第27話 6秒
ユウナギ達が医務室で騒ぎ疲れ各々がソファーに腰を下ろすと、
エルが話を切り出してきた・・・。
「ユウナギ・・・。
そろそろこの御人の紹介してくれてもよかろう?」
話を切り出してきたエルにユウナギは「ふぅ~」と息を吐くと、
そのフードの男に視線を移しながら、面倒臭そうに話し始めた。
「あ~・・・こいつか?」
「あぁ・・・」
「こいつの名は・・・サンダラー」
「なっ!?」
ユウナギが憂鬱そうにフードの男の名を告げると、
エルは驚愕の眼差しを向けると、慌ててフードの男の前で膝を着いた。
「めっ、冥王様っ!
し、知らぬ事とは言えっ!た、大変失礼を致しましたっ!」
「うい~すっ!」
(う、ういっ!?なっ、何だっ!その文言はっ!?
お、俺の知らない挨拶がこの世に存在するだとっ!?)
エルの慌てようにサンダラーは「はいはい」とあしらって見せると、
苦笑混じりにユウナギが声を掛けた。
「ははは・・・お前、こいつが誰だか知ってたのか?」
「しっ、知らぬはずがなかろうっ!?
この御方は我が魔王様をも軽く凌駕する存在なのだぞっ!」
「・・・だから、何?」
「・・・?」
魔王をも超える偉大なる冥王に対し、ユウナギは平然とそう答えたのだった。
「だ、だから何?とは・・・貴様っ!冥王様に無礼であろうがっ!」
「・・・・・」
ユウナギはエルの怒号に「やれやれ」と言ったポーズをして見せると、
そんなユウナギを横目にしながら苛立ちを見せたサンダラーが言葉を漏らした。
「あんたは何もわかっちゃいねぇ・・・」
「・・・?」
「いいか?兄貴はよ?俺とサシで戦って勝った男だぞ?」
「こ、こいつが・・・?ま、まさか・・・まさかそんなっ!?」
動揺を見せるエルはユウナギとサンダラーを口をパクパクとさせながら、
交互に見ていった。
「こ、こいつにそんな実力がっ!?
い、いや待て・・・だが我が魔王様と戦った時は、
それほどそんな強さを感じなかったのだが・・・?」
首を傾げ困惑するエルにユウナギが声を挙げようとした時だった・・・。
突然部屋の空間にゲートが出現すると、
「ギィィィ」っと音を立てながら扉が開かれた。
するとユウナギとサンダラーが呻くように「げっ!」と呻くと、
その扉から出て来たのは、
紫色の長い髪を掻き上げながら美しい女性が姿を現したのだった。
髪の色と同じ紫色のドレスを纏ったその女性は、
気品を漂わせエルを魅了したのだった。
「ゴクリ」と喉を鳴らすエルはその美しい女性に目を奪われていると、
その女性はユウナギを見つめ、そして瞳を潤ませながら声を挙げた。
「お、お邪魔するわよ?」
「・・・邪魔するなら帰れ」
「あいよっ!」
ユウナギの言葉に咄嗟にそう答えたその女性は、
くるりと踵を返すと「バタンッ!」と音を立てて、
ゲートとともにその姿を消したのだった。
「い、一体・・・な、何が?」
消え入りそうな声でエルがゲートがあった付近をただ見つめていると。
再びゲートが出現し、勢いよく扉が開けられた。
「ちょっ、ちょっと!どうして私が帰らなくちゃいけないのよっ!?」
そう怒鳴りながら現れたのは、先程の女性だった。
「何だよ・・・ったくよ~・・・面倒臭せーなーっ!」
「めっ、面倒とか言ってんじゃないわよっ!?
せっっっかくあんたの為にめかし込んで来たってのにっ!」
「・・・はぁ~・・・頼んでねーし」
気だるそうにそう言うユウナギに、
エルは声を荒げ始めた。
「ユ、ユウナギッ!?じょ、女性に対して何だっ!?
その物言いはっ!?」
「・・・ちっ」
そう舌打ちをしながらユウナギはその女性からそっぽ向けると、
苦笑いを浮かべたサンダラーがその女性に話し始めた。
「・・・姉~ちゃんよう~?一体何をしに来たんだよ?」
嫌そうな口ぶりでそう話すサンダラーに睨みを利かせたその女性は、
声を荒げながらその口を開いていった。
「何しにってっ!その言い方っ!?
折角ユウナギ様から御声がかかったって言うのにっ!
どうして私は呼ばれない訳っ!?」
「はぁぁっ!?兄貴は俺に声をかけたんだよっ!
姉ちゃんはお呼びじゃねーんだよっ!」
突然言い争いを始めた冥王とその女性・・・・。
エルは茫然としながらも説明を求めていった。
「め、冥王・・・様?そ、その・・・せ、説明などをして頂けると、
大変嬉しく思うのですが・・・?」
「はぁぁぁ~?」
エルに対してあからさまに嫌がる態度を向けるサンダラーに、
「姉ちゃん」と呼ばれた女性が訝し気な顔をしてエルを見ていたのだが、
その瞳は身も凍るような冷気を帯びているようだった。
「ねぇ、この男って・・・誰よ?」
その問いに答えようとサンダラーをユウナギは制すると、
エルに対し顎をクイっとして見せた。
「・・・子供じゃねーんだ。お前が答えろよ」
「・・・わ、わかった」
言葉短くそう言うと。エルは立ち上がりその女性の前で片膝を折って見せると、
頭を下げながら名乗っていった。
「お、俺は・・・
いや、私は魔王様配下、作戦参謀を務めております・・・
魔戦将・エルビンクと申します」
「・・・ん?魔王配下って・・・ユウナギ様に倒された?」
「は、はっ!ま、誠にい、遺憾ながら・・・」
エルの言葉を聞き流しながら、その女性はユウナギに話しかけ始めた。
「ねぇ、ユウナギ様?魔王って・・・?」
「あぁ、そうだよ」
「そう・・・」
ユウナギの不愛想な返事を気にする事もなく、
何かを察したその女性はニヤリと笑みを浮かべて見せた。
「フッフッフッフッ・・・。
つまりは・・・アレね?」
アレ・・・と言われたエルは少しながら顔を顰めて見せると、
その女性の横に並んだサンダラーがエルを見下ろしながら声を挙げた。
「あぁ~そうだよ・・・姉ちゃん」
「つまり・・・ユウナギ様の敵っ!」
「・・・は、はい?」
そう言い捨てるとその女性は、
突然マジックボックスから武器を取り出しエルに襲い掛かった。
「ユウナギ様の・・・敵ーっ!」
「ブオンッ!」
その女性が取り出した武器は・・・デスサイズ・・・。
問答無用のいかつい大鎌の刃がエルに襲い掛かって来た。
「なっ!なんとぉっ!?」
「ドカッ!」とその大鎌の刃が床に大きな切れ目を作ったのだが、
咄嗟に身を翻したエルは声を荒げて見せた。
「まっ、待たれよっ!?」
「曲者めっ!」
「ブオン、ブオンッ!」と風邪きり音が部屋に鳴り響き、
「ガシャン!ガシャンッ!」と部屋の設備が破壊されていく。
「は、話をっ!」
「五月蠅いわねっ!この下郎っ!」
エルはその女性の大鎌を紙一重で躱しながら言葉を繋げて行くのだが、
その攻撃が一向に止む気配がなかった。
「ちっ!あ、後が・・・ないっ!」
「覚悟ーっ!!」
その女性の氷のようなその瞳が「ギラリ」と鈍く光り、
壁際へと追い詰めたその瞬間、
叫び声を挙げながら大鎌を振り上げた。
(や、やられるっ!)
観念したエルは目を固く閉じるのだが、
その女性の大鎌はエルの元へは届かなかった。
(・・・攻撃が・・・?)
固く閉ざされたその目をゆっくりと開けると、
その目の前にはユウナギが立っており、
その女性の大鎌を涼し気な顔をして指一本で止めていたのだった。
「い、いつの間に・・・?お、音など何も・・・っ!?」
「・・・エル、お前・・・どうして反撃しねーんだよ?」
背中を見せたままユウナギがそう言うと、
困惑気味の表情を浮かべたエルはたどたどしく口を開いていった。
「い、いや・・・そ、それは~・・・だな?
あ、相手は・・・女性ではないか?
そ、それに・・・は、話からして・・・
め、冥王・・・様の・・・姉上である訳だし・・・な?
ま、万が一・・・万が一だ・・・傷付けでもしたら・・・と・・・」
「へぇ~・・・そんなくだらない理由なのか?
本当にお前は甘いやつだな~?」
「なっ!?」
ユウナギはそう言うと、大鎌を止めていた人差し指を引くと、
「ドカッ!」とその大鎌が床へとめり込んだ。
床にめり込んだデスサイズに視線を移したエルは、
力なくズルズルと壁に背を着けたまま床に尻を着いた。
「・・・人族に対しても、それくらい寛容だったら・・・な?」
「・・・・・」
人族に対して・・・。
そう抑揚のない口調で言葉を漏らしたユウナギに、
エルは冷や汗が止まらなかった。
「・・・そ、その」
「・・・言い訳が別に聞きたい訳じゃねーんだ。
お前達魔族が、もっと人族に対して友好的であったなら、
こんなくだらねー戦いなんぞなかったってこったっ!」
「・・・す、すまぬ」
ユウナギの言葉にエルは拳を硬く握り締めていたが、
ユウナギは容赦なく言葉を続けた。
「もしこんなくだらねー戦いがなかったら、
俺はここに来なくて済んだはず・・・なんだがな?」
「あ、兄貴・・・」
「ユ、ユウナギ様・・・」
事情を知る冥王姉弟は眉間に皺を寄せると、
しんみりとした雰囲気が部屋を包み込んだ・・・。
すると「ふぅ~」っと息を吐いたユウナギが足取り軽く扉の前に向かうと、
振り返りながらにこやかな笑顔でこう告げた。
「お前ら~・・・連帯責任でこの部屋の損害を弁償しろよなっ♪」
「・・・はい?」
「・・・へっ!?」
「・・・うぐっ」
軽快な足取りなままユウナギは扉を開けると、
ポカーンと口を開けたままの者達を残し部屋を退出して行った。
「・・・・・」と、沈黙が訪れる中、
サンダラーがポツリと言葉を漏らした。
「あ、兄貴・・・。
お、俺・・・関係なく・・・ね?」
暫く沈黙していると、エルが神妙な面持ちで話を切り出してきた。
「御二方・・・大変申し訳ないのですが、
ヤツがこの世界に来た理由をご存知であるのなら、
教えて頂きたいのですが?」
「あんた・・・ユウナギ様の敵なんじゃないの?」
冥王の姉であるに相応しいその威圧ある言葉に、
エルはかつてないほどのプレッシャーに顔を歪めたが、
それに負ける訳にはいかなかったのだった。
「い、今は・・・て、敵で・・・は・・・な、ない。
め、盟友とし・・・て、ち、力を貸す・・・と・・・」
「・・・あら?そうなの?」
そう軽い口調で姉はそう言うと、エルを苦しめる威圧を解いたのだった。
「ぷはぁ~っ!」と息を大きく吐いたエルが喉を押さえながら説明していった。
「さ、先程申したように・・・。
今の私はユウナギ殿の盟友となり力を貸すと誓いました。
ですが、私はヤツがこの世界に来た理由を知りません。
で、ですので・・・そ、その理由とやらをお聞かせ願えないでしょうか?」
エルの質問に2人は顔を見合わせ「う~ん」と唸ると、
「・・・今更内緒って事でもないわよね?」と言い、
ユウナギがこの世界に来た理由を口にし始めた。
事情を聞かされたエルは顔を顰め拳を固く握り締めて見せると、
吐き捨てるように一言・・・言葉を吐いた。
「・・・神めっ!」
そう吐き出されたエルの言葉を医務室の扉に持たれかかっていたユウナギは、
少し思い詰めた表情を浮かべながら医務室を後にしたのだった。
それから暫くの時間が経過して、ここはユウナギ専用の擬体製作室・・・。
ユウナギは新たな擬体製作に必要な素材を前に思案していた。
「今度はもうちょいマシな・・・擬体を作らねーとな~?
あんな下っ端相手にズタボロにされるようじゃ・・・使えね~・・・。
とは言ったものの、長年使い込んだせい・・・ってのもあるけどな~?」
そうブツブツと自問自答しながら、図面と素材を改めて吟味し始めた。
すると・・・。
「コン、コン」と擬体製作室の扉がノックされた。
(・・・誰だよ?俺は今、忙しいっつーのっ!)
居留守を決め込んだユウナギがそのノックをスルーしていると、
扉の外から怒鳴り声が響いてきた。
「ちょっとっ!ユウナギ様っ!ここに居る事はわかってんのよっ!?」
(なっ!?何だよっ!?てめーかよっ!?
あぁぁぁぁっ!もうっ!面倒臭いヤツが来ちまったぜ~・・・
いくらあのバカ力の女でも流石にこの結界は無理だろうしな~♪
と、なれば・・・このまま居留守を決め込むかな♪)
机にある図面を見つめながら暫く音を立てずに居ると・・・。
(ん?・・・帰った・・・かな?)
ユウナギがそう油断した時だった。
「うおりゃぁぁぁぁぁっ!」と気合の入った叫びと共に、
元・とは言え勇者が本気で張った結界に凄まじい衝撃が走った。
「・・・ま、まさか・・・だ、だよな?ハハハ・・・」
ユウナギは悪寒を振り払うように作業を止めると、
目の前で起こっている現実に顔が引きつり始めた。
「ドォーンッ!ドォーンッ!ドォーンッ!」
ユウナギが張った結界に4度目の衝撃が伝わった。
「あは、あはは、あは・・・はははは・・・」
大量の冷や汗がユウナギの頭から流れ落ち、
目の前で起こっている光景に喉がゴクリと鳴った。
「ピキッ!ペキッ!ペキッ!バキンッ!」
「・・・ま、まじかっ!?」
ユウナギの張った結界は無残にも・・・砕け散った。
「け、結構まじで張った・・・け、結界な、なんだけどな~・・・
あはははは・・・あぁ~あ・・・」
その現実を受け入れた瞬間だった・・・。
「この程度の結界で私を止められると思うなぁーっ!」
「ドカァーンッ!」
結界が砕け散り、擬体製作室の扉がユウナギの顔の横を音速で飛び去って行った。
「・・・ゴクリ」
再びユウナギが喉を鳴らしたその時、
「カツッ!カツッ!カツッ!」とヒールの音が響き渡り、
冥王であるサンダラーの姉が紫色の長い髪をなびかせながら入って来た。
そして部屋へと浸入したのと同時に「カツンッ!」とその歩みを止めると、
「ビシッ!」とユウナギを指差し殺気を放ちながらこう言った。
「・・・私の扱いについて弁明しろっ!」
豊満な胸を突き出すような形で、
ユウナギの前に立ちはだかった女はそう告げるとニヤリと冷たい笑みを浮かべた。
するとユウナギが苛立ちを見せながら、
自分の頭をクシャクシャっと掻き始め暫くするとその動きを止めた。
「・・・・・」
「・・・・・」
いつまで経っても動こうとしないユウナギに、
痺れを切らした女は再びその怒号を響かせた。
「・・・6秒やるっ!さっさと説明しろっ!」
そう言い放った女の言葉に、
ユウナギの眉がピクリと反応示すと顔を上げ睨みを利かせながらこう言い返した。
「たっっった6秒で伝わんのかっ!?」
「・・・・・」
擬体製作室は緊張の渦に飲み込まれて行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます