第14話 狂気なる世界
名乗り終えたライトニングは、
魔族達の金縛り状態の拘束を解くと、狂気に満ちた笑みをこぼしていた。
「さて・・・お前らのどちらが、この俺に挑んで来るのだ?」
そう言いながらゆっくりと歩み始めたライは、
その夥しい魔力を溢れさせながら、これからの戦いに胸躍らせていた。
そんなライの姿に1人の魔族が何やらブツブツ言い始めると、
腰を抜かし今度はガタガタと震え始めたのだった。
「ま、まさか・・・そ、そんな・・・っ!?
荒野の王・・・そ、それに、ライトニングって名・・・。
う、嘘だろっ!?
め、冥界のライトニングって・・・い、生きて・・・生きていたのかっ!?」
そう喚きながらガタガタと震えている男に対して、
片割れの魔族はその男が漏らしている事に気付いたのだった。
「そ、そんなバカなっ!?ライトニングって確か・・・
勇者との、た、大戦で・・・死んだはず・・・じゃ・・・
って、お、お前っ!?も、漏らしてんのかよっ!?」
魔族達の悪寒は止まらない・・・。
己の魔族としての本能が・・・そして魂が・・・死を宣告していたからだ。
「コツン、コツン」と、ライの革靴の音がこの広い空間に木霊していた。
ライはその歩みを止める事もなく、
ただ不敵に・・・そして冷酷な瞳が、2人の魔族を捉えて離さなかった。
歩みを止めないライトニングに2人の魔族は既に戦意喪失していたが、
そんな2人をライトニングは許さなかったのだ。
ふと歩みを止めたライトニングは一瞬沈んだ表情を浮かべたが、
すぐさまニヤっと笑みを浮かべ、2人の魔族に対し魔法を使用した。
「今、楽にしてあげましょう・・・。
そして怒りを狂気に変える力を、お前達に・・・リフレッシング」
その魔法により2人の魔族の恐怖は一瞬にして消えてしまうと、
ライトニングは優雅に一礼すると、
闇よりも暗いその瞳で、2人の魔族を愛おしそうに見つめていた。
そして続けざまに魔法を使用した・・・。
「・・・マッドネス」
狂気を増幅させる魔法を重ね掛けしたのだった。
その魔法の効果により、2人の魔族は我を失い、
ただ・・・怒りと狂気にその身を委ねる化け物と化したのだった。
「フッフッフッフッフッ・・・ようこそ♪狂気なる世界へ♪」
ライトニングは期待に胸を膨らませ2人の魔族に注目したのだが、
次第にその表情は曇っていった。
「おや?ふむ・・・残念でなりませんな・・・。
やはり並み程度の魔族では、
狂気なる世界へ到達する事が出来なかったようですね?
ですがまぁ~・・・これはこれで・・・」
そう穏やかな口調で言ったすぐ後、すぐに口調が変わり悦に浸るが如く、
歓喜に満ちて笑い始めたのだった。
「ワァ~ハッハッハァァァァァッ!
その甘美なる狂気なる世界には到達出来ませんでしたが、
怒りに支配され全てを破壊せんとするその魔力っ!
これもまた・・・甘美なる境地の1つっ!
憎めっ!憎め、憎め、憎め、憎めぇぇぇっ!
そしてこの俺をっ!
この獣の王たるライトニングをっ!殺して見せろぉぉぉっ!」
ライトニングがそう叫び声を挙げた瞬間、
理性の欠片すら失った2人の魔族が、火炎魔法を放ちながら同時に駆け出した。
「キッシャァァァァァッ!!」
「グラァァァァァァァッ!」
声にならない声を挙げながら、一足飛びで距離を縮めると、
2人はマジックボックスから取り出した大剣を取り出し振りかぶり、
力の限り茫然と立って居るだけのライトニングに振り下ろした。
「ギュアラァァァァァ!」
「シャァァァァァッ!」
「ガキンッ!」
防御すら全くしなかったライトニングは、
無様に切断されたはずだった・・・
だがしかし傷を負うどころか、
2本の大剣が玩具のようにグニャリとその形を歪ませていただけだった。
「「!?」」
ライトニングは瞬きもせず、2人の魔族を目で追う事もせず・・・。
ただ虚無なる空間を見つめただ立ち尽くしてた。
驚いた2人の魔族はすぐに距離を取り、
歪んでしまったその大剣を投げ捨てた時だった。
青白い魔族の男がその違和感に気付いた。
「ヴッ、ウガァァァッ!?」
そう驚きの声を挙げ視線を向けた先に見たモノは・・・。
「ガ、ガァッ・・・ガッ、ガガガッ!?」
ライトニングの右腕が紫色に染まり、ポタポタッと地面に水滴を落としていた。
そしてそれをもう一人の魔族が確認したのと同時に、「ドサッ!」と音を立てて、
地面に倒れるとそのまま絶命し塵と化した。
それをただ唖然と見ている事しか出来なかった魔族の男は、
紫色の血を両眼から流し、己の意識がないのにも関わらず言葉を話した。
「・・・バ、バ・・・カ・・・ナ・・・」
そう言いながら恐怖に支配され一歩・・・後ろへと下がった。
その魔族の男の言葉に気付いたライトニングは、
「ほほう~」っと、関心するような言葉を言うと口角を上げた。
「ふむ・・・貴様、中々どうして大したモノだ」
「グゥラゥァァァ!ナ、ナニヲ・・・?」
「私の魔法で理性を取り戻した者など今まで誰も居なかったが、
フッフッフッ・・・貴様は狂気への世界に一歩・・・近付いたのやもしれんな?
「・・・・・」
沈黙した魔族の男にライトニングはなおも話を続けていった。
「しかし、まぁ~見る限り、
別に覚醒したと言う訳ではないようだな?
残念としか言えないが・・・これもまた・・・
「!?」
突然ライトニングは訳のわからない事を言い始め、
魔族の男の顔には困惑の表情が浮かんでいたのだった。
そしてそんな様子も気にする事もなくこう呟いた。
「覚醒しないなら・・・始末してしまおう。
その甘美なる味はとっくの昔に・・・知っているのでね」
そう言葉を呟いた瞬間・・・。
魔族の男は雄叫びを挙げると、魔力を纏いながらライトニングへと駆け出し、
あらゆる攻撃を放っていった。
「グラァァァァッ!キッシャァァァァァッ!」
魔法での連続攻撃に加え、近接戦闘での剣での攻撃に格闘術。
己が持つ全ての攻撃をライトニングへと繰り出したのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
爆風などで視界が効かず、
その爆煙が収まるのを魔族の男が待っていると、
不意にその爆煙の中から声が聞えてきた。
「・・・ハズレ・・・だな」
「グラァッ!?」
魔族の男がそう声を挙げた刹那・・・。
「グチャッ!」と、言う音と共に・・・魔族の男の視界が大きく歪んだ。
だが、倒れる事はなかったのだ。
何故ならその魔族の男の胸板は、ライトニングの腕が貫いており、
微動だにする事が出来なかったからである。
そして貫かれたライトニングの手の中には、
「ドクッ!ドクッ!ドクッ!」っと、
魔族の男の脈打つ心臓が握り締められていた。
「ガァッ!・・・ソ、ソンナ・・・シ、シニタク・・・ナイ」
そしてそう声を漏らすと、
その魔族の男を見下ろしながら抑揚のない声で口を開いた。
「死にたくない・・・だと?
貴様達が一体何をしてきたか・・・それを忘れたのか?
それを踏まえてなお・・・死にたくない・・・と?」
魔族の男は不思議な感覚に陥っていた。
何故自分はまだ生きているのか?何故死ねないのか?
そう自問自答してその答えを探していた時だった。
ライトニングの言葉が止み静寂が訪れ、
何もかも、全ての感覚が麻痺したその時・・・。
何気に見上げたライトニングの顔が・・・
ニヤ~っと歪んだかと思うと、
「グシャッ!」と何かが潰れた音が背後から聞こえてきた。
そして悦に浸った笑顔を・・・。
そしてその狂気に満ち足りた瞳が・・・。
そしてその大きく跳ね上がった心臓の鼓動が・・・・
そしてライトニングはこう叫んだ・・・。
「ぎぃもぢいぃぃぃぃぃっ!!」
魔族の男はライトニングのその魂の叫びを聞いた瞬間、
目覚めの来ない闇へと旅立ったのだった。
※ ライトニング 年齢不詳 男 SS(S)ランク
188cm 細マッチョ。トレードマークは白髪と丸い眼鏡
元・冥界の王直轄・四天王の1人。
「獣の王」として冥界の軍を率いていたが、勇者との戦いにおいて、
歴然たる力の前に成す統べなく敗北。
しかし勇者は命を奪う事をせず、身柄を冥界の王へと引き渡した。
その勇者の男気と圧倒的な力の前に尊敬の念を抱き、
冥界の王と「制約契約」を交わし勇者の元へと馳せ参じた。
それ以後、勇者の四神として大戦においても活躍し、
その大戦以後は、勇者の執事として陰ながら仕える身となったのだ。
戦闘力は四神の中では最強。
普段は温厚でボヤく事が多いが、1度戦闘に入り熱くなると、
性格が変わり戦闘狂へとスイッチしてしまう。
ではここで、最近出番の少ない俺が説明しよう♪
って言うか・・・話したいっ!
出番くれっ!頼むっ!
「ってなことで、あぁ~その何だ~・・・魔戦闘士ってのはだな・・・。
この世に存在する武器の90%を己の手足と同じように扱える職業だ。
魔法においても変幻自在で、相手の魔力を喰う事によって分析し、
相手の弱点を探る、「アナライズ」のスキルも所持する。
俺の知る限り~・・・この職業持ちは3人しか知らね~・・・。
だからまぁ~敵にするとやっかいだが、
味方だとこんなに心強いヤツはいねーだろうなぁ~?
あっ・・・つーかさ?
俺ってばこの話の主人公・・・だよな?
それなのに・・・だっ!
俺の出番・・・少なくね?いやいや、まじでさ・・・ヤバくね?
とか言ったりするダメな俺・・・・ぐすん」
説明終わり。
2人の魔族を圧倒的な力でねじ伏せたライトニングは、
エマリアの元へと歩みを進めた。
そのライニングと名乗った男に、エマリアは驚愕し喉の渇きを覚えたのだった。
そんなエマリアの前にライトニングが近寄ると、
そっと手を差し伸べ「・・・もう立てるはずですが?」と言った。
「あ、・・・は、はいっ!あ、有難う御座いますっ!」
そう言って差し出された手に捕まると緊張しつつも立ち上がったのだった。
「・・・どうかされましたかな?」
無言でライトニングを見ていたエマリアに、ふとそんな声がかけられた。
エマリアは一瞬迷いはしたが、疑問を口にする事にした。
「あ、あの・・・失礼かとは思いますが、色々と質問させてもらっても?」
味方・・・だとはわかっている。
だがエマリアの本能が恐怖で怯えていた。
そんな自分を奮い立たせ話を切り出すと、ライトニングは微笑んで答えてくれた。
「ほっほっほっ♪ええ~構いませんよ?
初めにお伝えする事があるとすれば・・・
私はユウナギ様に仕える執事で御座います。
以後、お見知り置きを・・・」
そう言ってライトニングは懐から懐中時計を取り出すと、
時間の確認をしていたのだった。
「え、えっと・・・その・・・ラ、ライトニング・・・さん?」
エマリアがそう名を呼ぶと、ライトニングから赤紫の魔力が流れ始め、
顔をひきつらせたエマリアに振り返りながら、冷笑を浮かべた。
「お嬢さん・・・その名で呼んでいいのは・・・
我が主である・・・ユウナギ様だけですので・・・
その名を2度と口には・・・」
冷笑を浮かべながらそう囁いたライトニングに、
エマリアは喉を鳴らし悪寒が全身を駆け抜けたのだった。
「で、では・・・私は・・・何と、お呼びすれば?」
悪寒が駆け抜けながらもそう問うてきたエマリアの態度に、
ライトニングは「ほぅ~」と、声を漏らしていた。
(弱り切っているはずなのにこのお嬢さん・・・。
私の威圧に耐えて見せるとは・・・なるほど・・・
我が主のおっしゃる通り、素質はあるようですな~)
垂れ流してきた魔力を消し去り笑顔を向けると、
「・・・これは大変失礼致しました」
そう言って、1歩後ろに下がり紳士的な態度でお辞儀をして見せた。
(我が主の大切な戦力ですからな~、
私も出来る限りの礼を尽くさねばなりませんな)
心の中でライトニングはそう思いながら、言葉を続けていった。
「そう・・・ですね~・・・。
この私の事は・・・「メェ~」さんとでもお呼びいただければと・・・」
「・・・はい?」
エマリアはキョトンとしながらそう口にすると、
ライトニングはその理由を説明し始めた。
「ほっほっほっ♪実はこの私・・・こう見えて種族は・・・」
そう言いながら頭髪のある部分を指差して見せた。
その指が差された場所に視線を移すとそこには・・・。
「つ、角っ!?」
「ほっほっほっ♪」
「メ、メェ~さんは・・・ひ、羊人族でした・・・」
「かっ!?「私は山羊ですっ!」」
驚きの声を挙げながらそう答えたエマリアに、
ライトニングは言葉を食い気味に突っ込んできた。
(誰が羊ですかっ!誰がっ!
角の形がまるで違うでしょうっ!
こ、これは我が主の為にも、さ、再教育が・・・)
ライトニングは再び心の中でそう思い、
ユウナギに進言しようと誓うのだった。
そんな事を思っているとは露知らず、エマリアは慌てた様子を見せると、
勢いよく頭を垂れ謝罪を述べ始めた。
「ハッ!?す、すみませんっ!執事と聞いて思わず羊を連想してしまい、
そ、その・・・わ、悪気はっ!」
(謝って済むのであれば・・・魔戦将軍など要りませんけどね~?)
そう心の中でボヤキながらも笑って過ごしてみせた。
「ほっほっほっ~♪」
真摯に謝罪するエマリアにライトニングは笑い声を挙げると、
捕らわれた子供達の容態を確認しながら、
エマリアと2人で地下室から脱出するのだった。
この脱出時・・・色々とゴタつきはしたのだが、
いずれその話をする時が来る・・・かも、しれないが今は別の話である。
そしてここは屋敷内の廊下・・・。
この屋敷の執事と思われるスーツを着た初老の男と、
豪華なドレスを着ている女が歩いていた。
「ノヴィーク・・・ところで夫が遅いようだけど、
何か聞いているかしら?」
「いえ、奥様・・・。
今朝伺った時には何もおっしゃってはおられませんでした」
この屋敷の主である男爵の帰宅が遅い事を気にしたのは妻であり、
この男はこの屋敷の執事であるノヴィークだった。
その2人は長く続く廊下を歩いて行くと、
ドアの前で立ち止まり、ノヴィークがドアを開くと、
男爵の妻が部屋の中へと入って行った。
暗い部屋に入るとノヴィークが部屋の灯りを魔力で灯すと、
綺麗に整頓された部屋が見渡せた。
ソファーに移動し腰を下ろすと、
ノヴィークがマジックボックスから紅茶を取り出し、
テーブルの上にセッティングしたのだった。
そして妻が紅茶を口へ運び一息ついた時だった・・・。
「カチャッ!」っと、音が部屋の中に居た2人の耳に届いた。
「「!?」」
驚いた2人は周囲を見渡し音を探し出そうとすると・・・。
「お、奥様っ!?バ、バルコニーの扉がっ!?」
「えっ!?」
妻は勢いよく立ち上がると、ノヴィークを先頭にバルコニーへと出ると、
そこには見知らぬ男が1人・・・紅茶を飲んでいた。
「・・・な、何者なのですっ!?」
そう声を挙げた妻に対し、悠然と紅茶を飲む男は何も発しなかった。
ただ、その目は空を見つめ・・・。
そしてただ・・・そこに座っていたのだった。
そんな無礼な態度に怒りを覚えたノヴィークは、
妻を庇うように躍り出ると、短剣を取り出し構え言葉を発した。
「貴様っ!カナールマイケル男爵邸と知っての狼藉かっ!?」
そう吠えるノヴィークに優雅に紅茶を飲む男は、
2人が気が付いた時にはもう・・・そこには居なかった。
「ど、どこへっ!?」
急に姿を消した男を警戒しつつ、男爵の妻を後方へと下がらせていく。
「プレハ様っ!ここは危険ですっ!御下がり下さいっ!」
ノヴィークがそう叫んだ瞬間、
「カランッ!」と音を立てて何かが地面に転がった。
ノヴィークは視線を落とすと、そこには短剣を掴んだノヴィークの手が、
静かに転がっていたのだった。
「プシュゥゥゥ」と血飛沫がノヴィークの手首から噴き出すと、
その正面に、姿を消した男が立って居た。
「ぐぉぉぉぉっ!お、おのれっ!き、貴様・・・貴様は一体っ!?」
ノヴィークがそう叫ぶとその男は静かに口を開いた。
「リ、リンゴを
ムニャムニャムニャ・・・」
「リ、リンゴッ!?血っ!?な、何の話ですのっ!?」
血を吹き出しながらも唖然とするノヴィークと男爵の妻。
少しの間その2人の思考が停止したのだった。
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