第66話・古の閉鎖空間・前編

コナギとヴァマントがユウナギのラボから退出した後・・・。


懐から取り出した『モノ』を灯にかざしながら呟くと、

ソレは淡い光を放ち始めた・・・。


「まさか俺がお前に力を借りようだなんてな~?

 ははは・・・自分でも驚きだぜ・・・」


自笑気味にそう笑って見せたユウナギは、

準備を整えると『とある場所』へと繋がる『時空洞』を開き、

ラボから姿を消したのだった・・・。



『ブゥン』と『とある場所』へと移動したユウナギは、

その闇に包まれたその空間で口角を上げた。


「・・・久々だな」


そう懐かしむように笑みを浮かべたユウナギは、

『パチン』と指を弾くと、闇に包まれた空間に灯が灯った・・・。


『カツ、カツ、カツ』と歩き始めたユウナギは、

その場所に在るテーブルへと歩みを進めると椅子に座り、

マジックボックスから飲み物を取り出しそれを口にした。


「ふう~・・・」


安堵の息を吐きながらカップを机の上に置いた時、

テーブルと椅子しかないその空間を眺め呟いた・・・。


「まさかまた此処に来る事になるなんてな~?」


そう言いながら再び懐から『あるモノ』を取り出すと、

ソレをテーブルの上に置き、

それを眺めながら口を開いていった・・・。


「なぁ~・・・『ミラーズ』

 こんな事頼めたもんじゃねーが、

 お前の力を貸してくれ・・・」


懐かしむような視線を向けながらそう口を開いたユウナギに、

ソレを淡い青色の光を光らせた・・・。


ソレを確認したユウナギはゆっくりと椅子から立ち上がると、

ソレに向かって右手をかざした。


『我、浅野涼平の名をもって命ずる・・・。

 レベル5の拘束術式解放。

 出でよ・・・『ミラーズ』』


ユウナギの声に呼応したソレは、

その周囲にいくつもの『魔法陣』を形成すると、

それが1つ1つ『パキン』と音を立てて消失した・・・。


そしてその『魔法陣』が消失した瞬間・・・。


ソレが途轍もない光を放ち、

その空間が光に満たされユウナギはその眩しさから視線を逸らせた。


そしてその光が消え去った時・・・。

ソレが置かれていたテーブルの上には、

光沢のある胸元がⅤの字にパックリと開いた、

漆黒のドレスを着た美女が座っていた・・・。


その女性は無言で見つめながら、

ユウナギが座って居た椅子の背もたれを、

細く長い脚で前後に揺らしていた・・・。


『・・・・・』



銀色の美しいロングヘアーにその白い肌がよく映えていた・・・。

そして特徴的なのがその瞳・・・。


その黄金色に妖しく光るその女性の瞳は、

ユウナギをじっと見据え見つめていた・・・。


「よ、よう・・・ひ、久しぶり・・・だな?」


「・・・・・」


『ごくり』と思わず固唾を飲んだユウナギは、

その女性の美しさにほんのりと顔を赤く染めていたのだった。


そしてそれに自ら気付いたユウナギは、

咄嗟に顔を背け『ごにょごにょ』と何かを言い始めたのだが、

その言葉は上手く聞き取れないほどだったのだ。


するとその女性がユウナギの座って居た椅子を動かすのを止めると、

『フッ』と笑みを浮かべながらその気品溢れる口を動かせた・・・。


『こうして会うのは久しぶりね・・・リョウヘイ』


その女性の声を久しぶりに聞いたユウナギは、

透き通るようなその声に背筋に氷でも這わせたような感覚に陥ると、

身体を震わせた。


「あ、あぁ・・・そうだな、ミラーズ」



※ ミラーズ


  とある星系に居た『元・深淵の邪神の女神』

  身長190cm。

  銀色のロングヘアーと黄金色の瞳が特徴的であり。

  その美しさは幻想的と言っても過言ではない・・・。



「ところでリョウヘイ・・・。

 貴方・・・弱くなったわね?」


「あ、あぁ・・・ま、まぁ~な」


まるでユウナギの全てを見透かすように言った言葉に、

ユウナギはその顔色を変えた・・・。


「ははは・・・こんな珠≪たま≫の中に居て、

 よく俺の事がわかるじゃねーか?

 流石は元・・・深淵の邪神の女神ってか?」


テーブルの上に粉々になった『珠』の残骸を見ながら、

苦笑いを見せたユウナギの言葉に、

『ミラーズ』は『フンッ!』とそっぽを向いて見せた・・・。


そして少し口を尖らせながら、流し目でユウナギを見ると、

まるで子供のように口を開いた。


「そりゃ~わかるわよ?

 今の貴方から出ている神力と魔力量・・・。

 まるでイモムシのように弱っちぃーもの・・・」


「イ、イモムシッ!?」


「えぇ、そうよ・・・。

 嘗ての貴方からは想像すら出来ないわね?

 一体何があったのか説明・・・してくれるのよね?」


そう言いながらミラーズはユウナギが置いたカップを手に持つと、

ソレに口を着け残りを飲み干したのだった・・・。


「うっ・・・ま、まだこんなの飲んでるの?

 相変わらずこの黒くて不味い飲み物が好きなのね?」


「わ、悪りーかよ・・・」


舌を出し不味そうに顔を顰めたミラーズだったが、

ユウナギはどこか可愛く思えたのだった。


そんなミラーズに無意識に笑みを浮かべたユウナギは、

椅子を一脚用意するとミラーズを座らせ、

別にお茶を差し出すとこれまでの経緯を話していったのだった・・・。



説明し終えたユウナギは再びコーヒーを取り出すとカップに注ぎ込んだ・・・。

それをじっと見ていたミラーズは飲み干したカップを向けると、

注ぐよう無言でアピールしたのだった。


「・・・不味いって言ってたよな?」


「いいのよ・・・別に。

 貴方が好きなモノは知っておきたいのよ」


「・・・さいですか」


『やれやれ』と言いながらコーヒーを注ぎ終えたユウナギは、

コーヒーを飲みながらミラーズの反応を待っていると、

その視線に気付き『そうね・・・』と言って口を開いていった・・・。


「要するに貴方はあの『冥界の脳筋女』に『冥界眼』を無理矢理授けられ、

 貴方が住まう『人界』に悪影響が出ないよう・・・

 それを封印するかのように『神力』でソレを包み込んだと・・・?」


「あ、あぁ・・・そう言う事だ」


ユウナギの話に納得したのか、

ミラーズは『ふーん』とそう言いながら、

ユウナギにジト目を向け無言の圧力をかけて見せていた・・・。


「お、おい・・・そう言う目を向けるなよ?

 それにこうでもしないと、人界に悪影響が出るだろうがよ?

 つーか・・・それしか思いつかなかった・・・」


『仕方がない』とそう言ったユウナギに、

ミラーズは『プイッ!』と再び顔を背けた・・・。


そしてコーヒーを口に運びながら、

まるでボヤくようにこう言った・・・。


「・・・別に人界の事なんてどうでもいいでしょ?

 人族なんてロクなモノじゃないじゃない?」


「・・・ははは」


『人界』の事などどうでもいいと興味なさげに言ってのけたミラーズに、

ユウナギはただ顏を引き攣らせ笑うしかなかった。


するとミラーズは飲み干したカップをテーブルの上に置くと、

真剣な表情を向けたのだった。


「リョウヘイ・・・。

 ところで貴方まだ・・・ステータス主義なのかしら?」


そう言ったミラーズの黄金色の瞳が迫力を増し、

言い知れぬ圧迫感がユウナギを包んだ・・・。


「なっ、何だよ・・・ミラーズ・・・。

 わ、悪りぃ~かよ・・・ステータス主義で?」


その瞳の圧力に苦々しくそう答えた事に、

ミラーズは『キッ!』とその表情を険しくさせた・・・。


「前にも・・・いえ、何度も言っているわよね?

 ステータスなんて指針でしかないってっ!」


「い、いや・・・だってよ?

 ステータスが全てだろっ!?

 カンストしてしまえばそれ以上の成長なんて望めやしねーだろうがよ?」


「リョウヘイ・・・。

 貴方はまだそんな子供みたいな事言ってるのっ!?

 だからたかが『冥界眼』なんて『モノ』に振り回されるのよっ!?」


「ふ、振り回されてってっ!?

 おいおいミラーズさんよ~・・・ちぃっと言葉が過ぎるんじゃねーか?

 どう聞いたってそりゃ~言い過ぎだろうがよ?」


「言い過ぎですってっ!?

 あ、貴方・・・相変わらず自分の『枠』から出ないのね?」


「・・・はぁ?

 な、何だよ・・・枠ってよっ!?」


その空間全体に言い表せないほどの緊張感が充満した。


言い争いに発展した2人は顔を引き攣らせ、

ギリギリの中で堪えていたのだった・・・。


すると先に『フッ、馬鹿らしいわ』とそう言ったミラーズが口を開き、

再びユウナギにカップを向けコーヒーを注ぐよう求めたのだった。


『ちっ!』と舌打ちしながらもコーヒーを注ぎ終えたユウナギは、

深く椅子に腰かけ直すと自らもコーヒーを注ぎ直しそれを口にした・・・。


『・・・・・』



暫くの間・・・。

その空間では沈黙が訪れていたが、

ミラーズがコーヒーを飲み終えると話を切り出していった。


「・・・で?どうするのよ?」


「ど、どうって・・・よ?」


「このままじゃマズイんじゃないの?」


「そ、そりゃ~・・・な」


「マズイと思ったから・・・私を解放したんでしょ?」


「・・・あぁ」


ミラーズの確信をつく言葉に流石のユウナギも防戦一方だった・・・。


言葉を失い険しい表情を見せるユウナギに、

ミラーズはこの閉鎖空間を見渡しながら懐かしむように口を開いた。


「・・・本当に此処は懐かしいわね?」


「・・・あぁ、そうだな」


「覚えているかしら?

 私達が此処に閉じ込め寄られていた頃の事を・・・?」


「あぁ、勿論覚えている。

 人界では僅か3日間だったが、この場所では3年だからな?

 お前とこの場所で3年間・・・戦い続けたんだ・・・。

 フッ・・・忘れようがないだろ?」


そう言いながらユウナギも懐かしそうにこの空間を見渡し、

当時の出来事を思い出していた・・・。



そう懐かしむユウナギの様子を頬杖を着きながら見つめるミラーズは、

ふとこんな事を言い始めた・・・。


「あの時、聞かなかったんだけど・・・リョウヘイ?」


「・・・何だよ?改まってよ?」


「貴方はどうして私の『深淵なる邪神の力』を中和出来たの?」


「・・・はい?」


突然そんな質問をされたユウナギは首を傾げると、

その様子にミラーズが言葉を続けた・・・。


「いくら勇者だからと言ってもさ?

 人族である事に変わりはないはず・・・。

 それにこの星系の『女神の恩恵』があったとしても・・・よ?

 どうして違う星系の『深淵の邪神の女神の力』を中和出来るのよ?

 普通に考えてもちょっとおかしいわよね?」


「・・・何でって言われてもよ~?

 それに俺は『クソ女神の恩恵』なんてもらった覚えねーけど?」


そう返答したユウナギの言葉にミラーズは『はぁっ!?』と驚きの声を挙げた。


「なっ、何だよっ!?」


「ちょっ・・・ちょっとリョウヘイ?

 貴方・・・『女神の恩恵』受けてないの?」


「・・・恩恵って言われてもな~?」


頭を掻きながらそう言ったユウナギに、

ミラーズは驚きを隠せなかった・・・。


ユウナギは溜息を吐くとこの『異世界』に来た経緯を口にし始めた。


『コトッ』とユウナギとミラーズが飲み干したコーヒーカップをテーブルに置くと、

『ふぅ~』と安堵の息を吐いたミラーズが『なるほどね~』とそう言った・・・。


「つまりこの世界の女神に『魔王討伐』を依頼されたのはいいけど、

 別にこれと言って何らかの『特別な力』を与えられず、

 初期ステータスがこの星系の人族より・・・ほんの少しだけ高かったと?」


「あ、あぁ・・・まぁ~そんな感じだ」


「あぁ~・・・でもリョウヘイ?」


「・・・なっ、何だよ?」


「でも貴方・・・『勇者の称号』はあったのよね?」


「・・・うんにゃ」


「・・・えっ?」


「なかったぜ・・・そんなもん」


「なっ、なかったってっ!?

 そ、そんな事・・・ある訳ないでしょっ!?」


『勇者の称号』すら授かっていないと聞かされたミラーズは、

心底驚いているようだった・・・。


そんなミラーズにユウナギは当時を思い出し、

苦い表情を浮かべながら話していった・・・。



「わ、忘れもしねー・・・あのクソ女神っ!」


「一体何があったって言うのよ?」


「あのクソ女神・・・俺がこの星に堕とした時、

 一体なんて言ったと思う?」


「さ、さぁ~・・・私には予想もつかないわね」


「あっっっのクソ女神っ!

 堕す間際に俺に『別にあんたには期待していないから~』ってよっ!」


「・・・・・」


「そして落ちて行く俺に向かって最後、こんな事をほざきやがったっ!」


「・・・・・」


「『ゴミムシ以下の存在がどこまでやれるか楽しみねっ!』

 だってよぉぉーっ!

 だから俺は俺はこう言ってやったんだっ!

 必ず強くなっててめーをぶん殴ってやるってなっ!」


「・・・そ、それでっ!?」


「するヤツは・・・。

 『あはははっ!どのみちあんたの成長なんて見ないから~♪

 って言うか、どこに送るかも~・・・

 私・・・知らないから~♪』だってよぉぉぉっ!」


「そ、そんなっ!?」


ユウナギが教えてくれた女神の言葉に、

ミラーズは大きく目を見開き驚愕していた・・・。


「そ、そんな・・・事・・・が・・・?

 神である・・・め、女神が・・・そ、そんな事を言うなんて・・・」


あからさまに動揺を見せるミラーズに、

ユウナギは溜息を吐きながら頬杖を着き不貞腐れていた・・・。


「信じられない・・・ってか?」


「い、いや・・・で、でもだって・・・」


「まじだぜ・・・まじ・・・。

 あのクソ女神・・・自分の名すら教えやがらなかったしな?

 だからヤツの名すら知らねーんだよ」


「あ、有り得ない・・・わね・・・。

 女神と在ろう者が・・・」


「有り得るんだな~・・・これがよ」


「・・・クッ」


ユウナギの話に苦悶の表情を見せたミラーズは、

この星系の担当である女神の名を思い出そうとしていた・・・。

だが突然険しい表情から『あっ』と口から出たのをきっかけに、

頭を抱え込んでテーブルに伏せてしまったのだった・・・。


「な、何だよ?一体何を思い出したってんだよ?」


「え、えっと~・・・じ、実は・・・ね」


そう苦々しい表情を見せながら、

ミラーズの口から出た言葉にユウナギは渋い表情をして見せ、


「・・・じ、人事異動だぁ~っ!?

 なっ、何だよ・・・それーっ!?」


「え、えぇ・・・全ての神がそうと言う訳じゃないのよ。

 問題がある神に対しては『人事異動』と言う形で、

 その星系の生命達が繁栄出来るようにするんだけど、

 貴方の送られたこの星の『前・女神』は確か・・・

 突然『行方不明』になったとかで、

 急遽・・・担当の女神が変わったとかなんとかって・・・」


「・・・ま、まじか」


突然ミラーズから聞かされた真実に、

ユウナギは唖然とするしかなく、

その担当である女神が急遽変わった事により、

神で在るミラーズさえ、その担当者の名を知らなかったのだった・・・。


だがミラーズはこうも言っていた・・・。


『大神界の図書館に行けば、

 当時この星の女神のだった者の名がわかるはずよ・・・』と・・・。


その言葉にユウナギは半ばどうでもいいような表情を見せていた・・・。


「つーかよ・・・?

 別にその当時の女神が誰だったかなんて、

 正直どーでもいい・・・」


「えっ!?どうしてよっ!?

 貴方・・・その女神をぶん殴りたいんでしょっ!?」


「まぁ~そりゃ~な?

 でもよ~・・・。

 今の俺はその女神とやり合うだけの力はねぇー・・・」


「・・・・・」


ユウナギのその言葉から、

ミラーズは複雑な心境である事を悟った・・・。


「リョウヘイ・・・貴方・・・」


「・・・今はその女神の事はどうでもいい。

 俺が力をつければそのうち・・・合えるかもしれねーしな?

 だからよ~・・・ミラーズ・・・」


「・・・何よ?」


真剣な眼差しを向けて来たユウナギに、

ミラーズは少し緊張した面持ちで耳を傾けた・・・。


「・・・俺に修行・・・つけてくれや」


「・・・いいの?私で?」


「あぁ・・・お前じゃなきゃ・・・ダメなんだよ」


「・・・わかったわ」


ユウナギの瞳の奥に光るモノを感じ取ったミラーズは、

少し口角を上げながら承諾したのだった・・・。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る