第45話 井戸から這い出して来た者・・・

予想にもしなかった展開に『コナギ』の思考が停止した・・・。

そんな時だった・・・。


(おい・・・一体何があった?)


突然頭の中に声が響き『コナギ』はその身体を『ビクッ』と震わせると、

オロオロするコナギに対しユウナギが一喝した。


(コナギッ!しっかりしやがれっ!)


(は、はひぃっ!)


ユウナギの一喝で我を取り戻したコナギは、

主で在るユウナギに事の説明をしていった・・・。


(・・・なるほどな~。

 まぁ~お前の気持ちもわからんでもないが・・・)


コナギの意を汲み取ったのか、ユウナギはその事情に納得していると、

コナギからこんな言葉が返って来た。


(ユウナギ様はどうしてお目覚めに?)


そう言われたユウナギは『はっ!』と声を挙げると、

目覚めた経緯を口にし始めた。


(い、いや~・・・その何つーか・・・よ?

 この場所に出たのと同時だとは思うが、

 ありえねーくらい悪寒が走ってな?)


(わ、私もこの場に出た途端っ!身体中に悪寒が走りましたっ!)


(ふむ・・・)


ユウナギがその『悪寒』について考え始めるとコナギに命じ、

周辺の映像を見せるように指示を出した。



※ ってな事で~♪

  今回はこの私・・・香坂 三津葉25歳独身・彼氏募集中が説明致します♪


  疑似人格である『コナギ』が表に出ている時、

  ユウナギ自身が作り出した特殊な亜空間に居ます。

  まぁ~基本・・・寝ているんですけどね~♪

  ですからコナギ側の映像は見る事が出来ないんですよね~♪

  不便ですよね~♪


  ですが感覚的にはユウナギとコナギは繋がっておりますので、

  全ての状況が不鮮明とはならず、

  例えば戦闘中の場合や身体に伝わる感覚的なモノは、

  ユウナギにも伝わっているのです♪

  かなりダイレクトにダメージが入るらしく、

  すごく痛いとおっしゃっていました♪


  って言うか・・・それなら・・・?

  映像も見えるようにしておけよぉ~♪って突っ込みたくもなりますよね~♪


  ってな事で今回の説明は、香坂 三津葉が担当致しました♪



木漏れ日は差すものの、全体的に薄暗くジメジメしている・・・。

コナギはユウナギの指示に従いゆっくりとその場で回り始めると・・・。


(ふむ・・・なるほどな~って・・・ちょっと待てっ!?)


(ユウナギ様?いかがされましたか?)


ユウナギに映像を見せる為、その場でゆっくりと回り始めると、

誰にでもわかるくらい、その違和感アリアリの存在に声を挙げた。


(おいおい・・・何でこんなモノがこんな所にあんだよ?)


(こんなモノとは・・・あの井戸の事ですか?)


(あぁーっ!そうだよっ!)


(私には何処にでも在る井戸にしか見えませんが?)


(いやいやいや・・・コナギ君・・・。

 誰がどう見たって、その井戸の存在感が異質過ぎるだろうがよっ!)


(・・・ふむ。そう言うモノなのですね~?)


(そう言うモノって・・・コ、コナギ君?

 こんな鬱蒼と生い茂る木々に囲まれいるこんな場所でさ?

 一部開けた場所に『ポツン』と井戸なんてあったら、

 誰だって何かしら感じるでしょうよ?)


(・・・ふむ。私はただ悪寒が走っただけですので、

 この雰囲気的なモノは、私にはちょっと分かり兼ねます・・・)


コナギの反応にユウナギは『はぁ~』っと溜息を吐くも、

そのユウナギの頭の中に在る『存在』と目の前に在るその『存在』は、

恐ろしいまでにマッチしていたのだった・・・。


まさに・・・ベストマッチである。


(これってやっぱ~・・・アレ・・・だよな~?

 此処って別に地球でもねーし・・・まさか・・・だよな~?

 怨霊とかって俺・・・実はダメなんだよ・・・。

 だってさっ!?めっちゃ怖えーじゃんっ!?

 いくら勇者だって怖いもんは怖いっつーのっ!

 あぁ~・・・やだな~・・・)


1人で何かブツブツと言い始めたユウナギに、

コナギはただ黙って主の考えが纏まるのを待っていた。



そして数分後・・・。


(だぁぁぁぁぁっ!もういいっ!考えるのを止めたっ!

 面倒臭せーっ!すっげー面倒臭せぇぇぇぇっ!

 もうっ!あれだっ!

 ヤバかったら最大呪文でこの辺り一帯を消し炭にしてやるっ!

 そんだけやりゃ~いくら怨霊様だってヤれんだろっ!?)


ユウナギは特殊な亜空間の中で頭を搔き毟りながら声を荒げると、

その声の大きさにコナギは両耳を塞ぎながらしゃがみ込んだのだった。


(い、いかがされたのですかっ!?)


(い、いや・・・別に大した事・・・あるって言えばあるんだが、

 ないと言えば・・・ない・・・)


(・・・はい?)


(まぁ~その・・・なんだ~?

 とりあえずコナギ・・・俺と代われ・・・)


(代わっても宜しいのですか?

 魔力はもう回復されたのですか?)


(・・・あんま回復してねー・・・けどよ?

 このままだと・・・ちーっとばっか・・・ヤベェー気がする)


(よくわかりませんが・・・わかりました。

 それでは私はこれにて失礼致します)


(おうっ!ご苦労さんっ!

 この後の事はお前の中にアーカイブ残しておくから・・・

 後で確認してくれ)


(ご配慮感謝致します。それでは・・・)


その言葉を言い終わると、コナギは再び魔石の中へと消え、

ユウナギが擬体に戻って来たのだった・・・。


そしてこの異質な亜空間の中で、

その存在感をこれでもか・・・と、言うくらい見せつけるその井戸に、

ユウナギは再び溜息を吐くのだった・・・。


この状況に『ガックリ』と項垂れるユウナギは覚悟を決め顏を上げると、

ギリギリ右目の視界に入ったモノに再び違和感を感じたのだった・・・。


「・・・な、何でこんな所に『インターフォン』が?」


そう呟きながらユウナギは改めてその『インターフォン』を観察した。


「・・・地面にただぶっ刺した木の枝に、

 地球で見慣れた『インターフォン』が付いてやがるんだが?

 これって・・・押すと鳴るのか?」


目の前に『ボタン』があれば押したくなるのは世の摂理・・・。

ユウナギは妙な緊張感を抱きつつもその『インターフォン』へと指を伸ばした。


そして・・・。


『いんた~ふぉ~ん♪』


「へっ?普通『インターフォン』のボタンを押したらっ!

 『ピンポーン』でしょうがっ!

 どこの世界にインターフォンを押したら、

 『いんた~ふぉ~ん♪』って音がすんだよっ!?

 お洒落かっ!?ここの家主はお洒落さんなのかっ!?」


と、何故か『インターフォン』相手にユウナギはキレていたのだった。

そして一通りキレ終わった頃だった・・・。


木々の枝を揺らす風が『ガサガサ』と音を立て、

辺りが静寂に包まれると・・・。


「は、はーい。宅配です・・・よね?

 ちょ、ちょっと待って居て・・・く、下さいね?

 えっと~ハンコ、ハンコっと・・・」


と、『インターフォン』越しに声が返って来たのだった・・・。

一瞬その声に唖然としたユウナギだったが、

慌てて声を挙げたのだった。


「ちょっ!ちょっと待てっ!」


「・・・・・」


「・・・ま、まじか」


返答がない『インターフォン』を前に、

再びユウナギが固まっていると、

突然『ギィィー』っと、鬱蒼と生い茂る木々の1つの幹が開き、

その中から『インターフォン』の声の主がだるそうに・・・歩いて来た。


カラスよりも黒いその長い黒髪を2つの三つ編みにし、

今時見ない・・・顔の半分以上もある丸眼鏡・・・。

派手な女性キャラが描かれたTシャツ・・・

そしてその出で立ちとはミスマッチなホットパンツと、

中々な強キャラな出現に、流石のユウナギも圧倒されてしまっていた。


「ど、どうも・・・お、お待たせ・・・いた、いた、致しましたぁ~

 ハ、ハン・・・ハンコ・・・ですよ・・・ね・・・」


「あ、あぁ・・・」


見た目とその喋り方のギャップに、

ユウナギは曖昧な返答を無意識でしてしまっていた。


そして一瞬・・・。

頭を下げたその相手の瞳が、丸眼鏡の隙間から見えると、

『綺麗な目だ・・・』と思わず心の中で呟いてしまっていた。


するとユウナギは今、自分が無意識で言った言葉に気付き、

数回ほど頭を左右に振ると、弱々しく返答したのだった。


「い、いや~・・・お、俺・・・宅配業者じゃないっス」


「・・・えっ?」


「ど、どうも、すみません。

 こ、こんな所に・・・ま、まさか『インターフォン』が在るだなんて・・・

 あはは・・・お、思わず押しちゃいました・・・。

 ほ、本当にごめんなさいっ!」


頭を深々と下げ謝罪するユウナギに困惑するその女性は、

謝罪するユウナギに対し、『ボソボソ』と何かを呟き始めたのだった・・・。


「たっ、たっ、宅配では・・・ない?」


「は、はいっ!ほ、ほんっとにすみませんでしたぁぁぁっ!」


「た、宅配ではないと言う事は・・・」


「ちょ、ちょっと道に迷ってしまいましてっ!」


そう告げたユウナギだったが、その女性はいきなり大声で叫び始めた。

そしてその表情は『この世の終わり』とでも言わんばかりの形相をし、

『い、嫌ぁぁぁぁぁっ!なっ、何でぇぇぇぇぇぇっ!?』と言いながら、

凄まじい勢いと光の如き速さで扉が開いたままの幹へと姿を消したのだった。


「・・・な、何なんだ・・・一体・・・」


妙な緊張感を感じていたユウナギは、

自分が酷く汗をかいていた事に驚くほどだった・・・。


その後5分ほど過ぎた頃だった・・・。


いつまで経っても出て来る気配がないその女性心配したユウナギは、

珍しくその場で『ウロウロ』としていた。


(どっ、どーしようっ!?

 お、俺のせいで彼女にトラウマ的な?

 そんなもんを与えてしまったぁぁぁぁっ!?

 わ、悪気はなかったんだっ!悪気はっ!

 た、ただ俺はあの『インターフォン』のボタンをただ・・・

 押したくなっただけなんだぁぁぁぁっ!

 そ、それなのに・・・それなのにっ!?

 どーしてこーなったんだぁぁぁぁっ!?)


頭を抱えながら『ウロウロ』するその姿は、

まるで女性を着け狙う『ストーカー』そのもののように見えた。


そして悩んだ挙句ユウナギは『よしっ!こーなったらっ!』と声を挙げると、

再び『インターフォン』の前へと移動し、

小刻みに震える指でそのボタンを勢いよく押した。


『グキッ!』


「ぐぉぉぉぉぉっ!?い、痛てぇぇぇぇっ! 

 き、緊張の余り・・・ボタンからそれたぁぁぁっ!?

 い、痛てぇぇぇっ!まじで痛てぇぇぇっ!

 つ、突き指したんですけどぉぉぉぉっ!?」


ユウナギは緊張の余り勢い余って狙いを外し、

何もない場所を押してしまったのだった。

そして挙句の果てにその勢いが災いとなり、

人差し指を派手に突き指してしまったのだ。


「ぐぉぉぉっ!お、思ってたより・・・痛てぇーっ!」


ユウナギが派手に腫れあがる人差し指を押さえながら蹲っていた時だった・・・。


突然どこからともなく・・・どこかで聞いた音楽が流れて来た・・・。


「こ、この曲・・・はっ・・・ま、まさかっ!?

 う、嘘・・・だろ?

 だ、誰か・・・う、嘘だと言ってくれぇぇぇっ!?」


痛みで顔を歪めながらも、ユウナギはその聞き覚えのある音楽に、

物凄く・・・動揺した・・・。


『きっと来○~♪きっ○来る~♪』


「ぐぉぉぉっ!?や、やはりこの曲がかかると言うことはっ!?」


恐怖の余りユウナギは腰を抜かし地面に尻もちを着くと、

ガタガタと震えながら何故か『ボ~』っと光る井戸を凝視していたのだった。


『カサッ!カサッ!カサカサカサッ!』


「・・・うんぐっ!?」


井戸の中から妙な音が聞こえる度、

ユウナギの顔は引きつり・・・声にならない声を挙げていた。


そして・・・。


『ピタッ』と・・・井戸のへりに真っ白い手が掛けられた瞬間、

ユウナギは『ひぃぃぃぃぃっ!』と悲鳴を挙げた。


井戸に掛けられた手に力が込められると、

井戸のへりから黒い髪が現れ、

まるで恐怖を刻み付けるが如く・・・ゆっくりと頭部が出現した。


「さっ!さ・・・貞○キタァァァァァァァッ!?

 むっ・・・むむむむ・・・無理っ!

 ぜっっっっったいにっ!ま、まじで・・・む、無理っ!」


『ピタッ・・・ピタッ』と・・・。

身体を引きずるように井戸からボロボロの真っ白い服を着た女性が、

這い出して来た・・・。


「うぎゃぁぁぁぁぁっ!お、お許しをーっ!

 ナ、ナンマンダブ・・・ナンマンダブ、ナンマンダブーっ!」


両手を合わせ必死に念仏を唱え始めたが、

ここは地球ではない・・・。

そしてまた・・・日本でもない・・・。


そんな事も忘れるほどユウナギは必死になって念仏を唱え、

目の前の現実から逃避していたのだった。


『ズルッ・・・ズルッ・・・ズシャッ・・・

 カサッ・・・カサカサカサッ』


「うぉぉぉぉぉぉっ!く、来るっ!

 ま、まじで来てるっ!?

 ナ、ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブー!

 エロイムエッサイム、エロイムエッサイムっ!

 わ、我は求め訴えたりーっ!」


もはや冷静な判断などユウナギは出来なかった。

自分が勇者だと言う事も忘れ・・・。

先程心に決めたはずの・・・最大級の攻撃呪文の事なども、

もうすっかりと忘れてしまっていたのだった。


(た、助けてくれぇぇぇぇっ!

 とーちゃんっ!かぁーちゃんっ!そして妹よぉぉぉぉっ!)


『カサッ・・・カサカサカサッ・・・』


一心不乱に念仏を唱え続ける中・・・。

『カサカサ』言っていた音が・・・

目を固く閉じ念仏を唱え続けるユウナギの前で・・・

止まった・・・。


「ひぃっ!?」


常人であれば間違いなく卒倒し気絶しているだろう・・・。

だがユウナギは不幸な事に・・・『勇者』である。


気絶しかける度、スキルによりメンタルが強制補正される為、

『気絶』する事が出来ないのである。


この時ばかりはユウナギも自分が『勇者』である事をどんなに呪った事か・・・。


(い、意識が・・・

 ・・・と、遠のく度に・・・。

 ほ、補正がかかって強制的に現実へと戻されるぅぅぅぅっ!?

 う・・・うそんっ!?

 あ、あの糞女神ぃぃぃぃぃっ!お、お前のせいで俺はぁぁぁぁっ!

 ぜぇぇぇぇたいっ!か、必ずぶっ殺してやるからなぁぁぁっ!

 だっ、誰でもいいっ!

 い、今だけでいいからっ!ゆ、勇者辞めさせてくれぇぇぇぇっ!

 か、神様仏様っ!

 後・・・ついでに・・・お、お内裏様とお雛様っ!

 なっ、何でもいいっ!

 不幸な俺を助けてくれぇぇぇぇぇっ!)


意識が遠のく度に繰り返し現実へと戻されるユウナギは、

そう心で強く・・・未だかつてない程・・・念じ続けた。


そして井戸から這い出して来た女性の息が・・・

『フゥ~』と・・・。


(い、いるっ!?めっ、目の前にぃぃぃぃっ!いるぅぅぅぅっ!?)


ユウナギの頬に当たった瞬間・・・。

思わず・・・何故か『ヘルプ・・・ミィィィィィィッ!』と叫び声を挙げた。


するとその瞬間・・・。


震えるユウナギの右肩辺りがピンク色の光に包まれると、

『キューッ!キュキューッ!』と、

一匹の小さな黒い身体に赤いラインが入った蜘蛛が出現した。

そう・・・それはユウナギがフーシュンから譲られた新たなる仲間・・・。

蜘蛛の獣魔『らぶりん』だったのだ。


『キューッ!』と声を挙げ前足を2本高々と挙げながら、

ユウナギの前に立ちはだかる井戸から這い出した女性へと威嚇し始めると、

『キュッ!キュキュッ!』と攻撃の意思を示しながら、

真っ白い糸を振りまいたのだった。


『ブシャァァァッ!』


こうしてユウナギの獣魔『らぶりん』と『井戸から這い出した女性』との戦いが、

切って落とされたのだった。

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