第58話・共同戦線
突然『羊』から頭突きを喰らったユウナギは呻き声を挙げると蹲った。
「うぐぐぐ・・・ゆ、友情が芽生えたと思ったのに・・・
お、俺とした事が油断したぜ・・・」
アスティナ達は『当たり前でしょっ!?』と文句を言う中、
『メルゥゥゥッ!』と声を挙げた羊は、ユウナギに向かって突進した。
「うをっ!?」
『ドスンッ!』
「ぐぁぁぁぁっ!」
咄嗟に腕をクロスし防御姿勢を取ったその腕に、
羊は体当たりをかますと、その衝撃はユウナギの身体を数十メートルも後退させた。
「くぅーっ!痛ててててて・・・。
やってくれんぜ・・・この赤羊・・・」
「メルッ!」
『ボッ!』と全身から『冥界の力』を吹き出した羊は、
再びユウナギに向かって突進した来た。
「フンッ!そう何度も何度も喰らってられるかってんだっ!
こっからは真面目に行くぜっ!
シェオル・モードッ!」
『バシュッ!』と蓄えた『冥界の神力』を吹き出したユウナギは、
羊の攻撃を躱すと羊がしたように『冥界弾』を掌から出現させた。
「お返しだっ!うりゃっ!」
『ヒュンッ!』と風切り音を発しながら放たれた『冥界弾』は、
羊の背中に当たる直前『メルッ』と笑みを浮かべると、
突然方向変え『冥界弾』の直撃から逃れたのだった・・・。
「メルルゥゥゥッ!」
「ちっ!避けやがったか?
だがな~・・・甘いぜ赤羊ーっ!」
ユウナギは羊が躱す事を予想していたのか舌打ちしつつも何故か笑みを浮かべ、
躱した羊に対し腕を横へと薙いで見せた。
「メルッ!?」
『ヒュンッ!』突然躱したはずの『冥界弾』が『追尾』すると、
驚きの表情を浮かべる羊に迫った・・・。
そしてそれを更に羊が躱そうとした時だった・・・。
「逃がすかよっ!爆散っ!」
広げていた掌を強く握り締めると羊を追っていた『冥界弾』が、
その合図と共に『爆散』した。
『ドカーンッ!』
『ドスッ!ドスッ!ドスッ!』
「メェェェェェッ!」
『爆散』したその『冥界弾』が羊に数発当ると、
その強烈な痛みに羊は悲鳴を挙げたのだった・・・。
『ズシャァァァッ!』とその衝撃で地面を滑って行く羊に、
ユウナギは追い打ちとはがりに今度は『冥界の神力』で作った、
『火炎弾』を出現させ、声を張り上げながらソレを放った。
「これならその羊毛もよく燃えんだろっ!
派手に燃え上がれってんだっ!
『冥界火炎弾っ!』喰らいやがれぇぇぇっ!」
『シュッ!』
地面を滑り終えその痛みに耐えている時、
羊の視界にユウナギの掌から出現した『火炎弾』が映っていた・・・。
そして発射されるのと同時に痛みを堪えながら更に後方へと飛び退くと、
着地と同時に待機させていた残り2発の『冥界弾』を、
ユウナギに向けて発射した。
「メルゥッ!」
「なっ!?」
『ギュルギュルギュルーッ!』
物凄い唸りを上げながら羊の放った『冥界弾』は、
ユウナギに向かって行った・・・。
「ヤ、ヤベェーッ!」
『ドスッ!』と1発目の『冥界弾』がはずれ地面に突き刺さったが、
もう1発の『冥界弾』はユウナギの右脇腹を掠めた・・・。
『ぐぁぁぁっ!
か、掠めただけなのに・・・くそったれっ!』
凄まじい回転をするその『冥界弾』の威力は、
ユウナギが想像するよりも遥かに威力があった・・・。
「あんなモノ喰らったら・・・」
そう呟いた時だった・・・。
地面に突き刺さったはずの『冥界弾』は、
地面の中を進みユウナギが辛うじて回避したその真下の地面から、
突然飛び出して来た・・・。
「っ!?」
『ガキンッ!ギュルルルルルルルーッ!』
「・・・お、重いっ!くそっ!」
咄嗟にユウナギは『冥界の神力』で作り出した障壁を展開すると、
間一髪喰い止める事が出来たのだが・・・。
その威力が凄まじく『ペキッ!ペキッ!』と、
その障壁に亀裂が走り始めた・・・。
「ヤベェーっ!しょ、障壁がぁぁぁっ!?」
『ヒュンッ!』
「なっ!?」
障壁が破られるその限界ギリギリな時、
突然ユウナギの耳に風切り音が聞こえた・・・。
「嘘だろっ!?」
そう声を挙げた瞬間、ユウナギの背後から2発目の『冥界弾』が襲い掛かって来た。
『ぐぁっ!』
『バキンッ!』
『ま、間に合わねぇー・・・』
障壁を破った1発目の『冥界弾』がユウナギの顔面に直撃しようとした時、
突然目の前に飛び込んで来た何かが光を放つと、
青い色をした障壁が展開され、『冥界弾』を防いだのだった・・・。
「・・・なっ、何だっ!?
一体何が・・・?」
そう驚きの声を挙げた束の間・・・。
背後では『白い障壁』が展開されると、
2発目の『冥界弾』を今度は弾き飛ばしたのだった・・・。
「い、一体これは・・・?」
そう声を漏らし『青い障壁と白い障壁』を見ていると、
また別の方向から女性の声が響いて来た・・・。
「ちょいとっ!今の間にソレを何とかおしっ!」
「・・・誰だっ!?」
振り返ろうとしたその瞬間・・・。
その女性の声にユウナギは頭を切り替え、
『青い障壁』の前に動きを止める『冥界弾』を見た・・・。
「今ならっ!」
眼前の『冥界弾』を見据えたユウナギは、
マジックボックスを開くとその中から『刀』を一振り取り出すと、
烈火の如く鞘から刀身を抜き『冥界弾』へと『刀』を振り下ろした。
「うおりゃぁぁぁぁぁっ!斬っ!」
『ヒュンッ!』
『ボトッ』
『・・・メルゥゥ』
強烈な回転で回る『冥界弾』を、
『一刀』で斬り落としたユウナギに羊は唖然とし呻き声を漏らした。
『ふぅ~』と安堵の息を漏らした時、
再び背後から女性の声が響いて来た・・・。
「ちょいとあんた・・・いい腕してんじゃないの?」
その声に反応したユウナギは大きく後方へとジャンプすると、
声の主が居る場所へと着地した・・・。
そして振り返るとそこには、
『怪盗・レディ・ルーズベルトのボス』
『レディ・ルーズベルト』が手の上で何かを『ジャラジャラ』とさせ、
『フッフッフッ』と笑みを浮かべて居た。
「・・・どうして助けた?」
「別にタダで助けた訳じゃないわ・・・」
「・・・どう言う意味だ?」
レディの言葉にユウナギは眉間に皺を寄せると、
薄く口角を上げたレディは口を開いていった・・・。
「私らはね?
あの『羊』を取り逃がした連中の尻拭いの為に、
此処に来たのよ・・・」
「・・・尻拭い?」
「えぇ、詳しくは聞かされていなかったんだけど・・・
どうやらご法度とされる『冥界』から、
あの『羊ちゃん』を攫って来たみたいね~?
とんだ貧乏くじを引かされたわ・・・」
『やれやれ』と言ったポーズを見せるレディに、
ユウナギは『ご苦労なこった』と呆れ気味に言った・・・。
「全くよ・・・これじゃ~洒落にもならないわ・・・。
『冥界の魔物』に手を出したとあっちゃ~・・・
私達も狙われる理由になりかねないのよ。
だからあんたに手を貸して・・・コレを無かった事にしたいのよ♪」
複雑な表情を浮かべたレディに、
ユウナギは『何を勝手な事を・・・』と呆れながら口を開いた。
するとその後方から羊の攻撃で『ボロボロ』になった、
『クレベール』と『ベンソン』が岩場の陰から声を挙げた。
「ル、ルーズベルト様・・・。
ここは一旦引いた方が得策なんじゃないの?
『命あっての物種・・・』って言うじゃない?
此処はこいつらに任せて・・・」
「せ、せやな~?
クレベールはんの言う通りでっせ?
なんもこんな所で命を張らんでも・・・」
そんな部下達の声にレディの顔が一瞬引き攣ると、
岩場の陰で身を隠す部下達に声を荒げた。
「何言ってんだいっ!?
此処で尻尾を巻いて逃げたとあっちゃ~・・・
『怪盗・レディ・ルーズベルト』の名が廃るってもんでしょうがっ!」
「せ、せやかて・・・ルーズベルト様・・・。
ワイらは見ての通り戦える状態やないし・・・」
「そうね~?僕ちゃん達・・・。
今回急な依頼って事もあって、ロクな装備も持って来てないし~
もうここらで退散でいいんじゃないの~?」
部下達があーだこーだと言いながら、
『離脱』を示唆するのだが、レディはそのつもりはないようだった・・・。
「あんた達が戦えなくても・・・私が居るでしょうが?」
「あ、あかんってっ!ルーズベルト様っ!」
「・・・どうしてよ?」
「あ、あのね~・・・ルーズベルト様?
貴女が戦ったら・・・そ、その~・・・ほらっ・・・わかるでしょ?」
意味有り気にそう言った『クレベール』に、
レディは苛立ちを募らせると声を張り上げた。
「言いたい事があるのならハッキリとおっしゃいっ!」
「そ、その~・・・ほらっ・・・ね?
ルーズベルト様の『魔法』ってさ・・・?」
「・・・・・」
クレベールの声にレディは思わず押し黙ってしまった。
それを不思議に思ったユウナギは、
羊を警戒しながらも口を挟んで来た・・・。
「お、おい・・・ルーズベルト?」
「・・・な、何よ?」
「今のはどう言う意味だ?
お前の魔法に何か・・・あるのか?
それにさっきの障壁は一体・・・」
そうユウナギが口を開いた時だった・・・。
『メルゥゥゥッ!』と声を挙げた羊が、
残り1発となった『冥界弾』を発射した・・・。
「ちっ!まだ厄介なのが1発残ってんぜっ!」
「・・・面倒ねっ!」
難なく躱して見せたものの、
空中で待機し高速回転する『冥界弾』は厄介なモノだった・・・。
『ちっ!』と再び舌打ちしたユウナギに、
レディが声を掛けて来た・・・。
「あんた・・・名は何て言うの?」
「な、何だよっ!こんな時にっ!って・・・。
お、俺か?俺の名か?
俺の名は・・・ユウナギだ。
ルクナの街で冒険者をしている」
「・・・ユウナギね~」
少し笑みを浮かべたレディは羊の攻撃を躱しながらも、
ユウナギ話を持ち掛けた・・・。
「ねぇ・・・ユウナギ?」
「な、何だよ?こんな時に・・・」
「・・・私と『共同戦線』張らない?」
「・・・へっ?」
『ギュルンッ!』と突然唸りを挙げた『冥界弾』が襲って来ると、
2人はそれぞれに回避行動を取った・・・。
そして着地した時・・・。
ユウナギの視線は『冥界弾』ではなく、
それを操る羊へと向けられていた・・・。
(・・・いつの間にかあの羊、赤から白へと羊毛が変わってやがる。
何だ・・・?どうして・・・いや、いつ変わった?)
色が元に戻った羊に対しそんな事を考えていると、
それを遮るようにレディの声が聞えた。
「ユウナギっ!
この場を切り抜けたいのなら、
私と手を組む事をお勧めするわっ!」
「何でてめーと手を組まなくちゃいけねーんだよ?」
「聞きなさいなっ!
あの『冥界の羊』の特徴である『暴走』・・・。
アレは一定時間経過すると強制的に『クールタイム』になるのよっ!」
「・・・まじでかっ!?」
「・・・えぇ、本来なら勝負を仕掛けるのは今・・・
って言いたいところだけど、
あの『冥界弾』が邪魔して・・・」
「・・・そう言う事か~?」
レディの言葉に軽く頷いたユウナギは、
『クールタイム』に突入した羊と上空で唸りを挙げる『冥界弾』を見比べた。
(・・・どの道この厄介なモノを何とかしなくちゃ、
攻撃を仕掛けるにも・・・)
ユウナギはそう考えながら頭を悩ませていると、
『ユウナギッ!聞きなさいなっ!』とレディの声が響いて来た。
「今からあの厄介な『冥界弾』は私が止めて見せるわっ!
だからあんたはその間にっ!」
レディの声に戸惑う中、
羊はその言葉の意味を理解したのか、
『冥界弾』に手をかざし更に『高速回転』させていった・・・。
「いやいやいやっ!無理だろっ!?
あんな高速回転を止めるなんて出来んのかよっ!?
さっきの比じゃないんだぜっ!?」
「・・・かなり厄介ではあるけどさ」
そう呟いたレディは顔を引き攣らせながらも不敵な笑みを浮かべ、
両手に握り締めていたモノを更に『ギュッ』と握り締めた。
「・・・私に任せなさいっ!」
何かを吹っ切ったように啖呵を切ったレディは、
全身から濃度の濃い『魔力』を放出させると、
それを両手の何かに圧縮し始めた・・・。
それを岩場の陰から見ていた部下達は、
冷汗を流しながら声をこぼしていた・・・。
「ク、クレベールはん・・・」
「わ、わかってるわ・・・。
で、でも今の僕ちゃん達じゃどうしようもないじゃないの?
今はただただ・・・出費がかさまないように祈るだけよ」
「・・・せ、せやな~?」
祈るように見つめる部下達を他所に、
レディは『はぁぁぁぁっ!』と更に魔力を圧縮し始めた。
「お、おいっ!ま、まじでやれんのかよっ!?」
そう口を開いたユウナギにレディは汗を流しながら圧縮を続けるが、
上空で停止している『冥界弾』もまた・・・。
羊によって回転が加わり、その『冥界弾』は熱を発しながら真っ赤になっていた。
「・・・だぁぁぁぁっ!
わーったよっ!まじで何とか出来るんだよなっ!?
信じるぞっ!?もしダメだったらてめーっ!
死ぬほど怨むからなぁぁぁっ!?」
やけくそになったユウナギはそう吠えると、
マジックボックスを開き・・・。
『こいつじゃ・・・アレは斬れねーっ!』と愚痴ると、
中から違う『刀』を取り出した・・・。
「・・・妖刀・鬼灯・・・ここはお前じゃねーとっ!」
勢いよく取り出した一振りの刀・・・。
黒と赤の鞘に同色の柄・・・。
そしてその鍔には『鬼の顏』らしき細工がされていたのだった・・・。
『シュインッ!』
抜いた刀身は銀色に鈍く光ってはいたが、
特徴的なのはその『峰』・・・だった。
芸術とも言われる刀の峰には、似つかわしくないモノがあり、
その抜かれた刀身は異様な気配を醸し出していたのだった・・・。
そう・・・それは・・・。
まるで『鋸(ノコギリ)』のような『刃』が、
その刀には備わっていたのだった・・・。
「・・・これならあのありえねー回転をしやがる冥界弾を、
ぶった斬る事が出来るぜっ!」
やや引き攣った笑みを浮かべたユウナギは、
上空で唸りを挙げ真っ赤になった『冥界弾』を見据えると、
大きく深呼吸をした・・・。
『よしっ!いけるぜっ!』と口走ったユウナギに、
レディは無言で頷くと、もう一段階・・・魔力を圧縮した。
『パキッ!』
「っ!?ちっ!だけどっ!」
何かが掌の中で砕けた音と感触が伝わるも、
レディは笑みを見せ圧縮をやめようとはしなかった・・・。
そして次の瞬間・・・。
『メッッッルゥゥゥッ!』と甲高い声を発した羊は、
『準備は整った』と言わんばかりに笑みを浮かべると視線をユウナギに向け、
『メェェェェェッ!』と雄叫びながらその腕を振り下ろしたのだった。
『ギュルギュルギュルギュルーッ!』
凄まじい回転音と共に発射された『冥界弾』は、
一直線にユウナギへと向かって行った・・・。
それと同時にレディは重心を低くし両腕を後方と引くと、
声を張り上げソレを投げたのだった・・・。
『宝石魔法っ!重力障壁ーっ!』
いくつかの『宝石』が空を裂き、
『冥界弾』よりも速くユウナギの眼前へと移動すると、
その宝石達は『黒い魔法陣』を描き展開した。
『・・・あ、後は・・・ま、任せた・・・よ』
そうか細く呟きながら膝から崩れ落ちたレディを見る事もなく、
ユウナギは迫る『冥界弾』を凝視すると、
『任せろっ!』と薄く笑みを浮かべた。
そして『冥界弾』が『黒い魔法陣』に接触した瞬間・・・。
『ブォォォン』と地鳴りのような音を発すると、
冥界弾は『バキンッ!バキンッ!』と音を立てながら停止した・・・。
だが冥界弾の『高速回転』はその力を弱める事もなく、
『黒い魔法陣』と激しい衝突を繰り返しながら、
少しずつ・・・数ミリだが前進して行ったのだった・・・。
それを見たレディは『嘘でしょっ!?』と驚きの声を挙げていたが、
ユウナギは『・・・よくやったっ!』と言い放っていた。
そして一瞬・・・。
笑みを浮かべる羊に視線を移すとその口角を上げ、
こう叫んだのだった・・・。
『唸れっ!妖刀・鬼灯ーっ!
ひぃぃぃーっさつぅっ!断刀斬っ!』
『必殺技スキル発動・断刀斬』
ユウナギの魂の叫びと共に発動した『スキル』が、
その視界の右上に表示されていた・・・。
ユウナギの『冥界の神力』が、
『妖刀・鬼灯』へと流れ込み、その刀身は、
『青紫のオーラ』を纏うと、上空へと大きくジャンプし、
『鬼灯』の『刃』を『鋸の峰』へと持ち代えながら、
一気に振り下ろしたのだった・・・。
「でりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
『ガキンッ!ガッガッガッガッガッ!』
『ギュルギュルギュルギュルッ!』
『負けるかぁぁぁっ!フ、フルパワーだぁぁぁぁっ!
うおぉぉぉぉぉぉぉっ!』
ユウナギが渾身の力を振り絞り、
その力と『冥界の神力』を込めた時だった・・・。
突然『鋸状の峰』が『ギュイーンッ!』と音を立てて、
『高速回転』したのだった・・・。
『冥界の神力過剰供給により、条件を満たした為、
妖刀スキル発動』
そんな文字がユウナギの視界に表示されると、
続けて文字が表示された・・・。
『冥界断頭斬破』
そう・・・。
ユウナギの『冥界の神力』によって、
決して動く事がないはずの鋸状の峰が、高速回転を始めたのだった。
その表示された文字を見たユウナギは、
『冥界の神力』を過剰使用している事に気付くも、
『今更止められるかっ!』と振り切り再び気合の声を張り上げた。
『妖刀・・・舐めんじぇねぇぇぞぉぉぉっ!』
すると『バキッ!』と小さな音を発すると、
『高速回転』する冥界弾に亀裂が入り、
ユウナギの咆哮と共に・・・。
『いっけぇぇぇぇぇっ!』
『バキンッ!ガキンッ!』
『ギュシュアーッ!』
高温に熱せられた高速回転する冥界弾は、
ユウナギの渾身の一刀を以って打ち砕かれたのだった・・・。
着地したユウナギは『鬼灯』に体重を乗せるように立ち上がると、
未だ唖然としている羊へと視線を移した・・・。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」
「・・・・・」
「ま、まだ・・・あいつ・・・や、やれんのか・・?」
ユウナギは荒い呼吸をしながら、
『鬼灯』に寄りかかり、羊の出方を伺っていたのだが、
当の本人には・・・もうそんな余裕はなかったのだった・・・。
意識が朦朧とし、身体の中から覚えの有る、
その『鉄分の味』を感じながらも・・・警戒を解く事はなかったのだった。
すると突然羊は・・・『メルッ』と呟くように声を発すると、
膝から崩れ落ちた・・・。
「っ!?」
だが羊は地面に伏せる事はなかった・・・。
何故なら崩れ落ちた瞬間、突然現れた男が、
そっと羊を抱きかかえたからだった・・・。
その男に見覚えがるユウナギは、
『ヴァン・アレン・・・?』と声にならない声を挙げた。
そんなユウナギにその男は笑顔を向けるとこう言った。
「ユウナギさん、久しぶりに見せてもらいましたよ。
やっぱり貴方は強いですね・・・。
でも、『冥界の神力』はまだまだなようで・・・♪」
「・・・う、うるせーよ」
そう答えるもユウナギはもう立って居るのがやっとで、
声を発する事すら出来なかったのだが、
唇を呼んだ男は『フッ』と笑みを浮かべた。
「ユウナギさん・・・。
こんな時に何ですがこいつ・・・
『羊』は俺が連れ帰りますね?」
「・・・ふざ・・・けんな・・・。
まだヤツのツラ・・・一発も・・・」
「まぁ、まぁ・・・今はいいじゃないですか?
それよりもユウナギさん・・・。
余り長い時間『冥界の神力』を使わないようにと言われたのを、
忘れたんですか?
って言うか・・・俺の顏・・・見えてますか?」
声は聞こえる・・・。
だが今のユウナギは『冥界の神力』を長時間使用した為、
限界はとっくに超えていた・・・。
そんなユウナギに呆れ顔を見せたその男は、
周囲を見渡すと見知った人を見つけ声を挙げた・・・。
「おっ!?お前・・・アスティナか~?
お前の身体はもういいのかよ~?」
呑気な声を挙げ笑顔を見せるその男に、
アスティナはブチギレた・・・。
『ヴァン・アレンッ!?
あんたいつこっちに来たのよーっ!?』
「はっはっはっ!内緒だよ・・・」
『ヴァン・アレン』と言われた男は笑って見せると、
マジックボックスを開き、その中からある『小瓶』を取り出した・・・。
「アスティナ・・・。
これをユウナギさんに飲ませてくれ・・・」
そう言いながら掌に在る『小瓶』を見ると、
その『小瓶』は姿を消し、アスティナの手元へと出現した。
「・・・ヴァン?これは?」
「それは無茶したユウナギさんを回復させるポーションだよ。
とっくに『冥界モード』のリミットを過ぎているのに、
無茶して『フルパワー』って・・・。
『命』を落さなかったのが不思議なくらいだ・・・」
やや呆れ気味に答えた『ヴァン』は、
そう言いながら今にも崩れ落ちそうなユウナギを見たが、
その顔はとても優しい表情を浮かべて居たのだった・・・。
そして視線を再びアスティナへと向けると・・・。
「そんな訳で俺はそろそろ戻るから、
後の事はお前に任せたぞ」
「・・・も、戻るってっ!?
ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」
「・・・待たねーよ。
それに今あっちでは面白い事が起こりそうでな・・・。
見逃すわけにはいかないからな?
じゃっ!またな・・・」
「あっ!?ま、待ちなさいよっ!
って言うかっ!面白い事って何なのよっ!?」
去り際に笑顔を見せた『ヴァン』に、
アスティナは『何で私に渡すのよっ!』と愚痴ってはいたが、
『ふぅ』っと息を吐くと呆れ気味に肩を竦ませ笑顔を見せたのだった・・・。
そんな一連のやり取りを聞いていたユウナギは、
一瞬『フッ』と笑みを浮かべたが、
その緊張からの解放からか、そのまま倒れ意識を失ったのだった・・・。
『ユウナギーッ!?』
慌てて駆け出した仲間達の顔色はとても青ざめ、
万が一が無い事を祈るのだった・・・。
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