第30話 男のロマン

無事に擬体と融合を果たしたユウナギとエル・・・。


擬体初心者であるエルの為に講習会を開く事になったのだが、

何故か今居るこの場所には、

いつの間にか設置された黒板と教壇、そして机と椅子が並べられていた・・・。


そして席に座っているのは・・・。


エル、シシリー、ヒューマ・・・

そして何故か着席しているぬいぐるみに、

「マイノーター」と書かれていた事に皆はスルーしていた。



「はい、ちゅ~も~くっ!」


ユウナギは独特なリズムでそう話し始めると、

何故か耳をかき上げる仕草をしながら説明に入っていった・・・。


「はい、まず擬体において最も大切な事は~・・・

 胸の中央部に埋まっている魔石・・・これを守る事が最も重要なのです。

 それとですね・・・。

 今の俺は先生なので皆さん忘れないように・・・」


「「「・・・は、はい」」」


何故か先生口調になっているユウナギに戸惑いながらも、

エルは席を立ちユウナギに質問しようとした・・・。


すると・・・。


「こらぁ~エル~っ!質問がある時はまず手を挙げてからでしょうがぁぁ~っ!」


「う、うぐっ!」


口調は兎も角、何故か強力な威圧を含まれていたのかは・・・謎である。


「・・・は、はい」


顔を引きつらせながらもエルは一応素直にそう返事をすると、

着席し手を挙げてから立ち上がると質問を口にした。


「・・・せ、先生っ!魔石の重要性は分かるのですが、

 それではどうして身体の最も狙われやすい、

 正中線上の胸部に埋め込まれているのですか?」


(なっ、何なのだっ!?こ、この茶番はっ!?)


羞恥に耐え顔を真っ赤にするエルを他所に、

ユウナギはその問いに「いい質問ですね~♪」と言いながら、

黒板に簡略化した胸部のイラストを描き、

指を差し示しながらエルの質問に答えていった。


「はい、ここ~・・・注目~・・・えっと~・・・」


「「「?」」」


話の途中でユウナギは「がくっ」と項垂れてしまい、

話の続きを説明しなくなった。


全員が心配する中・・・。


「だぁぁぁっ!もう面倒臭せぇぇぇぇっ!」


そう言うとユウナギはだるそうに話を続けていった。

そしてこの時皆の心境はこうだった。


エルの場合・・・。


(きっ、貴様が始めた事だろうがぁぁぁぁっ!

 最後までやり遂げるのが勇者のことわりではないのかぁぁぁっ!?)


と、魔界においても堅物で有名なエルビンクはブチギレ・・・。



ヒューマの場合・・・。


(エ、エルよ・・・。こんな茶番に巻き込んでしまいすまねぇ~?

 だが、もう少し・・・もう少し怒らず耐えてくれ・・・。

 俺の相棒は・・・飽き性なんだ・・・だからもう少し・・・待てば・・・)


ヒューマは怒りでプルプル震えながら耐えているエルを見て、

何故か「カラン」と、グラスの中の氷を回しながら酒を飲んでいた。



シシリーの場合・・・。


(フフフ♪相変わらず飽き性なんだから♪

 でもそう言う所も・・・す・て・き♪

 あっ!?で、でもっ!別に他の男を見てもそんな事・・・。

 絶対思っていないんだからねっ!?

 か、勘違い・・・しないでよねっ!)


定番と言えるツンデレ展開を妄想しながら、

魔毒の女王は椅子に座ったまま身悶えていた・・・。



そして最後に、ぬいぐるみに「マイノーター」と書かれた存在は・・・。


別にどうでもいいので次のシーンに参ります。



そしてここは教壇や机などを撤去された場所・・・。


「つー事でだな?魔石の説明は以上だ」


突然ユウナギが話をそう切り出すと、

「ちょっと待てーいっ!」とエルの声が響いて来た。


「ん?何だ?また質問か?」


「いやいやいやっ!お、お、お前っ!?

 まだ魔石の話なんて少しも聞いておらんだろうがっ!」


するとユウナギは「はぁ~」と、深く溜息を吐くと、

またもや面倒臭そうに口を開いていった。


「いや、だからよ?

 さっきナレーターの小娘が説明したろ?

 "別にどうでもいいので次のシーンに参ります"ってよ?」


「そんな事俺は知らぬわぁぁぁぁっ!!」


「はっはっはっ!何だよエル・・・鬼おこじゃんっ♪」


「お、鬼お・・・こ・・・?な、何だそれはっ!?」


またもやユウナギに振り回され始めたエルに、

周囲に居た連中からは「やれやれ」と言う声がも漏れていた。


そんなに周りの漏れ聞こえた声など気にする事もなく、

ユウナギは分厚いA4サイズのファイルを取り出すとエルに手渡した。


「これが説明書だ・・・。

 使用上の注意をよく読まないと・・・爆発するから気をつけよっ!」


「ばっ、爆発・・・だとっ!?」


何故かしたり顔でそう言うと、その場を離れ広い場所へと歩いて行ってしまった。


「こ、こんなに分厚いのかっ!?

 お、俺にこれを読めと・・・言うのかっ!?」


あまりの分厚さに驚愕するエルは嫌々ながらもファイルの表紙には、

「説明書だったり~♪」と何故かそう書かれていた。


(だったり~♪って・・・で、では説明書じゃない場合もあるのかっ!?

 「説明書だったり~♪」と、言うのが・・・タイトルって事なのかっ!?

 お、おのれ勇者・・・いや、元・勇者めっ!)


ユウナギのハチャメチャさに少し慣れて来たエルは、

そのファイルの中身をめくって行くと・・・。


(・・・ん?何だ・・・この文字・・・は?)


初めて見る文字にエルは慌てながらも「パラパラ」とページをめくって行った。


「は、800ページ・・・す、全てがこの謎の文字なのかっ!?

 ど、どう言う事だっ!ユウナギーっ!」


そう叫んだ時だった・・・。


最後のページの端がエルの視界に入り慌てて凝視しすると、

極少の文字でこう書かれていた・・・。


「・・・ぬぬぬ・・・カ、カムチャッカ語・・・翻訳・・・ば、版だとっ!?

 そ、そんな言葉など・・・知るはずもなかろうがぁぁぁぁっ!」


800ページもある分厚い「説明書だったり~♪を」を地面に叩きつけながら、

エルは猛然とユウナギに向かって突進した。


「うおぉぉぉぉぉっ!ユウナギィィィッ!

 その首をたたっ斬ってやるからそこへなおれぇぇぇぇっ!」


怒りに任せて突進してくるエルに、

ユウナギとニヤリとその笑みを向けると声を挙げた。


「さ~てお立合いっ!

 御覧の皆々様方・・・。

 只今よりっ!男のロマンが詰まったこの擬体の性能をご覧あれっ!」


「き、貴様ぁぁぁっ!まだこの俺を愚弄するかぁぁぁっ!」


迫るエルを横目にユウナギは更に話を続けた。


「さてまずこの新型擬体の1つ目のポイントっ!」


「ユウナギーっ!覚悟ぉぉぉぉっ!」


エルがユウナギにタックルを仕掛け、衝突するその瞬間だった・・・。


「とうっ!」


「バシュッ!」


「な、なにぃぃぃぃっ!?」


土埃りを巻き上げながらユウナギは華麗に飛び上がると、

エルの頭を遥かに超えて突進を鮮やかに躱したのだった。


「い、今のは一体・・・っ!?

 そ、それに魔力も何も感じなかったぞっ!?

 魔力もなしにあんな高さまで飛び上がれるはずがないっ!

 むむむ・・・説明してもらおうかっ!ユウナギっ!」


「フッ・・・ああ・・・勿論いいぜ?

 この新型の擬体の脚部にはな?

 圧縮した空気を放出するバーニア・ノズルが付いているんだ」


そう説明しながらユウナギは、

全員に見えるようにふくらはぎを見せると、

高密度の圧縮空気を噴射する開閉式のバーニア・ノズルを見せたのだった。


「うおぉぉぉっ!?なっ、何だこれはっ!?」


エルが驚愕し唖然としていると、興味深そうにシシリーが近寄って来た。


「ユウナギ様・・・ちょっと宜しいでしょうか?

 そのノズルとやらは普段はそのふくらはぎに格納されているようですが、

 それを使用する際に魔力などは使われるのですか?」


そんなシシリーの質問にユウナギは笑顔になると嬉しそうに答えていった。

そう・・・まるで商人のように・・・。


「フフフフフッ!流石はシシリーっ!御目が高いぜっ!♪

 魔力を使用するかしないかで言えば・・・勿論使用するのだが・・・。

 シシリー?今お前は俺の魔力を感じたか?」


ユウナギはシシリーにそう問いかけながら、

ふくらはぎに格納されたノズルを何度も開閉させた。


「い、いえ・・・魔力感知にも引っかかりません」


「だろ~?

 このノズルの開閉使用時の魔力量なんて、

 つまようじの先ほどの魔力も使わねぇんだよ~♪」


「そ、それが本当なら・・・すごいですわねっ!?

 魔力感知にも引っかからないとは・・・

 このシシリー・・・改めて我が愛する主様に感服致しました♪」


そう言ってシシリーは片膝を着くとこうべを垂れ礼を取って見せた。

そして囁くようにこう呟いていた。


「・・・改めて今晩私の部屋で詳しいお話を…」


「・・・・・」


何度か瞬きをした後ユウナギは何事もなかったかのように声を挙げた。


(スッ、スルーっ!?

 こ、この魔毒の女王である・・・こ、この私の言葉をスルーっ!?

 で、ですがそういう所もまた・・・萌えポイントで御座いますわね♪)


何だかんだと言ってもこの魔毒の女王シシリーは・・・変態なのである。

だからユウナギのどんな行動を取ろうとも、

必ず肯定してしまうダメな女王・・・。


略して・・・「ダメジョ」なのである。


魔力感知をもかいくぐるそんな発明にヒューマが声を挙げた。


「相棒・・・質問があるのだがいいか?」


「おうともっ!何でも聞いてくれっ!」


「それの凄さはわかった・・・。

 だがこの世に完璧なモノなんて存在しねーよな?

 それのデメリットがあるのなら教えてもらえねーか?」


ヒューマの最もな質問にユウナギの顔色が一瞬変わった。


「ヒュ、ヒューマの言う通り・・・この世に完璧なモノなんて存在しねー・・・。

 だがっ!これは天才である俺が作った擬体だぜ?

 そんなもの・・・って言いたいところだか・・・

 残念ながらデメリットはあったりするんだよな~・・・これがさ・・・。

 それは・・・つまり~その・・・なんだ・・・。

 見ての通り圧縮空気を貯蔵できるスペースは限られている・・・。

 だから使用回数制限・・・

 つまり、3回までしか使えねーんだな・・・これが♪」


「・・・う、うむ。で、では正直に聞こう。

 身体強化魔法での速度とその圧縮空気ではどちらが優れているのだ?」


「・・・身体強化です♪えへっ♪」


「それを承知で何故・・・そのようなギミックを内蔵したんだ?」


「フッ・・・。ヒューマよ、てめーはわかっちゃいね~・・・」


「何だと?」


「この擬体には・・・男のロマンが詰まってるって言ったでしょうがぁぁっ!」


「・・・なっ!?」


この時この場に居た者達全員が驚愕した・・・。

無駄であるはずのギミックを・・・

堂々と「男のロマン」と言うたった一言で片づけたからだった。


「む、無駄だとわかっているのに・・・かっ!?

 り、理由は何だっ!?

 相棒ほどの男がどうしてそんな事にこだわるのだっ!?」


「フッ・・・脚部から突如として現れるバーニア・ノズル・・・。

 これこそ男のロマンっ!

 そして・・・かっこいいからに決まってんじゃんよっ!」


この時、ユウナギのその言葉に一同全員が驚愕する様を

個別の表情のアップで「タン、タン、タン、タン」と小気味よく演出されたのだが、

それが伝わらないのが忌まわしい・・・(笑)


何故なら原作者は絵の才能が皆無なのだから仕方がないのである。

そして更に言えば・・・

「読者様方の想像力に期待する」と、社畜の原作者はそう言っておりました。



それからユウナギは次々に擬体の説明をして行くのだが、

見ている者達には理解に苦しむモノばかり・・・いや、無駄なモノばかりだった。


例1。


手の指先の先端が割れ、その中から出て来たのは・・・「耳かき」だった。


「それは必要なモノなのか?」との問いにユウナギの返答はこうだった・・・。


「・・・突然耳の中が痒くなった時、便利じゃね?」



例2。


足の指先の先端が割れ・・・。


さて、突然ですがここで問題です。

新しい擬体の足指の先端から出て来たモノとは・・・一体なんでしょうか?

5秒でお答え下さい。


5・4・3・2・1・・・時間切れです。


「正解は・・・CMの後で・・・♪」

ってことで・・・、ユウナギに何故それが出て来るのか?

そう尋ねたところこう答えた。


「なんでって・・・それは俺がただ、蟻が好きだからじゃね?

 観察キットを買って蟻の生態見るのが好きなんだけど・・・

 問題あんのか・・・ああぁん?」


と、言う事で正解は「蟻」でした。


そして更にどうして「蟻」なのか?と尋ねたところ・・・。


「蟻さんは力持ちだし小さいから密偵的・・・な?」


その返答に皆からこんな声が挙がった。


「靴・・・履いてたら・・・外・・・出れないよね?」


その質問にユウナギは困惑の表情を浮かべ動揺の色を濃くすると・・・。


「・・・あっ」


それっきりそれに関連する質問は受け付けなくなったのだった。



例3。


この擬体の両手の小指は高性能の小型爆弾になっているらしい。


それを実際に見たモノ達の意見はこうだった。


「攻撃魔法があるから別にいらないのでは?」


「設置型の爆発系魔法で充分なのでは?」


皆から次々に突っ込まれ、たじたじになったユウナギは、

顔を盛大に引きつらせながらも苦し紛れにこう言ったのだ。


「・・・ま、魔力が・・・魔力がなくなった時・・・べ、便利じゃねっ!?」


と、この様に次々とギミックを見せられてゆくが、

盛り上がっているのは当然ユウナギ只一人だった。


そんな全員の反応に表情を強張らせたユウナギは「フッ」と笑うと・・・。


「てめーらの気持ちはよーくわかったぁぁぁっ!

 だがな?ここからが天才たる俺の真骨頂だぜぃっ!」


そう言ってユウナギは不敵な笑みを浮かべたのだが、

皆はそんな不敵な笑みただ・・・不安でしかなかったのだった・・・。


「フッ・・・次はこの擬体最大のポイント・・・。

 そう・・・それは、必殺技だっ!」


そう声を張り上げ、その表情がアップになった時・・・。

今回の話はエンディングとなり次週へ続くのである。





「さ~て、来週のユウナギさんは~・・・。

 すばりっ!・・・「必殺技っ!」つーことでよろしくぅっ!」


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