第15話 覚醒と二千円札

訳の分からない事を言われたノヴィークとプレハ・・・。


少しして我に返ったノヴィークは、ハンカチを取り出すと、

切断させた手首に巻き出血を食い止めようとしていた。


その行動を漠然と見ていたプレハはノヴィークの名を叫びつつ、

手をかざし回復魔法をしようし吹き出す出血を何とか止めたのだった。


「ノ、ノヴィークっ!こ、こやつ・・・只者ではなくてよっ!」


「ハ、ハッ!しょ、承知して御座いますっ!」


2人はユウナギに対し殺気を放って見せるが、

眼前に立つユウナギには全く効果がないようだった。


「お、奥様っ!?こ、こやつっ!?」


「え、ええ・・・わ、私達の殺気にもビクともしませんわね?」


冷静に受け答えして見せるものの、

奥様と呼ばれたプレハは、心底体の奥底から震えが込み上げて来ていた。


それに・・・。

一方のユウナギはと言うと、そんな2人の会話などお構いなしに、

左腕に握られた短刀からノヴィークの紫色の血液をポタポタと落としながらも、

自然体で・・・あくまで・・・自然体で、ただそこに居たのだった。


それをどう勘違いしたのか2人はと言うと、

念話使用し会話をしていた。


(奥様っ!こ、こやつの目・・・や、やはり只者では・・・。

 いえ、こやつの目はまさに・・・死神の目ですぞっ!)


(し、死神となっ!?ま、誠ですかっ!?)


(ハッ!恐れながら・・・以前・・・とは申しましても、

 かなり昔の話になるのですが、冥界にて・・・私は一度出会っておりますので、

 間違いないかと思います)


(し、死神・・・ま、まさか・・・め、冥界直々にわ、私達をっ!?)


恐れおののくノヴィークとプレハだったが、

この2人の勘違いがはなはだしい・・・。


何故ならユウナギは、ただ・・・眠っていた・・・。

いや、ただ目を開け眠っていただけなのだから・・・。


そんな会話が少しの間続いていると、

突然ユウナギが虚無の空間を虚ろな瞳で見つめながら口を開いた。


「・・・に、24時間・・・た、戦えますかっ!?

 ムニャムニャムニャ・・・フゥゴォォォーッ!」


「「なっ!?」」


突然投げかけられた言葉にただ愕然とする2人・・・。

それでも気を取り直した2人は、またしても念話で会話していった。



(お、お聞きになられましたかっ!?)


(え、ええ・・・し、しっかりとこのプレハ・・・耳にしましたわっ!

 に、24時間戦えるか?・・・そう聞こえました。

 そしてそれは・・・冥界の死神の活動時間の事を現しておりますのね?)


(ハッ!誠に仰せながら、その通りで御座いますっ!)


と、盛大に勘違いしていたのだった。

そしてその勘違いは加速度的に進んで行く・・・。


(ノ、ノヴィークッ!わ、私達はめ、冥界に目を・・・付けられていた・・・

 そ、そう言う事で間違いしありませんか?)


(は、はい・・・も、もはやそうとしか・・・)


(私達は派手に動き過ぎたと言う事ですわね・・・・。

 冥界の王が取り決めた人界不可侵・・・それを侵してしまった・・・)


眉間に皺を寄せ勘違いが大暴走して行く2人・・・。

そしてそのおバカな2人はある1つの結論を出した。


(奥様・・・もはや我々は・・・)


(待ちなさい・・・。

 こうなってしまっては、もはや私達に明日はありません。

 私の女としての直感なのですが・・・)


(プレハ様の直感ともなれば・・・も、もはや・・・し、真実で御座いますっ!)


そう言ってノヴィークは片膝を着き頭を下げ、礼を取っていたのだった。

そしてプレハは自信有り気にこう言った。


(この男はまだ新米のようですわ。

 ですから・・・私が本気を出せば、余裕で息の根を止められます)


(さ、流石で御座います奥様・・・いえ、プレハ様・・・。

 慧眼のプレハとは・・・まさにっ!)



よくわからない会話をし、勘違いも甚だしいおバカな2人は、

プレハの能力を解放する為、準備に入っていった。


(ノヴィークよっ!私の準備が終わるまで、

 この慧眼のプレハをその命を持って守りなさいっ!)


(ハッ!このノヴィークっ!我が命を持ってプレハ様をっ!)


プレハは更にユウナギと距離を取ると、

能力解放の為の準備に入り、

ノヴィークはプレハを守るように2人の間に立ち構えていた。


「我が力よ~っ!目覚めよぉ~っ!あっそぉれぇ~♪」


プレハは両手を天に向けながらそう叫ぶと、

何やら妙なリズムを口ずさみながら踊り始めたのだった。


「ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、スィスィッ♪

 あっそぉれぇ~ンチャンチャンチャッ!ホイホイっ♪」


(お、奥様がっ!あのブレハ様のっ!

 能力解放の儀式が再び目られる日が来ようとは・・・

 クッ!こ、このノヴィークッ!か、感無量で・・・御座いますっ!

 奥様っ!い、いえ・・・我が主プレハ様っ!

 我が命を持って・・・お守り致しますっ!)


「え~らいこっちゃ♪やんや~やんや~♪

 ちょ~いさっ、ほっとこいや~さっ♪ほいさっさ~♪フゥゥゥゥゥゥッ♪」


ノヴィークの後ろで踊り狂うバカ・・・こほん。

失礼・・・プレハを愛おしむように、ノヴィークは声を挙げ戦闘態勢に入った。


「我がっ!華麗なる主の為にっ!はぁぁぁぁぁぁっ!」


その張り上げた声と共にノヴィークの魔力が膨張すると・・・。


「我が華麗なるっ!魔装っ!」


その膨大なる魔力が全身を包み込むと、

ノヴィークの全身を覆い、真っ黒なフルメイルアーマーと化したのだった。


「さぁ~来いっ!冥界の死神っ!」


その勇猛なるその張り上げた声に、プレハは一瞬目を奪われ、

その目には涙が滲んでいたのだった。


(ノヴィークよっ!そなたの覚悟っ!しかとっ!

 しかとこの私プレハがっ!見届けましたわよっ!)


今生の別れを匂わすそんな思いが巡る中、

ただ1人・・・眠っていてもマイペースなユウナギが場を乱した。


「うぉぉぉぉっ!燃えろっ!我が小宇宙コスモよぉぉぉぉっ!

 フゥゴォォォ・・・ZZZ・・・」


突然声を張り上げたユウナギは妙なポーズを取りながら魔力を放出し始めた。

激しく吹き上げるユウナギの魔力に、

プレハとノヴィークは額から汗が流れ落ちた。


「プ、プレハ様っ!?こ、こやつは危険ですっ!

 こ、この凄まじい魔力っ!?

 お、お逃げ下さいっ!ここは私が時間を稼ぎますっ!」


顔を顰めながら背後で踊っているプレハにそう叫ぶのだが、

そのプレハは踊りながらも突然笑い始めた。



「フッ・・・フフフ、アァ~ハッハッハッ!」


「プ、プレハ様っ!?」


背後で突然高笑いを始めたプレハに、ノヴィークが驚きの声を挙げた。


「ノヴィークよっ!こやつの魔力は確かに凄まじいわ。

 でもね?こやつより私の方が・・・まだ強いですわっ!」


そう言って醜い笑みを浮かべたプレハは儀式の最終段階へと入って行った。


それを確認したノヴィークはチャンスとばかりに、

ユウナギへと駆け出しスピードを生かした攻撃を繰り出していった。


「死ねぇぇぇっ!死神ーっ!」


手刀をユウナギの胸に突き刺そうとするが、

ユウナギは片手でその攻撃を払いのけると、切断された腕を取り、

関節を極めると・・・顔色1つ変えずそのまま・・・折った。


「バキンッ!」と、激しい音が響くと同時に、

「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」と言う悲鳴が木霊した。


ゴロゴロと転がりその激痛に汗を大量に流すノヴィーク。

そしてその様子に顔をより一層険しくさせるプレハにユウナギは1歩踏み出すと、

プレハは「ゴクリ」と喉を鳴らしつつ、儀式の最中にも関わらず、

ノヴィークに手をかざしヒールを使用した。


回復したノヴィークにプレハは命令を下した。


「ノヴィークよっ!もう私を守らずとも良いっ!

 ただあの男を・・・あの死神を殺しなさいっ!」


プレハの言葉にノヴィークは双眼そうがん見開くと、

苦悶に満ちながらも口を開いた。


「ご、ご命令・・・た、確かに承りましたが、

 ざ、残念ながらこのノヴィーク・・・。

 こ、こやつを抑える術を知りません・・・」


哀愁漂わせ苦悶に満ちた表情を浮かべるノヴィークに、

未だ踊りながら儀式を行うプレハは笑みを浮かべてこう言った。


「アレを・・・使いなさい」


プレハの言葉に思わず振り返ってしまったノヴィークに、

続けてプレハは口を開いた。


「その命・・・私に捧げなさい」


「・・・御意」


「フッ」と安らかな笑みを浮かべたノヴィークは立ち上がると、

マジックボックスから1つの豪華な小瓶を取り出した。


そして取り出した豪華な小瓶を見つめながらユウナギに視線を向けると、

静かに話を始めたのだった。


「貴様にコレを使う羽目になるとはな・・・。

 これはな?何世代か前の「魔王の血液」だ。

 自分の命を代償にその魔王の力を己に取り込む事ができる。

 使い切りだが・・・プレハ様の野望の繁栄の為にはっ!」


そう言うとノヴィークは「キュッ」と小瓶の栓を抜き、

一気に喉の奥へと流し込んだ。


そしてそれと同時にノヴィークの体が一気に膨らみ3倍ほどに達すると、

変わり果てたノヴィークは声を張り上げた。


「・・・幻魔空間っ!」


するとユウナギ達が居た空間に突然黒い瘴気で満ちた穴が出現すると、

問答無用にその穴に吸い込まれて行った。


※ 説明しようっ!

  幻魔空間とは亜空間の一種で、

  魔王の血液が鍵となり、その空間への扉が開く。

  そしてその幻魔空間では、魔族絶対有利となり、

  通常空間より5倍ものパワーアップを果たすのだっ!


※注・魔族専用となりますので、人族の方は使用しないで下さい。

   万が一服用されてしまった方は、専門医の相談の元、治療して下さい。



  更に説明しようっ!

  「魔王の血液」とは、使用した者の何かと引き換えに、

  その血液の主たる魔王の能力が使用できるが、

  その血液の主によって、その能力は千差万別である。

  

※注・魔王の血液が入っている小瓶にはこう書かれている。

   使用上の注意を読んで、効果と代償確認の後、使用して下さい。

   なお、クレームなどの一切をお断りします。


と・・・書いてあるのだが・・・。

その小瓶には・・・命を代償とは、一言も書いていないのだ。


説明終了っ!



幻魔空間に吸い込まれたユウナギ達は見知らぬ荒野に居た。


「・・・・・」


無言でたたずむユウナギに、

歪んだ笑みを浮かべたノヴィークが言い放った。


「フンッ!この場所なら誰にも邪魔される事なく、

 存分に力が発揮出来ると言うものだ。

 終わりだっ!貴様は見知らぬ荒野で惨めに死ぬのだっ!

 ワ~ハッハッハッ!」


「・・・・・」


無言で虚無となったその瞳で、ユウナギは静かに・・・。

そう、ただ静かに佇んでいた。


そんなユウナギを不審に思ったノヴィークが声を挙げた。


「貴様っ!話を聞いているのかっ!?

 言っておくがこの空間で人族の能力は著しく低下するっ!

 もはや貴様がどこの誰であろうと、勝ち目はない覚悟するんだな?」


「あぁぁ~・・・ブラタ〇リの録画忘れた・・・」


ポツリと声を漏らしたユウナギだったがその声は届かずただ・・・。

ノヴィークはニヤリと口角を上げ、身体中に魔力を放出させていたのだった。


「うおぉぉぉぉぉっ!?こ、このち、力はっ!?」


いつものように魔力を高めるノヴィークは、

その「魔王の血液」の効果に驚きと共に、歓喜の声を挙げていた。


「フッフッフッ・・・・ハッハッハッハァァァァッ!」



天を見上げ悦に浸るノヴィークは切断されたはずの手が再生したのと同時に、

「バシュッ!」と、言う音を響かせた瞬間、

今まで背後で儀式を執り行っていたプレハの魔力が一気に覚醒した。


そしてその姿はドス黒い紫の魔力を身に纏い、

耳まで裂けた大きな口と、醜く吊り上がったその眼光をユウナギへと向けていた。


振り返りプレハの真の姿を見たノヴィークは片膝を着き礼を取って頭を下げた。

するとプレハは優しく微笑むと、

ノヴィークに近寄り膝を着くその肩にそっと手を置いた。


「ノヴィークよ・・・ご苦労様でした。

 おかげで私の力は完全開放されました。

 これも貴方のおかげです」


「い、いえっ!私は主の命に従ったまで・・・」


「貴方あってのこの姿・・・。

 そして今宵を貴方と私との、最後の宴と致しましょう♪」


「・・・感無量で御座います。プレハ様」


そう言葉を交わすとプレハとノヴィークはユウナギに向き直った。

だが、その時・・・この2人は目の前の光景に唖然とした。


「あ、あれっ!?」


プレハそう思わず声を挙げると、

ノヴィークもまた、ユウナギを指差しパクパクと口だけを開いていた。


「こ、これは・・・ど、どう言う・・・」


そこまでノヴィークが口を開いた時、

顔を真っ赤にしたプレハが声を張り上げた。


「ちょ、ちょっと貴方ぁぁぁっ!ま、待ちなさいよっ!?

 どこに行くつもりなのですかっ!?

 ちょっ、ちょっとぉぉぉーっ!」


そう・・・何故プレハが声を挙げ、ノヴィークが固まっていたかと言うと、

ユウナギは2人が悦に入っている間にフラフラと歩き出し、

プレハとノヴィークからおよそ100mほど離れていたからだった。


慌てた2人は急ぎユウナギの元へと駆け出した。

一瞬の移動であり、魔力や体力減少などありえないのだが、

何故か2人はゼェゼェと肩で息をしていた。


「あ、貴方っ!一体どこへ行こうと言うのですっ!?」


すると虚ろな視線を向けたユウナギがマジックボックスから何かを取り出すと、

それをプレハに渡しながら口を開いた。


「悪いんだけどさ~・・・?

 500円あげるからコンビニで何か買ってきてくんね~?」


そう言ってプレハに渡したモノは・・・日本のお札、二千円札だった。


「・・・?」


何度か瞬きをしながら手の上に置かれた二千円札とユウナギを交互に見て行く。

そして一度ノヴィークに視線を移した時、

ユウナギが少し困った表情を浮かべながら口を開いた。


「・・・わ、わかったよ~・・・パシって悪かったな?

 笹本くんにも色々と事情があるだろうし・・・。

 しょうがねーな~・・・釣りはくれてやるよ。

 横溝川くん・・・そんだけあれば、家も建つだろうよ。

 夢が叶ってよかったな?」


ユウナギそう言った時だった。

「ふざけるなぁぁぁっ!」と、

声を挙げたノヴィークがユウナギに蹴りを放ったが、

それをヒラリと躱しつつ手の上に置かれた二千円札を回収した。


しかし、回収したはずの二千円札の半分ほどが、

ユウナギの目の前をヒラヒラとゆっくりと舞い落ちて行った。


すると突然ユウナギの双眼が「カッ!」と見開くと、

憤怒の如く顔が真っ赤に染まり、膨大な魔力が放出され始めたのだった。


「な、なんとっ!?」


「こ、これはっ!?」


プレハとノヴィークが声を漏らす中、

ユウナギはその怒りを最大限に溜め込みながら、

殺気放ちつつ声を漏らしていった。


「き、き、き・・・」


「・・・ききき?」


プレハがそう言いながら首を傾げると、

ユウナギは号泣しながら 魂の雄叫びを挙げたのだった。


「きっ、貴様らぁぁぁぁっ!

 おっ、俺の大切なぁぁっ!思い出の二千円札をぉぉぉぉっ!

 よっ、よっ、よくもぉぉぉぉっ!

 ぜっっっったいに許さんぞぉぉぉぉっ!」


「バシュンッ!」


憤怒によって赤く染まった魔力が辺り一面を真っ赤に染めた。

プレハとノヴィークはその光景に後ずさると、ゴクリと生唾を飲み込むのだった。


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