第62話・変わり果てた場所

アスティナに『勇者の国』に一時帰ると告げたユウナギは、

『ゲート』を開くとコナギと変わり潜って行った。


そして自室へと出るとそこには『四神の1人』である、

『ヒューマ』が待っていたのだった・・・。


「・・・よう、おかえり相棒。

 どうやらとんでもない事になっているらしいな?」


その言葉にコナギが少し待つように言うと、

自室のソファーに腰を下ろし主であるユウナギに変わった。


「・・・ふぅ~。すまねぇ~相棒」


「・・・今のは誰だ?」


「あぁ~・・・そうだったな?

 お前達にはまだちゃんと『コナギ』の事を紹介していなかったな?」


ユウナギはそう言うと、ヒューマにコナギの説明をし、

話を本題へと移した・・・。


『あ、相棒・・・なんて無茶な事を・・・』


そう言ってヒューマは頭を押さえ苦い顔をして見せた。


「あははは・・・ま、まぁ~そのなんだ~?

 俺もまだまだ青いって事だな・・・」


「お前なぁ~・・・全く、後先考えねーから・・・」


呆れたその物言いにユウナギも苦笑いを見せたが、

現状を打開する為に話を進めていった・・・。


そして暫くの間、ユウナギは今後についてヒューマと話し終えると、

『ところでな、相棒・・・』と、口を開いた。


「・・・何だよ?改まってよ?」


「いや、実はな・・・」


そうヒューマが口を開いた時だった・・・。


突然『ピピッ!』とコナギが異常な力を検知すると、

それを主であるユウナギに報告した。


「なっ、何だってっ!?」


突然驚きの声を挙げたユウナギにヒューマが驚くも、

ソファーに座るユウナギはすぐさまコナギへとチェンジし、

ベランダへと繋がるドアへと走り外へと出た・・・。


そして『キョロキョロ』と辺りを見渡し視界を共有しているユウナギは、

コナギの中で『ストープッ!』と声を張り上げ、

コナギはその余りの声の大きさに驚き少し飛び上った。


{コナギーッ!しっかり視界を固定しろよっ!}


{も、申し訳御座いません}


{あ、あの丘だっ!あの丘をズームしろっ!}


{は、はいっ!}


コナギの意思によってとある丘がズームされると、

『んなっ!?』とユウナギが声を挙げるとそれから暫く沈黙した。


{・・・ユウナギ様?}


だが、主であるユウナギからの返事がなく、

コナギも視線を固定したままどうしようかと悩んでいると、

その肩に『ポンッ』と飛び乗って来たヒューマが、

溜息混じりに話しかけて来た。


「はぁぁ~・・・。

 全く俺も何が何やら皆目見当が着かねーんだが、

 俺もこの目で見て・・・愕然としたぜ」


「そりゃ~此処から見ただけでも・・・その惨状が容易に・・・」


ヒューマの声にコナギがそう答えると、

突然沈黙していたユウナギが悲鳴のような叫び声を発し、

そしてまたコナギがその声に驚き飛び上ってしまった。



{なっ、何だアレはぁぁぁぁぁっ!?}


※ 因みにだがコナギと変わっている時は、

  コナギ以外とは話せない。


コナギは慌てた様子で魔石に蓄えられている魔力を使用すると、

『土魔法』で背の高い椅子を作り出し、

ユウナギへとチェンジした。


「ヒュ、ヒューマぁぁぁっ!?

 一体どうなってんだよっ!?」


「あ、相棒・・・あのな?」


「何でだぁぁぁぁっ!?

 お、俺の大切な・・・あの丘がぁぁぁぁっ!

 どうして爆撃された跡みたいになってんだよぉぉぉっ!?

 が、頑張って育てた希少な草花や樹木が・・・

 な、何故・・・だ・・・。

 何がどうなっていやがるんだヒューマぁぁぁぁっ!!」


まさに怒髪天だった・・・。

大切なモノを破壊されたユウナギは怒りに狂いヒューマに問い質した。


するとヒューマは再び説明を始めようとするのだが、

その怒りが消えず落ち着いて説明のしようもなかった。


「お、落ち着けってっ!相棒っ!」


「こ、これが落ち着いていられるかぁぁぁぁっ!

 こ、この国にとってもあの景色は目玉の1つなんだぞっ!?

 そ、それを・・・それを・・・だぁぁぁぁぁぁぁっ!」


怒りで頭を掻き毟るユウナギに溜息を吐いたヒューマは、

『ガツンッ!』とその拳を放った。


「うぎゃっ!」


『プシュゥゥゥ』と頭上に煙を昇らせたユウナギは頭を押さえ、

涙目になりながらヒューマを見た。


「い、痛てーよ・・・」


「・・・殴ったからな?」


「親父にもぶたれた事ないのにぃぃっ!」


「・・・知らん」


「・・・ですよね」


どこかで聞いたセリフを言うものの、

ソレを知らないヒューマにはツッコミようもなかった。


少し落ち着いたユウナギに、漸く説明する事ができ、

その報告にユウナギは『はぁ?』と声を漏らした。


「じゃ~・・・何か?

 俺の国に得体の知れないヤツが現れ、

 俺の自慢のあの丘でおっぱじめたってのかっ!?」


「あぁ・・・そうらしい。

 俺は『人界』に居たからソレを見てはいないが、

 通報があって到着した時にはもう・・・」


「・・・まじでかっ!?」


「それに・・・」


そうヒューマが言葉を続けようとした時、

ユウナギは爆撃にでもあったかのような丘に行く事を提案すると、

ヒューマは『辿り着いた時に話そう』と言った。



再びコナギと入れ替わったユウナギは道中も愚痴っていたが、

コナギは『はい。そうですね』と相打ちを打っていた。


そんなコナギを気の毒に思いながらも到着し、

再び『土魔法』を使用しその上に腰を下ろすとユウナギにチェンジした。


そしてその第一声が・・・。


『なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!?』だった・・・。


まるで『爆心地』

そう思わずにはいられないほどの惨状に、

ユウナギの顔は盛大に引きつっていた。


「此処で一体何があったってんだよ?」


そう口から言葉がこぼれた時、

肩に乗るヒューマが先程の話の続きをしていった。


「相棒・・・聞け・・・。

 俺が到着した時には既にこんな状態だった・・・。

 そして魔力感知をした時だった・・・。

 いくつかの魔力を感知する事ができたのだが、

 その1つは俺達『四神の1人』ライトニングの魔力だった」


「ラ、ライのっ!?まじかよっ!?」


「あぁ・・・間違いない・・・。

 だがな・・・違和感がある力を感じたが、

 それはどうやら魔力ではないようだ・・・」


「・・・魔力ではない?

 ヒューマ・・・どう言う意味だ?

 魔力じゃないって事は・・・神力って事か?」


「いや・・・相棒・・・そうじゃない・・・」


「・・・?」


ヒューマが困惑気味にそう言うと、

ある方向を向きながら『アレだ』とそう言った。


再びコナギに変わったユウナギ達は、ヒューマが教えた場所に辿り着くと、

肩から飛び降りたヒューマがその爆撃があったようなクレーターの中を指差した。


「相棒・・・コレが何かわかるか?」


「・・・何だ・・・ソレ?」


ユウナギが見たモノとは・・・。


土の中に埋まっていたであろう大きな石に付着していた・・・

『赤いゆらゆらとしたモノ』だった。


「・・・コレは何だ?」


「・・・わからんな」


首を振りながらそう答えるヒューマに、

ユウナギもソレに目を凝らすと『あっ』と声を挙げ、

何かを思い出したようだった・・・。


「・・・相棒っ!?コレが何かわかったのかっ!?む


「わ、わかったと言うか・・・何と言うか・・・。

 コレではないが、コレに似たモノは知っている」


「・・・似たモノ?」


「あぁ、ちょっと前に戦っていた相手が、

 コレに似た『赤い冥界の神力』を発していてな~・・・

 ソレに似ているんだ・・・」


「・・・め、冥界・・・だとっ!?

 相棒っ!ま、まさかお前・・・『冥界の住人』とっ!?」


「あ、あぁ・・・そのまさかだ」


「・・・な、何て事だ」


項垂れるようにヒューマが頭を抱えると、

ユウナギは『赤い何か?』を再び凝視し念の為鑑定した。


だが鑑定の結果は『不明』と表示されるばかりで、

何度っやっても結果は同じだった・・・。


「相棒・・・俺も何度も鑑定をやってみたが、

 結果は同じだ・・・」


ユウナギは『赤いゆらゆらとしたモノ』を念の為にと、

ソレを小瓶の中へと入れると万が一の為に封印した。


そしてその小瓶を目の前にかざしながら、

その中でゆらゆらと揺れる『赤い何か?』を見つめていた。


するとヒューマが話を提案してきた・・・。


「なぁ、相棒・・・。

 ソレが何かってのは今は置いておくとして・・・だ。

 一度ライのヤツに説明してもらわないと話にならんだろ?」


「あぁ・・・わかってる・・・。

 だがライの事に関して・・・だけじゃなく・・・

 マイノーターも・・・コレに関係しているんじゃないかと、

 今はそう考えてる・・・」


「・・・マイノーターも?」


「・・・あぁ」


『どう言う事か話せ』とヒューマがそう尋ねると、

ユウナギは事の説明をしたのだった・・・。


「ライのヤツが相棒の擬体を・・・ね~?

 それにマイノーターが『冥界』に・・・?」


「あぁ・・・それにマイノーターはこう言ってた。

 『今、冥界で面白い事が起こってる』ってな?」


「・・・面白い事?それは何だ?」


「・・・ソレを聞く余裕がなかったからな~。

 それに今、後悔したところで始まらねーだろ?」


「・・・それはそうだがよ」



暫くの間、ユウナギ達はこの変わり果てた丘を調べて回ると、

『城』へと戻りこれからの事を話し合う為、皆を呼び出したのだが・・・。


「ちっ!ライとマイノーター・・・

 それと監視役として付けたシシリーにも連絡が取れねーっ!

 一体どうなってんだよっ!?」


自室から響き渡るユウナギの怒声に、

その『城』で働く者達は生きた心地がしなかったと言う・・・。


そしてその怒りを露にするユウナギの部屋では・・・。


『人界』にて無様な姿を晒す事になった『リアンダー』と、

『エルビンク』が素知らぬ顔でソファーに座り、お茶をすすっていた・・・。


『こいつら・・・』と、ユウナギが自室の机前でジト目を向けるも、

こちらに視線を合わせようとはしない2人に顏をヒクつかせていた。


だがユウナギは怒りを『グッ』と堪えると、

事の説明をし意見を求めたのだった・・・。


すると『エル』が『うむ・・・』と何かを思い付くと話を切り出したのだった。


「ユウナギ・・・その小瓶の中身だが、

 俺が調べよう」


「・・・コレをお前が?

 何か心当たりでもあるのか?」


何かを考えるように目を閉じたエルは、

その目を開くと『実はな?』と言葉を続けた。


「お前がめちゃくちゃに破壊した魔王城に、

 貴様達が知らぬ書物庫がある」


「書物庫・・・?そんなモノがあったのかよ?」


「あぁ~・・・あるともっ!

 魔王城の地下深くに封印された空間にあるのだが、

 もしかすると・・・だ。

 その小瓶の中身の正体がわかるかもしれん・・・」


「・・・その書物庫にコレを知るモノがあるってんだな?」


「あると思うぞ・・・。

 何せ・・・この世界のありとあらゆる書物が貯蔵されているのだからな~?

 ふっふっふっ・・・恐れ入ったかっ!ユウナギよっ!」


「・・・あぁ~、そうっスね~・・・。

 凄いすごーい・・・わぁ~・・・流石魔王の書物庫だ~(棒読み)」


「ふぁっはっはっはぁぁぁっ!

 そうであろう、そうであろうっ!

 フッ・・・だからソレの事はこの私にドーンと任せるのだっ!」


饒舌にそう言ったエルに白い目を向けていた者達の事など気にせず、

ユウナギから小瓶を受け取ると意気揚々・・・。


『行って参るぞっ!皆の者っ!』


そう賑やかしく言ってその場から消えたのだった・・・。



そして残った者達は・・・。


「ともあれ・・・相棒・・・。

 今はお前の両足を何とかするのが先決だろう?」


「まぁ~そうなんだが・・・一応考えはある・・・」


「・・・何だ?」


「ふっふっふっ・・・聞いて驚けっ!」


先程までとは打って変わり・・・。

ユウナギが突然笑みを浮かべると、

その『考え』とやらを話し始めたのだった。


「超絶すげーっ!車椅子っぽいモノを作るっ!」


『・・・・・』


ヒューマとリアンダーは何故か渋い表情を浮かべ沈黙していると、

ユウナギは『あれ?』と予想していた反応と違う事に気付いた。


「な、何だよ・・・お前ら・・・?

 ノリ・・・悪くねーか?」


ユウナギの戸惑う声にヒューマとリアンダーは顔を見合わせると、

『嫌な予感しかしない・・・』とそう答えたのだった。


「い、嫌な予感って何だよっ!?」


「・・・相棒、車椅子ってのはわかったが、

 『っぽいモノ』って・・・何だ?」


「ふっふっふっ~・・・」


『・・・・・』


その余裕そうな態度に増々嫌な予感がする2人は、

内心『どうかまともなモノでありますようにっ!』と、

心の中で声を大にして願っていた。


『発表しますっ!』


そう声も高らかに宣言すると、

その『車椅子っぽいモノ』の発表をした。


『車椅子・・・Zだっ!』


『・・・はい?』


「い、いや、だから・・・車椅子・ゼータだって言ってんだろうがっ!」


『・・・・・』


再び無言になるヒューマとリアンダーの反応の悪さに、

ユウナギは『ぐぬぬぬぬ』と呻いていた・・・。



そんな時だった・・・。


突然ユウナギの部屋に『ゲート』が出現すると、

中からエルが戻って来た・・・。


「おかえ・・・ん?エル・・・どうした?」


戻って来たエルだったがその様子がどうにもおかしかった。

顔色は悪く『トボトボ』とした足取り・・・。


出る前と出た後では雲泥の差だった・・・。


そして再びユウナギが『どうしたんだよ?』と声を挙げると、

青ざめた顔色を浮かべるエルがこう言った・・・。


『・・・書物庫の場所がわからんっ!』


『・・・・・』


『ユウナギっ!魔王城の書物庫が何処にあるか知らぬかっ!?』


言葉を失う者達に容赦なくエルの言葉が直撃する。


『ワナワナ』と肩を震わせたユウナギは、

顏を真っ赤にしながら怒声を響かせた・・・。


『お前アホだろぉぉぉぉぉっ!?』


その怒声に『城』で働く者達は今日2度目の『寿命』が縮まる思いをしたのだった。

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