた卑弥呼は『あはははは』と声も高らかに笑うと、

お茶を飲み干したユウナギに満面の笑みを浮かべながらこう言った・・・。


『いうじゃないか・・・坊や・・・。

 いや・・・ユウナギちゃんよ~?

 気に入ったぜ・・・あんちゃんの為に、

 この『鬼道使いの卑弥呼様』が、鍛えてやんよ♪』


そう言い終わると再び『あはははは』と高笑いをしたのだった・・・。


そしてそんな高笑いをする卑弥呼を黙って見ていたミラーズは、

『・・・危ない女に好かれたものね?♪』と、

どこか楽し気に頬を緩ませていたのだった・・・。

 

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