第18話 マイノーター
ユウナギの魔法ナイト・メアでノヴィークは悪夢の中に居た。
主であるユウナギに命じられたマイノーターは、
渋々ながらもその命に従うのだが、
このまま黙って見ている事はしなかった。
マイノーターは弾むように動かなくなったノヴィークに近寄ると、
今の状態がどうであれ、口を開いた。
「なぁ~・・・あんた?
色々と困惑してはるんやろうから、うちが特別に説明しよう思います~。
そもそも主様のお姿は、世界に向けて指名手配された事から身を隠す為なんよ♪
だから擬体を自ら製作しはって、今日に至るんやけどな~?
あんたらがいくら擬体を壊そうとも、
我が愛しの主様には、何の影響もあらしまへんのやわ♪
それにほら・・・その擬体・・・。
あんたらがコレを見てもわから~しまへんやろうけどな?
もうかなりガタが来てたよってに、
今回こんな事があって、丁度良かったと思っとります♪」
マイノーターはノヴィークが悪夢の中に居るにも関らず、
多くの者達がまるで見物をしているかのように、
身振り手振りを大きくしながら説明していったのだった。
「因みに・・・な?
主様の胸から取り出したモノって・・・何か知っとります?
あれはな~・・・特別製の魔石なんよ♪
うちが主様の為に必死になってこの世界中探し回って、
やっとの思いで探し出した魔石なんよ?
まぁ~それでも今では、主様自ら作らはるから問題はないんやけど、
それでもまぁ~レアな素材で出来てる事に変わりはありませんのんえ?
でも・・・今回破壊したあの魔石・・・。
あれはな~・・・うちが最初に見つけ出してきた魔石なんよ?
だからアレはうちにとっては・・・思い出あるモノなんよ・・・
この意味・・・わかりはるやろか?」
蹲り動きを止めたノヴィークを見下ろすように話をして行くマイノーター・・・。
一見調子よく話しているように見えるのだが、
その顔には表情がなく、ただ無表情に口を開いていたのだった。
そしてそれに業を煮やしたマイノーターは、
無言で蹲るノヴィークの前に立つと、一言呟いた・・・。
「・・・このままで済まさへんえ?」
そう言葉を漏らすと指をパチンと鳴らし、
ユウナギの魔法を解除したのだった。
「かはっ!?・・・ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」
四つん這いになり、肩で息を荒々しくさせるノヴィークを、
マイノーターは無表情で見つめていた。
ノヴィークは己の視線の先に在るそのつま先を見ると、
慌てふためき後ずさろうと藻掻き始めた。
そんなノヴィークをただ見つめていたマイノーターがその口を開いた。
「うちの思い出の品を壊させるはめになったあんたを・・・」
「・・・なっ、何のっ!?一体何の話だっ!?」
「うちは絶対に・・・許しまへんえ?
例え我が愛しの主様が許しても・・・うちは・・・許しはしまへん」
後ずさるノヴィークに表情一つ変えず、
ただ抑揚のない口調に、ノヴィークは恐怖していた。
大量の汗が穴という穴から噴き出し流れ落ちて行くのを感じつつ、
逃げ場のないこの状況に顔を歪めていると、
後ずさるノヴィークの少し前に立って居たはずのマイノーターが忽然と消えていた。
「・・・えっ!?ど、どこ・・・へ・・・?」
ノヴィークは辺りを見渡すも再びその気配も魔力も察知出来ないでいた時、
足をジタバタさせながら後ずさるノヴィークのその背中に、
何かが接触したのだった。
咄嗟に転がり顔を上げると、そこには無表情なマイノーターの姿があった。
「・・・ゆ、許して・・・く、ください・・・許して・・・」
マイノーターは笑みを浮かべながらノヴィークの耳元で凍てつくような声を出した。
「あんたら・・・うちが前に言うた通りの事だけをしとったら良かったのに、
主様の街で幼子を攫うやなんて・・・流石にやり過ぎやわ~♪」
マイノーターの言葉にノヴィークは「ハッ!」とすると、
ゆっくりとその顔を向けていった。
そして恐る恐る震える声で・・・そして呟くような声で口を開いた。
「あ、貴女様は・・・も、もしか・・・して・・・
お、王都・・・王都ファーナスで・・・わ、我々に・・・
助言してくだった・・・か、仮面・・・の・・・」
そこまで話し終えた時、マイノーターはノヴィークの耳元で小さく・・・
「シィ~・・・」っとそう告げたのだった。
「ゴクリ」と固唾を飲んだノヴィークは無言で何度も頷くと、
更にマイノーターは言葉を告げた。
「今回はうちの預かり知らん事やから別にええんですけど、
うちが出した命令は・・・ちゃんとやってくれてはりますのんか?」
その問いに再び何度も頷いたノヴィークに笑顔を向けると、
安堵を息を漏らしながらこう言った。
「少し予定より遅れていると私達の耳にも入っておりますが、
詳しい事は調べてみないと・・・」
「・・・さよか?」
「・・・は、はい」
「そしたらそれでええですわ♪」
そう言って笑顔を向けるマイノーターに、ノヴィークは警戒を完全に解いたのだが、
現状はそう甘くはなかったのだった。
落ち着いたノヴィークはゆっくりと立ち上がると、
主であるプレハの姿を探していた。
「マイノーター様・・・我が主・・・。
プレハ様の姿が見当たらないのですが・・・?
何かご存じでは・・・あり・・・」
そう話していると、
ノヴィークの背後でマイノーターの凍てつくような声が聞こえた。
「・・・もうすぐ命は消えはりますよ♪」
「なっ!?」
その凍てつく声にノヴィークは咄嗟に距離を取りつつ眉間に皺を寄せると、
マイノーターは笑みを浮かべ口を開いていった。
「フフフッ♪あんたら・・・このままで済むと思うてはるんやったら、
それは大きな間違いなんえ?」
「そ、それは一体どう言う意味なのでしょうか?」
慎重に、そして丁寧に・・・その言葉を口にしたノヴィークの脳裏には、
嫌なイメージが駆け巡っていた。
それを払拭するかのように数回頭を振ると、言葉を続けた。
「マイノーター様・・・どう言う事か説明していただいても?」
そう尋ねた時、マイノーターは右手で顔を覆うと、
肩を揺らし始め、次第にそれは笑い声と変わって行った。
「・・・フフフッ・・・クククッ・・・アァ~ハッハッハッ!」
その声にノヴィークはビクッ!っと身体を震わせると、
その笑いについて説明を求めた。
「・・・説明・・・していただけますね?」
しかしノヴィークが期待した言葉が返ってはこず、
その口から吐き出された言葉に、ノヴィークは怒りを
「先程うちは悪夢の中に居るあんたに言いましたんえ?
このままでは・・・済ましまへんえ?って・・・
そやから~・・・プレハって言う・・・そんなモノがどうなろうと、
うちには関係あらしまへんのんや♪
ほんまに~・・・ご愁傷様やね~?フッフッフッ♪」
マイノーターの言葉にノヴィークはブチギレると、
魔力を漲らせながら言葉を吐いた。
「きっ、貴様・・・仲間を見殺しにするのかっ!」
その言葉に再び片手で目を塞ぐと、
指の隙間から冷酷なる視線を向けてこう言った。
「仲間・・・?フフフッ♪仲間やなんて~・・・
そんな
「きっ、貴様ぁぁぁっ!この外道がぁぁぁっ!」
「フフフッ♪うちが外道やなんて・・・
あんたら、どれだけ生暖かい世界で生きて来たんや~?
こんなんまだ・・・外道のうちには入りまへんえ?」
ノヴィークはこれにまでない程の力を・・・。
魔力を全身に漲らせると、最後にこう言った。
「貴様風情が・・・この私に勝てると思うなっ!
貴様如きに時間をかけている暇はないのだっ!」
「フフフッ♪うち・・・怖いわ~♪
フフフッ・・・ハァ~ハッハッハァァァァッ!」
右手で目を塞ぎつつ高笑いするマイノーターに、
怒りの限界を超えたノヴィークは、魔力を解放と同時に駆け出した。
そしてガシッ!とマイノータに組み付くと、
その四肢に魔力で拘束つつ組み敷いた。
未だに冷笑を浮かべるマイノーターの上で短剣を振りかぶると、
叫び声を挙げながら力一杯に振り下ろしたのだった。
「ガキンッ!」と、金属の衝突音が響き渡り、
目を見開いたノヴィークは驚愕した。
「・・・ど、どう言う事だっ!?」
驚愕したノヴィークは気が狂ったかのように、
何度も何度もマイノーターのその胸に短剣を振り下ろしていた。
だが・・・力の限り振り下ろされた短剣は、
マイノーターの身体をすり抜け、その鋭利な刃先は地面に弾かれていたのだった。
すると「・・・クククッ!」と、笑みを漏らしたマイノーターがその口を開いた。
「・・・うちがあんた風情に殺せる訳・・・あらしまへんえ?」
「なっ、何だとっ!?」
「まだわかりはしまへんのかいな?」
そう言うとマイノーターはスルリと魔力による拘束を脱し、
組み敷かれたはずのノヴィークの目の前に立って居た。
「・・・な、何が起こったのだっ!?」
理解に苦しむノヴィークに、マイノーターは笑みを浮かべた。
「あんたらとうちは・・・そもそも
「こ、理・・・だとっ!?
貴様の正体は・・・レイス・・・なのかっ!?」
「うちをレイス如きと一緒にするやなんて・・・
ほんまにかなわんわ~♪」
そう言ってノヴィークはレイス・・・
つまり死霊に特化する魔法を使用しようとするが、
マイノーターはケラケラと笑うと「どうぞ、お試しあれ♪」とそう言い、
少し後ろに下がりながら半身になりつつその右腕を開いて見せたのだった。
「お、おのれぇぇぇっ!」
そう激怒したノヴィークはレイスを消滅させる魔法を
いくつも繰り出すのだが、それは全て無駄に終わりを告げた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
息を乱し先程見せた魔力の量も通常状態になると、
マイノーターは笑みを浮かべながらその口を開いた。
「いくらあんたらが、おバカさんや言うても・・・。
これだけやっても無駄やったら、ええかげん諦めはったら宜しいのに~?
何でこないに無駄な事・・・しはるん?」
「む、無駄だとっ!?お、おのれっ!貴様ぁぁぁっ!
まだ我々を愚弄するのかぁぁぁぁっ!」
魔力を凝縮した短剣をマイノーターへと投げて見せるが、
スゥ~っとその身体を通り抜け、やがて後方でカチンとその短剣が落ちる音がした。
「そ、そんな・・・」と、言葉を漏らすノヴィークに、
マイノーターはあくびをして見せると、今まで見せなかった左腕を前に出してきた。
「・・・それは・・・何だ?」
今日何度、目を見開いた事だろう・・・。
突き出されたその左手には、ドクドクと脈打ちながら動いている・・・。
血塗られた心臓が握られていたのだった。
「そ、それはわ、私の・・・なのかっ!?」
慌てて自分の身体を調べ始めるノヴィークに、
マイノーターは笑みを浮かべながら答えた。
「うちはな~?確かに・・・強くはないんよ?
実際攻撃力なんかは~その辺のゴロツキ共と何ら変わりはしまへんのや。
それにうちはトレーダーやよって、商人としての強さは持っとるけど、
戦闘出来るかどうかはまた別の話なんよ♪
でもな~・・・うちも主様に・・・勇者様に仕える四神の1人や・・・。
あんた程度の小者に、うちが遅れを取る訳あらへんわ~♪
フフフッ♪あんた・・・うちにとってはええ玩具やったよ~?
ほんまに・・・ええ退屈しのぎになったわ~♪
感謝しますえ♪」
マイノーターはそう言いながら、左手に持たれたその心臓を弄ぶように、
ポンポンと弾ませその感触を味わっていたのだった。
「やっ、やめろぉぉぉっ!」
ノヴィークの絶叫が響く中、マイノーターは躊躇する事もなく、
悦なる笑みを浮かべながら左手の中にある心臓を、
グチャッ!っと潰したのだった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」と、断末魔の声を挙げたノヴィークは、
成す統べなく、マイノーターの手によって沈んだのだった。
そしてマイノーターは崩れ落ちるノヴィークに視線を送る訳でもなく、
ただ己の身体に飛び散った血を魔法で綺麗にしていった。
それから暫くして、ユウナギの元へと歩み始めたマイノーターは、
ある事に気付き顔を引きつらせながら立ち止まった。
「あ、あぁ~・・・ど、どないしようっ!?
う、うち・・・ノヴィークを殺してしもうたぁぁぁぁっ!
どっ、どっ、どっ・・・どないしようっ!?
あ、主様に・・・こ、殺すな~って、そう言付かったのにぃぃぃっ!
やっ、やって・・・やってしもうたわ~・・・・
き、きっと主様は、きつーいっ!お、お仕置きをう、うち・・・に・・・。
い、い、いいいいい一体う、うち・・・ど、どないしたら・・・」
マイノーターの顔が恐怖で歪み、この後の展開に涙を流していたのだが、
その恐怖について考えた時、ふと・・・思ってしまったのだった。
「ふむ、そやけど~・・・。お仕置き・・・ねぇ~・・・。
ひょっとして~そのお仕置きって、うちにとったら・・・
ご、ご馳走になるかもしれまへんな~?
も、もしそうなら・・・うぅぅぅぅ・・・じゅるっ♪
あ、あきまへん・・・こ、興奮して・・・よ、涎が・・・フフフッ♪
あ、新たな道が・・・我が愛しの主様の手によって♪
い、いや~んっ♪あ、あきまへんえ~・・・主様~♪
そこに愛はありますのんやな~♪」
勝手な妄想に身悶え、そして地面をごろごろと転げ回るマイノーター・・・。
そんな現状も露知らず、ユウナギはプレハを追い込んで行くのだった。
そして勇者としての力を発揮した事によって、
ユウナギは予期しない出来事に自ら墓穴を掘る事になるのだった。
・・・続く
「・・・って言うか、続く・・・やなくてっ!
う、うち・・・こんなところで終わったら、一生呪いますえぇぇぇっ!」
そう言ってマイノーターはどこからか出したハンカチを、
ギューっと引っ張り嚙みついていたのだった。
「って、ナ、ナレーションの人っ!?
う、うちの状態見てわからしまへんのんかっ!?
な、何か大事な事・・・皆さん忘れてやしまへんかっ!?」
・・・ナレーションを務める私はその時こう思った。
「・・・主人公ユウナギの相棒でもあるはずのヒューマの魅力が、
全く発揮出来ていなかった事にっ!」
と、そう思った私は、出来る事なら第6話に戻って、
ヒューマの魅力を伝えたいと思ったのだった。
すると呆れた表情をして見せたマイノーターが、
面倒臭そうにその歪んだ口を開いていった。
「ゆ、歪んだって・・・あ、あんた・・・口悪いわ~
う、うちが一体何したん?
って、言うかっ!そんな話なんてどうでも宜しいわっ!」
マイノーターは魔力を全身に纏わせるとそう言い放ったのだった。
そしてその魔力はどんどん・・・小さくなっていった。
「・・・な、何やのん?
ま、魔力が小さくなっていくなんて・・・ありえまへんやろ?
って言うか、だいいち、魔力なんて纏わせてもあらしまへんっ!
・・・なぁ~、ほんまに大切な事忘れてやしまへんか?」
冷静な口調でありながらも、ほんの少し寂しさを滲ませるマイノーターに、
私は少なからずも同情するのだが、
だが・・・。
私はただのナレーションであり、書かれた事を読むのが私の仕事である。
因みにナレーションを務めるのは、香坂 三津葉、25歳独身の女であり、
この仕事が社会人になっての初仕事でもある。
「・・・あ、あんた・・・な、名前、あったんやね?」
「・・・はい。今後とも宜しくお願いします」
「・・・お、覚えときますよって・・・」
・・・続く
「だから~っ!うちの説明とか、プロフとかはあらしまへんのかぁぁぁっ!?」
それは作者次第だった。
「・・・はぅ」
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