第26話 謎の男と擬体の注文

突然現れた黒いゲートが開き、

その中から現れた黒紫色のフードを被った男・・・。


その凄まじい魔力を感じたエルは、

咄嗟にユウナギの前に立ち塞がり剣を構えた。


「何者だっ!?」と声を挙げるもその男からのリアクションはなく、

ただ部屋をキョロキョロと見渡していたのだった。


「・・・おっ!?居たぁぁぁぁぁっ!」


歓喜の声を挙げたその黒紫色のフードを被った男は、

ユウナギを指差し笑みを浮かべていたのだった。


だが、ユウナギはその男に対し深い溜息を吐いて見せ、

その表情は今にも何か爆発しそうな雰囲気を醸し出していた。


「・・・て、てめー・・・な、何が・・・居たぁーっ!だよ?」


「・・・へっ!?」


拳を握りながらワナワナと震え始めたユウナギに、

その黒紫色のフードを被った男の声が裏返っていた


「・・・3日だ」


「・・・ヒィッ!」


「・・・てめーはこの3日間一体どこで何をしてやがったんだぁぁぁっ!」


「ヒィィィッ!」


ユウナギの怒りが爆発しその圧倒的な威圧の前に、

その男は完全に萎縮し腰を抜かして尻もちを着いてしまった。


「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」


尻もちを着いたまま神に祈るように両手を組むと、

ひたすらユウナギに対し謝罪を連呼していた。


この状況に置いてけぼりを食らったエルが、

怒りを爆発させているユウナギに声をかけた。


「ユ、ユウナギ?・・・一体どう言う事なのだ?」


顔を引きつらせたままユウナギはその視線をエルへと向けると、

再び溜息を吐きながら答えていった。


「・・・前に俺がお前に合わせたいヤツが居るって話を覚えているか?」


「あ、ああ・・・。もしかして・・・?」


「ああ、合わせたいヤツってのつまり・・・この野郎なんだけどな?

 こいつがどこかへ行方を眩ませたおかげでポシャッたんだ」


ユウナギはそう言うと再び鋭い視線をその男へと向けると、

ズカズカと歩き始めその黒紫色のフードを被った男の前へと移動した。


そして殺気を放ちながら見下ろすその男へとこう言った。


「・・・てめー、一体どこへ行ってやがったんだ?

 ちゃんと説明出来るんだよな~・・・あぁぁ~?」


まるでどこぞのチンピラのようにそう言い捨てると、

その男から今にも消え入りそうな声が漏れて来た。


「え、えっと・・・あ、あのさ?

 へ、別にその~・・・言い訳って訳じゃないんだけど・・・さ?」


その聞き取りづらい声と言葉に、ユウナギの片眉がピクリと反応すると、

再び怒りに火が着いたユウナギが怒声を挙げた。


「てめーっ!言い訳って最初から言ってんじゃねーよっ!

 俺・・・言ったよな~?何度もお前に言ったよな~?

 ライを迎えに行かせるからっ!どこにも行くんじゃねーぞってよっ!!」


「・・・ひゃ、ひゃい」


「それなのにてめーと来たらよ~?

 これで何度目なんだよっ!?

 てめーの頭は飾りかー?この野郎っ!」


圧倒的なユウナギの迫力にその黒紫色のフードを被った男は、

「ぐすん、ぐすん」と涙をこぼし始めた。


エルはその男が不憫になり、歩みながらユウナギをたしなめ始めた。


「待て、ユウナギ・・・。

 いくら何でも言い過ぎではないのか?

 もう少しだな・・・」


窘め始めたエルに、ユウナギは鋭い視線を向けると、

黒紫色のフードを被った男の頭を掴み、

そのまま片手で持ち上げ宙づり状態のまま口を開いた。


「こいつにそんな優しさなんていらね~んだよ?

 このボケは問題児でな~?

 人の気を天然で逆なでしやがるんだよ」


「・・・そ、そう・・・なのか?」


エルはその男に対し質問したつもりでいたのだが、

その男からの返事は予想もしないモノだった。


「・・・貴様、一体誰に気安く声かけてんだ・・・あぁぁ~ん?」


フードの隙間から覗かせたその鋭い眼光と威圧に、

エルは「うっ」と声を漏らしながらたじろいだ。


(なっ、何だっ!?この凄まじい魔力はっ!?

 い、今まで1度も感じた事が・・・ない・・・)


そしてその男の言葉は更に続いた。


「俺の兄貴分であるユウナギに・・・。

 貴様~・・・気安く声かけてんじゃねーぞっ!

 ゴラァァァァァ!」


ユウナギの片手で宙吊り状態のその男の迫力に気圧されつつも、

その滑稽な姿にその迫力も半減していた。


エルは困った顔をユウナギに見せ、

一瞬視線を向けたのだが、すぐさまその男へと視線を戻し、

静かな口調で威圧し始めた。


「てめー・・・一体誰の許可を得て、エルに話しかけてんだ?」


「うっ・・・」


「今、説教されてんのはてめーなんだよ・・・。

 つーかよ?いつ誰がてめーの兄貴分になったんだよ?

 ったく・・・てめーはいい加減過ぎるんだよっ!」


そう言い終わると頭を掴んでいたその手は緩められると、

自由落下によってその男は床に落下した。


すると当然・・・。


「ガツンッ!」と両膝から床へと落下した訳で・・・。


「ぐおぉぉぉぉぉっ!?」と、悶絶する事になるのだった。


ユウナギは床で悶絶している男を気にする事もなく、

医務室の奥にあるソファーまで行くと「ドカッ!」とその腰を降ろした。


「・・・エルもこっちに来て座れよ」


エルは床で悶絶する男を気にしながらも、

ユウナギの言葉に従いソファーに腰を降ろした。


「・・・あの男・・・大丈夫なのか?」


気にするエルに対しユウナギはチラッと視線を向けるも、

手をヒラヒラさせながら「心配いらねーよ」とだけ答えた。


床の上で悶絶しながら転げ回る男を他所に、

ソファーに腰を降ろしたエルに話を切り出した。


「俺は今日から自分の新しい擬体製作にかかろうと思う」


擬体製作・・・。

その言葉にエルは眉を顰めながら少し考える素振りをして見せた。


「ん?どうかしたのか?」


「うむ・・・いや、ちょっとな?」


奥歯にモノが挟まった言い方をしたエルに、

ユウナギは首を傾げていた。


すると「うむ」と言葉短く呟くと、

エルはユウナギの目を真っ直ぐ見ながら口を開いた。


「ユウナギ・・・その擬体・・・俺の分も頼めないか?」


「・・・別にいいけどよ?

 お前に擬体が必要とは思えないんだが?」


ユウナギにそう言われるとエルは、

顎に手を当てながらその問いに答えて行った。


「例の組織が相手ならばだ・・・。

 俺の顔は既に割れてしまっていると言う事だ。

 それに俺は自分の為にも貴様と共闘する事になるではないか?

 だからこのままの姿だと、何かと問題が生じる恐れがある・・・。

 と、まぁ~こう言う事だ」


「・・・なるほどね~」


ユウナギはそう言いながらエルと同じように顎に手を当てながら、

少しの間考えていた。

そして軽く「ふぅ~」っと息を吐くと口を開き話しを始めた。


「とりあえず・・・その何だ?

 擬体製作の必要性・・・それはわかった」


「・・・ん?」


エルは首を傾げながらユウナギの物言いに違和感を感じ、

少し身を乗り出しながら口を開いていった。


「・・・ユウナギ?俺に何か言いたい事でもあるのか?

 必要性がわかったと言いながら、

 貴様のその言葉の前に「それは・・・」と言ったな?

 どう言う事か説明はあるのだろうな?」


そう話したエルにユウナギはソファーの背もたれに身を預けながら、

不審者でも見るかのような視線をエルに向けながら口を開いていった。


「・・・エル。それは擬体の製作依頼って事でいいんだよな?」


「あ、ああ・・・その通りだ」


「・・・ふむ。そうか~・・・」


そう言いながらユウナギはエルに対し、

再び不審者を見るような視線を向けたのだった。


「ガタッ!」とその視線に苛立ちを覚えたエルはソファーから立ち上がると、

テーブルに両手を「バンッ!」と叩きつけながら口調を荒げて見せた。


「貴様っ!この俺に対し一体何が言いたいのだっ!?」


するとユウナギはニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべると、

親指と人差し指で円を作りながらこう言い放ったのだ。


「・・・お前、金・・・持ってんの?」


「・・・はぁぁぁぁっ!?」


ユウナギの発言にエルが声を挙げると、

そのまま話を続けていった。


「お前~?まさか・・・タダ・・・って事はないよな~?」


「きっ、貴様ーっ!お、俺から・・・かっ、金を取ると言うのかっ!?」


「当たり前だろ~?こちとら慈善事業でやってんじゃねーんだよっ!

 きちんと料金を頂かないとっ!作る訳ねーじゃんよっ!」


「なっ!?なんだとぉぉぉぉぉっ!?

 か、仮にも・・・俺と貴様は云わば盟友となるのだぞっ!?

 なのにだっ!きっ、貴様は俺から金をっ!?」


声を荒げるエルにユウナギは、

身体を預けていたソファーの背もたれから身体を離すと、

静かな口調で口を開いていった。


「盟友なんだろ?ならば当然貸し借りはきちんとしねーとな~?

 エルさんよ~?そんな戯言をぬかすなんて・・・

 お前・・・どれだけ甘いんだよ?」


「・・・なっ!?」


「いいか~?俺達の相手は俺達を出し抜くほどの連中なんだぜ~?

 お前みたいな甘い考えでこの後、

 そいつらと渡り合っていけると、本気で思ってんのかよ?

 もしそうなのだとしたら・・・。

 エルビンク・・・お前・・・死ぬぜ?」


「・・・うぐっ」


ユウナギの迫力の前にエルは表情を歪めた。

そんな様子に眉をピクリと動かしたユウナギが更に言葉を続けた。


「金がねーんなら・・・その身体で返すんだな?」


「・・・かっ、から・・・だ・・・だとっ!?」


「そりゃ~そうだろ?この世は全て・・・等価交換だろうが?

 それは全ての生命の性・・・だからな~?」


そう話をしたユウナギにエルはとても深刻そうな表情を浮かべ、

奥歯が「ギチギチ」と音を立てていたのだった。


エルの様子に首を少し傾げたユウナギが口を開こうした時だった。

怒りを堪えながらも呻くように言葉を吐き出していった。


「かっ、身体・・・と、言う・・・のは・・・」


「・・・ん?」


「・・・こ、この俺に・・・男娼を・・・や、やれ・・・とっ!?」


「・・・だん・・・しょ・・・う?」


拳を強く握り締めながらそう声を吐き出したエルに、

ユウナギは唖然としつつ何度か瞬きを繰り返していた。


そしてようやくその言葉の意味を理解したユウナギは、

ソファーから勢いよく立ちながら声を荒げたのだった。


「ちっ!ちげーよっ!?バッ、バッカじゃねーのっ!?

 誰がてめーに身体を売れなんて言ったよっ!?

 まじでバカなの?魔戦将ってまじでバカなのっ!?

 ふ、普通は肉体労働やら何かの手伝いやらでよーっ!

 その対価の分を払うってのが常識だろうがよっ!?

 ありえねーだろっ!?

 てめー・・・まじで魔戦将だったのかよっ!?

 そりゃ~俺達人族に負けて当然だろうがっ!」


一気にそう言い切ったユウナギは肩で息を切らしながらそう言うと、

エルは安堵の息を漏らしながらソファーへと腰を降ろしたのだった。


「あぁ~・・・まじでやってらんねー・・・。

 もう嫌だ~っ!俺の周りってどうしてこんな連中ばっかりなんだよ~?

 トホホホホってまじで言いたくなるわっ!」


そう言いながら項垂れるユウナギに、

突然背後から軽いノリで声をかけられた。


「はっはっは~っ!

 昔から兄貴には変なヤツらばっっかり集まるからな~?

 だからそんな事って~・・・今更じゃ~・・・ね?♪」


その時エルは見たのだ・・・。

その声にユウナギの顔がありえないくらい引きつったのを・・・。


そしてその瞬間、ユウナギはその姿をソファーから消し、

瞬時にその黒紫色のフードを被った男の背後に移動していたのだった。


それに気付かないそのフードの男は言葉を続けていた。


「兄貴って人を見る目がね~からな~?

 だから俺にみたいな目利き・・・つーの?

 そんな弟分の俺が居るから、今までやって来れたっつー訳だし~?

 まぁ~別に~?俺は兄貴にただ・・・誉めてもらえれば~

 それだけでいい訳で~?

 まぁ~それも~・・・兄貴の弟分の役目っつーか~?

 当然っつーかなんつーか~?」


ウダウダとどうでもいい事をダラダラと話しているそのフードの男を他所に、

背後にいるユウナギの怒りがメラメラと燃え盛りながら立って居た。


そんな時だった・・・。


「あ、あれ・・・あ、兄貴は?」


ソファーに座っていたはずのユウナギの姿が消えており、

視線をエルへと向けた時に・・・そう・・・悲劇は起こったのだった・・・。


突然そのフードの男の後頭部を掴むと、

「バキッ!ゴキッ!メキッ!」と頭蓋骨が砕ける音が聞えて来た。


「いたたたたたたたたたたたたっ!?し、死ぬーっ!」


そう叫ぶフードの男にユウナギは頭部を握り締めながらこう言った。


「・・・一度・・・死んでみるか?」


「へっ!?」


「・・・俺のダチ達の事を・・・悪く言ったよな~?」


「い、いいいい・・・言ってませんっ!

 ま、まじで~・・・あ、兄貴ーっ!許してーっ!」


するとユウナギはそのフードの男のそんな声を聞きながら、

顔をひょいっと覗かせてエルに向けてこう言った。


「・・・エル、ゴミを捨てるのに便利な方法があるんだけど・・・知りたい?」


その声とはうらはらに。、ユウナギの表情は・・・。

ん~・・・主人公とは思えないほどの歪んだ表情故・・・


・・・自己規制とさせて頂きます。


その表情にエルは何とも言えない表情になり、

どう答えていいか迷っていると・・・。


「知りたいよな~?♪」と再び物凄い表情で威圧されたのだった。


「あ、・・・ああ・・・」


その返事が精一杯だったエルに、

ユウナギはこれまでにない爽やかな表情に豹変すると、

明るい口調で口を開いたのだった。


「さてっ!テレビの前のみんな~?

 ご家庭にある、どうしようもないゴミってありませんか~?

 そんな時は・・・これっ!」


まるでテレビショッピングのように話し始めると、

何もない空間にぽっかりと真っ暗な穴が開いていたのだった。


そしてユウナギの言葉は更に続いた。


「このようにしてですね~?

 どこのご家庭にもある亜空間の穴を作りまして、

 あらあら簡単っ!このくら~い・・・何も存在しない亜空間に~

 このようにポイッ!と捨ててしまいましょう♪

 するとあら不思議~♪

 この中に捨てられた、どうしようもないゴミは・・・永遠に消えてしまいます♪

 これでいや~なゴミとはおさらばです♪

 是非っ!1度・・・お試しあれ~♪」


そう笑顔で言い終わるとユウナギはその亜空間の穴を閉じたのだった。


そして再びユウナギが腰を降ろした瞬間・・・。


「・・・ヤッ・・・ヤバかったっ!

 お、俺・・・は、初めて・・・し、死ぬかと思ったーっ!」


と、そのフードの男が生還したのだった。


その様子をただ黙って見ているしかなかったエルはこう思っていた。


(・・・ほ、他に就職先があればいいのだが・・・?)


そんな事を思いつつエルは、ただただ苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。


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