第50話 白い霧

衛兵達が常駐する『監視塔』の扉を開くと、

『きゃぁぁぁぁっ!』と再び女性の悲鳴がした・・・。


すると扉を開けたユウナギの目の前を、

シャルンが吹き飛ばされて行くところだった・・・。


「・・・シャルン?」


まるで走馬灯のように、ユウナギの目の前をゆっくりと・・・。


目を固く閉じ頭から鮮血を撒き散らしながら飛んで行く・・・。


するとユウナギは流れる風の如くその姿を消すと・・・。


『トンッ!』と言う重量を感じさせない音を立てると、

『・・・シャルン?生きてっか~?』と、微笑みながら問いかけていた。


「ユ、ユウナギっ!?」


「・・・おうっ!お疲れちゃ~ん♪」


『スタッ!』とシャルンを抱えたまま着地したユウナギは、

『・・・立てるか?』と尋ねると『・・・あぁ』と唖然としながらも答えた。


「じゃ~、ちょっくらい行って来るわ~♪

 『らぶりん』は『チャダ子』とここで待ってろよな~」


「キュイッ!」


「は、はい」


そう言いながらユウナギは歩み始めると、

シャルンに向かって掌を『ひらひら』として見せた・・・。


その背中をただ見つめながらシャルンはふと思い出した・・・。


「あ、あれっ!?わ、私の傷はっ!?」


頭を触りながら何度も確かめて見たが、

先程の攻撃による負傷は跡形もなく消えていた・・・。


「ま、まさか・・・あんたが?」


そう声には出たがそこにはもうユウナギの姿はなかったのだった・・・。


『ジャリッ!』


土煙りが舞うその地に足を踏み入れたユウナギは、

不敵な笑みを浮かべその地に立って居た・・・。


「・・・って、突然『霧』が出て来やがって、

 一体何だこりゃ?」


辺りが真っ白い『霧』に覆われ始めると、

ユウナギは仲間の安否を気にし、『魔石』を取り出した・・・。


(・・・アスティナ?無事か?)


念話を使用し『アスティナ』へと送ると、

不機嫌そうな物言いが返って来た。


(・・・あ、当たり前でしょっ!?)


(そうか・・・。

 エマリア・・・動けそうか?)


(・・・は、はい。

 な、何とか・・・動けます)


(みんな・・・無事なんだな?)


(((当たり前でしょ!)ですっ!)だろっ!)


三者三葉にそう言葉が返って来ると、

ユウナギの口元は緩やかに上がっていた。


「・・・で?

 敵はどんなヤツなんだ?」


気配感知&魔力感知を使用してみたが、

いずれも引っ掛かる事がなかった・・・。


すると『アスティナ』から悔し気な声が返って来た。


(これは『霧』じゃなくて『魔物』のスキルだからっ!)


「・・・まじか?」


(えぇ・・・。この『霧』の中だと、

 魔法の類は一切・・・使えないみたいよ)


「・・・へぇ~♪

 って事は~・・・感知系を使用しても無駄って事だな?」


(お、恐らく・・・)


「たっ・・・高まるっ!♪」


ユウナギは何処か楽し気にしていると、

アスティナから『真面目にやんなさいよっ!』と怒鳴られはしたが、

そんな言葉など、今のユウナギには届かないようだった・・・。


「・・・で?

 相手は・・・見たのか?」


そう尋ねたのだが、誰れからもいい返事は返って来なかった。


「今はどういう状況だ?」


(私を吹っ飛ばした後、再びこの『白い霧』に紛れて、

 再び潜伏しているみたいね・・・)


そう返答したのは『シャルン』だったが、

ユウナギは簡素に『わかった』と言うだけだったのだ。


するとユウナギは『擬体』の中に居る『コナギ』に声をかけた。


{・・・はい}


「起きてたか?」


{勿論です}


そう受け答えをするとユウナギは『コナギ』に命令を下した。


「この『霧』を調べてくれ」


{・・・了解です}


『コナギ』がそう答えるとユウナギが両手を広げた。


{では調査致します}


そう言うと広げられた両手の指先が割れると、

その指先が掃除機のように周りの空気を少量吸い込んで行った・・・。


そして数秒・・・。


{ピピッ!}と鳴った音が聞こえると、

『コナギ』が『分析を終了しました』と告げてきた。


「・・・結果は?」


{・・・分析の結果によりますと、これは・・・}


「・・・どうした?」


{羊毛のようです}


「・・・はい?」


{いえ・・・ですから羊毛・・・。

 つまり、『羊の毛』・・・ですね}


「・・・まじでか?」


{はい・・・。

 毛の長さや太さが全てナノミクロンサイズで、

 質量も異常に軽く、その1つ1つ魔力量がとても多く含まれています

 ですので『感知系』を使用したとしても、

 逆に・・・『感知』出来なかった可能性があります}


「・・・んー」


ユウナギが『コナギ』の分析結果に納得出来ていなかった・・・。

それは何故か・・・。

いくら多く魔力を含んだ『羊毛』とは言え、

そしてそのサイズが『ナノミクロン』だったとしても・・・

この一帯を『羊毛』で白く覆い隠せるほど、

バカげた話はないと思っていたからだった。


(いくら何でもそれはないだろ?

 って言うか・・・これが『毛』だとして、

 吸い込んでも大丈夫なのかっ!?)


{・・・はい、この『羊毛』を吸い込んでも、

 健康を脅かす成分の類は一切含まれていません}


「・・・一体どうなってんだよ?」


苦悩するユウナギの口から、

思わずそんな言葉がこぼれた時だった・・・。


『・・・ジャリ』


「っ!?そこかっ!?ソニック・ブレッドッ!」


『バシュッ!』


真っ白い『羊毛の霧』によって視界が利かない状態で、

ユウナギは音を頼りに『魔法』を放ったのだ・・・。


だが・・・。


『シュワッ』


「・・・はぁっ!?」


ユウナギが放った『ソニック・ブレッド』は、

僅か1ⅿほどの所で霧散してしまった・・・。


「おいおいおいっ!まじかよっ!?

 『魔法』使えねーじゃんよっ!?」


(えぇ・・・そうなのよ・・・。

 『魔法』が全然使えなくて・・・だから・・・)


驚くユウナギにアスティナのそんな言葉が返って来た・・・。

それを聞いたユウナギは左手に持っていた『魔石』に声を挙げた。


「聞いてねーよっ!?

 そんな大事な事は先に言えよっ!」


(さっき言ったわよっ!?

 魔法の類が一切使えないってっ!?

 人の言う事はちゃんと聞きなさいよっ!)


「ったく・・・」


アスティナに正論を言われ言葉に詰まるユウナギは、

奥歯を『ギリッ』と噛み締めた。

そして『ぶつぶつ』と何かを言い始めると・・・。


「って事は~何か?

 『魔法』もダメ・・・姿が見えないから『接近戦』にも持ち込みようもない・・・

 つまり・・・そう言うこったな?」


(・・・そうなるわね)


「・・・くそったれ」


ユウナギそう悪態を着くと『シャルン』からこんな事を聞かされた・・・。


(あっ、でもユウナギ・・・。

 相手はこっちが丸見えみたいよ?)


「はぁっ!?何で向こうはこっちが見えんだよっ!?

 おかしいだろうが?」


(私にそんな事聞かれても知らないわよっ!)


「ちっ」


シャルンの物言いは最もだったが、

手の打ちようがない現状にユウナギは苛立っていた。


「ったくよ~・・・一体どうすりゃ~いいんだよ・・・

 だぁぁぁぁぁっ!もうっ!面倒臭せぇぇぇぇっ!」


そう苛立ちに任せそう声を挙げると、

突然何者かの気配を感じ振りかえった・・・。


『バシッ!』


「ぐほっ!」


突然ユウナギは襲われ右頬を殴られたのだった・・・。


「うぅぅぅぅ・・・痛ってなぁぁぁぁっ!

 てめーっ!こんにゃろぉぉぉっ!

 正々堂々と勝負しろってんだっ!」


そう叫び声を挙げたユウナギは『魔力』を増大し始めた。

そして『へっへっへっ・・・見てろよ?』と言葉を呟くと、

頭上に両手を掲げ『ファイヤー・ボール』を出現させた。


{ユ、ユウナギ様っ!?い、いくら何でも・・・っ!?)


「うっせーよ・・・コナギ~・・・。

 こんなモノはな~?

 でかいの一発ぶっぱなせば・・・何とかなんだよ・・・」


{しかしっ!}


「しかしもカカシももやしも関係ね~んだよ~・・・。

 姑息な手を使いやがって~・・・」


{ユウナギ様っ!?}


「いっけぇぇぇぇっ!『ファイヤーボールッ!』

 この『霧』をぶっとばせぇぇぇぇっ!」


ユウナギは怒りに震えながら空中に飛び上がると、

ほぼ真下に向かって『魔法』を放ち『炸裂』させた・・・。


『ドカーンッ!』


ユウナギの放った『ファイヤーボール』が地面で爆発を起こし、

その爆風が辺り一帯に広がった・・・。


「・・・う、うそんっ!?」


『ファイヤーボール』は確かにユウナギの真下で爆発し、

その爆発はユウナギをも巻き込んだのだが。

その『羊毛』で作られた『霧』は・・・晴れる事はなかった・・・。


(ユウナギ様っ!?)


(ユウナギっ!?)


(ユウナギっ!?一体何やってんのよっ!?)


それぞれからそんな言葉が『魔石』から聞こえたが、

ユウナギは再び奥歯を『ギリッ』と噛み締めていた。


{ユウナギ様・・・お怪我は?}


「あぁ、そっちは『レジスト』しているから問題ねーよ。

 だがな・・・ちっ!

 これじゃ~埒があかね~な~」


そんな時だった・・・。


{ユウナギ様・・・。

 ちょっとこちらをご覧下さい・・・}


突然『コナギ』そんな事を言い始めると、

その『脳内』にて映像が『リプレイ』され始めた・・・。


「・・・何だよ、これ?」


{・・・スローにします}


「だから一体何だって・・・って・・・ん?」


{お気付きですか?}


「・・・これって~?」


ユウナギの『脳内』で流れる映像の一部にその目を細めた・・・。

そしてユウナギは突然『わぁ~はっはっはっ!』と爆笑し始めた。


{・・・ユウナギ様?}


「はっはっはっ!すまね~・・・。

 なぁ~んだ・・・そう言う事だったのか~?

 ここは地上で人間界だもんな~?

 はっはっは~・・・」


突然そう言い始めたユウナギに『コナギ』は『?』マークとなり、

『魔石』で聞いていた者達は首を傾げた・・・。


(あ、あんた・・・突然どうしたのよ?

 はっ!?ま、まさか・・・頭を強打した事によっておかしく・・・)


「・・・なってねーよっ!失礼なヤツだな?」


(いや、だって・・・そうとしか考えられないじゃない?

 突然バカ笑いしちゃってさ~・・・)


「パカ笑いって・・・アスティナ・・・お前一言多いんだよっ!」


アスティナがそう言うのも仕方がないのかもしれない・・・。

それほど突然大笑いし始めたユウナギを不思議に思ったのだった。


「ったく~・・・しょうがねぇ~な~・・・。

 まぁ~黙って見てろよ・・・」


(・・・見えないんだけど?)


「・・・くっ!う、うっせーよっ!」


ユウナギは再び『ぶつぶつ』といい始めると、

一歩・・・また一歩とその歩みを進めた・・・。


『ジャリ』


「っ!?」


『シュッ!』


『ザァザァァァッ!』っと再び襲いかかって敵に、

今度は余裕な表情を浮かべながら、その攻撃を躱したのだった・・・。


「フッ・・・てめーの攻撃なんざ~、もう喰らわねーよ?」


『羊毛の霧』に覆われた空間でそう言い放つと、

『コナギ』に声を掛けたのだった・・・。


「コナギ・・・?」


{はい、何でしょうか?}


「またこの身体を頼むわ~」


{それは構いません・・・が・・・}


「リ・ブレイブッ!」


その声と共に『擬体』である身体から『スゥ~』と、

『勇者』であるユウナギの身体か姿を現した・・・。


「ユウナギ様?姿を晒しても宜しいので?」


「あぁ、別に気にする事もねーだろ?

 こんだけ真っ白なんだからな~・・・」


「・・・なるほど」


ユウナギと『コナギ』の会話を聞いていたアスティナ達から声が挙がった・・・。


(ユウナギ・・・今の声・・・誰っ!?

 それに今・・・『リ・ブレイブ』ってっ!?

 生身晒してあんた・・・大丈夫なのっ!?)


アスティナはあからさまに動揺している様子で・・・


(ユウナギ様っ!?一体どうなっているのですかっ!?)


(ユウナギ・・・?

 今の声・・・誰なのよ?)


エマリアに続きシャルンまでもそんな声が聞こえて来たのだった・・・。


「説明は後・・・だ。

 とりあえず、この『羊毛の霧』だっけ?

 その対処法がわかったから・・・」


全員が同じように『えっ!?』と驚いていた。

だがユウナギはそれを気にする事もなく笑みを浮かべると、

『見えざる敵』に向かって声を挙げた・・・。


「おーい・・・聞いてんだろ?

 とりあえず・・・てめーがどこのヤツかは見当がついたぜ?」


そう声を挙げたのだが『敵』からは何の返答もなかった・・・。


「まぁ~別に返答なんて期待してねーけどよ~・・・」


そう呟いたユウナギは『見せてやんぜ♪』と言うと、

突然全身に『青紫の光』が包み込んだ・・・。


『っ!?』


『ジャリッ!』


「ん?」


突然『敵』の気配と音を感じ取ったユウナギは、

そちらに視線を向けると・・・


「・・・もうてめーの『力』は通用しねーぜ?

 さぁ~・・・諦めて出て来いよ?」


『・・・・・』


「・・・だんまりですか~?」


『・・・・・』と沈黙が続く『敵』にユウナギの顔は引きつっていた。


「てめー・・・いい加減に・・・」



ユウナギが苛立ちながらそう言うと、

『何だ・・・?』と戸惑う声を挙げた・・・。


気が付けばユウナギの辺り一帯はまるで『濃霧』のようになっており、

その白さも色濃く増していた・・・。


「・・・なるほどね~」


『ジャリッ!』


『シュッ!』と再び攻撃するも、ユウナギはひらりと躱し、

『敵』が着地したであろう場所へとその視線を向けた・・・。


「てめー・・・この『霧』を濃くしても意味ねーぜ?

 俺にはてめーの気配が手に取るように分かってるからよ~」


すると突然『ビャャャャャャッ!』と言う声を発したかと思うと、

ユウナギの正面から何かが突っ込んで来た・・・。


「いいね~・・・だがよっ!」


『スパッ!』


ユウナギは『マジックボックス』から『剣』を取り出すと、

横一閃に薙ぎ払った・・・。


「・・・ちっ」


そう舌打ちしたユウナギは『剣先』を見ると、

僅かだが・・・『敵』の血液が付着していたのだった・・・。


「てめーに当たる一瞬・・・『力の層』を感じたな~」


そう言いながら肩越しに後ろを見たその先には、

『青紫の光』が2つ・・・揺れ動いていたのが見て取れたのだった・・・。


「・・・何故てめーみたいなヤツが、

 この地上に・・・この『人間界』に居やがるんだよ?」


そう言い放ったユウナギの眼光が鈍く光っていたのだった・・・。

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