第65話・四神会議 前編
「ヴァマント様・・・もう少し宜しいでしょうか?」
コナギの口から発せられた言葉に、
ヴァマントは『事が事だ・・・。付き合おう』とそう言った・・・。
ヴァマントの許可を得たコナギは、
念話の相手へと返答した。
「わかりました・・・。
それでは『例の部屋』にて・・・」
ヴァマントにも聞こえるようにそう返答すると、
コナギはユウナギに『少しはずします』と声を掛け、
ヴァマント共々ラボを後にしたのだった・・・。
そして静かにラボの扉が閉まると、
1人残ったユウナギはゆっくりと立ち上がった・・・。
『まじで本腰入れねーとヤバいな・・・』
『ふぅ~』と深く息を吐いたユウナギは、懐から見慣れない『モノ』を取り出すと、
ソレを灯にかざしながら複雑そうな笑みを見せ呟いた。
『通りすがりの邪神の女神さんよ・・・
悪りぃ~がちょっくらこの俺に、あんたの力を貸してくれや・・・』
少しもの悲し気に『ソレ』を眺めながら呟くと、
『ソレ』と淡い光を放ち始めたのだった・・・。
そして此処は『とある一室』・・・。
その部屋の中央には『黒壇』で作られ円卓が在り、
『とある刻印』が金で大きく装飾されていた・・・。
「・・・お待たせ致しました」
そう口を開いたコナギは一礼をして顔を上げると、
既に席に座っていた面々を見渡していた・・・。
そこには『元・勇者』であるユウナギの最も信頼する『四神』が言葉なく居た。
「あら・・・。貴方が『例の疑似人格』ね?」
最初に口を開いたのは『邪妖精・魔毒の女王シシリー』だった・・・。
シシリーが声を発した後、
円卓の上に僅か10cmほどの『ハリネズミとアルマジロの混血』である、
『大地の侠客・ヒューマ』が緩やかに口角を上げながら、
言葉短く『ベイビー宜しくな』と声を挙げた。
すると1人・・・。
やや不満げな声を漏らす女がこう言った・・・。
「うちは別にど~でも宜しいんやけど・・・
さっさと話しを進めて欲しいわ・・・」
不満げな声を発したのは『商人・マイノーター』である。
コナギに対し顔を見せる事もなくそう言ってのけると、
手許にあった資料をペラペラとめくり始めた・・・。
そんなマイノーターにコナギが困り果てていると、
『ほっほっほっ♪』と笑い声を挙げながら席から立ち上がり、
『おや・・・?』と首を傾げながら口を開いた。
「・・・ヴァマント様はおいでではないのですか?」
そう尋ねたのはユウナギの『執事』であり、
冥界においては『破壊者』の異名を持つ『ライトニング』だった・・・。
そんなライトニングの質問にコナギは説明をすると、
『この部屋は我ら『四神』専用の部屋ですからな~』と苦笑していた。
「はい、この部屋に立ち入ろうとした際、
何故かヴァマント様だけが弾かれてしまいまして・・・」
「ほっほっほっ♪コナギ様は主と基本的な魔力の波動が同じですから、
問題なくこの部屋への入室は可能でしょうな♪」
そう言ったところでライトニングは円卓に座る『四神』へと声をかけると、
皆が無言で頷きヴァマントがこの部屋へと入る事を許されたのだった・・・。
入室したヴァマントは皆に対し挨拶を交わすと着席し、
『四神』が集結した理由へと話が進みつつあった時だった・・・。
ふと・・・。
無言で居たヴァマントが『聞いていい?』と声を挙げた。
その声にライトニングが『何でしょうか?』と尋ねると、
不思議そうな表情を浮かべたヴァマントがある2人へと質問した・・・。
「ねぇ・・・。シシリーとマイノーター・・・。
あんた達・・・どうして顏がボッコボコなのよ?」
『っ!?』
その質問に一瞬・・・その部屋に緊張が充満したものの、
やや苦笑気味にライトニングが代わりに答えた・・・。
「それは少々このお嬢様方が『おイタ』をされたモノですから♪
ほっほっほっ♪」
そんなライトニングにヴァマントは『なるほど・・・』と納得すると、
話を進めるようライトニングに促した。
『・・・では』
そう話を切り出したライトニングは『四神集結』の理由を口にした。
『我が主様の弱体化について・・・で、御座います』
そのライトニングの声に、
この場にいた者達の気がざわめいた・・・。
それを確認したライトニングは、
再び皆の様子を伺ないながら話を進めていった・・・。
「・・・原因は恐らく・・・いえ、確定ではありますが、
主様と『冥界眼』の相性の悪さが原因でしょうな?」
ライトニングの言葉に皆が苦い表情を見せると、
シシリーがヴァマントを睨みながら口を開いた・・・。
「だいたい・・・。
どこかの女帝とか言う『輩』が、
我が愛しの主様に『冥界眼』なんて悍ましいモノを無理矢理授けるからっ!」
そんなシシリーの言葉に顔を見ごとに痙攣されたヴァマントが、
こめかみに青筋を立てながら口を開いた・・・。
「うぐぐぐ・・・む、無理矢理じゃないし・・・」
「ユウナギ様と冥界の神力の相性が最悪ってわかっていたはずですわよね?」
こちら・・・。
シシリーの同様に盛大に顔を引き攣らせながらそう反論した。
「わ、わかっていたも何もっ!
やってみなくちゃ分からないでしょっ!?
そ、それに・・・わ、私を倒した勇者様なのよっ!?
冥界の神力の一つや二つ・・・どうって事ないと思ったのよっ!」
「はぁぁぁぁっ!?
ユウナギ様は『人族』ですのよっ!?
あんな野蛮で荒れ果てた冥界の力なんてっ!
相性いい方が可笑しいでしょっ!?」
『女帝と魔毒の女王』がギャーギャーと騒ぎ立てる中、
マイノーターは円卓の上に置かれた茶菓子とお茶をすすり、
『我・関せず・・・』を貫いていた。
そしてそんな騒々しい中・・・。
無言で居たライトニングとヒューマ・・・
そしてコナギは念話での会話をしていたのだった・・・。
念話で会話する中・・・。
コナギはふと疑問に思った事を尋ねたのだった・・・。
{1つ疑問に思う事があるのですが宜しいでしょうか?}
コナギの声に顔を見合わせたライトニングとヒューマは、
軽く頷いて見せると質問をしていった・・・。
{どうしてヴァマント様は主様に冥界の力なんてモノを?
通常であれば人族に扱える代物ではないはずですが?}
その問いに再び顔を見合わせた2人は、
何やら頷き合うとライトニングが口を開いたのだった・・・。
{それはですな・・・。
ヴァマント様と戦っている最中・・・。
主様が冥界の神力で作られた結界の中に閉じ込められましてな?
それを見事に中和してその場から逃れた事があったのですよ}
{えっ!?め、冥界の神力の結界を中和したっ!?
そ、そんな事が・・・?
いくら『勇者』だからと言って、そ、そんな・・・人族が・・・
冥界の力を中和など・・・}
{はい・・・。通常ですと在り得ない話なのですが・・・
その事を一度主様にお尋ねした事が御座いまして・・・}
ライトニングの問いに興味津々となったコナギは、
身を乗り出す様に聞き入った・・・。
{主様曰く・・・偶然・・・との事でした}
{・・・えっ?}
ライトニングの思いがけない答えに、
コナギは瞬きを数回繰り返したのだった・・・。
{・・・えっ?・・・えっ!?}
{ほっほっほっ♪何ともユニークなお答えに、
この私めも流石に時が止まりました♪}
{はっはっはっ!流石は相棒・・・有り得る答えだな}
豪快にそう言って笑い飛ばすヒューマに、
コナギは言葉を失くしてしまった・・・。
{はっはっはっ!気にするな・・・コナギよ。
相棒が偶然だと言ったんだ・・・。
本当にそうなんだろうぜ・・・}
{い、いやでもですね?
偶然の一言でどうにかなるようなモノでは・・・}
引き攣らせた顏でそう言って来るコナギに、
ライトニングとヒューマは苦笑していた・・・。
すると『コホン』と1つ・・・咳払いをしたライトニングは話をこう続けた。
{我が主様のお国にはこんな言葉が御座います・・・。
それは『火事場のバカ力』と言うモノで、
まぁ~簡単に言いますと・・・。
何かが吹っ切れた時には自分でも予想出来ないほどの力が出る・・・
そのような御言葉があるらしいのです。
ですからあの時の主様はきっと、そう言う状態だったかと思われます}
そう話を聞いてコナギは『それでは・・・』と話を続けた。
{その・・・たまたま偶然『中和』出来た事によって、
ヴァマント様が冥界の力を操れる・・・と、
そう判断したと言う事でしょうか?}
そんなコナギの声にライトニングとヒューマは苦い顔を見せながら頷いた。
{だからってそんな安易に判断されては・・・}
コナギの最もな声に2人は肩を竦めたが、
ヒューマが話をこう続けた・・・。
{確かに安易だと思う・・・。
その結果・・・相棒はその力に苦悩し、試行錯誤する日々を送っていた。
そして絞り出すように結論付けたのが・・・}
{ご自分の神力で冥界の神力を包むと言う方法ですね?}
{あぁ・・・そうだ。
己の神力で冥界の力を包む事によって、
『人界』に悪影響がでないようにする・・・。
それが相棒の出した結論だ・・・。
例えそれが・・・だ。
己の『弱体化』と繋がっても・・・だ}
{・・・そ、そんな}
ヒューマの話を聞いたコナギは苦悶の表情を浮かべると、
俯き膝の上で硬く握られた拳は、
より一層強く握り締められていたのだった・・・。
そんなコナギを見たライトニングとヒューマは、
その視線をマイノーターへと向けると、
ソレに気付きやや面倒臭そうに念話での会話に参加し、
その声に俯いていたコナギの顏が上がった。
{・・・うちに何か?}
そう冷たく言われた言葉にヒューマは顔を顰めたが、
ライトニングは冷静に話をしていった・・・。
{・・・マイノーター。
我が主の『弱体化』についてコナギ様に説明したところなのですが・・・}
そう話したところでマイノーターは、
『あら?それやったら話が早いわ』と笑みを浮かべた。
{何もうちが疑似人格であるあんたに気を遣う事もあらしまへんけど、
目の前で辛気臭い顔なんて見せられたら、もっっっと腹立たしいよって、
ユウナギ様の『弱体化』を防ぐ手をいくつか考えては来ましたんえ・・・}
{そ、それは本当ですかっ!?
そんな手がっ!?}
身を多く乗り出しマイノーターに肉薄するコナギに、
身体を大きく逸らし身じろぐその姿に、
ライトニングとヒューマが笑みをこぼした・・・。
{べ、別にあんたの為やあらへんよってっ!?
か、勘違いされたら困るわっ!}
慌てた様子を見せるマイノーターと、
申し訳なさそうにするコナギに苦笑した後、
話は本題へと入っていった・・・。
{まずは『弱体化』について言うとやね・・・。
コレはもうどうしようもあらしまへんわ。
主様が今のやり方・・・変えへんのんやったら、
その『弱体化』は加速度的に進行するものやとお考え下さい}
{・・・でも、いくつか手はあるんだろ?}
そう尋ねたのはいつの間にか『葉巻』を吹かし始めたヒューマだった。
{・・・そやね。
手は・・・あらん事あらしまへん・・・。
1つは『冥界眼』の完全消失}
マイノーターの1つ目の提案にライトニングが疑問を呈した。
{『冥界眼』の完全消失など・・・出来るのですか?
私が知る所では・・・そのような事例など一切ないかと?}
{・・・うちもその辺色々と探ってはみたんやけど、
そんな事例自体・・・あらしまへんわ}
{・・・なら、完全消失など?}
やや厳しめの表情を覗かせたライトニングの言葉に、
マイノーターは『フフッ』と笑った。
{・・・ライトニングはん。
事例がないだけで何も出来ひんやなんて事あらしまへんえ?}
{・・・どう言う事なのです?}
{あんな・・・?
その事例がないのは簡単な事なんよ。
『冥界眼』を消失した人は・・・『死亡』してしまうんやから♪}
{なっ!?}
マイノーターが楽し気にそう言うと、
この念話に参加していた者達は言葉を詰まらせた。
{おいおいおいおっ!マイノーターっ!?
貴様っ!相棒に死ねと言うのかっ!?}
ヒューマは咥えていた『葉巻』を円卓の上に叩きつけると、
その小さな身体から魔力を滾らせ始めた。
しかしマイノーターはそんなヒューマに笑顔を向けると、
『ちゃうし・・・』とその言葉の続きを言い始めた。
{うちが主様を殺すやなんてする訳・・・あらしまへんわ♪
嫌やわ~ヒューマはん・・・冗談キツイわ~♪}
その言葉には裏はなく・・・。
素直にそう言ったマイノーターにライトニングの表情は変わらなかった。
だがその瞳は厳しいモノを向けていたのだった・・・。
{・・・いややわ、ライトニングはんまで・・・。
うちってそんなに信用出来まへんやろか?}
{・・・信用と言う事でしたら、
私は貴女に対して今まで一度も信用した事など御座いません。
ですから今更『信用』と言う言葉に意味は御座いません}
{・・・ま、まじ返答で返さんで宜しいわ}
ライトニングの真剣な眼差しにマイノーターも冷や汗が滲むのを感じると、
『コホン』と咳払いをした後・・・話を続けた。
{まぁ~正直言うて、『冥界眼』を完全消失させるのは無理って話で、
うちが本気でそんな事する訳あらへんわ・・・。
ただ、うちが考えた事に・・・それも1つの提案やって事、
此処に居てはる皆さんの頭にも入れといてな?って話なんよ}
マイノーターの発言に納得した者達は次の提案に耳を傾けていった。
{・・・その2なんやけど。
これは今まで通り・・・って言うたら何やけど~・・・。
主様が創らはる『擬体の強化版』を製作してもらう事やね?}
{・・・強化版か}
そう呟いたヒューマは目の前に居るコナギに視線を向けた、
そしてそれは念話で話す者達の同様の行動でもあった。
{・・・あは、あははは・・・ぎ、擬体の強化・・・ですか?
一応主や私の中にも『強化版』と言うモノは存在しますが、
『弱体化』を考慮してのモノではありませんよ?}
コナギの言葉に一瞬期待した者達だったが、
『弱体化』を考慮したモノではないと知り深く溜息を吐いた・・・。
{た、確かに主が擬体の中に居れば、『冥界眼』の影響を受ける事はありません、
し、しかし・・・今の『技術』だと・・・}
そう口を開いて行ったコナギだったが、
話の途中で徐々に顔を赤らめ始めると言葉を飲み込んでしまった。
{な、何故黙るんだよっ!?}
{・・・なんなん?何で顔が赤こうなっとるんよ?}
ヒューマとマイノーターが顏を赤らめながら俯くコナギを覗き込もうとすると、
『それはつまり・・・』と口を開いたライトニングに、
コナギは盛大にその顔を真っ赤にした。
{・・・今の自分・・・。つまりコナギ様自身が『最高傑作』であり、
現状貴方を越える擬体など存在しないと言う事で宜しいでしょうか?}
コナギにとってこれ以上はないほどの話に、
『ラ、ライトニングさんっ!?』と耳まで真っ赤にしたのだった。
{確かに・・・現状をこいつが『最高傑作』と言う事だよな?
って事は・・・だ。
『擬体強化』って話は・・・ボツになるって事だよな?}
{そやね~・・・?
このコナギはんが・・・『最高傑作』ね~?}
{・・・ん?}
マイノーターの物言いにライトニングは眉間に皺を寄せると、
『何か言いたい事でも?』と口にした。
{ん~・・・言いたい事って言うか~・・・。
なぁ・・・コナギはん?}
{・・・な、何でしょうか?}
{あんたの事・・・ちょっと鑑定しても宜しいやろか?}
{・・・鑑定・・・ですか?
は、はい・・・そ、それは別に・・・か、構わないのですが・・・}
そう言いながらコナギの表情は徐々に焦りの色と変わり、
やがてそれは言い知れぬ恐怖へとクラスチェンジした。
何故なら・・・。
マイノーターはそう話しながら、ゆっくりとその腰を上げると、
『じゅるっ』と舌なめずりをし始め、マジックボックスから、
その用途が不明過ぎる『謎道具』が次々円卓の上に並べられた。
その『用途不明』な『道具』に言い知れぬ恐怖を感じたコナギは、
『うわぁぁっ!』と椅子事後方へと倒れたのだった。
椅子事後方へと倒れたコナギを気の毒に思いながら、
ヒューマが円卓の端まで移動すると、マイノーターに小言を言った。
{やい・・・マイノーター・・・。
ふざけるのも大概にしろっ!
貴様のジョークはいつも笑えないんだよ・・・ったくよ}
{えぇぇぇぇっ!?
いつもの『謎の商人ジョーク』やのに~・・・意地悪く言わんといて~♪}
と、どこかやはり楽し気ではあった。
気を取り直したコナギが席に座り直すと、
『ほな~改めて鑑定っと♪』とそう楽し気に『鑑定』をし始めて暫くした後・・・。
『ちょっ!?なっ、なんやのんっ!?あんたの身体はっ!?』
突然驚きの声を挙げたマイノーターの声に、
未だに言い争っていたシシリーとヴァマントの声が『ピタリ』と止まり、
ヒューマとライトニングもまた固唾を飲んでいたのだった。
「あは・・・わ、私の身体・・・ど、何処かに問題があるのでしょうか?」
そう不安げな声を発したコナギは『ごくり』と喉を鳴らしたのだった・・・。
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