第57話 初代勇者の武器

「メルッ・・・メルメルッ」


真っ赤に染まった暴走する羊が、次の標的にしたのが・・・。


「おい、そこの羊・・・。

 決着・・・着けようじゃねーか・・・あぁん?」


まるで『ヤンキー』のように、

ユウナギは睨みつけると、身体に蓄えていた『冥界の神力』を、

全身から『ゆらゆら』と溢れさせ始めた・・・。


「ユ、ユウナギ・・・あんた、まさか・・・?」


「悪り~な・・・アスティナ・・・」


ユウナギがやろうとした事に気付いたアスティナが、

そう不安そうな声を挙げると、

ユウナギは身体から『冥界の神力』を溢れさせながら、

優しく微笑み謝罪の言葉を口にした・・・。


「あんた・・・それってまだ1度も成功した事ないわよね?」


「あぁ、確かに一度も成功した事ねーな?」


「あんたがどうしてソレにこだわるのか謎なんだけど、

 そのせいで『神力に制限』かかってんでしょ?

 やる価値・・・あるの?」


「ん~・・・つーかよ?

 自分でもよくわかんねーんだけど・・・

 今のうちにコレをマスターしておかねーといけない気がしてな?」


「・・・そう。

 まぁ、あんたにしか分からない何かを感じたんだろうから、

 私は止めやしないけど、

 でも・・・負けたら許さないからね?」


「・・・わかってんよ♪」


『グッ』と親指を立てて見せたユウナギに、

アスティナもまた親指を立てて笑みを浮かべた・・・。


「さぁ~て・・・真っ赤な羊さんよ~?

 最初に聞いておきてーんだけど、

 ひょっとしてお前の仲間には・・・『緑の羊』もいるのか?」


「・・・メルッ!」


『いるのかよっ!?』っと思わず叫んでしまうほど、

真っ赤な羊は大きく頷きながら猛然と突進してきた。


「うわっとっ!?」


物凄い速度で突進して来た羊のタックルを、

ユウナギが紙一重で躱しながら地面に左手をそえ魔法を使用した。


「グランド・ランスッ!」


『ドッドッドッ!』と真っ赤な羊の足元から、

土の槍が3本飛び出すも、いとも簡単にそれらを躱して見せた。


「メッル~・・・」


「ちっ、余裕ってか?」


余裕の笑みを浮かべた羊は小さいながらも大きく広げた両腕に、

『冥界の力』を集めると『青紫色』の『球』をその両手に作り始めた。


「・・・ほぅ、魔力弾ならぬ冥界弾ってところか?」


「メルゥゥゥッ!」


声を挙げながら大きく真上に跳躍した羊は、

上空5ⅿほどからユウナギに向けて『冥界弾』を放った。


『ヒュンッ、ヒュンッ!』


「当たるかよっ!」


『ドスッ、ドスッ!』と鈍い音を立てながら、

必死の放った『冥界弾』が地面を抉るように突き刺さったが、

どうやら『爆発系』ではないようだった・・・。


「へぇ~・・・お前、器用だな~?」


ユウナギ冷や汗を流しながら羊を見つめると、

その羊は『ニヤり』と笑みを浮かべた・・・。


「・・・な、何だ?」


そう感じた時だった・・・。


離れた場所でこの戦いを見ていたアスティナから突然念話が飛んで来た。


{ユウナギッ!?地面を見てっ!}


「んっ?

 なっ!?さっきの『冥界弾』が回転し続けてるっ!?」


『ギュルルルルルッ!』と音を立てながら、

未だ高速回転しつづけている『冥界弾』に顏を顰めたユウナギは・・・。


「ヤ、ヤバいっ!?」


そう思い慌ててその場を離脱しようとした時、

羊は『メルッ』とほくそ笑むと両手の蹄を『カチン』と打ち鳴らした。


『ドカーンッ!』


「ぐはっ!」


『冥界弾』の爆発により逃げ遅れたユウナギは、

地面を滑るように吹き飛ばされた。


「ぐぁぁぁっ!」


苦痛に顔を歪めるユウナギに羊の瞳が妖しく光ると、

容赦なく追い打ちをかける為、凄まじい速さで突進攻撃を仕掛けて来た。


「メッルゥゥゥゥッ!」


「ユウナギィィィッ!?」


アスティナが顔を引き攣らせ絶叫する中、

ユウナギが咆哮するのと同時にその身体から『青紫』に輝いた。


『いくぜぇぇぇっ!シェオル・モードっ!』


※ 説明しよう。


  『シェオル・モード』とは・・・。

  ユウナギ自身の身体に常日頃から溜め込んだ『冥界の神力』を、

  解放する事によって全てのステータスを3倍にするモードである。

  だがその代償に戦闘時において『神力に制限』がかかっており、

  『勇者時代』の1/3ほどしか『神力』が使えない。

  理由としては『冥界の神力』を貯える為の器が、

  その圧力によって破壊されないようにする為、

  『神力の膜』で覆っているからである。


 因みにだが・・・。

 前に使用した『冥界眼単体』の力とは違い、

 身体にかかる負担も3倍となる。

  

説明終了。


『バシュッ!』と噴き出した『冥界の神力』を使用したユウナギは、

間一髪・・・真っ赤に染まった羊の突進を躱すだけではなく、

『お返しだぁぁぁっ!』と叫びながら、

『右後ろ回し蹴り』放ちその踵が羊の後頭部に炸裂した。


『メ゛ェ゛ッ!』


その強烈な攻撃に羊は声にならない声を挙げると、

顔面からバウンドするように地面を転がって行った・・・。


「ふぅ~・・・初めて綺麗にヒットしたぜ~

 ったくよ~・・・あいつはどんだけ強ぇんだよ?」


額の汗を拭う仕草を見せながらそう呟いたユウナギは、

弾んだ呼吸を整えながら羊が起き上がるのを待った。


「メッ・・・メェッ・・・メ、メルッ・・・」


「まぁ~あれくらいの攻撃なら、

 当然立つ・・・よな?」


やや面倒臭がるように呟いたユウナギに、

起き上がった羊は『メェェェェェェッ!』と雄たけびを挙げると、

腕大きく前方で回し5つの『冥界弾』を出現させた。


「あ、あれってまさかさっきのっ!?」


「メルッ!」


その掛け声と共に5つの『冥界弾』が次々に発射された。


「あんなモノに当たってたまるかよっ!」


ユウナギは襲い掛かる『冥界弾』を『シェオル・モード』で全て躱すが、

羊は『ニヤり』と笑って見せていた。


「まさかっ!?嘘・・・だろっ!?」


躱したはずの5つの『冥界弾』は、

大きく功を描きながらユウナギへと向かって来た。


『ヒュン、ヒュン、ヒュン』


「ま、まじかっ!?」


3つの『冥界弾』がユウナギを襲う・・・。

だがこの時ユウナギは動かず空中で停止している2つの『冥界弾』に気付いていた。


(何だ?あの2つの冥界弾は何故・・・動かないんだ?)


襲い掛かる3つの『冥界弾』を最小の動きのみで躱しながら、

停止している『冥界弾』に注意を払った・・・。


すると・・・。


『ギュルッ、ギュルッ』と停止している2つの『冥界弾』がゆっくりとだが、

確実に回転し始めたのだった・・・。


(なるほどね~・・・。でもアレは厄介だな?)


その回転が徐々に速くなっていくのにつれ、

ユウナギの表情は厳しいモノへと変わった・・・。


(とりあえずこつの鬱陶しい『球』をどうにかしないとな~)


そう考えながらユウナギは『球・・・球ね~?』と呟くと、

『ここは俺様の得意分野で行くか♪』と言いながら、

背後で『冥界弾』を操る羊を見た。


そして『とうっ!』とわざとらしく声を挙げると、

先程まで『怪盗・レディ・ルーズベルト達』が居た、

大きな岩を背にマジック・ボックスを開いた・・・。


そして目の前で攻撃のチャンスを伺っている『冥界弾』を見据えると、

『バッチこーいっ!』と高らかに声を挙げ、

マジックボックスから1本の・・・『バット』を取り出した。


『・・・メルゥ?』


その行動に首を傾げ訝し気な表情を浮かべた羊に、

ユウナギは『ブゥンッ!ブゥンッ!ブゥンッ!』と素振りをして見せると、

羊に対し『ちょっと待て』と掌を向けながら、

『トントンッ』とバットを数回地面に当てると、

自ら声を挙げ始めた・・・。


『4番バッター、ユウナギ君・・・。

 背番号1』


そう言いながら『バットの先端』を羊へと向け、

『よぉぉぉしっ!こぉぉぉぉいっ!』と声も高らかに挙げた。


これを見ていた愚民共・・・。

『コホン』一同は・・・。


『あいつ・・・一体何やってんのよ?』と、

アスティナがそう呟くとチャダ子が『・・・儀式・・・ですかね?』と続いた。

2人が肩を竦めているのを横目に見ながらシャルンがこんな事を言い始めた。


『も、もしかするとあのぶ、武器は・・・』


「あ、あんた、アレが何か知っているのっ!?」


アスティナが険しい表情を浮かべながらシャルンにそう問うと、

そのシャルンは額から汗を流しながら話しを続けた。

 

「私も実際には見た事はないけど・・・。

 アレはこの国で初めて生まれた『初代勇者の武器』に似ているわ」


「しょ、初代勇者の武器ーっ!?」


「そう・・・。以前、興味本位で王立図書館で見た事があるの。

 確かあの武器の名は・・・そう・・・」


シャルンの意味深げな話に一同は『ゴクリ』と息を飲み、

その『初代・勇者の武器の名』に緊張していた・・・。


「そう確か・・・その武器の伝承はこう書かれていたわ。

 『イセーカイニキーテナーリキンニナッターノデ、

  モノゴッッッツーイブキヲカッテミターケンッ!』

 その名を『ミスリールリルリルセーイ・バットゥゥゥッ!』と言う・・・」


『バ、バットゥゥゥッ!?』


「そ、そんな伝説の武器をユウナギがいつの間にっ!?

 そ、そんな話・・・聞いてないんだどっ!?」


「ユウナギ様は初代勇者様の遺産・・・それはつまり『剣っ!』

 そ、そんな『伝説の剣・バットゥゥゥ』をっ!?

 す、すごいっ!」


このシャルンの話に『馬鹿共』じゃなかった、

『一同』がそんな『武器』を所持しているユウナギに熱い視線を送っていた。


(おぉ~?な、何だ~?

 急に愚民共から熱くウザい眼差しを感じる・・・。

 ふふ~ん♪なるほどなるほど~♪

 俺様に一発逆転のホームランを狙えってかっ!?

 オーケーッ!漢の生き様・・・見せてやんよ~♪)


何を勘違いしたのか・・・。

ここに居るどうしようもない『馬鹿共』は妙な雰囲気に飲み込まれていた。


※ っと、ここで説明を致しましょう♪

  皆さんご無沙汰しております♪

  ・・・そう。

  ご存じ私・・・香坂三津葉(25)独身が・・・。


 さて、ここで『クエスチョン』です♪


 今、シャルンが語った『初代勇者』はこの武器の事を、

 後世になんと伝えたのでしょうか?


正解者にはこの私の超・貴重なレアアイテムを・・・。

『スーパーみつはちゃん』をプレゼント致します♪

そして~・・・更にっ!

この『スーパーみつはちゃん』を3つ集めますとっ!

なんと言う事でしょう♪

『クリスタル・スーパーみつはちゃんℤ』を差し上げます♪


では・・・『不思議発見♪』


~ 5分経過 ~


さて、お時間となりましたっ!

果たして正解はあるのでしょうか?


では・・・正解・・・の、前に『CMでーす♪』


では、正解は・・・。


『異世界に来て成金になったので、

 ものごっつい武器を買ってみた件。

 その名を『ミスリル製バット』と言う・・・』


これが正しい文章なのですが、

実はこの『初代勇者のお話』はおよそ数千年前のお話なので、

正しく後世に伝わっていなかったようですね♪


うふふ♪『件』と『剣』。

こう都合よく間違えるのも、強欲な人族にはありがちですね♪


ってな事で~、みんなの恋人三津葉ちゃんでした~♪


※ 本編に戻る。


ユウナギは眼前に居る羊のその危ない瞳に、

『炎』が妖しく燃えているのを見た・・・。


「ふっ・・・赤羊よ。

 どんどんと際限なく燃えやがれっ!

 貴様の闘志がっ!この俺様を更に燃え上がらせるっ!」


燃える瞳をぶつけ合う1人と一匹の・・・『馬鹿』


羊は『メルッ!』と気合い一発、

空中で停止している『冥界弾』の1つをユウナギに向けて発射した。


『ヒュゥンッ!』


『カキーン』


「ちっ・・・ファールか?

 なるほどなるほど~・・・。

 意外と手元で伸びて来やがるな~?」


『ドスッ』とユウナギが打った『冥界弾』は、

『森』の中へと姿を消した時、

何処かで『ヒョエッ!』と声がしたのは気のせいにしておこう。


今の打球に羊は『ふぅ~』と息を漏らし、

再びユウナギに視線を向けた時・・・その口角がゆるやかに上がった。


※ ここからは香坂三津葉が翻訳致します♪


『・・・フッ、少しはやるようだな?』


「ふっ・・・。てめーもいい球・・・投げんじゃねーか?」


マウンドから炎を揺らめかせながらユウナギを見ると、

って・・・マウンドッ!?

ユウナギは『ブゥンッ!』と1つ素振りをし、

バッターボックスに入った・・・。


「さぁーっ!来やがれっ!

 元・高校球児(2回戦で負けたけど)が相手してやるぜっ!」


ユウナギの魂が籠った気合いに羊もまた・・・

『行くぜっ!』と豪快に振りかぶった。


そして次弾・・・。

羊の合図を受けた『冥界弾』は、

先程よりも速い速度でユウナギに迫った・・・。


『ガキーンッ!』


「ちっ!打ち損じだぜっ!

 あの野郎・・・ここでシンカーだとっ!?

 ふっ・・・やってくれるぜ~」


一直線に向かって来た『冥界弾』は、

突如変化しユウナギの足元へと斜めに落下したのだった。


それをギリギリファールにしたユウナギは、

その変化球のキレに舌を巻いたがその表情は楽し気だった。


そしてラスト一球・・・。

炎を滾らせた羊が渾身の『冥界の力』を込めると、

ユウナギの手はバットのグリップを『ギュッ』と握り絞った。


『来やがれっ!赤羊ーっ!』


『これで終わりだっ!ユウナギーッ!』


『ゴォォォォッ!』と羊の渾身のストレートが、

『真っ向勝負』だと言わんばかりに放たれた・・・。


「うおぉぉぉぉぉっ!

 優勝はぁぁぁっ!この俺達だぁぁぁぁっ!」


『カッキーンッ!』


「いっけぇぇぇぇっ!」


羊の放った渾身の一球がその『快音』と共に大空高く消えて行った・・・。


『ガァァァクゥゥゥッ!』と項垂れ膝を着いた羊はの瞳からは、

涙が1粒・・・静かに流れ落ちたのだった・・・。



だがこの時ユウナギは知らなかった・・・。

遥か遠くに飛んだその『冥界弾』はルクスの在る場所に落ち、

とある店の壁を見事に貫いていた事を・・・。

そしてその時、その店からは・・・。


『なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!?

 どこのどいつだぁぁぁっ!ぶっ殺すぞぉぉぉっ!』っと、

『フーシュンさん』の怒声が『ルクナの街』に響き渡った事は、

知る由もなかった。



ダイヤモンド(?)を一周しホームベースを踏んだユウナギは、

マウンドで膝を着く羊の元へと赴くと、

微笑みながらそっと手を差し出し『最高の球だったぜ♪』と告げた。


『・・・メルッ!』


「・・・へっ?」


『バキッ!』


「うぎゃぁぁぁっ!」


手を差し伸べたユウナギに羊はその顎へと真下から頭突きを放ったのだった。


そして地面に倒れたユウナギは上体を起こすと、

目の前に居る羊が全身から『冥界の力』を吹き出せながら、

喉を掻っ切るポーズをしたのだった。


「・・・ま、まじっ!?」


この勝負の行く末に私・・・香坂三津葉は・・・

『どうでもいいわ』と思いました。


って・・・さ、作文っ!?


そしてこの時・・・。

『ディープ・フォレスト』の樹木の上から、

影が・・・1つ・・・。


『俺の出番まだかな~?』と出待ちしている者が居たのだった。

そしてその男が居た樹木の幹には、

先程ユウナギがファールした『冥界弾』が突き刺さり、

冷ややかな汗を流していたのは言うまでもなかった・・・。

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