第31話 必殺技っ!

これまで無駄とも思える数々のギミックに野次が飛び交う中、

ユウナギが満を持して告げられた「必殺技」の言葉に、

その野次は沈黙へと変わった・・・。


(うむ、ユウナギのあの自信有り気な物言い・・・。

 これはもしかすると一見の価値があるやもしれんな)


今まで散々な目に合わされたエルが思ったように、

周りの者達もユウナギのその迫力に沈黙せざるをえなかったのだ。


「さて・・・御立ち合いの皆々様・・・。

 今までのはほんの軽い戯言・・・。

 言わば・・・前座で御座いますれば・・・」


そう言葉がユウナギから発せられると、

周りの者達もまた期待に胸を膨らませ、今か今かとお披露目を待っていた。


するとユウナギはこの場から300ⅿほど離れた場所を指差すとこう告げた。


「皆々様もご存知の通り、只今あの場所では無様な戦闘が未だに行われております」


そう・・・。

ユウナギが指を差した場所では、

アスティナとリアンダーの小競り合いが続いており、

そしてまたそれを止めようとする者など誰もおらず放置されていたのだった・・・。


するとユウナギは今まで見せていた商人口調を止め、

そして真剣な表情を浮かべると腰を落し半身になると、

戦い続けるアスティナとリアンダーにその左腕を上げ上腕に右手を添えた。


その場の空気がまるで物凄い重力場の中に居るような錯覚に捕らわれるほど、

左腕を上げ構えるユウナギの迫力に、その場に居る者達は圧倒された。


そして誰かがその緊張からか喉を「ゴクリ」と鳴らした瞬間だった・・・。


「カッ!」と見開かれた双眼と共に、ユウナギが声を張り上げた。


「いっっくぜぇぇぇっ!ひっっっっさぁぁぁぁつっ!

 ロケット・パァァァァァンチッ!!」


そう叫んだと同時にユウナギの硬く拳を握られた左前腕部が轟音と共に発射された。


「おぉぉぉぉっ!?と、飛んだぞっ!?」


「な、なんて速度だっ!?」


「う、腕が・・・腕が飛んだぞっ!?」


などと周りの者達がそう声を挙げ驚く中も、

発射されたユウナギの左前腕部は、未だ戦闘を継続している2人へと向かって行った。


「ゴォォォォッ!」と轟音を挙げユウナギの左腕が飛び、

そして都合よくアスティナとリアンダーが組み付いた瞬間・・・。


「「えっ!?」」


「ちゅどーーんっ!」と再び凄まじい轟音を響かせ土煙りが巻き上がった。



ユウナギのその左腕が着弾してから数分後・・・。


「へっへっへっ・・・」


そう笑みを浮かべながら笑いをこぼすとユウナギはその構えを解いた。


巻き上げた土煙りが晴れるとそこには大きなクレーターが出来ており、

擬体の左腕が直撃したアスティナとリアンダーがその場で伸びていた。


そしてそれを確認しに行った屋敷の者が、

ユウナギに向けて腕を大きく〇の字をして見せると、

言葉を失った者達にこう言った。


「これが・・・必殺技だ♪」


笑みを浮かべ静かな口調でそう言ったユウナギのその表情は自信に満ち、

言葉を失った者達は慌てて拍手の雨を降らせたのだった。


そんな拍手をしながらも1人の男が・・・

いや、エルがユウナギの前へと歩みを進めた。


「ユウナギ・・・正直俺は驚きと感動が入り混じり言葉もない」


「へっへっへっ・・・そりゃどーも♪」


「だが1つだけ・・・どうにも腑に落ちんのだが、

 答えてもらってもいいだろうか?」


そう言いながらどことなく神妙な面持ちになり、

クレーターがある場所を見ながらそう言ったエルにユウナギは首を傾げた。


「・・・腑に落ちないって、一体何がだよ?」


「うむ、それはだな?

 飛ばした腕なのだが・・・アレは戻っては来ぬのか?」


「・・・・・」


エルの質問に対しユウナギは暫くの間無言となった。


「ん?ユウナギ・・・聞こえなかったのか?

 まぁ~、あれだけの轟音だ、少し聞こえづらいのやもしれんが・・・」


「あ、ああ・・・そ、そうだな。

 少し聞こえづらかったかもな?

 もう一度言ってもらっていいか?」


「ああ・・・構わんぞ。

 あの飛ばした腕は・・・戻って来ぬのか?

 そう聞いたのだが?」


するとユウナギは静かに目を閉じると、

エルの質問を何度も頭の中でリフレインさせた。


何度も何度もエルの質問を繰り返して行くと、

次第にユウナギの表情は青くなって行くと同時に、

大量の汗が流れ始めた。


「え、え~っと・・・だな?

 腕・・・そ、そうっ!と、飛ばした~・・・腕だろ?

 あははは・・・」


明らかにキョドるユウナギにエルは目を細めると、

咳払いした後・・・静かに口を開いた。


「・・・戻っては来ぬのだな?」


図星を突かれたユウナギは汗をダラダラと流しながらも必死に考えた・・・。


そして必死に考えた結果、ユウナギはこう結論付けると胸を張りこう言ったのだ。


「フッ・・・誰かに取って来てもらえばいいじゃんっ!」


「「「「「・・・はい?」」」」」


「い、いや、だから~っ!近くに居る誰かに取って来てもらうか~・・・

 もしくは・・・自分で取りに行けばいいんじゃ・・・ね?」


「「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」


ユウナギのとんでも発言に周囲の者達は呆れた声を響かせた。


「あ、主様っ!?せ、戦闘中に自ら取りに行く・・・と?

 そうおっしゃるのですかっ!?」


ユウナギの言葉の全てを肯定するシシリーまでもがそう言葉を漏らした。

するとユウナギは眉間に皺を寄せながら訝しい表情して見せた。


「わかってねぇーなぁ~てめーはよぉ~?」


「わ、わかって・・・ない?」


「おうよっ!つまりその~・・・なんだ・・・

 いくら戦闘中だからと言ってだな?

 それくらい余裕で出来る戦え方にしなくちゃ・・・

 まだまだって話なんだよっ!」


ユウナギのその説明にエルはこう思っていた。


(話がすり替わってしまっているではないかっ!

 飛ばした腕の話はどこへ行ったのだっ!?

 貴様のそんな説明では、ここにいる誰一人納得せぬぞっ!)


エルはそう思いつつ周囲へと視線を巡らせて行くと、

シシリーが困惑顔のまま小声で口を開いていった・・・。


「・・・た、確かにそ、それだけの余裕があれば、

 戦い方にも幅が広がり、それだけ冷静に立ち振る舞えば焦りなども・・・

 い、いや・・・でも・・・

 そもそもそんな戦い方なんて・・・ゴニョ、ゴニョ、ゴニョ・・・」


(フッ・・・見てみろユウナギよっ!

 貴様の四神の1人であるシシリー殿も混乱しておるではないかっ!

 そんな説明にここに居る皆が肯定すると思うなよっ!)


したり顔でエルはユウナギを見ていると、

その隣に居たシシリーが突然駆け出し、ユウナギの前で跪いた。


(シシリー殿・・・一体どうされたのだ?)


エルが首を傾げ跪くシシリーの背を見ていると・・・。


「あ、主様っ!も、申し訳御座いませんっ!

 こ、このシシリー・・・主様の意図を読み切れませんでしたっ!

 わ、私はまだまだ未熟なのだと認めざるを得ませんわっ!」


(なっ、なん・・・だ・・・とっ!?)


シシリーの行動を首に傾げ見ていたエルはその発言に驚愕したのだった。


(シ、シシリー殿が・・・あ、あの魔毒の女王であるシシリーが・・・

 こ、肯定したと言うのかっ!?

 飛んだ腕の説明などしておらぬのに・・・だっ!)


驚愕したエルは身を乗り出すように1歩前へと踏み出すと、

その真意を聞くべくシシリーに問い質した。


「シ、シシリー殿っ!?な、何故肯定なさるのか・・・その真意をっ!」


そう問い質してきたエルに鋭い視線を向けると、

顔を引きつらせながら口を開いた。


「黙りなさいっ!

 我が愛しの主様は我々に対し、

 もっと研鑽を積めとおっしゃられている事に気付かないのですかっ!」


「・・・な、なんだ・・・とっ!?」


「いいですか・・・エルよ。

 考えても見なさいっ!偉大なる我が主がですよ?

 飛ばした腕が戻らぬようなそんな欠陥品をっ!

 わざわざ皆にドヤ顔で御見せするはずもないですわっ!」


(くばっ!シ、シシリー・・・ま、待てっ!?

 そ、そんな自信に満ちた笑みで・・・

 お、俺をみ、見ないで・・・お、お願いっ!)



「な、なるほど・・・そ、そのような理由が・・・」


エルはシシリーの説明に納得を示すと、

その視線をユウナギへと向けた。



(なるほど・・・シシリー殿の言う事に納得出来る・・・のだが・・・。

 しかしあやつの表情は・・・)


エルはその視線の先に居るユウナギを見るのだが、

そのユウナギは冷や汗をダラダラと流し、

どう見てもキョドっているのが見て取れた。


そして再び視線をシシリーへと向けると、

ユウナギへと指を差しその口を開いていった。


「シシリー・・・殿?

 そう言われるが今のユウナギを見て疑問など浮かばぬのか?」


「フフフ・・・エル。

 あれはこの私に主様の意図がバレた事に動揺しているだけですわ♪」


「・・・ほう~」


エルはシシリーの答えに疑り深い目を向け、

ユウナギの次の言葉を待つ事にしたのだった。


(ヤ、ヤベーっ!?

 ロケットパンチを撃った後の事・・・考えてなかったぁぁぁっ!

 と、飛ばす事に必死になり過ぎて・・・お、俺とした事が・・・うぅぅぅ

 ドヤ顔で欠陥品って・・・そ、そんなに俺ってドヤってたのかっ!?

 は、恥ずかしいぃぃぃっ!まじで恥ずかしいんだけどぉぉぉっ!

 あ、穴があったら入れたい・・・じゃなかったっ!

 入りたい気分だぜーっ!)


キョドりまくるユウナギだったが、

「コホン」と咳払いを1つした後、言葉を待つ者達に口を開いていった。


「え~っと~・・・だな?

 お、俺の真意は・・・その~なんだ~・・・

 い、今シシリーが言った通りなんだが・・・」


そうユウナギが話し始めると、皆が「おぉぉ~」と言った声を挙げ、

目をキラキラさせながら次の言葉を待っていた。


(うぐぅ・・・み、みんなのし、視線が・・・い、痛い・・・

 い、今更飛ばした後の事考えていませんでしたーっ!とい、言えね~・・・

 そ、それにあの、じゅ、純粋過ぎるその視線に・・・

 お、俺のメ、メンタルは・・・ぐはっ)


「へっへっへっ」と無理矢理笑みを浮かべたユウナギは、

慎重に・・・言葉を探しつつ苦虫を噛み潰したような口を開いていった。


「え~・・・っと~・・・

 わ、わざわざド、ドヤ顔を・・・だな?

 そ、その~見せた~・・・のはですね~・・・」


(どーしようっ!?な、何も思いつかないんですけどぉぉぉぉっ!?

 あ~・・・俺・・・オワタ・・・)


ユウナギが再び大量の汗を流し始めた時だった・・・。


(主~・・・主ってば~♪)


(ん・・・んっ!?マ、マイノーターかっ!?)


(うんうん、うちやよ~♪

 主の事を汚染レベルで愛しているマイノーターやよ~♪)


(お、汚染レベルって・・・こ、怖いんだが?)


突然ユウナギの頭の中に四神の1人でもあるマイノーターから念話が流れて来た。


(怖いやなんてひどいわ~・・・)


(つーかっ!今の俺ってばかなりピンチなんだよっ!

 だからてめーの相手なんてしてる暇ねーんだけどっ!?)


(あぁ~、かなりお困りみたいやね~?

 もし宜しかったら・・・うちが何とかしてもええんやけど~?)


(・・・まじで?)


(うんうん、大まじやけど?

 でも~・・・その代わりと言ってはなんやけど~・・・

 うちの願いを1つだけ・・・聞いて欲しいやけど宜しおすか~?)


(・・・む、無茶な願い・・・じゃなければ・・・な)


(ふふふ♪商談成立やね~♪)


(嫌な予感しかしねーが、背に腹は代えられんしな・・・)


(ほなっ!そう言う事で~♪)



こうしてユウナギはピンチから脱出すべく、

マイノーターの作戦に乗る事になったのだった・・・。


因みにマイノーターの密談に要した時間はわずか1分ほどだった・・・。


そしてマイノーターとの打ち合わせを終えたユウナギは、

言葉を待つ者達に声を挙げた。


「と、まぁ~冗談はさて置いてだな・・・」


そう話を切り出したユウナギにエルは訝しい表情をして見せた。


「突然冗談とはどう言う事なのだ?」


「あぁ~それはな?

 ちょっと俺がしくじった為に、流石の俺も動揺しちまったって話なんだよ」


ユウナギの言葉にここに居た者達は各々顔を見合わせていると、

威圧するようにエルがユウナギへとその足を進めた。


「どう言う事なのだっ!」


「へっへっへっ・・・そんなに怒るんじゃねーよ。

 まぁ~、簡単に言うとだな~・・・

 単に俺が時間の設定を間違えたってだけの話なんだよ」


「・・・時間・・・だと?」


「・・・まぁ~このまま黙って見てろよ」


ユウナギがそう言うと、エルを含めた者達が飛ばした腕へと視線を向けた。



(マイノーターっ!まじで頼むぞーっ!)


(ほいほ~い♪うちに任せなはれ~♪

 主様のカウントに合わせてそれらしい動きでそっちに投げますよって~♪)


(オッケーッ!)


ユウナギはマイノーターとの最終打ち合わせを終えると、

声を出しながらカウントダウンを開始した。


「そろそろ・・・だな。

 カウント開始しまーすっ!」


その言葉に全員が飛ばした腕へと意識を向けると、

ユウナギのカウントダウンが開始された。


「5秒前っ!4・3・2・1・・・ゼロッ!」


カウント終了と同時に、

ユウナギは飛ばした腕へと伸ばされた右手を「グッ!」と握り締めたのだった。


すると・・・。


突然飛ばした腕が「スゥ~」と、音もなく浮き上がると、

飛ばした腕がくるりと向きを変え、ユウナギに対しその拳を向けた。


※ 説明しようっ!

  まぁ~これはマイノーターが認識疎外と超隠ぺいのスキルを使用すると、

  誰にも悟られないように腕をそれらしく持ち上げ、

  他の者達から見れば、勝手に腕が宙に浮いたかのように見えただけなのだよ♪


説明終了っ!



「・・・来いっ!」


(主~♪ほなら行きますよって~♪

 後は宜しゅうな~♪ うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!

 ぶっっっ飛びなはれーっ!)


ユウナギが不敵な笑みを浮かべつつそう声を挙げた瞬間、

その腕は凄まじい速度でユウナギへと向かって行った・・・。


「うげぇっ!?」


ユウナギが声を挙げた瞬間・・・。


「バキッ!」


「ふぎゃぁっ!?」


音速を超え速度で戻って来たユウナギの左腕は、

主である者の顔面に・・・「ゴスッ!」っと炸裂した。


「・・・そ、そんな・・・バカ・・・な・・・がふっ」


「「「「「・・・・・」」」」」


ここに居た者達は目の前で起こった出来事に・・・誰れもが言葉を失った。


そしてユウナギもまた、仰向けに倒れ何か言葉を漏らしていた。


「・・・ちょ、ちょっ・・・と・・・は、はやす・・・ぎ・・・ませんか・・・ね?

 ・・・がくっ」


「ヒュ~」っと心地よい風が吹き抜け誰が沈黙している時、

意識を手放しかけたユウナギの脳裏にはマイノーターからの念話が流れて来た。


(・・・えへっ♪力加減・・・間違えてもうたわ~♪堪忍やでっ♪あ・る・じ様♪)



意識を手放し無様に倒れているユウナギに、

同情する者など誰もいなかった・・・。

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