第59話・代償

『ヴァン・アレン』が姿を消した直後・・・。


ユウナギが倒れ意識を消失し、

それを見た仲間達が駆け出し滑り込むように辿り着くと・・・。


「ア、アスティナっ!早く『ポーション』をっ!」


「わ、わかってるわよっ!」


シャルンにそう急かされたアスティナは、

慌てて『ヴァン』から渡された『ポーション』を飲ませようとしたが、

『ゴフッ!ゴフッ!』と吐血をしうまく飲ませる事が出来ずに居た・・・。


「ち、血が溢れてこのままじゃっ!?

 い、一体どうすれば・・・」


そう言って悲痛な声を挙げるアスティナに、

誰も何も言えずに居ると・・・。


「ちょいと・・・あ、あんた達・・・」


「・・・?」


声がした後方を見ると『魔力切れ』なのか、

随分と血色の悪いレデぃが『ヨロヨロ』とふら付きながら、

こちらへと歩いて来た・・・。


「あ、あんた・・・」


訝し気な表情を見せるアスティナにレディは薄く笑みを浮かべると、

『魔力回復用のポーション持ってない?』とそう言った。


「・・・な、なくはないけど・・・どうするのよ?

 ま、まさかユウナギにとどめをっ!?」


アスティナはユウナギを庇うように前へと立ち塞がると、

『ショートソード』を取り出し構えた。


そしてそれと同時にシャルンやチャダ子・・・

コナギまでもがユウナギを隠す様に躍り出ると、

戦闘態勢を取って見せたのだった・・・。


「フッ・・・馬鹿な子達ね~?

 今更そんな事する訳・・・ないでしょ?」


顔色が優れない状態であるのにも関らず、

レディは鋭い視線を向けるとアスティナは再びその口を開き真意を聞いて来た。


「・・・どうするつもりよ?

 何かやろうってんなら・・・」


「・・・しないわよ。

 それよりもいいのかしら~?

 こうしている間にも、そのユウナギって男は・・・」


そう言いながらレディは視界に入らないユウナギを見てそう言うと、

その真意を口にし始めた。


「・・・私の魔力が回復したら、

 ユウナギを私の『宝石魔法』で少しはましに出来るわ」


「・・・ましって?」


「さっきの『ヴァン』って男が言ってたわよね?

 あんたが持っている『ポーション』を飲ませれば、

 助ける事が出来るってさ・・・」


そう言いながらレディはアスティナが手に持つ『ポーション』を、

顎で指し示しながらそう言った。


「・・・あ、あんたなら、この血を止める事が出来るのね?」


「えぇ、ユウナギ自体を完治される事は出来ないけど、

 丁度・・・『冥界の力』に影響されない『宝石』を・・・

 1つだけ・・・持っているのよね~♪」


レディはそう言いながら胸の谷期から取り出した、

『青紫の宝石』を見せると『・・・どうするの?』と尋ねて来た。


「わ、わかったわ・・・」


「いい・・・選択をしたわね?」


レディの言葉を信じたアスティナは、

まだ疑っている仲間達を押し切りマジックボックスから、

『魔力回復用のポーション』を取り出し、それを差し出した・・・。


「・・・有難うお嬢ちゃん♪」


どこかトゲがある物言いではあったが、

アスティナからソレを受け取ると『ゴクゴク』と飲み干した。


すると一瞬『紫色』の淡い光がレディを包むと、

すぐに血色は元に戻り『魔力』が回復した事が見て取れたのだった。


「・・・じゃ~約束通りに♪」


笑みを浮かべながらそう言うと、

レディは『宝石』を握り締め何やら『ブツブツ』と言い始めた。


すると左の手の中に握られていた『宝石』が、

『青紫』の淡い光を放つとレディは『後は任せなさい・・・』とそう言った。


ユウナギの前に立ち塞がる仲間達をどかせると、

レディはユウナギの前にしゃがみ込み、

魔力を注入した『宝石』をユウナギの腹の上に置いたのだった・・・。


『・・・冥力侵食阻害法陣っ!』


そう言いながらレディは誰も見た事がないような『手印』を見せると、

それに反応した『宝石』が輝き『青紫の魔法陣』が展開すると、

吐血が収まり『スゥ~』と言う穏やかな呼吸音に変わった・・・。


「ふぅ~、これでポーションは飲ませられるはず・・・」


レディの胸の前で組まれた『印』をキープしたまま、

アスティナに『今のうちにソレを飲ませなっ!』と声を挙げた。


「わ、わかったわ・・」


『ゴクゴク』と『ポーション』を飲ませ終わったアスティナは、

安堵の息を漏らすと未だ『印』を組んだままのレディに礼を述べた。


「あ、あり・・・がとう・・・」


「・・・フッ」


アスティナが飲ませたポーションが効き始めたのか、

ユウナギの血色も良くなりその表情も穏やかになると、

レディは『印』を解きその場にヘタレ込んだのだった・・・。


「あ、あんた・・・だ、大丈夫なの?」


恐る恐るアスティナがレディの肩に手を触れると、

『・・・心配いらないわ』と苦笑いを浮かべながらそう言った。


すると様子を伺っていたレディの部下達が、

『ルーズベルト様ーっ!』と声を張り上げながらやって来た・・・。


レディの元へと辿り着いた『クレベール』と『ベンソン』は、

息を切らしながらも言葉を荒げたのだった・・・。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・。

 ちょっと・・・ルーズベルト様ーっ!」


「い、いきなり何だいっ!?」


「ほ、宝石・・・。

 ぼ、僕ちゃん達が必死になって集めたりっ!

 必死になってバイトしたお金で買った・・・ほ、宝石っ!

 い、いくつ・・・の、のののの残っているのかしらっ!?」


突然そう声を荒げた2人にアスティナ達は唖然とし、

レディは訝し気な表情を浮かべながら溜息を吐いた・・・。


「い、いくつって・・・そ、そりゃ~ね~?」


「でっ!?どれだけっ!どれだけ残ってんのよっ!?」


「せ、せやっ!いくつ残っとリまんのんやっ!?」


「こ、こんな所で止めなっ!

 ったく・・・みっともないったりゃありゃしないよっ!」


レディのその一言にクレベールの片眉が『ピクリ』と反応を示すと、

レディに襲いかからんばかりに身を乗り出し声を荒げた。


「なっ、何言っちゃってくれちゃってんのよっ!?

 そんな見栄を張ったってっ!

 日々の『おまんま』を食べる事なんて出来ないわよっ!

 で・・・?いくつ残ってんのよ?」


「・・・に、2個・・・です・・・」


「・・・はい?

 もう一度・・・言ってもらってもいい?」


「・・・あぁぁぁっ!もうっ!

 だーかーらぁぁぁっ!2個しか残ってないって言ってんでしょうがぁぁぁっ!」


正座しながらもブチギレたレディの言葉に、

『はぁぁぁぁっ!?』と過剰に反応を現すと更に怒声が響いたのだった。


「にっ、20個ほど渡してあった・・・ほ、宝石が・・・

 たっ・・・たった・・・2個ぉぉぉぉぉっ!?」


「ル、ルーズベルトさ、様・・・

 そ、それはあんまでっせっ!?

 ワ、ワイらが身を削って働いて手に入れたほ、宝石の残りが・・・

 たった・・・2個やなんてぇぇぇっ!

 そ、そんなん殺生やわぁぁぁぁっ!」


クレベールの瘦せこけた顔がまるで鬼の形相のように変貌すると、

『シュン』となったレディがブツブツと言い始めた。


「そ、そんなに怒らなくたっていいじやないのよ・・・。

 だ、だってさ・・・あのまま放置して私達だけ逃走しちゃったらさ、

 色んなヤツらに狙われちゃうじゃない?

 仕事上の依頼でしかも内容は聞かされず引き受けちゃったじゃない?

 その結果・・・いくら知らなかったとは言え、

 違法とされる『冥界の魔物』に手を出しちゃったんだから、

 わ、私は少しでもリスクを減らそうと・・・」


正座をし俯きながらブツブツとそう言ったレディに、

その部下達とは対照的にアスティナ達は渋い表情を浮かべ同情していた。


『がるるるる』と鼻息荒く怒りの形相を浮かべる部下達に、

アスティナは『はぁ~』っと溜息を漏らすと、

叱られ項垂れるレディの肩を叩きながら口を開いていった。


「あ、あんた達・・・。

 話を聞けばこのルーズベルトって人は、

 あんた達を守る為でもあるんじゃないの?

 『冥界の魔物』を狙った時点でリスクあるでしょうが?」


アスティナはレデイを庇うように説得を試みるも、

逆にその部下達の気を逆撫でしてしまった・・・。


「ちょいと・・・そこのお嬢ちゃん達・・・」


「お、お嬢ちゃんっ!?」


「あんた・・・何も知らない癖に・・・

 うちの家庭の事情に口なんて挟むんじゃないわよっ!」


「せやっ!小娘の分際であんたは何を言うとるんやっ!?」


クレベールとベンソンが身を乗り出しながらアスティナにそう言うと、

その迫力に気圧され思わず・・・『ご、ごめん』と言葉がこぼれたのだった。


そしてその後今度は『シュン』としてしまった部下達を見て、

アスティナは『コロコロと変わり過ぎるのよ・・・全く・・・』と、

頭を掻きながら頭を悩ませていた・・・。



そんな時だった・・・。


『・・・料金払ってやれよ』と目を覚ましたユウナギが、

苦笑いを見せながら、アスティナを見てそう言った。


「ユ、ユウナギっ!?」


『ユウナギさんっ!?』


仲間達がそう言いながらしゃがみ込み、

各々に心配していた事を伝え終えると、

アスティナがゆっくりとしゃがみ込みながら口を開いて行った。


「・・・大丈夫・・・なの?」


「・・・あぁ、心配かけたな?」


「べっ、別にっ!心配なんかしてないしっ!」


「・・・さいでっか」


ユウナギの言葉に顏を赤らめたアスティナは、

そっぽ向きながらそう言うと、

正座をしていたレディが笑みを浮かべながら口を開いた。


「お嬢ちゃん・・・今時そんなテンプレ・・・見ないわよ?」


「ほっ、ほっといてよっ!べ、別にツンデレじゃないしっ!」


『ニヤニヤ』と全員が笑みを浮かべていると、

『ふっ』と笑ったユウナギがレディに声をかけていった・・・。


「レディ・ルーズベルト・・・だったな?

 俺の為に余計な出費をさせちまってすまねぇなぁ~?」


突然そう声を掛けて来たユウナギに、

今度はレデイが頬を赤く染めた・・・。


(なっ、何だい突然っ!?

 って・・・よく見るとこの男・・・何処かで・・・?)


改めてユウナギの顔を見たレディは、

昔に何処かで会ったような気がしてならなかった・・・。


「あ、あんた・・・何処かで?」


そうポツリと呟いたレディの言葉は、

まだ目覚めたてのユウナギの耳には届いていないようだった。


暫く茫然としてたレディにユウナギは不思議そうな表情を浮かべると、

宝石の代金の話をし始めたのだった・・・。


「レディ・ルーズベルト・・・」


「ひゃ、ひゃいっ!?」


「・・・・・」


茫然としているところを突然声を掛けられたレディは、

思わず声が上ずって返事をしてしまった。


(あぁぁぁぁっ!み、皆がドン引きしてるーっ!?

 ど、どうしようっ!?)


心中穏やかではなかったが、

レディは何事もなかったように『コホン』と咳払いをすると、

『・・・な、何んなのよ?』と答えた。


「えっと~・・・だからお前の消費した宝石の代金をだな~?」


「あっ、そ、そうね・・・だ、代金の事だったわね?」


そう取り繕いながらまだ頭の中ではパニック状態だった。

そんなレディに渋い表情を見せたクレベールは、

『代金なんですけどね~?』とユウナギとレディの会話に入って来た。



「お、おうっ!そ、その話な?」


突然会話に入って来たクレベールは、

手揉み仕草を見せながら『ズイズイ』っと身を乗り出して来ると、

満面の笑みを浮かべながら寄って来た。


「・・・宝石の相場って俺・・・知らねーんだけど?」


そう言いながら視線をアスティナへと向けると、

『わ、私が知る訳ないでしょっ!?』とやや不機嫌そうに言った。


「・・・困ったな」


ユウナギがそう顏を顰めた時だった・・・。


突然クレベールはマジックボックスから『そろばん』を取り出すと、

『カチャカチャ』と鳴らしながらブツブツと計算をし始めた。


クレベールは『そろばん』を弾きながらも、

心の中ではこんな事を考えていた・・・。


(・・・この男ってば意外と持っていそうよね~?

 あのお嬢ちゃんに『払ってやれ』だな~んて言っちゃうんだもの~。

 金払いはいいと見ていいわね~?

 じゃ~・・・どれくらい吹っ掛けちゃおうかしら~ん♪)


器用に『そろばん』を弾きながら考えた結果・・・。


『そうね~・・・』と呟くと、

『だいたいこれくらいかしら~♪』と『そろばん』を見せて来た・・・。


ユウナギは『そろばん』を見ようと上半身を起こそうとしたが、

まだ身体の感覚に違和感があり、

それに気付いたチャダ子がその身体を支えたのだった。


「やっぱ宝石って結構すんのな~?」


「・・・そりゃ~そうでしょ?」


視線をアスティナに向けてそう話すユウナギに、

方を竦めながらそう言うと、

ユウナギは『それでいいぜ』と笑顔を向けて来た。


「・・・はぁ?」


「・・・何だよ、その反応は?

 あんたが値段付けたんだろうが?」


「え、えっと~・・・いやいや・・・お兄さん・・・。

 ちゃんとよく見てもらえるかしら?」


「・・・見て言ってんだけど?」


クレベールは呆気に取られたような表情を浮かべると、

その隣で茫然としているベンソンに小声でこう言った・・・。


「・・・こいつバカなの?」


「せ、せやね?」


当然ユウナギとの距離は近い・・・。

だからその会話も問題なく聞こえており、

一瞬顔を顰めたユウナギは『おい・・・聞こえてんぞ?』と低い声で言った。


「い、いやあの~・・・あはははははっ!」


「笑っても誤魔化せてねーよ」


ジト目を向けたユウナギにクレベールは苦笑いを見ると、

『よく見てよ?』と口を開いた。


「よく見てって・・・1億だろ?」


「・・・えっ?」


「だから・・・宝石の代金って1億でいいんだろ?」


真顔でそう言ったユウナギに、

流石のクレベールも引き攣った笑みを浮かべると、

『・・・こ、この額で・・・い、いいのよね?

 問題なく・・・出せるのよね?』と何処か不安気だった・・・。


「あぁ、それで問題ねーよ・・・。

 俺はいい値で払ったんだからよ~・・・

 その~何だ~・・・レディ・ルーズベルトの事は許してやれよな?」


『チラッ』とレディを見たユウナギがそう言うと、

『ゆ、許すも何も~♪』『せやせや~♪』と、

クレベールとベンソンは上機嫌にそう答えた・・・。


「あ、あんた・・・」


「気にすんな・・・これは俺からの礼でもあるんだからよ」


部下達が大はしゃぎで浮かれる中、

ユウナギとレディが何とも言えない雰囲気に包まれていると、

『・・・そろそろいいかしら~?』とアスティナが不機嫌そうに声を掛けて来た。


『なっ、何だよっ!?』と顔を引き攣らせたユウナギに、

アスティナは言葉を続けた・・・。


「いつまで此処に居るつもりよ~?

 私はもう帰りたいんですけど~?」


棒読みでそう言って見せたアスティナに、

ユウナギは『へいへい』と答えながら立ち上がろうとした時だった・・・。


『・・・あれ?』と声を漏らしながら動きを止めたユウナギに、

アスティナは『さっさと帰るわよ?』と苛立ちながらそう言うと、

思っていた反応を見せなかったユウナギに首を傾げて見せた。


「・・・どうしたのよ?」


「い、いや・・・その~何だ~・・・」


「早くしてよ・・・」


そう言うも反応が薄いユウナギに再び『どうしたのよ?』と尋ねると、

ユウナギは『ははははは』と乾いた声で笑いながらこう言った・・・。


『えっと~・・・ですね?

 俺の両足・・・動かないんですけど?』


ユウナギの引き攣った笑みにアスティナ達はただ茫然としてしまったのだった。

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