第44話 疑似人格
色々と訳アリな・・・。
決して短くないミーティングを終えたユウナギ達は、
『らぶりん』の毒を飲みその糸を見分ける為、
目を皿のようにしながら監視をしていた。
そして丁度その頃ユウナギは・・・。
(ん~・・・そろそろ魔力がヤバいんだよな~)
そう思いながら目の前に現在使用中である、
擬体の制御盤をスクリーンに映し出していた。
(ここ最近ずっと調整やらなんやらやってたから、
ふあぁぁぁ~・・・もう眠くて・・・。
い、いや、でも・・・もう少し弄らないと魔力をバカみたいに喰いやがる。
何とかしねーとな~?
しかしどうして突然こうなった?
俺・・・何かしたっけな~?
あぁ~・・・もう面倒臭せーなぁぁぁぁっ!)
そう愚痴を垂れつつもユウナギは制御盤を弄り倒し、
何とかギリギリのラインまで漕ぎ着けたのだった・・・。
(よぉ~しっ!まぁ~とりあえずこれが限界だな~?
一度自分のラボに戻って調整しねーと、どうにもならねー・・・
一体どうなってんだか・・・
はぁ~・・・やれやれだぜ~・・・まったくよ~
って・・・そう言えば、調子が悪くなり始めた時って・・・確か・・・)
そう考え始めた時だった・・・。
擬体に内蔵されている魔力感知センサーが『ピピッ』と反応した。
ユウナギは視線をそちらへと向けるのだが、
どうやらターゲットではないようだった・・・。
(ちょいと魔力感知センサーが過敏な気がするが・・・
ふあぁぁぁ~・・・だ、ダメだ・・・睡魔がまじでヤベェ・・・)
大きなあくびをしたユウナギは、己の現状を把握すると、
再び制御盤を開き、急ぎ操作をし始めた。
(とりあえず・・・。魔力感知センサーはONのままにしておいて~、
お次にこの擬体のスキル『ステルス・モード』をON・・・。
それと~・・・あっ、そうだそうだ・・・。
対象を見失わないように『ステルス・モード』のまま『追跡』っと・・・。
ん~・・・距離は10ⅿほどでいいだろ?
あの『プリント型・擬体』には、見た所センサーの類もなかったしな~?
これくらいの距離があれば充分だよな~?
あとはアレだ・・・。
魔力の消費を抑える為に、魔力セーブ・モードをONっと・・・。
まぁ~暫くの間は戦闘もないだろうから、魔力を消費する事もないだろうが、
万が一の場合は、俺を起こしてもらえばいいか・・・。
よしっ!設定はまぁ~こんなモノだろ?
あとは~この擬体の疑似人格プログラムを起動してっと・・・。
おい・・・起きろ『コナギ』)
※ 説明しよう・・・。
『コナギ』とは、この擬体の核でもある高純度魔石に内蔵されている、
俺の高圧縮された魔力で作り出された疑似人格プログラムだ・・・。
まぁ~そのなんだ~?簡単に言えばAIみたいなモノだ。
とは言っても、そんな大それたモンじゃねー。
のだ生まれたてでな?
今はただ指示された事をこなすだけの簡易的な代物だ。
ただしこれはあくまで簡易的であって器用に立ち回れるモノでもない。
そう、あくまでその場を凌ぐ簡易的なモノだ。
因みにだが・・・コナギは念話は使えねー・・・。
まだそこまで成長させてねーんだわ。
だからまだ戦闘なんてとんでもねー・・・。
何てったって、『コナギ』はまだ生まれたての赤ん坊に近いからな~。
ってな事で説明終了っと・・・。
ユウナギは『コナギ』の名を口にすると、
『ウイーン』と静かに起動音が聞こえ、擬体のその双眼が黒から青へと代わった。
(主よりこの擬体の主導権を譲渡・・・。
おはようございます・・・ユウナギ様、お呼びでしょうか?)
(ういーすっ!ご苦労さん。
まぁ~そのなんだ~・・・俺の魔力がそろそろヤバくてな?
だから後の事はお前に任せる・・・)
(かしこまりました)
(それでお前の調子はどうだ?
今回は長時間での行動って事になるが、
お前にとっても貴重な時間となるはずだ。
だからしっかりと学習しておけよ?
お前もずっと睡眠学習モードじゃ、つまらねぇーと思うからよ)
(・・・はい、調子は主の魔力を覗いては良好のようですので問題ありません。
ユウナギ様の言われる通り初の実働となります・・・。
ですからこれを糧とし、多くを学びたいと思います)
(はっはっはっ!いい心がけじゃねーか~?
より多く学べるようお前に期待してるぜ♪
で・・・だ。
とりあえずお前が困らないよう一通りの設定はしておいたから、
コナギはその指示のまま行動してくれ)
(かしこまりました)
(あぁ~・・・でも、何かあった場合はすぐに俺を起こせよ?
お前はまだ戦闘出来るほどレベルは高くねーんだからよ?)
(・・・かしこまりました)
(それと・・・。まぁ~言うまでもないが、
魔力消費には充分気をつけてくれ・・・)
そう話したところでユウナギはふと、先程考えていた事を思い出した・・・。
(あれ・・・?確か調子が悪くなり始めたのは、
こいつの睡眠学習モードにしてからじゃ・・・?
ん~・・・疑似人格なんて初の試みだしな~?
今のしゃべり方もそうだが、
こいつの性格はかなりお堅いヤツだな~・・・?
ん~・・・お堅いのはな~?)
そう悩み始めたユウナギは『どうせなら・・・』と言う事で、
柔軟に思考出来るよう調整し始めた。
(ね、眠いっ!まじで眠いっ!
でも・・・これだけっ!これだけやったら俺は温かいお布団で眠るんだっ!
ってな事で・・・緊急妄想モードONっ!)
睡魔に負け始めたユウナギは気力を振り絞ると、
ユウナギ独特の追い込み・・・。所謂妄想モードへと突入した。
(いでよっ!グラマラスなねーちゃん達っ!
うぉぉぉぉぉっ!やっっってやるぜっ!)
脳内でグラマラスな美女達に囲まれながら、
熱く情熱的な声援を送られて来る、ユウナギ独特の妄想モードへと突入した。
この間ユウナギ神速の如く指を動かし、制御盤を操って行くのだった。
~ 妄想モード ~
(きゃぁ~♪ユウナギ様のその厚い胸板に抱かれ・・・。
ユウナギ様~♪そんな事はとっとと終わらせて、今夜私と熱い夜を・・・。
その凛々しい眼差しを私だけに~♪
私も貴方様の奴隷にして~♪
ユウナギ様~♪私のこの大きな胸に貴方様のそのお顔をうずめて~♪)
と、男子特有の痛い妄想で更に追い込みをかけて行くのだった。
だが・・・その昔・・・ある人がこう言った・・・。
『痛さは強さ・・・』だと。
ユウナギは多数のグラマラスな女性達に応援され、
神の如き速さでプログラムを構築して行った。
(ゴ、ゴールは近いっ!だから俺・・・頑張れっ!
も、妄想は・・・ば、爆発だぁぁぁっ!!)
ユウナギは妄想力を最後の武器に、
血走る双眼を向け次々と操作して行った。
(目、目が乾くぅぅぅぅっ!
だ、だが今はそんな事に構っている暇はねぇーんだよぉぉぉっ!
ねーちゃん達っ!オラに元気を分けてくれぇぇぇっ!
うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!)
妄想力をフルに爆発させ作業をし終えたユウナギは、後の事を『コナギ』に任せ、
再び『も、燃え尽きた・・・ぜ・・・ふあぁぁぁぁ~』と、
今年一番の大あくびをした後・・・
まるで遺言でも残すように言葉を残すと・・・即落ちした。
(あ、後は・・・た、たの・・・む・・・。
ムニャムニャムニャ・・・おやすみさーん♪)
(か、かしこまりました・・・。
お、おやすみなさい・・・ませ・・・)
ユウナギが寝落ちした後、コナギは監視任務を引き継いたコナギは、
様々な事に胸を震わせていた。
(・・・ふむ。
何とも心地よい風ではありませんか・・・。
主の国しか知らない私にとっては、良い刺激となります。
主よ・・・。
このような大切な任務に抜擢して下さり、
このコナギ・・・感無量で御座います・・・)
涙・・・こそ出てはいなかったが、
コナギは目の前に広がる景色に感動し、
その五感に触れるモノ全てに心地良さを感じていたのだった。
一方、アスティナ達はと言うと・・・。
ユウナギが眠りに落ちコナギが後を引き継いでから、
30分ほど経った頃・・・。
(みんな・・・どんな感じ?)
そうアスティナから退屈そうな念話が送られて来た・・・。
(あ、あんたね~?
まだ30分くらいしか経過してないわよ?)
(えぇ~・・・だってぇ~・・・
ものっっっ凄くっ!退屈なんだもんっ!)
(退屈とか言ってないで、しっかりと監視しなさいよ・・・)
やや呆れモードのシャルンがそう答えると、
(Zzz・・・Zzz・・・)っと、微かな鼾が聞こえて来た・・・。
(ね、ねぇ・・・これって・・・?)
(ったくーっ!あいつ・・・こんな時に居眠りなんてっ!)
アスティナが怒りに任せ勢いよく立ち上がろうとした時・・・。
(アスティナっ!ちょっと待ってっ!)
(・・・ん?何よ・・・エマリア?)
少し焦った口調でアスティナを止めたエマリアは、
ここ最近ユウナギが何かの作業で眠っていない事を告げたのだった。
(眠ってないって・・・?
あれだけ寝る事が大好きなバカが?)
(バカは余計かと思いますけど、
どうやらユウナギ様のあの擬体・・・上手く調整が出来ていないようです)
そうエマリアが言葉を口にした途端・・・。
(あっ!?)っと驚くエマリアを他所に、
黙って聞いて居たシャルンが嬉し気な口調で口を開いていった・・・。
(ねぇ、ねぇ♪)
(な、何・・・よ?)
(な、何で・・・すか?)
アスティナとエマリアの表情に緊張が走る・・・。
『ゴクリ』と誰かの喉が音を鳴らした時、
最も恐れていた言葉が2人の脳裏に届いた。
(あいつって・・・やっぱり擬体なのね~?
自分でも半信半疑だったけど・・・そっか~♪
なるほど、なるほど納得~♪)
((・・・・・))
沈黙する2人に少しむくれた口調になったシャルンの声が流れて来た。
(ふ~ん・・・。
まだ秘密にしておくんだ~?
ふ~ん・・・)
その口調にアスティナは顔を顰めて見せると、
『はぁ~』と溜息を吐きながら話しをし始めた。
(・・・まぁ~、今更?
黙っててもしょうがいないって言うか・・・。
散々私達もしゃべっちゃったし・・・。
それに、仕事上気まずくなるのも嫌だから話しちゃうけど・・・。
でもっ!口外したら・・・
シャルン・・・あんたでも殺すわよ?)
ドスの利いた声でそう言ったアスティナに、
シャルンは『ゴクリ』と喉を鳴らし、その迫力に悪寒が走った。
(わ、わかってるわ・・・。
何もおちゃらけた気持ちで私も話を聞こうって訳じゃないし、
擬体を使ってるって事は、当然そうせざるを得ない事なんでしょ?
それぐらい察する事は出来るから、何も心配ないわ)
そう答えるシャルンだったが、
アスティナからは予想外の声が返って来た。
(シャルンはそう思っているかもしれないけど・・・。
でもね?あんたが勇者の情報を持っていると知れた場合・・・。
あんた自身にも、不幸が圧し掛かる事になるけど?)
(・・・不幸って、そんな大袈裟な~)
(大袈裟じゃないわっ!
あいつに賭けられた懸賞金なんて、ご存知の通り莫大なモノよ?
それに・・・それだけじゃないわっ!
あいつの敵となる連中が、わざわざ放っておくはずないでしょ?
それを知るあんたも必ず殺されるし、
死を運よく逃れたって、あんた自身に懸賞金が賭けられ、
もし捕まった場合・・・。
どこかの国の奴隷小屋に直行となるはずよ?)
余りに真剣にそう話すアスティナに、
流石のシャルンも動揺を隠せなかった・・・。
(あ、あんた達・・・。
一体誰を敵に回したのよ?)
(そ、それは・・・)
素朴ではある質問だが、アスティナが言葉を詰まらせるのには充分だった。
(・・・言えない事なの?)
(げ、現段階では・・・言えないわ)
(・・・どうして?)
必要以上に食い下がるシャルンに、アスティナはその表情を歪めていた。
それから暫くの間、アスティナは一言も話す事をせず、
ただ黙々と監視を続けて行くのだった・・・。
監視を続けてから2時間後・・・。
陽は徐々に傾き、空が夕焼けに包まれ始めた時だった・・・。
1人監視を続けているコナギは三角座り・・・。
所謂体育座りをしながら感無量の気持ちのまま、任務を続行していた・・・。
だがふと・・・。
主であるユウナギが呟いていた事を思い出した。
(そう言えば・・・主は私の言葉や思考が堅いと言われていたな?
ふむ・・・どう言う意味なのだ?
まぁ~、事実として擬体ではあるから身体は硬いのだが・・・?
あっ、そうだ・・・。
先程主はもう少し柔軟になるようにと、
私をアップデートしたはずだ・・・)
コナギはそう考えながら、
どこがどの様にアップデートされたのかを確認していった。
(ふむ・・・。
身体的なアップデートはされていないようだ・・・。
以前よりも数段、身体の動きはスムーズにはなっているのだがな?
やはり言葉や思考をアップデートしたと言う事なのだろうが、
うむ・・・反映・・・されていないように思えるな?)
疑似人格であるコナギは本来、制御盤に触れる事はない。
だがこの時のコナギは、己のアップデートが反映されていない事を気にして、
ユウナギが操作していた制御盤を確認した。
(・・・おや?何かが点滅しているが?)
制御盤を覗き込んだコナギは点滅するボタンを見て首を捻っていた。
(き、気になる・・・。
わ、私を誘うが如く点滅を繰り返すこの赤い光が・・・
な、内容ぐらいは・・・確認しても良かろう?
そ、それを確認することもまた・・・恐らく私の役目・・・)
誘惑に負けたコナギは制御盤に表示されている内容を確認していくと、
『こ、これは・・・』と眉間に皺を寄せ画面を見つめていた。
(言語とその言語による思考の追加・・・?
一体どう言う意味なのだ?
言葉と思考が堅い・・・だからこの言語と思考なのか?)
そう考えてはみるコナギだったが、
画面に表示されている『関西弁』なる言語を知らなかったのだった。
(か、関西弁・・・とは?
ふむ・・・。この関西弁なる言語をアップデートすれば、
これの対となる言語による思考が連動する仕組み・・・。
な、なるほど・・・流石は主・・・。
全く私には意味はわからんが、何やら凄そうではあるな・・・。
だが・・・言語が変わったぐらいで、そう容易く思考までも変わるモノなのか?)
そう考え点滅するボタンを押し、
疑似人格である自分が自らアップデートしても良いものかと悩んでいると・・・。
(ピピッ!)と魔力感知をした『コナギ』は、アップデートの事を一時中断し、
その対象をまず視認していくのだった・・・。
(魔力感知及び対象を補足・・・。
ピピッ。
主の記憶に在るその容姿と『プリント型・擬体』の魔力を照合開始・・・。
・・・照合中・・・。
ピピッ・・・96%の確率で対象と適合致しました。
更に『らぶりん』の糸の存在も確認・・・。
対象を目標と確認し設定・・・。
主の指示に従い、『ステルス・モード』での追跡を開始致します)
コナギはステルス・モードでの追跡を実行すると、
目標から10ⅿほど距離を取りながら尾行を始めたのだった・・・。
森のすぐ手前では、簡易的ではあるが浸入を阻止するゲートが在るが、
ステルス・モードのコナギにとっては気にする必要はなかった。
そして更にゲート傍で監視する衛士達に悟られる事もなく、
ゲートをくぐり抜けるとコナギは一度周囲を把握する為・・・索敵を行った。
(ピピッ!対象との距離10ⅿ・・・現状維持のまま追尾・・・。
周囲に生命反応多数も、障害と認められる存在無し)
コナギは周囲の索敵をしながら対象と一定の距離を保ちつつ、
ステルス・モードで尾行して行くと、
森の入り口へと差し掛かったのだった・・・。
『ズンズン』と森の中へと突き進む対象に、
コナギは少し疑念を抱かずにはいられなかった・・・。
(・・・何故この男は、なんの迷いもなく森の中へと?
いくら何者かが入れ替わっているとは言っても、
この森の中が何処かの亜空間と繋がっていると知っているはず・・・。
それなのに、何故なのだ?)
コナギはそう疑念を抱きつつも対象者を尾行して行くのだが、
その対象者が森の中へと一歩足を踏み入れた時だった・・・。
『EMERGENCY~エマージェンシー~』
突然コナギの意識の中で赤く光る文字が緊急事態を告げた。
(く、空間が歪んだっ!?)
慌てたコナギは急ぎ駆け出すと森の中へと足を踏み入れたその途端、
『クッ』と呻き声が漏れた時、
コナギの視界が歪み始め、その空間が円を描いたのだった。
(亜空間への移動かっ!?
やはり此処は亜空間の入り口となって・・・)
呻き声を漏らすほど、亜空間への移動は気持ち悪いモノだった。
軽く眩暈を起こしながら少し前を歩いて居た対象者を探すが・・・。
「・・・だ、誰も・・・居ない?
わ、私の目の前に居たはず・・・なのに・・・?
一体どこへ?」
そう口を開いたコナギは目の前に在るモノに、
その動きと思考が一瞬停止した・・・。
「何故・・・こんな所に井戸が?」
コナギが驚くのも無理はない。
その視線が向く先には・・・古びた井戸が『ポツーン』と在ったのだった。
そしてその井戸から立ち昇る禍々しいオーラに、
疑似人格であるはずのコナギに悪寒が走ったのだった・・・。
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