第52話 チャダ子の秘密

『シュッ!』


瀕死となったユウナギの身体に触れ、

瞬く間に姿を消した・・・。



『シュッ!』


とある場所に姿を現したのは、

険しい表情を浮かべた『チャダ子』だった・・・。


「勇者様っ!勇者様っ!?」


「うっ・・・うぅぅ・・・」


「き、気をしっかりとっ!」


「な、何・・・だ・・・?

 チャ、チャダ・・・子じゃ・・・ねーか・・・」


口元は笑みを浮かべてはいたものの、

まさに『瀕死』・・・。

今にも意識を失いそうなユウナギに、

チャダ子は言葉を続けた。


「い、今治療しますからっ!」


「へっへっへっ・・・す、すまねー・・・」


焦点が定まらないユウナギは再び笑みを浮かべ謝罪を口にしたが、

チャダ子は『今はそんな事どうでもいいですからっ!』と、

言葉を強めに発したのだった・・・。


『森羅万象の息吹』


両手をユウナギにかざしながらそう言うと、

その真っ白い手が緑色の光を放ち始めた・・・。


「うぅぅ・・・」


「す、少しキツいかもしれませんが、

 我慢して下さいっ!」


「・・・あぁ、か、かまわ・・・ねーから・・・やってくれ」


苦痛に歪むユウナギを目にしたチャダ子は、

眉間に皺を寄せると『はぁぁっ!』と言う気合を込め、

手から放たれる緑色の光は強さを増したのだった。


「このままじゃっ!」


焦るチャダ子は天を仰ぐように顏を向けると、

目を閉じ集中し始めた・・・。


「・・・みんな、私に力を・・・勇者様を助けて・・・」


呟くように発した言葉は、やがて周りの木々をざわめつかせ始めた。


『ザザァァ!』と風が吹いている訳でもない・・・。

だがチャダ子とユウナギを囲むようにそびえる木々達は、

大きく枝を揺らしていた。


すると・・・。


周りの木々の葉から緑色の光の粒が放たれ、

その粒は、ユウナギの身体の上へと降り積もって行った・・・。


「みんな・・・有難う」


そんな言葉がチャダ子の口から発せられると、

ユウナギの身体に降り積もった緑色の粒がその身体の中に入って行った・・・。


「後は勇者様次第です・・・」


そう言うとユウナギは口角を少し上げた後、

意識を手放したのだった・・・。



「・・・ん・・・んんん・・・」


「勇者様っ!?お気付きですかっ!?」


(・・・誰だ?俺を呼ぶのは?

 何だ?温かい緑の光が俺を包み込んで・・・)


ユウナギは暖かな女性の声と、

安らぎを与える緑の光に導かれるように目を覚ました・・・。


「・・・ん?あ、あれ・・・?

 お、俺は一体・・・?」


目の前の景色が違う事に気付いたユウナギは、

勢いよく身体をお起こし周りに目を配った・・・。


「・・・あ、あれ?チャダ子・・・?

 お前一体どうして・・・?」


ユウナギの傍で安堵の息を漏らすチャダ子に、

思わずそんな言葉を投げかけたのだった。


「よ、良かったです・・・勇者様」


「勇者って・・・」


やや照れ臭そうに話すユウナギだったが、

現状を把握する為話しかけていった。


「・・・状況を教えてもらえるか?」


「・・・はい。

 勇者様は深く傷付きまさに瀕死でした・・・。

 ですから私がこの場所へとお連れしたのです」


チャダ子の話にユウナギは改めて周囲に視線を移すと、

驚いたように口を開いた。


「お、お前・・・ここって・・・お前ん家の庭じゃねーか?」


「・・・はい」


「あのままでは勇者様は死んでしまいます。

ですから私はここに勇者様をお連れして回復を・・・」


「・・・じゃ~お前が俺を回復させてくれたのか?」


「・・・そうですが少し・・・違います」


「・・・ん?」


「私1人の力では手遅れになっていたはずですが、

 この木々達が勇者様を癒す為、力を貸してくれたのです」


「・・・木々達って?」


ユウナギはそう言いながら周りにそびえる木々達を見渡した。


「・・・そんな力が?」


「・・・はい」


その話を聞いたユウナギは、再び周囲へと視線を向けると、

『・・・フッ』と笑いながら立ち上がった。


「みんな・・・俺の為に・・・すまねー・・・」


ユウナギが礼を述べながら頭を下げると、

風も吹いていないこの場所で、木々達が大きく枝を揺らしたのだった・・・。



礼を言い終えたユウナギはチャダ子へと視線を落とすと、

『ここに来てからどれくらいたった?』と聞いた。


「時間の事なら気にしなくても大丈夫ですよ?」


「・・・ん?どう言う意味だ?」


「此処は言わば私が作り出した異空間・・・。

 ですから勇者様を連れ出した時間から数分遅れで戻る事が出来ます」


「・・・ま、まじでかっ!?

 って言うか・・・チャダ子・・・お前・・・一体何者なんだ?

 ただの『魔族』にそんな芸当が・・・」


ユウナギがそう思うのも当然だった・・・。

ただ『魔物』であるはずの『チャダ子』が、

そのような『生命体』であるはずがないと思っていたからだった。


そんなユウナギの意図を汲み取ったチャダ子は、

少し悲し気な表情を浮かべた。


「あはは・・・そ、そうですよね?

 たかが『魔物風情』にそんな『力』があるなんて・・・」


余りにも悲し気な表情を浮かべるチャダ子に、

ユウナギは頭を掻き毟ると謝罪の言葉を述べた。


「す、すまねー・・・。そう言うつもりで言ったんじゃ・・・

 た、ただ俺は本当はあんたが何者なのかを知りたかっただけなんだ・・・」


そう言いながらユウナギは頭を垂れると、

チャダ子は少し意外そうな表情を浮かべた。


「・・・そんな顔して・・・どうしたんだよ?

 俺・・・そんなにおかしい事言ったか?」


謝罪を口にしたユウナギにチャダ子は微笑むと、

口を開いていった・・・。


「い、いえ・・・。

 ただ今まで見てきた勇者様は、もっと傲慢な方かと・・・。

 そう思っていましたので・・・。

 それに先程私の木々達に対しても礼を述べられておりましたから・・・」


チャダ子の感想にユウナギは『ははは・・・で、ですよね?』と苦笑すると、

それに釣られてチャダ子も笑みを漏らした。


するとチャダ子は少し周囲の木々達を見渡すと、

『ふぅ~』と軽く息を吐き、自分の事を話し始めたのだった・・・。


「実は私・・・魔物は魔物でも、ちょっと特殊なようでして・・・」


「・・・特殊?」


「はい、その頃の記憶はもう私には無いのですが、

 どうやら私は『とある神』の気まぐれによって生み出されたようなのです」


「・・・とあるって、おいおい・・・一体どう言うこったよ?」


「先程も申しましたが、私にはその記憶はありません・・・。

 ですが『とある神』によって生み出されたと言うのは、

 冥界の王の姉である『ヴァマント様』に教えて頂いたのです」


「ヴァ、ヴァマントだってぇぇぇっ!?」


『ヴァマント』の名を聞いたユウナギは盛大に驚きの声を挙げ、

その声の余りの大きさに、チャダ子は両手で耳を塞ぎ硬く目を閉じたのだった。


「す、すまねー・・・あ、余りにも驚いちまって・・・

 い、いやでもよ?俺はアイツからそんな話を一度も聞いた事は・・・」


そう言ったユウナギにチャダ子は『お知り合いですかっ!?』と尋ねると、

『ま、まぁ~あいつとは色々とな・・・』と答えた。


そんな声に『・・・そうですか。お知り合いなのですね?』と答えると、

ユウナギは更に言葉を続けた。


「つー事は何か?

 チャダ子は『魔物』と言うよりも『冥界の魔族』って事なのか?」


「・・・そう・・・なりますね?」


チャダ子の返答にユウナギは『なるほどね~・・・納得だぜ』と呟くと、

チャダ子は少し不安げな表情を浮かべた。


「勇者様・・・。

 私が何者かを知って軽蔑したりはしないのですか?」


「・・・はぁ?

 軽蔑って一体どういうだよ?」


この時ユウナギは無意識ながらもとても苛立った表情を見せたのだった。

そんなユウナギの表情にチャダ子背筋に寒気が走り押し黙ってしまった。


「・・・てめーが一体何を勘違いしているのか知らねーけどよ?

 『魔物』だろうが『魔族』だろうか・・・そして『昆虫』だろうが、

 俺には一切関係ねーよ・・・」


「こ、昆虫って・・・あはは・・・」


「俺が苛立ったのは、てめーが『軽蔑』なんて、

 糞つまんねー事を言いやがるからなんだぞっ!」


「・・・・・」


「前にも言ったがチャダ子・・・。

 お前はもう・・・『俺の駒・・・』じゃなかった・・・。

 俺達の仲間なんだぜ?」


ユウナギの言葉に妙な表情を浮かべたチャダ子は、

呟くように『俺の・・・駒?』と表情を一瞬曇らせたものの、

未だ話を続けるユウナギの話を黙って聞いていくのだった・・・。


「それによ~・・・」


「・・・何ですか?」


「てめーはあの『馬鹿女』預かりって事だろ?」


「・・・はい?」


「って事はだな~・・・てめーは仲間ってんじゃなく・・・

 そうだな~・・・」


そう言いながらユウナギは周囲の木々達を見渡しながら、

何かを考え始めた・・・。


暫くその様子を見ていたチャダ子だったが、

ブツブツと言い始めたユウナギに『あ、あの~?』と声を掛けると、

『・・・そうだっ!』と声を荒げた。


「な、何ですかっ!?」


「仲間と言うよりもだな~・・・

 てめーは俺の身内みたいなもんだって事だぜ・・・」


「み、身内っ!?」


ユウナギの余りにも突飛な話にチャダ子は思わず大きな声を挙げたのだが、

ユウナギは『へへへ・・・』と笑うと更に言葉を続けた。


「あの『脳筋馬鹿女』預かりとくりゃ~・・・

 当然俺にとっては『身内』みたいなもんなんだよ」


「・・・『の、脳筋馬鹿女?』って・・・

 『脳筋』が増えてる・・・」


「・・・ん?何か言ったか?」


「い、いいえっ!」


「ふむふむ・・・ならば宜しい・・・。

 では、話を続けるぞ?」


「は、はいっ!」


『ニヤり』と笑みを浮かべたユウナギが意味有り気に笑うと、

話を続けていった・・・。


「まぁ~アレだ・・・。

 簡単に言うとあの『ど腐れ脳筋馬鹿女達』とはだな、

 『命のやり取り』をした仲だからな~?

 その後は命をお互いに救い合うって事もあったんだ・・・

 だからあいつらとは『身内』のようなものなんだよ」


首を少し傾げたもののユウナギの意図を読み取ったチャダ子は、

『そうなのですね・・・』と少し悲し気な笑みを浮かべた。


(・・・私はずっと1人ぼっちだった・・・。

 ある一定の期間で『命』を吸い取らないと私は存在出来ない・・・

 『身内』と言ってくれたのはとても嬉しいけど・・・

 この事を知ったら・・・)


そんな不安が『悲し気な笑み』となって表情に出てしまったのだ。

チャダ子のその笑みに気付いたユウナギは言葉を続けた。


「おい・・・。お前のその表情見るとよ~?

 ・・・何かあんだろ?」


「・・・・・」


ユウナギのその言葉に思わずチャダ子は押し黙ってしまった。

そんなチャダ子にユウナギは視線を合わせるようにしゃがみ込むと、

肩に『ポン』と手を置き話しかけて行った・・・。


「あの『超めんどくせー脳筋グレート馬鹿女』預かりって事は、

 ・・・何か理由があんだろ?

 構わねーから話みろよ?」


(・・・も、もう色々と増え過ぎて『ヴァマント様』が・・・)


そう心で顔を顰めながらも、

ユウナギのそんな言葉にチャダ子は恐る恐る口を開いて行った・・・。


「・・・じ、実は私・・・。

 ある一定の期間内で『命』を摂取しなければ生きていけないのです」


チャダ子は目に涙を溜めそれをこぼすまいと堪えながらそう言った・・・。

だがユウナギは『・・・フッ、そんな事か?』と言い笑みを見せたのだった。


「・・・い、命ですよっ!?

 『生命』を食べないといけないんですよっ!?」


涙を必死に堪えていたチャダ子だったが、

悲痛な叫びと共に溜めていた涙が零れ出てしまった・・・。


「・・・フッ。チャダ子・・・。

 それなら何の心配もいらね~よ?」


「・・・えっ?」


「今の俺は大それた『勇者様』じゃね~・・・。

 今の俺の職業は・・・『暗殺者』だ。

 だから何の心配もいらね~からよ?

 そんな事・・・もう気にすんじゃねーよ」


「・・・あ、暗殺者?ゆ、勇者様がっ!?」


「まぁ~俺も色々とあってだな~?

 顔を変え姿を変え・・・。

 挙句の果てには『擬体』を使ってまで勇者である事を隠してんだ・・・。

 まぁ~今は詳しい説明は省くとしてだな?

 てめーが俺の『身内』となった今・・・。

 いくらでも『悪党ども』の『命』なんぞくれてやるぜ」


「・・・勇者様」


「・・・だから勇者じゃねーっつーのっ!

 今はアレだ・・・ただの『ユウナギ』でいいからよ?

 だから黙って俺に飼われろってんだっ!」


顏を赤くし照れながらユウナギは立ち上がると、

そっぽを向いて口を堅く閉じたのだった・・・。


チャダ子はこの時、周囲にそびえたつ木々達に、

こう話していた・・・。


{ねぇ、みんな・・・。

 私はこの勇者様に・・・いえ、ユウナギ様に着いて行ってもいいかな~?}


その問いに周囲に居る木々達は枝を大きく揺らし、

チャダ子に優しい『緑色の粒』を降らせたのだった・・・。


{・・・有難うみんな}


その様子を横目で見ながらユウナギの表情は和みつつも、

チャダ子に対し考えていた。


(まさか『冥界の魔族』とはね~?

 どおりで強いはずだぜ~・・・ったくよ~・・・

 魔界の魔族共とはケタはずれだっちゅーのっ!

 でもよ・・・こいつはこいつで俺達と同じように色々とあるんだな?

 今まで1人ぼっちだったんだ・・・。

 これからは俺達と面白可笑しく暮らしていけばいいって事よ)


再び笑みをこぼしたユウナギは『いかんいかん』と表情を引き締めると、

笑みを浮かべるチャダ子に『疑問』をなげかけるかどう迷っていたのだった・・・。

 

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