第16話 四神最後の1人
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」と、ユウナギの怒りが増す度に、
放出される魔力もまた大きくなっていった。
「プ、プレハ様っ!?」
驚きの声を挙げるノヴィークに、
プレハは固唾を飲みつつも冷静な口調を心掛けた。
「取り乱すのではありませんっ!
貴方は由緒正しいエリート魔族なのですよっ!?」
「し、しかしながらっ!?」
うろたえるノヴィークを見ながらプレハは、
自信有り気に口角を上げてこう言った。
「・・・この程度なら、今の私には何の問題もありませんっ!」
そう声を張り上げると、ノヴィークの前に歩き出し魔力を凝縮し始めた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
魔力を凝縮したプレハはニヤリと笑みを浮かべると、
声を張り上げユウナギにこう言った。
「貴様如き死神にっ!私の野望を潰させる訳には行きませんっ!
喰らいなさいっ!デモニッシュ・レイッ!」
プレハは凝縮した魔力を指先に集め放出すると、「プシュッ!」と音を立てながら、
紫色をした光線が一直線になってユウナギへと向かって行った。
ユウナギはギロリとプレハに対し睨んだ瞬間紙一重で、
紫色の光線を背面飛びで躱したのだった。
「・・・少しはやるようですね?」
「ザシュッ!」
プレハの言葉を聞きながら着地したユウナギは鋭い視線を向けつつ、
腰に装着された短剣を抜いた。
「ほぅ~・・・先程とは別人のような目つきになりましたわね?」
「・・・すまねぇーな。
ちょっと寝不足で、今までずっと寝ていたんだけどよ・・・
てめーらのおかげでバッチリ目が覚めちまったぜっ!」
そう言いながらニヤリと笑みを浮かべたユウナギだったが、
その額には汗が浮き上がっていたのだった。
プレハはユウナギの様子にクスリと笑みを浮かべると、
更に話を続けて行った。
「貴方にそんな余裕があるとは思えませんが、
抵抗出来るのであれば・・・存分になさって下さい」
「・・・ああ、そのつもりだ」
「フフフッ・・・たかが死神風情がっ!
無様に屍を晒しなさいっ!」
「・・・断るっ!」
その言葉と同時に2人は駆け出し交戦に入って行った。
そしてその2人の速度に驚きつつも、
しだいにその速度に目が慣れ始め2人が距離を取った時だった。
ノヴィークは傷つきボロボロになっていたユウナギの姿を見て、
歪んだ笑みを浮かべると1歩前へと踏み出した。
「プレハ様・・・どうやら魔王の血液の効果に身体が慣れましたので、
このノヴィークも助力したいと思います」
ノヴィークはそう言いながら2本のナイフを取り出し構えていた。
「フフフ・・・ええ~構いませんよ?
今の貴方でしたら・・・あの死神を倒す事も夢ではありませんよ♪」
そんな2人が会話をしている頃、ユウナギは顔を顰めていた。
(・・・あの女、結構強くなったな。
子供の血液を摂取していたからなんだろうが・・・
ちっ!どれだけの量を貪ったってんだよっ!?
このままじゃ・・・やべぇ~な)
そう考えていたユウナギのその身体は、
体中に裂傷や擦過傷の跡があり、血もポタポタと流れ落ちていたのだった。
そしてノヴィークがプレハとの会話を終了させると、
ユウナギに向き直り戦闘態勢に入った。
「・・・では死神、貴方には消えていただきましょう」
再び歪んだ笑みを浮かべたノヴィークが駆け出し、
あっと言う間にユウナギの眼前に出現した時だった。
「ちょっと、あんさん待ちなはれっ!!」
突然聞こえてきたその声に、ノヴィークはビクッ!っと身体を震わせると、
ユウナギとの距離を取り構え直した。
「・・・誰ですっ!出てきて姿を現しなさいっ!」
ノヴィークの背後からプレハがそう声を張り上げた。
すると、「フッフッフッフッ」と笑い声がその空間に響くと、
ユウナギの背後から何者かの影がサッ!と飛び出し、
近くにあった岩場の上に降り立った。
「なっ!?何者だっ!?」
そう声を張り上げたノヴィークが見たモノは・・・。
黒いマントに身を包み、
赤黒いこの幻魔空間の明かりに照らされたシルエットだけだった。
そしてその何者かが静かに口を開いていったのだが、
ユウナギの表情は・・・とても卑屈に歪んだ顔を見せていたのだった。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、主が呼ぶ・・・。
お金の為ならどこまでも・・・。
イケメンなんぞぶっ飛ばし、小銭の魂不滅なり・・・
四神最後のひと・・・」
「お前は帰れぇぇぇぇっ!」
四神最後の1人がまさに決めゼリフを吐こうとしていた瞬間、
ユウナギはその四神のセリフを食い気味に叫ぶのだった。
「・・・えっ?・・・な、何っ!?
あ、主・・・な、何言うてはりますのんっ!?
あともう少しで口上も終わる~言うのにっ!
こ、こないな所で止められたら・・・
う、うち・・・うちはもう・・・お、お嫁に行かれやしまへんえ?」
「い、いや・・・いいから・・・。
まじ・・・お前は帰っていいから・・・。
つーかっ!何で出てくんだよっ!
誰もお前の事、呼んでねーっつーのっ!」
ユウナギは顏を押さえ項垂れながらもそう吐き捨てると、
まだ名乗ってもいない四神の1人が反論していった。
「何を言うてはりますのんっ!?
うち、主のピンチや~思うて、こうして颯爽と登場しましたんえ?
そ、それやのに・・・そないな事言うて・・・
うち・・・馬鹿みたいやわっ!
これは~せ、責任取って・・・う、うちと・・・
そ、その~しょ、所帯を・・・」
まだ名乗ってもいない四神の1人の話が、
しだいに全く関係のない話へと移行しようとすると、
ユウナギは顏を上げこめかみをヒクつかせながら睨みを利かせ呟いた。
「・・・てめぇー」
「あ、主・・・?な、何やのんっ!?
ほ、ほんまに~・・・お、怒ってはりますのんえ?
た、ただうちは・・・お慕いしている主のよ、嫁になりたいだけやのに・・・
ただ・・・それだけやのに~っ!
ひ、ひど・・・ぐぅおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
まだ名乗りも挙げていない四神の1人の言葉を遮るように、
ユウナギはその女の顔面を握ると、魔力を込めながらその掌に力を加えていった。
「い、痛いっ!痛いっ!痛いってっ!
や、やめてーなっ!?あ、主・・・や、やめ・・・
・・・・・・んっ!?
あぁ~・・・でもちょっと気持ちよくなって~・・・
いたたたたたたたたたたたたたたたたっ!?
か、堪忍やっ!堪忍やってっ!く、砕けるぅぅぅっ!
う、うちの可愛い顔がぁぁぁぁっ!
も、もうせーへんからっ!ほんまにせーへんからっ!
ゆ、許してぇぇぇぇっ!
お、お母ちゃぁぁぁぁんっ!ゆ、許してぇーなぁぁぁぁっ!」
「誰が母ちゃんじゃっ!ボケッ!」
「ほげっ!」
まだ名乗りも挙げていない四神の1人を、
顔面を掴んだまま地面に叩きつけたユウナギの表情は、
それはもう鬼の如き形相だった。
そしてその頃、プレハとノヴィークは・・・。
事情が飲み込めずただ口をぽかーんと開けて固まっていたのだった。
「ノ、ノヴィーク・・・」
「はっ、な、何で御座いましょうか?」
「あ、あれは一体・・・ど、どう言う・・・」
「はっ、わ、私もあの状況は、り、理解出来るはずもなく・・・」
戸惑うプレハとノヴィークは疎外感に支配され、
ただ茫然とその状況を見ているしかなかったのだが・・・。
「ふんぎゃぁぁぁぁっ!」
と、言う叫びが幻魔空間に木霊した後、
「ちっ!」っと言うユウナギの舌打ちと共に、
鋭い視線を向けてきたのだった。
「すまねぇ~な~?待たせちまってよ?」
ユウナギの言葉にビクッ!と身体を震わせた2人は、
困惑の表情を浮かべつつ顔を見合わせると小さく頷き、
戦闘態勢を取るのだった。
「な、何かは理解できませんが・・・茶番は済んだようですね?」
「あぁ・・・悪り~な」
「あ、貴方も色々と・・・大変ですのね?」
「・・・な、何だろ?お、俺・・・泣けてきた」
ユウナギは涙を拭い謝罪しつつ短剣を構え戦闘態勢を取って行った。
そして漸く場の雰囲気が張り詰めると、
ノヴィークが低い声で呟き、ユウナギもまたそれに応え声を漏らした。
「行くぞ・・・死神」
「・・・来いよ」
「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
両者は気合を込め息を吐き出すと、地面を蹴り激突した。
「ガキンッ!」
「ぐっ!」
「うぉりゃぁぁぁぁぁっ!」
「ドカッ!」
ノヴィークがその激突の衝撃で苦悶の表情を見せると、
ユウナギは口角を上げたのと同時に、気合と共に体当たりをかまし、
ノヴィークを吹っ飛ばした。
「ぐぁぁぁぁぁっ!?」
ユウナギは一気に魔力を両足へと溜め込むと、
それを解放し、仰向けの状態で吹き飛ばされたノヴィークへと追い着き、
更に攻撃を加えて行く。
「まだまだぁぁぁぁっ!はぁぁぁっ!」
「なっ、何とっ!?」
突然目の前に現れたユウナギに、ノヴィークは両腕をクロスさせ、
防御態勢に入るが、
それに構う事なくユウナギは地面に向かって、
強烈な蹴りを放とうとしたのだが・・・。
その時だった・・・。
「・・・甘いわね?」
そんな言葉がユウナギに届く頃、突然ユウナギの真上に現れたプレハが、
ノヴィークが蹴られるよりも早く、ユウナギに魔力が凝縮された蹴りが放たれた。
「バキンッ!」
「ぐぁぁぁぁっ!」
プレハの蹴りがユウナギの脇腹へとめり込むと、
骨の砕ける音と共にその身体が脇腹を中心に九の字に曲がり蹴り飛ばされた。
「ヒューンッ!」と、言う音を響かせながら数百メートルほど吹き飛ばされ、
荒野の荒々しい地面を滑って行くユウナギを目にしながら、
プレハとノヴィークは地面に足を着けた。
「プ、プレハ様・・・助かりました」
「フフフ、いえ、これも貴方が死神の注意を引いてくれたおかげですわ♪」
そんな会話をしている頃、
地面を滑って行くユウナギは大岩に激突してその動きを止めたのだった。
「ぐぁっ!」
(ヤ、ヤベェー・・・あ、あばらが何本か持っていかれた・・・。
あの女、やるじゃねーかっ!
てか・・・ちょっと舐め過ぎた・・・な)
衣服もボロボロになり、満身創痍なユウナギは、
自己診断のスキルを使用し己の身体の状態を確認していった。
(自己診断・・・)
(了解)
そしてヨロヨロと立ち上がると、
紛失した短剣を再びマジックボックスから取り出し構えて見せた。
(・・・甘く見過ぎたな。
とりあえず・・・この身体で出せる限界を・・・)
プレハとノヴィークは立ち上がったユウナギを見て高笑いをすると、
その足をユウナギへと向け悠然と歩みを始めた。
「アァ~・・・ハッハッハッ!
死神~・・・?無様で滑稽ですわね~?
まだ私達とやり合う気・・・ですか?」
そう高笑いするプレハにユウナギは言葉を吐いて見せた。
「・・・ざけんなっ!まだ、終わって・・・ねーぜ?」
「フンッ!戯言をっ!
でもまぁ~・・・その根性だけは認めてあげましょう♪」
「冥界の死神風情がっ!
プレハ様に逆らう事の恐ろしさを、その魂に刻み付けるがいいっ!」
「・・・知るかよ・・・クソがっ!」
ユウナギの吐き捨てた言葉に、顔を真っ赤にするノヴィークが怒気を放ちながら、
猛然と駆け出したのだった。
「貴様はここで滅ぶのだぁぁぁっ!
死ねぇぇぇぇっ!死神ぃぃぃぃっ!」
魔力を放ちながら猛然とユウナギに迫り、
禍々しい眼光が光を放ちながら短剣を振りかざした時だった。
「死ねぇぇぇっ!」
「フッ」
「なっ、何っ!?」
ユウナギは予備動作もなしに、その場から姿を消すと、
ノヴィークの振りかざした短剣がその空を斬った。
「ど、どこだっ!?」
辺りをキョロキョロと見渡し、消えたユウナギを追うノヴィークだが、
その存在を確認出来ないまま、プレハの驚きの声に振り返った。
「ど、どうしてっ!?」
「シュッ!」
「プ、プレハ様っ!?」
姿を消したユウナギが突然プレハの眼前に出現し短剣を薙いだのだった。
「ちっ!はずしたかっ!」
しかしユウナギの短剣は斬り裂くどころか、
プレハの頬をほんの僅かだけ傷つけた程度で失敗に終わってしまったのだった。
「ザザァァァッ!」と地面を滑りながら体制を整えたユウナギは、
「ちっ!」と舌打ちをしながらヨロヨロと立ち上がった。
(・・・視界が壊れて狙いをミスったな~・・・)
そう考えながらユウナギは両目を細めてみるが、
その視界に亀裂が入っており、またぼやけてもいたのだった。
だがそれだけではなかった。
ユウナギの左の聴覚もまた潰されており、
魔力を纏ったプレハの蹴りの威力が凄まじかった事の証でもあった。
(・・・いよいよ、ダメだな~)
亀裂が入りぼやける視線でプレハを見ていると、
その横にはいつの間にか戻っていたノヴィークの姿もあった。
(自己診断・・・五感と繊維類は対象除外)
(了解)
そして再びユウナギは自己診断のスキルを走らせると、
脳に直接、女性の声での音声が流れてきた。
(肋骨6本骨折、上腕骨骨折、左膝蓋骨及び脛骨骨折、
数ヶ所の頭蓋骨陥没骨折、左蝶骨骨折、眼底骨折及び眼球破損・・・etc
よって、身体能力82%の減少につき、戦闘不可と判断致します)
(・・・まぁ~、そうだよな?
まぁ~繊維類は感覚でわかるが・・・はっはっはっ!
動かねー所も多いみたいだな~・・・。
で・・・あと1つ・・・魔石はどうだ?)
(・・・問題ありません)
(了解♪)
ユウナギは戦闘不可と告げられたにも関らず、
足を引きずりながら、壊れたマリオネットのように歩き始めた。
「・・・まだやるおつもりですか?」
プレハからそんな声が聞えたにも関らず、
腫れあがった顔を気にする事もなく、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべただけだった。
「・・・いい覚悟です。これで終わりと致しましょう」
プレハはノヴィークに視線を移すと静かに頷いて見せ、
ノヴィークは主の命を全うすべく、ただ無言で頷いたのだった。
「・・・お別れだ、死神」
短剣を構え駆けだした瞬間、ノヴィークの背後から突然声がかけられた。
「ちょっと、待ちーなっ!」
「なっ!?」
咄嗟に振り返ったノヴィークは己の肩に、
いつの間にか手が置かれている事に気付くのだった。
「・・・いつの間にっ!?」
ノヴィークの驚きはもはや・・・驚愕に値するほどだった。
何故なら肩に手を触れられた事にすら気付かなかったからである。
「き、貴様は一体なんなのだっ!?」
その問いにニヤリとして見せると、
再び黒いマントを脱ぎ捨て鋭い視線向けながら名乗りを挙げた。
「うちか?うちはな~・・・。
ユウナギ様配下の四神最後の一人・・・
トレーダーのマイノーターって言いますのんや♪
以後、お見知りおきを・・・って、あっはっはっはっ!」
マイノーターと名乗ったその女は、突然大声で笑い始めると、
ノヴィークだけではなく、プレハもまた訝しい表情を浮かべていた。
「・・・マイノーターと言ったか?
女・・・何がそんなにおかしいのだ?」
ノヴィークの問いにマイノーターは薄く口角を上げると、
冷たい口調でその口を開いた。
「・・・だってお宅ら・・・命が尽きてしまいますよってに♪」
「なっ、何だとっ!?」
「そやから~・・・うちがここで名乗っても意味あらへんわ~って、
そう思って笑いましたんえ?」
マイノーターの言葉に、ノヴィークは額に青筋を浮かべると、
その手に持つ短剣に魔力を凝縮し始めたのだった。
「ははは・・・うちに勝とうなんて・・・100万年・・・早いわ♪
顔洗って出直してきなはれ♪」
マイノーターがそう言い放つと、
懐に手を忍ばせつつ身体を沈め戦闘態勢へと移行したのだった。
「・・・よ~い、ドンッ!」
マイノーターはそう言うと一瞬にして姿を消し、
その女が居た場所にはただ・・・風が巻いていたのだった。
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