閑話・亜空間と異質な力
私の名はらぶりん・・・。
私は今、主であるユウナギ様の後を追って、
ユウナギ様に内緒に取り付けていた『糸』を手繰り、
『亜空間』の中を移動している・・・。
『亜空間』というのは、
何も無い『虚無』の空間でありながら、
淡い虹色の色彩の光が方々から飛び交うような美しい場所でもある・・・。
だがこの『亜空間』を訪れのは避けた方が良いのだ・・・。
何故ならこの『亜空間』は神でさえも恐れる場所なのだ。
この華やかで幻想的な空間には落とし穴があり、
所々よく見ると、真っ暗な空間が渦を巻いてぽっかりと口を開いているのである。
その穴に落ちると『奈落』と呼ばれる場所へと繋がっており、
『闇』に包まれた光さえも存在しない場所に閉じ込められると言われている・・・。
そんな危うい『亜空間』に今・・・。
らぶりんは自分の糸を頼りにユウナギを追っていたのだった・・・。
その道中・・・。
らぶりんは先程の光景を思い出していた・・・。
「それにしてもチャダ子さん・・・只者じゃないわね?
私があそこから移動する瞬間、途轍もない力を背後から感じたわ・・・。
ほんとにあの子って一体何者なの?」
そう1人・・・?
いや、一匹でそう呟きながららぶりんは自分の糸を追って行った・・・。
すると突然・・・。
らぶりんの頭の中に何かのアラーム音が鳴り響いた・・・。
『ビィー、ビィー』
{はい・・・私です}
{あぁ~、私、私~♪}
まるで『オレオレ詐欺』のようにらぶりんの頭の中に念話が送られて来ると、
らぶりんは少し・・・面倒臭そうに『念話』を返した・・・。
{・・・どうかされましたか?}
{えっと~・・・。今はどんな感じなの?
調査の方は上手く行ってる?}
そう尋ねて来た念話の主に、らぶりんは『はぁ~』っと溜息を吐いた。
するその声の主は苛立ったかのように口を開いた・・・。
{ちょっと・・・どうして溜息なんて吐くのよ?}
{あの・・・ですね?
大変申し上げにくいのですが・・・}
そうらぶりんが話し始めた途端『シクったのっ!?』と、
念話の主が声を張り上げた・・・。
{失敗などしていません・・・。
私が溜息を吐いたのは、こう何度も念話を送られてうんざりしているからです}
溜息混じりにそうハッキリ言ったらぶりんに、
念話の声の主はブツブツと言い始めた・・・。
{べっ、別にいいでしょ~?
何度念話を送ったって『念話料金』取られる訳じゃないし~・・・}
{ね、念話料金って・・・?
何ですかそれは?}
念話の主の意味不明な言動に、
『亜空間』を進むらにぶりんは苛々し始めた・・・。
{いい加減にして頂けませんかっ!?}
{なっ、何よっ!?}
{私は今、その調査の真っ最中で、
その対象者を追う為に『亜空間』を彷徨っているんですよっ!?}
そう苛立ち声を挙げるらぶりんに、
念話の声の主は楽しそうにテンションを上げまくっていた。
{あの『勇者君』・・・。
『亜空間』に居るの~?
ねぇ、どうしてどうして~?}
{・・・何でって?そんな事っ!私が知る訳ないでしょっ!?
私は突然『彼』の力が消失したから、
こうして私が『彼』に内緒で付けておいた糸を追ってっ!}
{ふ~ん♪何だかわからないけど~・・・
すっごく楽しそうじゃ~ん♪
いいなぁ~いいなぁ~♪私も混ざりたいな~♪}
とても・・・そう楽しく声を躍らせ始めた念話の主に、
らぶりんはその足を止めると軽く眩暈を起こしたのだった・・・。
{・・・さ、最近働き過ぎで・・・貧血気味に・・・}
そう何気に呟いた言葉に念話の主は口を開いた。
{貧血ってあんた・・・大丈夫なの?}
{・・・だ、大丈夫なのって?}
{あんた、無理しちゃダメよ?
身体が資本って事・・・忘れないようにっ!}
まるで教師のようにそうらぶりんに促すも、
当のらぶりんからはこんな声が聞こえていた・・・。
{誰のせいでこうなっていると思っているんですかっ!?
貴女がひっきりなしに念話を送ってきて、
色々と無理難題を言うからでしょっ!?}
そう苛立ちながら言い放った言葉に、
念話の声の主は再びブツブツと言い始めた・・・。
{な、何よ~?別にそんなに怒らなくてもいいでしょ~?
私だってね~?
別にあんたの邪魔をしたくて念話を送ってないわよ?}
{・・・では、お聞き致しますが、
どうしてこう何度も何度も念話を送って来るのですか?}
らぶりんの質問に念話の主は本音をぶつけ、
それを聞いたらぶりんは再び眩暈を起こす事になったのだった・・・。
{・・・それはね~?私・・・暇なのっ!}
{・・・は、はい?}
{だーかーら~・・・私・・・暇なんだってばっ!}
{・・・そ、そう・・・ですか。
そう言える貴女が私は羨ましくてありません・・・}
{・・・うふふ♪照れるわね~?}
{・・・褒めてないから}
{・・・・・}
再び深く『はぁぁぁ~』っと溜息を吐いたらぶりんに、
『念話』の声の主は声を荒げたのだった・・・。
{そう何度も何度も溜息なんて吐かないでよっ!
だって本当に暇なんだからしょうがないでしょっ!?
あいつだってっ!
『イザナミ』のヤツも全然顏出さないしさっ!
ほんとにアイツ・・・一体何処で何してんだかっ!}
突然『念話』で愚痴を言い始めた『念話』の声の主に、
らぶりんは『ありえない・・・』と何度も首を横に振っていた・・・。
{・・・あの・・・ですね?}
{・・・何よ?}
{もうそろそろ・・・ソコから出たらどうなんですか?}
{・・・・・}
らぶりんの問いに突然沈黙で応えた『念話』の声の主に、
続けて話して行った・・・。
{・・・確かに私は貴女に創って頂き『自我』も与えて下さいました・・・。
私はその『恩』に報いるべく日夜任務の為慢心して参りました。
ですが・・・}
らぶりんの説教とも呼ぶべきモノが火蓋を切った瞬間、
『念話』の声の主は『わかったわよっ!』と声を張り上げ説教を止めた。
{・・・わかったわよ・・・鬼蜘蛛ちゃん・・・もう言わなくていいから・・・}
{・・・本当にわかっているのですか?}
{えぇ・・・もうお前の説教は『耳タコ』なのよ}
{・・・そう私に言わせる貴女が悪いのですよ?}
{・・・ちっ}
らぶりんの頭の中に『念話』の声の主が舌打ちすると、
『後ほど定期連絡致します』と告げたのだった・・・。
すると『念話』の声の主から、ぶっきら棒に返答が帰って来た。
{・・・わぁーったわよ。
ちゃんと連絡しなさいよね?}
{・・・はい}
{・・・じゃーね}
『ブチッ!』
挨拶を言おうとしたその瞬間・・・。
らぶりんの返答を待つ間もなく『念話』が切断されたのだった・・・。
そして今日何度目かの溜息を吐いた後、
美しいこの『亜空間』の景色を見つめながら言葉がこぼれ落ちた・・・。
『・・・卑弥呼様』と。
暫くして気を取り直したらぶりんは再び、
『調査対象』であり、今の主でもある『ユウナギ』を追う為、
己が付けた『糸』を手繰りながら移動し始めた・・・。
その移動中・・・。
らぶりんは何度も己の中で問い続けていた・・・。
(どうして卑弥呼様は『彼』を調査せよと?
私から見ると『彼』はどこにでも居る・・・『元』勇者・・・。
しかも何か『特別な力』を持つわけでもなく、
何処にでも居る・・・ごく普通の勇者なのに・・・。
それに今の『彼』にはもう・・・その力さえ危ぶまれる事態になっているわ)
そんな事を考えながら作業をするが如く、
らぶりんは己の『糸』を手繰り寄せ移動して行った・・・。
そして暫くするまた・・・。
『自問自答』を始めのだった・・・。
(・・・『彼』に何があると言うの?
確かにこの星での『功績』はかなりのもの・・・。
だけどそれは『勇者』としてもごく当たり前の事・・・。
『卑弥呼様』はどうして『彼』の事を気にするのかしら?
そして『チャダ子さん』・・・。
『彼女』と『彼』の出会いは偶然なのかしら?
何もかもが『謎』過ぎて、私にはもう・・・。
ただ・・・気になる事はある・・・。
それは今回『彼』が突然その『存在』を消した事・・・。
突然・・・どうして?そして何処に?)
らぶりんがそう考え始めた頃・・・。
その『糸』から伝わる『反応』が明らかに変わったのだった・・・。
「・・・この反応は何?」
手繰り寄せながら移動するらぶりんの動きが『ピタリ』と止まった。
「・・・この反応って・・・冥界・・・の?」
『糸』から伝わるその『力』に、
らぶりんは表情はわからないが訝し気に目を細めた・・・。
まぁ~実際、蜘蛛の目は細められないのだが・・・。
訝しく思いながらもらぶりんはその移動速度を上げた・・・。
「こ、この力って・・・?
絶対に『彼』のモノじゃないわ。
異質・・・?
いえ・・・何て言えばいいか・・・。
そう・・・例えるのなら・・・『深淵の力』
一度だけ『深淵の魔物』と出会った事があったけど、
でも・・・それよりも遥かに濃く密度が・・・」
手繰り寄せる『糸』から伝わるその強大で異質な力に、
らぶりんは苦悶の表情を浮かべ始めたのだった・・・。
「も、もし例え『彼』が何かしらの理由でこの力を隠していたとしても、
『完璧』・・・なんて有り得ない・・・。
だからこの異質なモノが『彼』のモノではないと断言出来るわ・・・。
だ、だけど・・・じゃ~・・・コレ・・・は?」
らぶりんの心の中では焦りの色を濃く浮かべていた・・・。
それはそうだ・・・。
らぶりんの予想を遥かに超える力なのだから・・・。
暫く進むと『糸』から伝わる力の強さに、
らぶりんはもうすぐ到着する事を核心した・・・。
(・・・これで何が起こっているのかわかるわっ!)
焦りにも似た感情に流されるまま、
らぶりんは急ぎ目的地へと急いだ・・・。
それからおよそ5分ほど過ぎた頃だった・・・。
「見つけたっ!」
そう嬉しそうに声を挙げたらぶりんは、
『糸』から伝わる力の強さをより一層感じると視線を向けた・・・。
「あのシャボン玉のような虹色の玉の中に?」
そう呟いたらぶりんは決意を新たにすると、
自ら付けた『糸』を手繰り寄せる事もせず、
その目的地へと飛び込んだのだった・・・。
一瞬激しい光りがらぶりんの目を眩ませた・・・。
『カサッ』と静かに葉を揺らし着地したその眼前には、
自然豊かな木々が溢れ、空には眩しく輝く太陽があった・・・。
「・・・ここ・・・どこ?」
そう呟いたらぶりんは焦る心を押さえると、
早速『調査対象』を探す為、『気配察知』と『魔力察知』を使用した・・・。
するとらぶりんは内心『ギョッ』とした・・・。
(な、何・・・此処?
こ、この樹木も草も太陽も・・・
す、全てが・・・この『力』で創られているっ!?
な、何・・・それ?
こんな事が出来るはず・・・な、ない・・・。
これじゃ~まるで・・・『創造神様』と同じ力じゃないのっ!?)
らぶりんがこの力を感じ取り、そう理解すると、
その身体から力が・・・『魔力』が抜けるのを感じ蹲ってしまった・・・。
(かっ、から・・・だの・・・力・・・が?
い、いえ・・・こ、これは・・・わ、私の魔力・・・が?)
そう・・・。
この場所は浸入して来た生命の魔力を奪い、
その力を物質化させる場所だったのだ・・・。
(は、半分以上・・・の・・・ち、力が・・・)
らぶりんの本能が『警告』を激しく鳴らすと、
咄嗟に『念話』を使用し『卑弥呼』に現状を伝えようとした・・・。
{ひ、卑弥呼・・・さ、様・・・。
こ、この・・・場所・・・は・・・}
そう『念話』を送ったらぶりんだったが、
この異質な空間の『特性』を目の当たりにした・・・。
「ま、まさか・・・ね、念話も・・・?」
必死に『卑弥呼』へと念話を送るらぶりんだったが、
その『力』は全て・・・この空間に奪われてしまったのだった・・・。
(も、もう・・・わ、私・・・ダメ・・・かも・・・)
容赦なくこの空間はらぶりんの魔力を吸い取って行く・・・。
その力の奪われ方に身体自体がまるで枯れ果てて行くようにも思えた・・・。
そんな時だった・・・。
『○△✕÷◇・・・』と、
らぶりんの近くを誰かが通り歩きながら話す声がした・・・。
(・・・だ、誰・・・か・・・)
だが微かに聞こえた声の主は、
小さな身体のらぶりんを見つける事など出来るはずもなかった・・・。
『もう・・・ダメだ・・・』
らぶりんが『死』を受け入れ静かに息を引取ろうとした時だった・・・。
その生命を停止しようとしたその時・・・。
薄れゆくその意識の中で、
誰かに囁かれているような声が聞こえた・・・。
『っ!?』
『ヒュッ!』と甲高い息継ぎをしたらぶりんは意識を取り戻し、
周囲を『キョロキョロ』と見渡した・・・。
「・・・だ、誰が私を?」
そう思い再び周囲を見渡していた時だった・・・。
視界が少しボヤけて見える事に違和感を感じ、
またその聴覚もあまり具合はよくないようだった・・・。
すると・・・。
今度は強烈とも言える『力』を感じると、
らぶりんは急ぎ『糸』を樹木に飛ばし移動して行った・・・。
その途中・・・。
自分の力がある程度回復している事に気付いたらぶりんだったが、
今はそれどころではなく、
異質な力が放たれる場所を目指し『蜘蛛の糸』を飛ばし移動速度を上げた。
(・・・見つけたっ!)
らぶりんはその力の正体であろう者達が荒れ果てた草原に居たのを確認すると、
樹木の枝に着地し事の成り行きを見ていた・・・。
たが少し距離があったようで、その声までは聞き取れなかったが、
誰かが『結界』のようなモノを張り、
何者かが1人・・・その場から離れ距離を取った時、
突然距離を取った何者かが、結界を張る何者かに『力』を放ったのだった・・・。
途轍もない力を放つと何故からぶりんの身体に変化があった・・・。
(あ、あれ・・・?ち、力が・・・戻って?
・・・どうして?)
己の身体を・・・腕を見つめながらそう思っていると、
突然聴力も回復し視力も回復したのだった・・・。
不思議に思っていると人族達の声が聞こえ始めた・・・。
そして完全に復調するとその声の主が誰であるかを理解した。
(ユ、ユウナギ様っ!?
そ、そして・・・アレは・・・だ・・・れ?)
樹木の枝でその様子を見ていると一瞬・・・。
らぶりんが知らない者と目が合ったのだった・・・。
(ヤバイっ!?)
咄嗟に身を隠したらぶりんだったが、
生きた心地がせず心臓を鷲掴みにされた気分になっていたのだった・・・。
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