第51話 冥界の力

揺らめく『青紫の光』が2つ・・・。


ユウナギは目を細めながらじっくり見据えていると、

どうやらその『光』は眼光のようだった・・・。


ユウナギはゆっくり向き直り、

『青紫の光』を揺らめかせるモノと対峙すると、

笑みを浮かべながら口を開いていった・・・。


「てめー・・・一体どう言う了見でこの『人間界』に居やがるんだ?

 まさか『人間』を攫って『エサ』にでもしようってんじゃねーだろうな~?」


少しおどけた口調をしてはいるが、

その瞳は笑みを浮かべる事もなくただ無言を貫く相手を見据えていたのだった。


そのユウナギのプレッシャーに気圧される形となった相手は、

再びスキルを使用し更に・・・『濃い霧』を発生させた・・・。


『ジャリッ!』と地面を蹴る音が耳に届く前に、

ユウナギは移動し先回りをした。


「っ!?」


その相手が驚くのも無理はなかった・・・。

何故なら自分が動いた先には既にユウナギが悠然と立って居たからっだった・・・。


「・・・フンッ!これくらいの事でいちいち驚いてんじゃねーよ。

 ど~れ・・・早速てめーのご尊顔でも拝見するとしようかっ!」


ユウナギは怒りを滲ませながら、

目の前で揺らめいている『青紫の双眼』目掛け掴みに行った・・・。


『スカッ!』


「・・・えっ!?」


『ドカッ!』


「ふごぉっ!?」


顔面を掴みに行っては見たものの、

空振りに終わると同時にユウナギの腹部へ強烈な打撃が入った。


たまらずユウナぎは片膝を着く事になったが、

その目は『敵』から逸らせる事はなかった。


「・・・一体どう言うこったっ!?」


確かに『敵の顏』はそこにあった・・・『はず』だった・・・。

だがユウナギの思惑とは違い、『敵の顏』がなかった事に驚きを隠せなかった。


そして再び『ジャリッ』と地面を踏みしめる音が聞こえると、

ユウナギは再びその『敵』を追って移動した。


「今度こそっ!」


「・・・メッ!?」


先回りしたユウナギは『敵』に対しその顔面に拳を放つが、

再び空振りに終わり、それと同時に腹へと強烈な一撃が見舞われた。


「ぐはっ!」


今度はその強烈な一撃に尻もちを着くと、

チャンスと感じ取った『敵』は『青紫の光』を放ちながら、

ユウナギの顔面に拳を放った。


『う、嘘だろっ!?』と、拳を喰らう前にそんな言葉が漏れたが、

『バキッ!』と言う強烈な打撃音によって掻き消される事となった。


『ヒューン』とユウナギが吹き飛ばされるも、

空中で態勢を整えると綺麗に着地し、そのまま『敵』に向かって駆け出した。


「そうか・・・そう言う事だったのかっ!」


そんな言葉が『濃霧』に包まれた者達の耳に届いていた。


「ユウナギッ!一体どう言う事なのよっ!?

 説明しなさいよっ!」


『濃霧』によって視界が利かないアスティナ達には、

ユウナギの声だけが情報源となっている為の叫びだった。


「・・・・・」


だがユウナギは敢えてアスティナの声を無視していた。

何故ならそれほど『敵の力』が底知れないと感じたからだった。


「ちょっとあんたっ!無視するんじゃないわよっ!」


そんな罵声がユウナギに届くも、

当人は今・・・アスティナに構う余裕などどこにもなかったのだった。


(こ、こいつ・・・つ、強えぇ・・・)


『ズシャッ!シュッ!ジャリッ!ドカッ!』と、

激しい戦いが繰り広げられているとその音からも容易く想像できた・・・。


だがそれを理解した上でアスティナは『ギリッ!』と奥歯を噛み締め、

苛立ちを滲ませていたのだった・・・。


「じょ、冗談じゃないわよ・・・」


怒りを滲ませたアスティナの低い呻きのような声が呟かれると、

アスティナと比較的近い場所に居たエマリアが声を掛けて来た。


「アスティナ?一体何をイラついているのですか?」


アスティナの表情が見えないエマリアにとっては、

その声でのみでしか判断できずそう言ったのだが、

帰って来たその声の『怒気』は想像以上のモノだった・・・。


「ふざんけんじゃないわよっ!」


「ア、アスティナッ!?」


「私はこれでも『勇者の相棒』なのよっ!?

 な、なのに・・・こ、この体たらく・・・

 イラつくなと言う方がおかしいでしょっ!!」


「・・・・・」


アスティナとの付き合いはもう何年にもなる・・・。

エマリアは良くも悪くも彼女の性格をわかっているつもりだった。

だが、これほどまで『噴気』しているアスティナを一度も見た事がなかったのだ。


(アスティナがこれほど怒りを露わにするなんて・・・。

 それ程今の自分がユウナギ様と一緒に戦えない事が腹立たしいのね?)


エマリアがそう結論付け納得する事になったのだが、

実は・・・。

それは大きな勘違いだったのだ・・・。


(あいつがこれほどまでに手古摺る敵なんて・・・

 間違いなく・・・『強敵っ!』

 な、なのに・・・わ、私はこんな所で・・・)


アスティナが苦悶に満ちた表情に満ちる中、

『濃霧』によって視界が利かない場所にユウナギの呻き声だけが聞こえていた。


『バキッ!』


『ぐはっ!』


『ドカッ!』


『ぐぉぉぉっ!』


そんな『相棒』の呻き声に次第にアスティナの怒りの形相は、

悲痛な表情へと変わって行った・・・。


(リョ、リョウヘイ・・・ご、ごめん・・・

 こ、こんな役立たずの『相棒』で・・・。

 わ、私の身体が・・・こ、こんな事になっていなかったら・・・)


心の中で悲痛な声を漏らし始めたアスティナの目からは、

涙が一粒ポトリと落ちて行った・・・。


そんな時だった・・・。

涙を流し崩れ落ちそうなアスティナの脳裏に、

今、死闘を繰り広げられているユウナギから『念話』が入って来た。


{けっ!てめーアスティナっ!

 何さっきからウゼー事言ってんだよっ!?

 ふざけんなっ!て言いたいのは・・・俺の方だぜっ!}


{は、はぁっ!?あ、あんたこんな時に何言ってんのよっ!?}


{いいか~・・・?

 俺は腐っても『勇者』でてめーの『相棒様』なんだぜっ!?

 だからてめーはそこで俺を信じて待ってりゃ~いいんだよっ!

 グダグタとらしくねー事ほざいている暇があったらっ!

 仲間を集めて少し離れてろってんだっ!

 この・・・バカヤローっ!}


ユウナギが念話でそう言い終えた時だった・・・。


『バキッ!』と強烈な打撃音が聞こえたらと思ったら、

『ズシャァァァッ!』と地を滑る音がした。


「痛てててててててっ!

 て、てめー・・・この野郎っ!」


「ユ、ユウナギっ!?あ、あんた・・・本当に大丈夫なのっ!?」


苦戦するユウナギにアスティナは心配そうに声を張り上げた。

だがそんな声にユウナギからはこんな声が返って来た。


「うっせーっ!バカヤローッ!

 てめーはさっさとみんなを集めて下がれってんだよっ!」


「う、うるさいとは随分な事言うじゃないっ!?

 わ、私はあんたがただ心配なだけでっ!」


ユウナギの言葉にキレたアスティナはそう声を荒げると、

再び念話が送られて来た。


{・・・相手は恐らく『冥界の魔物』だ。

 つまり・・・そう言う事だからよ~・・・

 さっさと下がれよ・・・}


{ユ、ユウナギ・・・あ、あんた・・・}


{てめーがその辺でウロつかれちゃ~・・・

 『力』・・・使えねーだろうがよ・・・フンッ!}


ユウナギの優しさがふわりと伝わって来たアスティナは、

『・・・ごめん、気を遣わせて・・・』と告げると、

『・・・けっ!らしくねぇんだよ~・・・』と返って来た。


照れながら悪態つくユウナギにアスティナは満面の笑みを浮かべると、

散り散りなった仲間と念話を通して接触を計り、

未だ激しい戦闘を繰り広げるユウナギから距離を取ったのだった。



{ユウナギ・・・}


{・・・後は任せろ}


{・・・うん}


そう『念話』を送り合うとユウナギは口角を上げながら声を張り上げた。


「さぁ~てっとぉぉぉっ!

 そろそろまじで本気出すんで・・・」


そう声を張り上げ少しの沈黙の後・・・。

凄まじい威圧を込めた声で一言こう言った・・・。


『・・・首洗って待ってろ』


「メ・・・・ッ!?」


一瞬『敵』がそう声を漏らした瞬間・・・。


ユウナギの殺気に満ちた眼球が『ギロッ!』と動くと、

一瞬にして『敵』が居る場所へと転移した。


そして蹴りを真下から放つと、『グミャーッ!』と妙な声を発しながら、

蹴り飛ばされたのだった。


そして地面を滑って行く音を確認したユウナギは、

更に言葉を続けて行った・・・。


「てめーには散々『サンドバック』にされたからよ~・・・

 借りを返さなきゃ~・・・男がすたるってもんだよな~?

 そして・・・だ。

 てめー自身の正体はまだわからねーが・・・

 てめーがどこのモンかは・・・分かったぜ~?」


「・・・・・」


「だんまりってか~?

 上手く小細工してくれたじゃねーか?

 最小限の『力』で『霧』に『力』を与えて『魔力』を妨害していたとはな~?

 流石の俺も・・・気付くのに時間がかかっちまったぜ?

 だが・・・ここまでだ・・・」


ユウナギはだんまりを決め込む『敵』に『見てろよ』と呟くと、

『はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』と身体中に『ある力』を漲らせ始めた。


その『力』とは・・・?


「ここからはもう・・・てめーの好きにはさせねーっ!

 アスティナーッ!念の為障壁を張れっ!

 見せてやるぜ・・・。

 『冥界の神力』が使えるのはっ!てめーだけじゃねーって事をなぁぁぁっ!

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


そう声を張り上げたユウナギの身体からは、

『青紫の神力』が溢れ始めたのだった。


「・・・メ、メェッ!?」


するとどうだろう?

ユウナギの身体から溢れ出した『冥界の神力』が『濃霧』を侵食し始めたのだった。


少しずつ・・・。

ユウナギ『力』が円状に広がり始めると、

その『浸食作用』により『濃霧』は『霧散』し始めて行ったのだ。


「けっ!どうやら俺の『力』の方が上・・・だったようだな~?」


だがユウナギがそう告げたものの、

何故か『冥界の神力』を『セーブ』しその『力の流出』を止めたのだった。


それは何故か・・・?


『冥界の神力』を止めた理由はこうだった。


(・・・人間界で『冥界の力』を使用すれば、

 この大地に影響が及び、土や植物・・・そして生命でさえも死滅する。

 だから最小限で尚且つ・・・その使用時間も限りがあるからな~

 つーか・・・『力のセーブ』なんて俺は苦手だっつーのっ!)


『人間界』での『冥界の力』の使用はとても危険である事を知っているユウナギは、

焦る気持ちを押さえながら『敵』に向かって駆け出した。


「ってな事でっ!時間がもったいねーからよぉーっ!

 ちゃっちゃっと行くぜーっ!ゴラァァァァッ!」


一足飛びに駆け出したユウナギは、

『敵』が居るであろう場所へと向かって行くと、

その動きに釣られて『濃霧』が『霧散』し、一筋の道が出来上がったのだった。


そして『敵』の気配を辿ったユウナギは『みーつけた♪』とご機嫌な声を発すると、

転移をし現れたと同時に再び強烈な蹴りを放った。


『バキッ!』と衝突音が聞こえるのと同時に、

『メェっ!』と呻き声のようなモノが挙がり、

『ヒューン』と風切り音を立てて吹き飛ばされて行った。


「まだまだ行くぜーっ!」


そう宣言した通りユウナギは、飛ばされた『敵』を先回りし現れると、

再び蹴り上げそれを数度行ったのだった。


そして『ドシャッ!』と上空から地面に激突したのを確認すると、

少し距離をあけ降り立った。


圧倒的な強さを見せたユウナギだったが・・・

その表情は何故か曇っていた。


(おかしい・・・。

 俺がこれだけ接近し攻撃を加えても、

 相手の姿形が全く・・・わからね~・・・

 一体どうなってんだよ?

 それに・・・また『濃霧』が・・・)


辺りを見渡したユウナギはその周りが再び『濃霧』に包まれている事に警戒した。


(まじでわかんね~・・・

 相手の『力の反応』を見ても、別段変わった様子はねー・・・

 それなのにどうして『濃霧』が晴れねーんだよ?)


警戒し周りを見渡すユウナギにこの時・・・隙が生じた。


再び視線を『敵』が落ちた場所へと向けると、

その『敵』が跡形もなく消失していたのだった・・・。


「なっ!?き、消えたっ!?いつの間にっ!?」


驚愕しユウナギの警戒がこの時緩くなった・・・。

その瞬間ユウナギの背後から『メルっ!』と声が聞こえると、

『ドカッ!』と激しい衝突音と共に今度はユウナギが吹き飛ばされたのだった。


「ぐはっ!?バ、バカなっ!?」


強烈な打撃に顔を顰めながらもユウナギは態勢を整え着地すると、

再び背後から『メルッ!』と聞こえ再び吹き飛ばされた。


「て、てめー・・・お、俺のマネをっ!?」


吹き飛ばされながらもそう声を発した時、

上空から『メルゥゥゥゥッ!』と絶叫に近い声が挙がった。


「させるかぁぁぁぁっ!」


『敵』の絶叫に対抗するかのように声を挙げ、

身体中に『冥界の神力』を纏い拳に溜めると迎撃に出た。


「メルゥッ!」


「喰らいやがれっ!

 インフェルヌス・グロブスッ!」


『バシュッ!』


直下降に蹴りを放つ『敵』に対し、

ユウナギは拳に溜めた『冥界の神力の弾丸』を放ったのだった。


攻撃の早さはユウナギの『弾丸』が勝り『敵の肩』を貫いた・・・。

だが『敵』は鮮血を撒き散らすもその勢いは止まらず、

その蹴りはユウナギの腹部に直撃したのだった・・・。


『ドゴーンッ!』


「ぐほっ!?」


『ヒューン』と風切り音を発しながら『ドカーン』と地面に激突したユウナギは、

口から血を吹き出しながらそのダメージを感じ取っていた。


(こ、これは・・・ヤ、ヤベェ・・・)


普段のユウナギならこの様な事にはならなかったが、

先程の戦いで『冥界の神力の弾丸』を放った事により、

身体に纏わせていた『冥界の神力』が解け、

防御や受け身を取る事もなく地面に激突したからだった。


「ぐぅぅぅ・・・うぐっ・・・・」


低い呻き声を挙げながら身体を捩ると、

その痛みが全身を駆け抜け、再び口から血を吐いた。


「ゴフッ!ゴホッ、ゴホッ」


ぼやける視界の先を見たユウナギは『敵』の攻撃を警戒するが、

その攻撃が来る事はなかった。


そのぼやける視界が捉えた先には・・・。

ユウナギと同じように地面で呻き悶える『敵』の姿がそこにあったのだ。


(くっ・・・し、視界が・・・ぼやけて・・・

 て、敵が・・・見えや・・・しねー・・・

 だ、だけどよ・・・さ、先に立った・・・方が・・・

 断然・・・ゆ、有利に・・・)


どちらが先に立つか・・・?

それが勝敗を決める・・・。


そんな事がユウナギの脳裏を掠めた時だった・・・。


「メッ・・・メルッ・・・」


「・・・ちっ」


激痛なのだろう・・・。

痛々しく重い身体を奮い立たせ立ち上がろうと藻掻く・・・

そんな『敵』を朧気ながら見ていると・・・。


『勇者様っ!』と、聞き覚えのある声が耳を触った。


「だ・・・だ・・・れ・・・だ?」


そう口が開くのがやっとなユウナギの目の前に、

ある人物が突如として現れると、その白い手を瀕死となったユウナギの身体に乗せ、

『デメンション・ムーブッ!』と焦ったような声を発しながら、

その2人はその場から姿を消したのだった・・・。


そして残された『敵』は・・・。


立ち上がろうとするも力尽き、地面に倒れたのだが、

『濃霧』が突然『青紫の光』を発し『敵』の身体に纏わりつくと、

ゆっくりとだが・・・そのダメージを消し去り、

それと同時にユウナギに撃ち抜かれた肩の傷をも回復させて行ったのだった・・・。



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