第67話・四神会議・中編

マイノーターの鑑定に不安な表情を浮かべたコナギは、

盛大に顔を引き攣らせる事になった・・・。


『ふむ・・・』とそうマイノーターの口からこぼれた時、

コナギは再び『私の身体が一体どうしたのでしょうか?』と尋ねた。


その声に『じぃっ』と無言で見つめたマイノーターは、

溜息混じりに話し始めたのだった・・・。


「あんな?コナギはん・・・。

 いや、この場に居る皆さんもよう聞いといてな?

 コナギはんのこの擬体には・・・」


そう言い始めると突然言葉を区切り、

この会議に参加する者達の顏を見つめた・・・。


「・・・あんな?

 コナギはんのこの擬体の中に・・・

 私も知らんモノが隠されとりますのんや」


「・・・知らないモノって何よ?」


そう声を挙げたのは女帝であるヴァマントだった・・・。

『胡散臭い』と言いたげな表情を浮かべていると、

マイノーターは『うちは真実しか言うとりませんのにな?』と口を開いた。


「・・・あんな?

 私もコレを見るのは実際初めてなんよ。

 どんなモノかって事は昔、話には聞いとったんやけど、

 まさか・・・やわ~。

 存在しとったんやね~?」


マイノーターだけが納得していたが、

他の者達には全く理解出来ていなかった・・・。


そんな物言いに声を挙げたのはまたもやマイノーターに対し、

訝し気な目で見ている魔毒の女王・シシリーだった・・・。


「マイノーター・・・いい加減にしてほしいですわね?」


「・・・何がやのん?」


「貴女だけが納得して、他の者達は皆・・・

 皆目見当ついておりませんのよ?」


「・・・そやね~?」


「そ、そやね~?って・・・貴女っ!?」


マイノーターの態度に苛立ちを見せたシシリーだったが、

それはコナギを除く者達も同様だった・・・。


そんな空気にマイノーターは『クスッ』と笑うと、

怒りを露にし始めた者達にこう言った・・・。


「まぁ~ちょっと待ってーな?

 物事には順序というモノがありますよって、

 そんな怒らんといてほしいわ~♪」


まるでこの様子を楽しむかのように笑みを浮かべたマイノーターに、

一同が堪え怒りを鎮めるしかなかったのだ。


感情を押し殺し静かになった事に再び笑みを浮かべると、

コナギに向き直り口を開いた・・・。


「あんな、コナギはん・・・。

 あんさんの中に在る魔石なんやけど・・・」


「は、はい」


「とても希少な魔石・・・。

 『陰核』が確認されたんよ~」


「・・・い、いん・・・かく・・・ですか?

 な、何ですか・・・それは?」


『陰核』が在ると言われたコナギだったが、

当然『ピン』とくるはずもなく、

またそれはこの場に居る者達も同様だったのだった・・・。


一同の様子に目を向けていたマイノーターは薄く笑みを浮かべると、

その『陰核』について話そうと息を吸った時だった・・・。


『ズルッ・・・ズルッ・・・ズルッ』


突然その部屋の中に何かを引きずるような音が聞こえ、

全員がそれぞれに感知系のスキルを使用した・・・。


『かっ、感知が・・・出来ねー・・・一体何だっ!?

 み、みんなはどうだっ!?』


そう焦った声を挙げたのはヒューマだったが、

一同を見たその時・・・『まじかよ?』と低く唸ったのだった。


「おやおや・・・皆さんも感知出来ないとは・・・

 この私を含め我ら四神ともあろう者達が、何とも情けない・・・」


『やれやれ』といったポーズを見せながらそう声を挙げたライトニングに、

冥界の女帝・ヴァマントすらもその表情を硬くしていた・・・。


「おや?ヴァマント様も・・・ですかな?」


「あ、あぁ・・・恐らくこれは何者かの『固有スキル』なんでしょうけど、

 この私まで・・・とは・・・」


周辺に対し鋭い視線を向けつつもその目の奥には悔しさが滲み出ていた・・・。


そんなヴァマントにライトニングも肩を竦めて見せていると、

険しい表情を浮かべたマイノーターが声を張り上げた。


「一体どこのお人なんやろか~?

 勇者の四神に対しええ度胸してはりますな~?

 こんな舐め腐った事したんやから、

 勿論・・・覚悟は出来てると言う事で宜しいよね~?」


皮肉・・・たっぷりでそう声を強めに発したマイノーターに、

一同が緊張を感じていると只一人・・・。

『きょとん』とする者が申し訳なさげに口を開いた・・・。


「あ、あの~・・・ですね?」


その何とも言えない空気の中で、そう声を発したのは・・・

コナギだった・・・。


「何やんのんっ!?こんな時にっ!?」


声を発したコナギに対し強く言いながら睨みつけたマイノーターに、

コナギは更に顔を引き攣らせた・・・。


「お、恐らくですが~・・・この音・・・」


「せやから何やのんっ!?

 あんさん・・・今の現状わかってはりますのんかっ!?」


「・・・す、すみません、マイノーターさん。

 で、でもこの魔力・・・私の知人の者かと思うのですが?」


『はぁっ!?知人っ!?

 って言うか・・・あんさん・・・この部屋に充満しているこの魔力を・・・

 ま、まさか感知出来てるって事っ!?』


「・・・は、はい」


「う、嘘んっ!?」


コナギの言葉に数人が驚きの声を挙げていると、

気配を探っていたライトニングがコナギに尋ねて来た・・・。


「コナギ様?

 貴方は今、この気配と魔力を放つ者を知人だとおっしゃいましたが、

 ならばどうしてその姿を御見せにならないのでしょうか?」


顎に手を当てながらそう尋ねてきたライトニングに、

コナギは『恐らく・・・ですが・・・』と言い淀みながらも説明していった。


「か、かなり特殊・・・?な人・・・って言いますか、

 魔物・・・でして・・・」


「ほう・・・魔物・・・ですか?」


「は、はい・・・か、彼女・・・性別は女性なのですが、

 その存在があまりにも特殊でして・・・」


「特殊な存在の魔物とは・・・実に興味深いですな~♪

 ほっほっほっ♪」


コナギはライトニングの様子に安堵の息を漏らすのだったが、

その他の者達は・・・相変わらずの形相だった・・・。


その鋭い威圧に委縮しながらも、

この威圧的な空気を読んだライトニングが続けて尋ねて来た・・・。


「因みに~・・・コナギ様?」


「は、はい」


「その御方に『名』はあるのでしょうか?」


そんな素朴な質問にコナギは『うっ』と言葉を詰まらせると、

少し首を傾げて見せたライトニングは嘗て主であるユウナギから聞かされた、

とある物語の人物像を思い出していた・・・。


「・・・その人物とはもしかして・・・

 『名を呼んではいけないあの人』の事でしょうか?」


興味津々でそう尋ねて来たコナギだったが、

電光石火のツッコミを入れて来たのは予想に反して・・・マイノーターだった。


『なんでヴォル○モートやねんっ!?』


横に居るライトニングの胸を軽く叩きながらそう言ったマイノーターに、

ライトニング含め他の者も唖然としていると、

コナギは『主からその名を聞いていたのですね?』と尋ねられた。


「えっ・・えっ!?

 あっ・・・そうそうっ!そうなんよ~♪

 確かタイトルは~『ハ○ー・ポッターとケンちゃんの石』やったっけ~?

 ケンちゃんの石ってなんどすか~?って・・・。

 はははぁ~・・・そんな感じの話をようさん聞かされたよって~♪」


※ ようさん・・・たくさんっていう意味です(笑


皆が唖然とする中、

只一人焦るマイノーターにジト目を向けていたライトニングは、

『ふぅ~』と息を吐くとその視線をコナギへと戻し話を続けていった・・・。


「ならばコナギ様。

 その魔物の名をお聞かせいただけませんか?」


興味深そうにそう口歩開いたライトニングに、

コナギは『わかりました』と返答した。


「皆さんはこんな話をご存知ですか?」


そう話を切り出したコナギは少し・・・緊張した面持ちだった。


「ど、どんな話・・・な、なのですかな?」


その独特な雰囲気を醸し出すコナギに、

流石のライトニングも緊張した面持ちに変わっていた・・・。


「とある魔石に記録されている・・・呪われた記録映像の事を・・・」


そう話を始めたコナギに一同が『ゴクリ』と喉を鳴らした。


「とある記録映像を収集している・・・

 そう・・・仮にその人の事をAさんと呼ぶことにしましょうか?」


そう話した瞬間の事だった・・・。


突然この部屋の灯りが消え、視界ゼロの闇に包まれた・・・。


「なっ、何ですのんっ!?

 と、突然・・・あ、灯が消えるやなんてっ!?」


そう動揺する声を挙げたマイノーターに続き、

ヒューマやシシリーまでもが焦りの声を挙げていた・・・。


するとコナギは闇に包まれたにも関らず、

話を続けていった・・・。


「そのAさんはその魔石を手に入れ自宅に持ち帰ると、

 暫くの間、その魔石を見つめ迷っていたそうです・・・。

 『み、見たいけど・・・ど、どうしよう・・・?

 モノの出どころからしてこ、これは間違いなく・・・ほ、本物・・・』

 Aさんはありったけの勇気を振り絞りながらも、

 内心・・・『怖いな~怖いな~』と譫言のように言っていたそうです。

 それから少しの間葛藤していたAさんは覚悟を決めてその魔石に刻まれている、

 封印を解くと・・・突然その部屋の中に『シュイン、シュイン』と、

 独特な音色が響いてきたそうな・・・。

 Aさんは怖いにも関わらずその魔石をTVと繋げると映像が映し出された・・・。

 そしてその映像には・・・。

 鬱陶しいほどの樹木に囲まれた古い井戸が映し出されたんだ~・・・。

 その時Aさんは本能的に寒さを感じ『うっ』と唸ったそうです。

 すると今度は『ズルッ・・・ズルッ』と何かを引きずるような音が・・・」


そこまでコナギが話した時、

その部屋の居た四神と女帝はコナギの話に飲まれていた。


視界ゼロの闇の中・・・。

その話はこの場に居た者達の想像力を掻き立てた・・・。


(じょ、冗談・・・で、ですわよね?

 ま、まさか・・・そ、そそそそ・・・そんな事が・・・?)


視界ゼロの闇にも関らず、シシリーはその眼球を動かせ・・・。


(・・・わ、わたっ・・・私はじょじょじょ・・・女帝なのよっ!?

 こ、こんな・・・こんな話くらいで・・・)


冥王からも恐れられる女帝もまさかの反応を見せており、

ヒューマやマイノーターも動揺の色を濃くしていた・・・。


だが只一人・・・ライトニングだけは違った・・・。


視界ゼロの闇の中、

独特な気配と魔力を醸し出すひの『魔物』とやらを感知するよう努めており、

やがてその『魔物』の心当たりがついたようだった・・・。


(ほっほっほっ♪なるほどで御座いますね・・・。

 中々どうして・・・コナギ様のお話もお上手で御座いますね?

 まさかその『魔物』が彼女だとは・・・♪

 それに・・・コナギ様も御人が悪いですな~?

 念話で彼女と会話しながらとは・・・♪

 しかしながらどうもその会話にズレがあるようですが・・・

 コレは上手く行くのですかな?)



ライトニングが全てを察した頃・・・。

コナギの話はクライマックスを迎えていた・・・。


そしてTVから這い出したその魔物が、

そのAさんとやらに迫りここ一番の見せ場の時がやって来た・・・。


「そのTVから這い出したモノは・・・

 全ての爪が剥がれたその手で床を掻き毟るように近付き、

 やがてソレはAさんの元へと辿り着いた・・・。

 そしてソレはAさんの足に捕まり徐々に上へ上へと・・・」


コナギの話が最終段階に突入した時だった・・・。


「ソレはAさんの肩に捕まりの顏を向き合わせた瞬間っ!

 ソレの瞳は『ギョロッ!』とA君を見つめたっ!」


{今ですっ!チャダ子さんっ!ド派手にやっちゃって下さいっ!}


念話で合図を送ったコナギの声に、

亜空間から勢いよく飛び出したっ!


『とうっ!』


だが・・・コナギは予想していなかった・・・。


「げっ!?」


特殊な亜空間から飛び出したチャダ子に、

悲鳴を発する者は1人もおらずただ・・・唖然としていたのだった。


それもそのはず・・・。

コナギが『派手』にと言ったおかげで、

チャダ子は全身に魔石を砕いて作った『蛍光塗料』を全身に塗りたくっていた。


そして『ド派手』に登場したのである。


「チャ、チャダ子さん・・・派手の意味が違うよ~」


「そ、そんな・・・。

 で、でもコナギさんは確かに『ド派手』にと・・・」


「ド派手の意味が違うでしょ?

 どうして怖い話をしていて・・・

 クライマックスでそんな登場の仕方があるんですかっ!?」


「うぅぅっ・・・だ、だって・・・だって・・・」


そんなコナギとのやり取り中、

『はぁ~』っと溜息を発したヒューマが、

ゆっくりと歩き始めチャダ子の前に来ると口を開いた・・・。


「お前さんも大変だな?」


「えっ・・・えっと~・・・ど、どうも・・・」


こうして失敗に終わったコナギの作戦を他所に、

『陰核』の説明へと進んで行くのだった・・・



「で・・・?マイノーター・・・。

 その『陰核』ってのは一体何なんだ?」


そう何事もなかったかのように話を切り出したヒューマに、

マイノーターは説明を始めたのだった・・・。


「その『陰核』と言うのは・・・。

 まぁ~簡単に言うとやね~?

 その擬体を操るお人の力を飲み込み『負の力』へと変換させるモノ・・・。

 ざっくり言うとそんな感じになりますな~?」


「操るって・・・まじかよ?」


「・・・そやね」


皆が険しい表情を見せる中・・・。

ライトニングだけは訝しい表情を浮かべ、

視線を逸らすマイノーターを見つめていた・・・。


「マイノーター・・・」


「な、なんやろか?ライトニングはん」


「・・・何処でその情報を?」


「え、えっと~・・・そ、それはやね~?

 も、もう昔の事過ぎて・・・うち・・・忘れてしまいましたわ~♪

 ほんま・・・ごめんやよって・・・」


マイノーターがそっぽ向きながら誤魔化し始めると突然、

『痛っ!』と小さいながらも左耳を押さえながら声を挙げた。


そしてこの時ライトニングは見た・・・。


マイノーターが押さえているその左耳の指の隙間から、

煙りのようなモノが一本の小さな筋を立ち昇らせていた事に・・・。


(け、煙のようなモノが・・・?

 まっ、まさかっ!?と、盗聴かっ!?

 い、いやでも・・・一体何処の誰をっ!?)


ライトニングにしては珍しく、そんな表情を浮かべてしまった時、

背中を向けていたマイノーターの表情が歪んだ・・・。


(・・・チッ)


背中を向ていたマイノーターがライトニングの表情に気付けたのには理由があった。

それはマイノーターの正面の壁に鏡があり、

その鏡にライトニングの顏が映っていたからだった・・・。


「マイノーター・・・」


そうライトニングが話を切り出し時、

タイミング悪くヒューマが口を開きその言葉を掻き消した・・・。


「その『陰核』ってモノの事、

 悪いがもうちょい聞かせてくれねーか?」


ヒューマの声に難を逃れたマイノーターは、

機嫌よく向き直ると『例えば・・・やけどね?』と、

少し口角を上げながら口を開いて行くのだった。


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