第25話 国の成り立ちと擬体

ユウナギが1人パニックに陥っている中、

リアンダーは嫌がるマイノーターを無理矢理引きずりながら、

どこかへと連れ去っていた。


静かになったところでエルは、

未だに苦悩するユウナギへと声をかけた。


「お、おい、ユウナギ・・・そろそろ・・・」


ユウナギの姿を見ながらエルは声をかけたのだが、

苦悩の沼にどっぷりと浸かっていたユウナギには、

その声は届いていないようだった。


「・・・ふぅ~、世話がやける男だな・・・」


エルは溜息を吐きながらそう呟くと、

自分が気絶した時に敷かれていた枕を手に取りそれを投げつけた。


「いっ、痛ぁぁぁぁっ!?なっ、何事だっ!?」


勢いよく立ち上がったユウナギの慌てように、

エルは再び溜息を吐きながら諭すように話しをしていった。


「・・・落ち着けユウナギ。

 貴様・・・いつまでうろたえておるのだ?

 この国のおさともあろう者が、そんな事でどうするのだ?」


エルにそう諭されたユウナギは、今の現状を理解すると、

顔を赤らめながらそっぽを向いて見せた。


「・・・べっ、別に~?ぜ、全然うろたえてなんかいね~しぃ~?

 ただちょっと~、動揺したっつーか~?

 うろたえて見せた~・・・みたいな~?」


顔を赤らめながら言い訳を始めたユウナギに、

エルの疲れは増していったのだった。


「・・・勇者ともあろう者が・・・なんて無様な・・・」


「う、うっせーよっ!こちとら~勇者なんてとっくの昔に辞めてんだよっ!

 俺をいつまでも勇者扱いしてんじゃねーよっ!」


羞恥に耐えながらもユウナギはそう話すと、

エルは真剣な顔を向けて来た。


そんなエルに流石のユウナギも、

何かを察すると頭を掻きながら、ベッドの横にある椅子へと腰を降ろした。


「・・・何か言いたい事でもあるのか?」


ユウナギがそう話を切り出すと、エルは静かに頷いて見せた。


「・・・聞きたい事は色々とあるのだがな?

 まず最初に聞きたいのは・・・。

 ユウナギ・・・?貴様はどうしてこの国を作ったのだ?」


突然エルからの真面目な質問に、ユウナギはバツの悪そうな顔を見せながら、

この国の事を話し始めていった。


「あ~・・・なんだか面倒臭せーなぁ~・・・

 わかったよ、話せばいいんだろ?話せばっ!

 ただし、簡潔に話すからな?いちいち細かい話はしねーぞ?

 この国を作ったのは簡単な話しだ。

 まぁ~そのなんだ・・・。

 例の組織に対抗する為に、俺はこの国を作ったんだ」


「た、確かに簡単にとは言ったが・・・もう少しだな?

 貴様と言うヤツは本当に面倒臭がりなのだな?

 ふむ・・・しかしユウナギ?

 リアンダーと言うメイドから聞いた話では、

 人族の世界に貴様が拠点とする場所があるのであろう?

 ならばその拠点の者達と共に戦えばよかろう?」


ユウナギはエルの真面目な質問に対し、鼻の頭を掻きながら、

何だか照れ臭そうにその質問に答えたのだった。


「い、いや・・・だってよ?

 俺が拠点とする「ルクナ」の街の者達は、民間人が多数だ。

 それに・・・だ。

 この戦いは云わば・・・俺の「私闘しとう」だからな?

 そんな戦いにあの連中を巻き込む訳にはいかねーだろうがよ?」


「・・・なるほどな?

 貴様は腐っても未だに「勇者」と言う訳なのだな?」


ユウナギはエルからそんな事を言うとは思っていなかったようで、

再び顔を赤らめながらあからさまに動揺したのだった。


「べっ、べっ、別に~・・・っ!?

 別に・・・そ、そんなんじゃねーしっ!

 た、ただ・・・その~なんだ~?

 い、一般人をむ、無駄に戦わせるのもな~・・・って、

 そ、そう思っただけだしぃ~・・・」


「はっはっはっ・・・そうか?

 貴様がそう言うんじゃ・・・それでいいのだがな・・・」


「なっ、何だよてめーはよっ!?

 一体何が言いたいんだよっ!?」


「・・・別に」


顔を赤らめ怒るユウナギに対し、

エルはイケメン特有の鼻で「・・・フッ」と笑っていたのだった。


そんな絵になる金髪男のイケメンは次の質問していった。


「この国を貴様が作った理由はだいたい察しがついたのだが・・・

 次に・・・だが?」


「・・・な、何だよ?」


「聞くところによると貴様・・・。

 人族の世界では擬体を使っているらしいな?」


「・・・ま、まぁ~な」


「・・・勇者で在る貴様・・・。

 い、いや・・・勇者だった貴様が、どうして擬体などを使用しておるのだ?」


エルの質問にユウナギは真顔になると、

遠い目をしながら真面目なトーンで話をしていった。


「・・・俺はプレハやノヴィーク達の組織のせいで、

 人族の世界の連中から国家反逆だと指名手配されちまってんだよ」


「・・・何だと?人族達は散々勇者である貴様の力を借りたはずなのにかっ!?」


「ああ、王族達は俺の事を信頼してくれている・・・。

 だから表立って・・・と、言う事ではないが、

 問題は・・・今まで散々不正をしていた貴族連中達だ」


「・・・ちっ!これだから人族は信用出来んのだっ!

 貴様もこれでよくわかったであろう?

 今からでも遅くはない、俺と共に・・・」


エルが顔を憎悪で歪ませながら、

ユウナギに手を組もうと促しのだが・・・。


「・・・フッ、笑わせるな。

 てめーら魔族にだって、悪いヤツなんざ~いくらでも居るだろうが?

 だから人族にだって馬鹿野郎達はいくらでも居るんだよ。

 それはてめー達も身に染みてよ~く分かっているはずだろうが?」


「・・・・・」


「俺の仲間である四神達もそうだ・・・。

 てめーらの仲間の裏切りよって、あいつらは孤立したんだぜ?

 陰で情報操作して、魔王軍に属する者達が圧倒していると・・・。

 てめーもそう聞いたから援軍を送らなかったんじゃねーのか?」


ユウナギの言葉にエルは項垂れ、

顔を真っ青にしながら四神達・・・

ヒューマの部隊やシシリーの部隊の事を思い出していたのだった。


「まぁ~ちょいと話をそれちまったが、

 俺が擬体を使う理由は、勇者の存在を知られない為だ。

 簡単に言えば、俺はデビル〇ンみたいな存在だなっ!

 わっはっはっはっ!」


「・・・デビ・・・なんだそれは?」


「だ~れも知らない知られちゃいけ~ない~♪って事だ」


「よ、よくわからんが・・・な、なるほど」



首を傾げながらもエルは一応の納得をして見せると、

「ハッ!」と何かを思い出し、その質問を口にしていった。


「ところでその擬体の話なのだが・・・?」


首を傾げるユウナギにエルは話を続けていった。


「製作者は貴様なのだな?」


「あ、ああ・・・製作にはだな、

 まぁ~あるドワーフの爺さんとエルフの婆さんの力は借りたし、

 あとは・・・マイノーターも協力してもらったがな?」


ユウナギの話にエルは興味を示し細かな質問をしてきたのだった。


「貴様の製作した擬体と言うのは、どう言ったモノなのだ?」


「・・・ん~、そうだな~?

 俺が必要とする擬体っつーのはな?

 俺が勇者である事の証でもある・・・神力の隠ぺいだな」


「ほう・・・それは実に興味深い。

 なるほどな?

 確かに幻術などで顔や体を変えてしまっても、

 漏れ出る神力がバレバレではな・・・」


「だろ?だから俺は擬体を製作する上で、

 最も重要視したのが神力の隠ぺいって訳なんだ」


「して・・・ユウナギ?

 貴様の擬体の神力隠ぺい率はどれくらいなんだ?」


「・・・そうだな。だいたい94%と言ったところだな?」


「きゅ、94%だとっ!?

 それではいくら貴様を探しても見つからぬはずだ・・・」


エルはその神力の隠ぺい率に双眼を見開き驚愕していたのだった。

だが、そのユウナギはエルの反応とは対照的に苦笑しながら口を開いた。


「だがな~?神力の隠ぺい率を重要視し過ぎてよ~?

 戦闘力はそれほどでもねーんだよな~?」


「俺は擬体製作なんぞやった事もなかったから何とも言えんが、

 さぞや難しい技術があるのだろうな?

 流石は勇者に選ばれるだけはある・・・と言う事か?」


(ふむ、こやつだけの力ではないと言うが、

 やはり勇者と言う存在は伊達ではないと言う事のようだな。

 ドワーフやエルフまで携わっているとはな?

 それにあの女・・・マイノーター・・・か。

 んっ!?そう言えばあの女はあの時・・・)



エルが話を聞きながらも何かを考え、ユウナギは再び苦笑していると、

エルが何かを思い出したのか、突然「そう言えば・・・」と口を開いた。



「そう言えば・・・俺がこうなった原因の部屋の前で、

 あのマイノーターが何やら叫んでいた・・・

 その、揉め事と言うのか?

 何やら部屋からそんな会話が聞こえていたのだが?」


そうユウナギに訪ねると、再びバツの悪そうな表情を浮かべ、

面倒臭そうにエルの質問に答え始めた。


「あぁ~・・・それな?」


「ふむ・・・俺も気になって仕方がないのだが?」


「まぁ~簡単に言うとだな?

 今まで俺の仲間達や四神の連中のプロフィールはあるのに、

 どうして私・・・(マイノーター)のプロフがないのか?って事なんだよ。

 例えば~うちの四神であるヒューマのプロフは第6話だったり~

 シシリーのプロフは第7話だったり・・・な?」


その言葉を聞いたエルは「カッ!」と双眼を見開くと、

鋭い眼差しをユウナギへと向けながら凄まじい勢いで話し始めた。


「プッ、プロフィールだとぉぉぉぉぉっ!?

 き、貴様っ!お、俺のプロフィールも紹介していないではないかっ!?」


「・・・へっ!?」


「だからっ!俺の・・・魔戦将・エルビンクのプロフィールの事だっ!

 何故俺のプロフィールを紹介せんのだっ!?

 仮にも俺は魔戦将・・・つまりっ!貴様の宿敵なのだぞっ!?

 そんな強キャラに対し、プロフィールがないとはっ!

 き、貴様・・・一体なんのつもりなのだぁっ!?」


エルの猛烈な勢いにユウナギは気圧されながらも、

苦笑いを浮かべながら答えていった。


「い、いや~・・・正直・・・お前のプロフっていらなくね?」


「なっ!?」


「いや、だってよ?お前・・・メインキャストじゃねーじゃんか?」


「・・・な、何だとっ!?

 ユ、ユウナギーっ!?一体それはどう言う事なのか説明しろっ!」


エルはそう怒鳴りながら勢いよくベッドから飛び出ると、

ユウナギに詰め寄り胸倉を掴みながら激しく揺さぶり始めた。


「ユウナギーっ!ど、どうしてこの俺がメインキャストではないのだっ!?

 答えによっては、き、貴様の命はないモノと思えっ!」


「お、おおおおお落ち着・・・けけけけよよよよよ」


激しく揺さぶられ続けたユウナギの三半規管が限界を迎え、

いよいよヤバくなったその時、「ゴツンッ!」とエルの額に頭突きをかました。


「ぐぉっ!?」と呻き声を挙げながらエルは床に蹲りながら悶絶して見せていた。

ユウナギはそんなエルを見下ろしながらこう言った。


「てめーはまだポっと出の新参者だろうがっ!

 自分の立場をわきまえやがれっ!」


「ぐっ・・・お、おのれ・・・」


悔しがるエルにユウナギは更に追い打ちをかけた。

だがその表情はとても主人公とは思えないほどの悪役顔をしていたのだった。


「だいたいてめーはよ~?

 俺達にボロッカスに負けてんだぜ~?

 ちょ~っと優しくしてやったらつけあがりやがってよ~・・・。

 つーか、てめー・・・新参者のクセに出番多くねーか~?

 社畜の原作者様もどーしてこんなヤツの出番増やしてんだが、

 俺にはさ~っぱり理解出来ねーなぁーっ!」


醜い笑みを浮かべながらネチネチと話すユウナギに、

エルはしだいに追い詰められ、握り締めたその拳がプルプルと震えていたのだった。


そして更にエルを追い込めるべく言葉を発しようとした時だった。


「ぬおぉぉぉぉぉぉっ!」と突然声を張り上げ立ち上がったエルの表情は・・・。


・・・号泣していたのだった。


「お、お、俺だってなぁぁぁぁっ!

 と、突然現れな、な、仲間に~・・・なんて、本当に申し訳なく思ってるよっ!

 だ、だけどなー・・・俺には俺の行く道ってものがあるんだよっ!

 貴様に・・・貴様にわ、わかるかっ!?

 誰も居なくなった魔王城でただ一人・・・。

 瓦礫の撤去や壊れた建物の修復・・・。

 それに・・・我が魔王様の弔いを、たった1人でやったんだぞっ!

 うぅぅぅ・・・そ、それなのに・・・それなのにき、貴様は・・・」


大量の涙と鼻水を垂れ流しながら、

エルはユウナギに胸の内を話し始め、

今まで溜まった想いを今ここで爆発させたのだった。


「うわぁぁぁぁぁんっ!ま、魔王様ぁぁぁぁぁっ!

 ど、どうして、どうして逝ってしまわれたのですかぁぁぁぁっ!」


子供のように泣きじゃくるエルに、

ユウナギはバツの悪そうな表情を浮かべると、

そっとエルの肩に手を乗せて優しい笑みを浮かべた。


「お前の気持ち・・・わかったよ。

 だから泣くなよ・・・いい大人がみっともねーな~?

 まぁ~そのなんだ~・・・いずれお前のプロフィールもやってやっからよ?

 もう少し実績を積んで俺達の戦力になるこったな?

 つまりアレだ・・・。

 俺の居た世界で言うところの・・・「契約社員」ってこったな」


「・・・け、契約しゃ・・・いん?」


エルはその知らない言葉に首を捻っているのだが、

ユウナギは笑みを浮かべながら話していった。


「はっはっはっ!つまりだな?

 エル・・・お前の努力次第では、この話のレギュラーに・・・。

 って、そう言う話をしてんだよ♪」


「ふ、ふむ・・・。な、なるほどな。

 もしそれが本当なら、努力すれば必ず報われるって話でいいのだな?」


「ああ♪その辺は期待してもらっていいぜ?

 それに・・・。あいつら四神達もきっと認めてくれるだろうぜ」


「そ、そうか・・・」


エルがそう納得したところで、話が一段落したのかと思われたが、

思っていた以上にエルと言う男はしつこい性格をしているようだった。


「その話はいいとして・・・」


「・・・何だよ?」


「俺のプロフィールの話なのだが・・・?」


「・・・ま、まだその話をするのかよ?」


「当たり前だっ!俺と言う男をわかってもらえてこそっ!

 リスナーの方々が俺を正しい方向へと導いてくれるはずだっ!」


ユウナギは内心「面倒臭せー」と思いつつも、

言葉を詰まらせていると・・・。



「ギィィィィィィィッ!」と突然、漆黒に染まったゲートが開き、

黒紫色のフードを被った男が入って来たのだった。


「なっ、何者だっ!?」


そう声を挙げたエルは、ユウナギの前に立ちはだかると、

ロングソードを取り出しその侵入者に警戒するのだった。



 

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