第28話 治療と製作と・・・。

擬体製作室で冥王の姉と一悶着があったが、

何とか宥める事に成功したユウナギは早速擬体製作に取り掛かった。


「つーか・・・お前、いつまで居るんだよ?」


「別にいいじゃない?私が居たら何か都合の悪い事でもあるの?」


「・・・別にねーけどよ~?

 なんつーかこ~・・・気が散るっつーか?」


ユウナギは真横に居る冥王の姉が突き出す双丘が気になり、

擬体製作に集中出来ないでいたのだ。


「フフフ・・・そんなに・・・気になるかしら?」


「うっせーっ!バーローっ!

 だいたいな~?てめーがでか過ぎるから丁度双丘がだな~?」


「フフフ♪好きにしても良いのだぞ?」


「・・・ちっ!」


図星だったユウナギは顔を少し赤らめつつ、

舌打ちをし、文句を言うのが精一杯だった。



そんなユウナギを可愛いと思う冥王の姉は、

突如・・・腰に手を当てながら・・・?

ん?・・・部屋の天井を見て・・・って・・・んっ!?


あ、あれっ!?め、冥王のお姉さん・・・?

い、一体どこを見て・・・?


「ちょっと・・・声だけのあんたっ!

 いつまで私の事を冥王の姉と呼ぶつもりなのかしら?」


え、えぇ~・・・と~・・・。


「本当にいい加減にしないと・・・色々と暴れちゃうけど?

 この部屋だけとは限らず、破壊の限りを尽くすけど?

 別にそれでもいいなら・・・続けなさいな♪」


し、失礼致しましたっ!

あ、暴れるのだけはっ!どうか勘弁してくださいっ!

じゃないと・・・私のお給料が減らされちゃうっ!?


「なら・・・分かってるわよね?

 ユウナギ様を説得して、いつも通り呼ぶように伝えなさいっ!」


かっ、かしこまりましたぁぁぁっ!

こ、こほん・・・えぇ~っと、こう言う時は~クレーム処理のページをっと・・・。

あったっ!あったっ!コレねっ!?

ふむふむふむ・・・なるほど、なるほど~・・・。

コホン・・・。ピンポンパンポーン♪

業務連絡、業務連絡~♪

と、言う事で・・・ユウナギさん、いつものように名前で呼んであげて下さい。

じゃないと・・・間違いなくもっと大変な事になりますので宜しくお願い致します♪

ピンポンパンポーン♪



「・・・えぇぇ~・・・まじでか~?」


・・・じゃないと、本当に・・・知りませんよ?

私じゃ責任持てませんからね~?


「・・・ですよね~?

 ・・・面倒臭せ~・・・まぁ~しゃ~ねーか・・・。

 つー事で・・・ヴァマント・・・いや、ヴァマっ!

 俺は今から擬体製作に取り掛かるから、集中させてくれっ!」



ユウナギさん、有難う御座いますっ!

これで私のお給料が減らされずに済みますっ♪


「おうっ!」



冥王の姉・・・つまりヴァマントと名で呼ばれた事に満面の笑みを浮かべると、

ヴァマントは身体を捩らせながら身悶えた。


「フフフ♪やっっっと名を呼んでくれたのですね?」


(・・・呼んでくれたって、てめー・・・ただの脅迫だろうがっ!)


そんなヴァマントに顔を引きつらせたユウナギは小声でポツリと呟いていた。


「・・・面倒臭せ~」


「・・・ユウナギ様?今・・・何かおっしゃられました~?」


「・・・べ、別に」


「フフフ♪邪魔はしないからここで見学させてよ♪」


「・・・わーったよっ!」


ヴァマントの願いを渋々受け入れたユウナギは、

擬体製作に取り掛かっていると・・・。


「トン、トン」と、破壊された扉の前で誰かが口でノックをした。


「うぅぅぅ・・・ま、また邪魔が・・・

 い、一体誰だぁぁぁぁっ!いい加減にしやがれーっ!

 ・・・って~・・・んっ!?」


破壊された扉の前に居たのは・・・。

左腕を吊り包帯をぐるぐる巻きにされた・・・アスティナだった。


「・・・お楽しみ中た~いへん申し訳御座いませ~ん♪」


「・・・げっ!?」


(おや?アレは~・・・ユウナギ様の・・・)


入口の前に立つアスティナはぎこちない笑みを浮かべ、

顔をヒクヒクとさせていた。


「・・・今度はお前かよっ!

 で・・・?一体どうしたんだよ?」


「どうしたもこうしたもないわよっ!

 あんたっ!いつになったら私の腕を治してくれるのよっ!?」


「・・・いつになったらって・・・お前・・・。

 その腕は俺にはどうしようもねーっつったろ~?

 お前自身の回復を待つしかねーってよ~?」


ユウナギの言葉に怪訝けげんそうな表情を浮かべつつ、

アスティナは部屋の中に踏み込んだ。


「私自身ってっ!そんな事言われてもっ!

 回復する兆しが全然ないんですけどっ!?

 その理由を教えなさいよっ!」


「あぁぁぁぁぁっ!もうっ!どいつもこいつも面倒臭せーなぁぁぁっ!

 つーか・・・アスティナさんや~?

 ・・・お前が禁忌を破ってっ!能力を使用したのが原因だろうがっ!?

 これに懲りて・・・少しは大人しくしてろっつーのっ!」


「い・や・よっ!とっとと回復して、ルクナに戻らないとっ!

 エマリア達が心配するでしょっ!?」



ルクナの街に居るユウナギの仲間達に迷惑をかけている事を嫌ったアスティナは、

そう口にするのだが、ユウナギはニヤリと笑みを浮かべて言い返した。


「へっへ~んだっ!そんな心配はいらね~んだな~・・・これが♪」


「・・・ど、どう言う事よ?」


「あいつらの面倒は、既にライに任せてあるからよ♪」


ライ・・・と、その名を聞いたアスティナは、

顔を引きつらせながらワナワナと震えながら声を張り上げた。


「なっ、なっ・・・なんですってぇぇぇぇぇっ!?」


「うるっせぇぇぇぇよっ!?」


「どっ、どうしてライトニングなんか行かせたのよっ!?」


「どうしてって、そりゃ~お前~・・・。

 あいつは俺の執事だからな~?

 だからライに伝言&あいつらの教育をだな~?」


「・・・きょ、教育をって・・・あんた・・・。

 あんなドSの執事に教育された日にはっ!

 エマリア達が廃人になっちゃうじゃないのよっ!?」


「ならねーよっ!」


「なるわよっ!」


「どーしてそんな事になるんだよっ!?」


「どうしてってっ!あの執事は超ドSなのよっ!?

 人の苦しむ姿に狂喜乱舞する執事なんてっ!廃人まっしぐらじゃないのよっ!

 そりゃ~もうっ!猫以上にまっしぐらよっ!」


「・・・猫まっしぐらってかっ!?お前も案外上手く言ってって・・・

 いやいやいや、そうじゃなくてだな~?

 廃人になるだとか、ドS執事って・・・流石に言い過ぎじゃね?

 ・・・ライが聞いたら悲しむぞ?」


「あの執事がそんな事言われたぐらいで悲しむ訳ないでしょっ!」


「・・・ひで~言い様だな~?」


暫くの間、ユウナギとアスティナの言い争いが続いていると、

腕を組んでそのやり取りを見ていたヴァマントが痺れを切らし、

あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべていた。



「言い争っているところ・・・悪いんだけどさ~?」


「「うげっ!」」


「そろそろ私の事を無視するのはやめてくんないかな~?」


膨大な魔力を垂れ流し、拳を「ベキッ!バキッ!ボキッ!」と鳴らし始めると、

アキレス腱などを伸ばし始め、準備運動に入っていった。


その行動に危険を察知したユウナギとアスティナは咄嗟に念話に切り替え、

意思疎通を取り始めた。


(ヤベェェェェっ!あ、あいつ・・・ま、まじでキレてやがるっ!?)


(ちょ、ちょっとっ!?い、いいい一体どーすんのよっ!?)


(知らねーよっ!てめーが来たから話がややこしくなったんだろうがっ!?)


(私のせいにしないでよっ!

 あんたがとっととこの腕を治さないからでしょうがっ!?)


因みにだが・・・。

この念話でのやり取りにかかった時間は、わずか1秒ほどだった。


そんな2人が冷や汗を大量に流しながら背後でキレるヴァマントを見た。


「フッフッフッ・・・」


((こ、こえぇぇぇぇっ!?))



ユウナギとアスティナはこの後、必死にヴァマントの機嫌を取り、

肩を揉んだりおだてたりと、兎に角機嫌を取る為に時間を費やした。


そして・・・。


「ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・や、やっと・・・」


「も、もぅ・・・わ、私・・・む、無理・・・」


数時間にも及ぶ戦いが終焉を迎え、

ユウナギは気合を入れ直すと、擬体製作へと着手した。


その様子をソファーにもたれながら、

アスティナとヴァマントはユウナギの仕事ぶりを興味深く見ていたのだった。


「なぁ・・・娘よ?」


「む、娘ってっ!私はあんたの娘じゃないわよ。

 アスティナ・・・。私の名はアスティナよっ!

 気軽に呼んでくれて構わないから・・・」


「うむ、ならば私もそれに習うとしよう。

 そうね~・・・下賤なるアスティナよ。

 私の事は、神をもひれ伏する美しさを持つ女王ヴァマント様とお呼びなさい」


「・・・長すぎるわよっ!?もう少し短くしなさいよっ!

 って言うかっ!誰が下賤なるアスティナよっ!?

 あぁぁぁ~、もうっ!

 もう面倒だから、ヴァマントって呼ぶけどいいわよね?」


「フッ・・・まぁ~貴様は、我が親愛なるユウナギ様の相棒だからな?

 特別に・・・名で呼ぶ事を許そう♪」


「・・・はいはい、それはどーもっ!

 何よっ!ったくっ!」



そんな話を暫くの間していると、ユウナギの手が止まり、

作業台の横に在る椅子に腰を降ろした。


「まぁ~・・・現状、バージョンアップは出来たけど、

 やっぱり物足りね~・・・」


そう言って再び図面を取り出したユウナギはそれを広げ、

ブツブツと何か独り言を言い始めた。



独り言をまるで念仏のように言い始めたユウナギを見ていたヴァマントが、

アスティなに視線を移すと何か言いたそうにしていた。


「・・・何よ?」


「・・・ふむ」


「何か言いたい事があるんじゃないの?」


「・・・うむ、ならば言わせてもらおう。

 アスティナ、どうして貴様はユウナギの手伝いをしてあげないのよ?」


「手伝いって・・・。

 私の左腕はこんな状態だし・・・。

 それに擬体の事なんて私にはわからないわよ?」


アスティナの言葉にヴァマントは視線を負傷している腕へと移すと、

じっと見つめ何かを考えているようだった。


「うむ・・・。それじゃ~その腕の負傷・・・私が治してあげるわ♪」


「・・・えっ!?で、出来る・・の?」


「まぁ~これくらい何て事ないわね♪」


「で、でもこれを治すには、まず膨大な神力がないと・・・」


「フッ・・・。私を誰だと思ってるの?

 冥界の王の姉である私も・・・神の1人なのよ?

 これくらい治せなくて、冥界を統べる事なんて出来る訳ないでしょ?」


「・・・あははは・・・流石は・・・ってところね?」


ヴァマントはニヤリと微笑むと負傷しているアスティナの左腕に手をかざした。


「少~し、痛いと思うけど・・・気合入れて耐えて見せなっ!」


「・・・わ、わかったわよ」


アスティなの返答を聞いたヴァマントは、

先程とは打って変わって鋭く刺さるように目付きに変わった。


「はぁぁぁっ!」


「うぐぅっ!」


かざしたヴァマントの掌から紫色の神力が負傷した左腕を包んでいき、

それと同時にアスティナの表情は激痛に歪んでいった。


「うがぁぁぁぁっ!」


「これぐらいの痛みっ!耐えて見せなっ!」


「わ、わかって・・・るわよっ!」


「・・・フ」


(ほぅ~・・・?こやつはやはり・・・。

 しかしユウナギ様はどうしてこんなモノを・・・?)


そんな疑問がヴァマントに生まれるも、それを口にする事はなかった。


それから暫くの間、ヴァマントはアスティナの治療に専念していると、

勢いよく椅子から立ち上がったユウナギが興奮気味に声を挙げた。


「や、やってやるっ!やっっっってやるぜっ!

 お、男のロマンを・・・俺の擬体に全て叩き込むぜっ!」


ニヤリと悪趣味な笑みを浮かべたユウナギを見たヴァマントは、

アスティナの治療を終了させると、ユウナキに声を掛けた。


「ユウナギ様~?このポンコツの治療は終わつたわよ?」


「よ、よーしっ!男のロマンを今・・・ここにっ!」


「・・・ユウナギ様っ!?わ、私の話・・・聞いてるのっ!?」


ロマンとやらにいきり立っているユウナギの耳には、

ヴァマントの声など全く届いていなかった。


「・・・き、聞こえてないのか?」


寂しそうに小声で呟くヴァマントに、

苦痛に歪むアスティナが八つ当たり気味に皮肉言ってきた。


「あっ、あんたの・・・こ、声なんて・・・

 今のあい・・・つに、届いている訳・・・ないでしょう・・・が・・・」


「・・・そのようね」


「あいつは全て・・・自分の気の向くままに・・・動くだけよ。

 今も昔も・・・ね」


「・・・フフフ♪そう言えばそうだったわね」


それから数日時間をかけて擬体を完成させた。



そしていよいよ擬体とリンクさせる当日・・・。


ここはユウナギの城にある実験室・・・。


今、この場所には冥王の姉弟、アスティナ、そしてエルとリアンダーが居る。


製作した擬体は・・・2体。


そしてその前に居るのは・・・ユウナギとエルの2名。



「・・・じゃ~そろそろ・・・おっぱじめるかっ!」


「・・・お、おうっ!」


初めて自分の擬体を前にしたエルは、

興奮と緊張に顔を強張らせていたのだった・・・。


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