第46話  SSランク

ユウナギのピンチに突如現れた『らぶりん』は、

姿を現すと同時に敵となる者に対し口から無数の糸を吐き出した。


「・・・こ、この糸はっ!?」


吐き出された糸に、途轍もない魔力が含まれている事に気付くと、

間一髪躱し慌てて距離を取り、井戸から這い出た者は相手の出方を伺っていた。


『らぶりん』はその様子を見て理解すると咄嗟に、

上空に向かって再び糸を広範囲に吐き出した。


だがその吐き出された糸は先程の糸とは様子が違ったのだ。


「な、何よ?こ、このふわふわと落ちて来るモノは・・・?」


そう・・・。

『らぶりん』が吐き出した糸は上空で形を変え、

小さく揺れながら・・・

まるで雪のように落ちて来たのだった。


(こ、これだけの魔力が込められているのなら。

 この雪のようなモノにはきっと何かが・・・)


そう考えると動けなくなり、

この雪のようなモノが途絶えるまで様子を見るしかなかった。



その間『らぶりん』はと言うと・・・


「キュキュッ!?

 キュッ!キュキュッ!キュキュキュキユキュッ!」


と、頻りにユウナギに何かを訴えているようだった・・・。

だが、ユウナギにその声は届かず、

固く目を閉じ現実逃避を続けているだけだった・・・。


「キューッ!」


※ 皆さんこんにちは、そしてこんばんわ♪

  突然ですが、これをご覧になっている皆様の為に、

  この私・・・香坂 三津葉(25)独身、彼氏募集中が

  『らぶりん』の言葉が皆様にわかるように、

  ラブ&ピースの精神で同時通訳したいと思います♪


  ですからこれから『らぶりん』が話したセリフには、

  『』となりますので宜しくお願い致します♪


  コホン・・・。

  では、本編の続きをどうぞ♪



『主様ーっ!?いい加減戻って来て下さいよーっ!』


「あははは・・・こ、これはゆ、夢だ・・・

 うんうん、夢で間違いないっ!

 げ、現実の俺はきっと、北海道のカーリングチーム・・・

 『フォルティウス』の方々と一緒に、

 額に汗し練習を・・・」


ユウナギの現実逃避は更に加速し、

ついに・・・限界突破を果たした・・・。

そしてそんな時だった・・・。


雪のように落ちて来る『らぶりん』の糸に苛立ちを見せ、

井戸から這い出た者は突然奇声を発した。


「ギャァァァァァァァァァァァァァァっ!」


「うぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


その奇声を聞いた瞬間ユウナギもその恐怖心から叫び声を挙げ、

咄嗟に両耳を塞ぎながらしゃがみ込んでしまった。


そしてその限界突破した恐怖心は、

ついに・・・光を越えたのだった。


光を越えたユウナギは、固く閉じた両目から涙を溢れさせながら、

昔誰もが聞いたであろう、こんな歌を歌い始めた・・・。


「ぐすん・・・お、お化けなんてないさ お化けなんてうそさ

 ねぼけたひとが みまちがえたのさ・・・ぐすん」


ガタガタと震えながら歌い始めたユウナギに、

『らぶりん』は渋い顔を見せていた。


『わ、私の主様って・・・勇者・・・なのですよね?

 現状・・・そのような欠片は一片も見当たりませんが・・・』


呆れを音速で通り越していった『らぶりん』は、

溜息を吐きながら『こうなったら・・・』と呟いた。


そしてその小さな身体に凄まじい魔力を滾らせると、

『我が必殺の愛の一撃をっ!』と再び呟きながら、

その凄まじい魔力を右前足へと集約した。


そして・・・。


『ひっさぁぁぁぁつっ!地獄螺旋撃っ!

 うぉぉぉぉぉぉぉっ!』


『愛の一撃』とはどこへやら・・・。

そんな似つかわしくない物騒な技名を発しながら、

『らぶりん』が放った渦巻くその一撃は唸りを挙げユウナギの右頬へと・・・

何の慈悲もなく・・・炸裂した・・・。


『ずどーんっ!』


「ぺぎゃっ!?」


クリーンヒットした『らぶりん』の一撃は、

想像を絶するパワーで炸裂し、

ユウナギの身体は数メートル先の木の幹に螺旋を描きながら、

『バキッ!』と言う音を立てて、ド派手に激突したのだった。


顔面から木の幹へと激突したユウナギは、

尻を突き出すような姿で木の幹にめり込むと、

『らぶりん』が小さな声を漏らした。


『や、やり・・・過ぎ・・・ましたか?

 ゆ、勇者だから・・・だ、大丈夫・・・よね?』


冷や汗を流しながらも『らぶりん』は井戸から這い出た者へ視線を向けると、

目玉が飛び出し盛大に口を広げた姿を見て、

『らぶりん』は『漫画かっ!』と声を挙げずにいられなかった。


その視線に気づいた井戸から這い出した者は慌てた様子を見せると、

何事もなかったかのように今更ながら振る舞い、

『ぜ、全然っ!驚いてなんか、いないんだからねっ!?』と、言い訳を始めた。


『私は何も言っていませんが?』


「い、いや、ほ、ほんとに・・・

 べ、別に驚いてないし・・・わ、私的には・・・そ、その・・・

 へ、へぇ~・・・な、中々やるわね~・・・て、的なぁ~?

 そ、その程度でしかないんだからねっ!」


と、更に言い訳を始めたのだった・・・。


『的な~って・・・言われても・・・』


井戸から這い出た者の反応に少し・・・。

『らぶりん』は面倒臭さそうにしていると、

その態度に気付いたのか、井戸から這い出た者がこんな声を挙げた。


「あ、あんた・・・一体何者なのよ?」


『・・・私の事ですか?』


「そうよっ!って言うか・・・あんた以外に誰がいるのよっ!」


『私の前にまず貴女が名乗るのが礼儀・・・って、

 まぁ~、別にいいですけど・・・』


呆れた様子を見せながら、両前足を『やれやれ』と言ったポーズをすると、

『らぶりん』は自ら名乗る事にしたのだった。


『私の名は『らぶりん』・・・。

 この名はそこでみっともなく伸びているご主人様に頂きました』


『チラッ』とみっともなく伸びているユウナギを見ながら答えると、

井戸から這い出た者は気の毒そうに伸びているユウナギを見つめていた。


「みっともなくって・・・貴女のご主人様なのでしょ?

 ま、まぁ~別にいいんだけどね・・・?

 貴女がそれでいいんだったらさ、いいんだけど・・・

 い、いや・・・でも・・・

 ちょっと、どこか納得いかないって言うか・・・?

 別にいいんだけどね?

 って言うか、どうして私が貴女のご主人様の心配をっ!?」


『・・・知りませんよ。

 そんな事私に聞かれても・・・』


「そ、それもそうね・・・あはは・・・

 ってな事で色々とペースを乱されちゃったけど、

 私の名は・・・『チャダ子』

 名前くらい聞いた事あるんじゃないかしら?」


『乱されって・・・貴女が勝手に・・・って、もういいわ。

 それに『チャダ子』って・・・

 へぇ~・・・貴女が噂の・・・なるほどね~』


そう言いながら『らぶりん』はまるで腕を組むかのように、

器用に前足を顔の前で組んで見せた。


すると改めて冷静に『らぶりん』を観察した『チャダ子』は、

その身体の模様に心当たりがあったようだった。


「ねぇ・・・らぶりん」


『・・・何でしょうか?』


「私の勘違いだったらごめんなさいね?

 ひょっとして貴女・・・

 魔界でも随一と言われているあの極悪非道な殺戮クラン・・・

 『旅は道連れ、足は靴ヅレ』の地獄蜘蛛さんじゃないの?」


この時一瞬・・・。

『チャダ子』の言葉に反応を示した『らぶりん』は、

その小さな身体から異常とも思える魔力を放出させた・・・。


『・・・へぇ~、よく私があのクランのメンバーだと、

 気付きましたね~?

 ふっふっふっ・・・嬉しくもあり・・・悲しくもありますね』


『らぶりん』は複雑そうな表情を浮かべながら、

再び身体から夥しい魔力を発した。


「くっ!う、噂以上の魔力・・・

 私も生半可な気持ちじゃ・・・瞬殺されてしまうわね・・・

 ふう~・・・怖い怖い・・・♪」


『チャダ子』の額から『ツゥ~』っと一筋の汗が流れ落ちたが、

その表情には笑みが漏れていたのだった。


そんな『チャダ子』の表情に違和感を感じた『らぶりん』は、

特殊スキル『地獄鑑定』を使用し能力を把握しようとした。


だが・・・。


『パキンッ!』


『・・・えっ!?』


そう驚きの声を挙げた『らぶりん』は、

『まさか・・・』と声が漏れたのだった。


「らぶりんさん・・・。

 貴女今・・・私に鑑定を使ったわね?」


『・・・・・』


「ふっふっふっ・・・。

 貴女クラスの魔獣ならわかりますよね?

 どうして貴女の使った『鑑定』が弾かれたのかを・・・ね♪」


ニヤりと不気味に笑みを浮かべた『チャダ子』の迫力に、

『らぶりん』は『ごくり』とその喉を鳴らした。


『ま、まさか・・・貴女・・・噓でしょ?

 わ、私と同じ・・・『SS(ダブルエス)ランク』の・・・?』


「ふっふっふっ・・・せいか~い♪

 私のランクは貴女と同じ・・・と、言う事は?」


『わ、私と貴女は・・・ご、互角って事ね?』


『らぶりん』がそう言いながら渋い顔をして見せるのだが、

『チャダ子』は顔の前で人差し指を『チッチッチッ!』と左右に動かして見せた。


『同じランクなら私と貴女は互角のはずでしょ?』


「いえ・・・互角じゃないわよ?」


『・・・どう言う事よ?』


「あら・・・地獄蜘蛛さんとあろう方が、

 そんな事もわからないの?」


『・・・?』


不思議がる『らぶりん』に余裕の笑みを浮かべる『チャダ子』は、

上空に向かって人差し指を向けた。


『・・・あっ』


「気がついたようね?」


『チャダ子』が意味せんとする事に気付いた『らぶりん』は、

『ギィギィー』っと悔しそうに呻き声を挙げたのだった。


「・・・そう。

 此処は私の領域≪テリトリー≫なのよ?

 同じランク同士でも、残念ながら貴女は私の領域の中・・・。

 つまりそれは、貴女の敗北を意味しているわね♪」


『・・・・・』


そう・・・。

此処は『チャダ子』が作り出した亜空間である。

高ランクの魔族が自ら作り出した空間内においては、

同じランクの魔獣と言えど、力の差は歴然とするのであった。


『わ、私とした事が・・・初歩的なミスをしたものね・・・。

 これも戦いから逃げた私への・・・罰なのかもしれないわね』


『らぶりん』は何か思うところがあるのか、

そう言いながら自笑気味に笑うと、

眼前に居る強敵『チャダ子』を突き刺すような視線を向けたのだった。


「・・・ふ~ん。

 『らぶりん』・・・貴女、やる気なのね?」


『・・・そうね。

 あぁ~見えても・・・私のご主人様なの。

 だからこのまま見過ごすなんて事、出来る訳ないでしょ?』


「・・・貴女、必ず負けるわよ?」


『チャダ子』のその言葉には絶対的な『真実』があった。

いくら『SSランク』の魔獣と言えど、

同ランクの相手の領域内での戦闘での勝率は皆無に等しいからだった。


だが・・・『らぶりん』は違った。

再び笑みを浮かべた『らぶりん』は『ギィィィィーッ!』と唸り声を挙げると、

その小さな身体の隅々にまで、魔力を纏っていったのだった。


「・・・そう、やる気・・・なのね?」


『女にも負けられない戦いが在るのよ♪』


「・・・素敵ね」


静かなやり取りが行われると、1人1匹は改めて対峙した。

『ビリビリ』とした空気が互いの空間を包み込むと、

『行くわよっ!』と『チャダ子』の声を合図に今・・・。


『SSランク』の1人と1匹が激突した。



『バキッ!』


『ガシッ!』


『ブシャァァァッ!』


『ザシュッ!』


突風の如きその強烈な立ち回りに、

周囲の木々は軋み・・・折れ・・・ざわめき・・・。

まるで暴風の中で繰り広げられているかのような戦闘を繰り広げていた。


すると・・・。


(ん・・・ん・・・?

 さ、寒い・・・な・・・?

 そ、それに・・・お、音が・・・)


五感でそう感じたユウナギは目を覚ますと、

目の前で繰り広げられている事象に困惑した。


「い、一体・・・何がっ!?

 って言うか・・・な、なんじゃこりゃぁぁぁぁーっ!?」


暴風のような嵐の中、周りの木々の枝葉が乱舞し、

ユウナギの目の前で荒れ狂っていたからだった。


「ちょ、ちょっ!?あ、あぶねぇぇぇっ!?

 い、一体なんの騒ぎなんだよっ!?」


ユウナギの視界にはほぼ・・・、

荒れ狂う枝葉で何もわからなかった。


ただ、『ゴォォォォッ!』と言う暴風の音と、

木々が悲鳴を挙げている音しか聞こえて来なかった。


ユウナギは襲い来る枝はから身を守る為に、

周囲に結界を張ると、目を凝らし荒れ狂う風と枝葉の向こう側に居る、

何者かの魔力を感じ取り始めた。


(・・・2体・・・か?

 しかも、かなりランクの高い・・・連中か?)


対象の気配を感じ魔力を計る・・・。

そうしている次第に状況が見えて来始めた。


(1体は・・・はぁぁっ!?こ、これって・・・『らぶりん』かっ!?

 あ、あいつ・・・こんなに凄まじい魔力をっ!?

 ま、まじか・・・?今まで気がつかなかった・・・

 『らぶりん』って一体何者なんだ?

 今度フーシュンさんに聞いてみっかな・・・。

 え~っと、その『らぶりん』と戦っているのは~・・・?)


ユウナギが『らぶりん』と戦うもう1体を感知した時・・・。

『ヒィッ!?』と声を挙げた瞬間・・・。

ユウナギの精神は『勇者』の特性が発動し、精神は元へと戻された。


「うぐっ!ま、またかっ!?」


顔を引き吊らせ眼前に居るその恐怖の対象に、

再び精神が恐怖によって支配されようとしたその刹那・・・。


ユウナギの頭の中にその対象の声が流れて来た。


「や、やりますねっ!?

 私の領域内だと言うのにこの戦闘力っ!

 流石はあの・・・地獄蜘蛛と言ったところねっ!」


「ギィギィーギィーッ!ギィッギッ!ギィギィギィッ!」


「ふっふっふっ!えぇっ!そうですねっ!

 SSランク同士ですもの・・・これくらいは当然ですよねっ!

 はぁぁぁぁっ!」


ユウナギには『らぶりん』の言葉などわからない・・・。

聞こえて来るのは『チャダ子』の声だけなのだ。


そんな声にユウナギは『ギチッ!』と眉間に皺を寄せると、

ある違和感に気が付いた。


(SSランク同士・・・って?

 『らぶりん』ってSSランクなのかっ!?

 そ、それに・・・)


その違和感がユウナギの頭の中で何度もリフレインした。

そしてある決定的な言葉が・・・

その違和感の正体に気付いたのだった。


「ふっ!SSランクの『魔族』である私のっ!

 しかも・・・領域内でっ!

 こんなにも戦えるなんてっ!」


(・・・はい?

 『魔族』って・・・誰が?

 『らぶりん』は『魔獣』・・・だよな?

 って・・・事は、『魔族』って・・・?)


何度も何度も・・・。

ユウナギの頭の中を『魔族』と言う言葉が繰り返し流れて行った。


(あ、あれ?『魔族』って・・・あいつの・・・こと?

 『怨霊』じゃ・・・ないの?

 あれれ・・・?

 どうして『怨霊』じゃなくて・・・『魔族』なんだよ?

 あっれぇーっ!?)


そう繰り返しユウナギは頭を抱え悩み始めると、

突然高純度の魔石の中へと消えていった『コナギ』が声を発した。


『ユウナギ様・・・。

 此処は貴方様が居られた『日本』と言う国ではありませんよ?

 此処は『ザナフィー』・・・。

 貴方様が住まう『ルクナの街』の近隣に在る・・・。

 『ディープ・フォレスト』なのですよ?

 お忘れですか?』


「・・・あっ」


『コナギ』の言葉に我に返ったユウナギは苦笑すると、

『すまねぇ、助かったぜ・・・コナギ』と礼を言った。


『いえいえ、これも疑似人格である私の任務・・・。

 ユウナギ様をサポートするのが務めで御座います』


(・・・ははは、まじですまねぇ。

 そうだよ・・・ここは『日本』じゃねーんだよな~?)


『・・・はい、その通りです』


「・・・サンキュー、コナギ~♪」


暴風吹き荒れる嵐の中、苦笑しつつ立ち上がったユウナギは、

力の限り声を張り上げた。


「きっっっっさまぁぁぁぁぁぁっ!

 よくも俺に恥をかかせやがったなぁぁぁぁっ!ゴラァァァァッ!」


魔力も籠っていないユウナギの声は、

暴風の唸りによって掻き消され、熾烈な戦いを繰り広げる2人には、

届くはずもなかった。


「・・・まぁ、聞こえるはずもねーよな?」


『・・・ですね』


「ウォッホンっ!

 ・・・知ってたし・・・わざと・・・だし・・・」


『・・・はい』


やや照れ気味に咳払いをしながら顔を背けた主に、

『コナギ』はただ返答しただけだった。


『ユウナギ様・・・』


「・・・な、何だ?」


『これだけ激しくぶつかり合う魔力の渦です。

 どうすれば良いのでしょうか?』


『コナギ』のその質問にユウナギはニヤりといやらしく笑みを浮かべると、

『ぐへへ』と声を漏らしながら、吹き荒れる暴風へと一歩・・・踏み出した。


「・・・どうすればってお前~、

 そりゃ~決まってんじゃんよ~・・・ぐへへへ」


『・・・こ、怖い』


「・・・ぶっっっ潰すっ!」


『・・・ですよね』


主人公らしくない歪んだ笑みを浮かべたユウナギに、

『コナギ』は『期待しています』と楽し気に返答したのだった・・・。

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