第11話 ムカついた

ユウナギと別れたエマリアは、指示された場所へと向かっていた。


その場所とは・・・。


エマリアは人狼族特有の気配遮断を使用し目的地を目指す。


(・・・ユウナギ様はこの距離の気配を完全に捉えていた・・・

 私・・・いえ、人狼ですら感知できない範囲を・・・)


屋敷から少し離れた場所とは言ったものの、

その距離1kmほど離れていた。


しかも・・・その指示された場所とは、地下である。


ユウナギについて思いを巡らせてはみるが、

元・・・とは言え、勇者である。

己の未熟さを痛感しつつも指示された場所へと向かいそして到着した。


(この小さな小屋の下に地下室があるなんてね。

 完璧に調べたと思っていたけど・・・私もまだまだよね~

 しかも相手は・・・魔族が5人。

 ユウナギ様が誰か付けるとは言ってくれたけど・・・)


不安を隠しきれないエマリアは大きく深呼吸すると、

神経を集中して小屋へと向かって行った。


すると・・・。


(えっ!?誰かが出て来るっ!?)


小さな小屋の中から石が擦れる音が聞こえると、

足音が1つ・・・エマリアの耳に響いてきたのだった。


そして咄嗟にその身を隠したエマリアは、

人狼族特有のスキル・・・完全気配遮断を使用し相手の出方を伺った。


(パーフェクト・サインブロック)


そしてその数秒後の事だった。

「ギイィィ」っと扉を開け、中から出てきたのは・・・。


(・・・な、何・・・アレ?)


身長140cmほどで派手なピンクのワンピースを着た・・・。


(・・・へっ、変態のおっさんっ!?)


そしてその容姿はと言うと・・・。

金髪のツインテールで肌は不自然に白く、

そしてその顔面はと言うと・・・。


(あ、青ヒゲってっ!?)


不自然に白く塗られた・・・いや、塗装されたその顔面には、

白く塗っても誤魔化せないほどの青い髭がその男の異様さを際立たせていた。


そして更に言えば・・・。

両手両足、そして首に装飾品が装着されており、

その装着品の中央には赤い魔石がはめ込まれていたのだった。


驚愕のあまり声を出しそうになるも何とか堪えるエマリアだったが、

そのありえないほどの容姿に寒気を感じつつ暫く静観していると、

その女装をしたおっさんからしわがれた声が聞えてきたのだった。


「ど~してこの美しい私が~・・・パシられなくちゃいけないのよぉ~っ!

 いや~ねぇ~もうっ!

 私はプレハ様の次にっ!美しいというのに~・・・」


その女装したおっさんがそうブツブツ言いながら屋敷に向かって歩み出すと、

エマリアはその女装したおっさんが居なくなるまで、その場で待機するのだった。


(・・・ふぅ~、ど、どうやら行ったようね?

 まだ心臓がバクバクしてるわ)


念の為エマリアはその女装したおっさんが居なくなった後も、

暫く潜んでいたのだが、数分した後に姿を消した方を見ながら立ちあがった。


「・・・トラウマになるレベルね・・・ふぅ~、悪寒が消えないわ・・・。

 どうしよう・・・?完全に悪夢でうなされるパターンなんだけど?」


そう小さく声を漏らし、そして小さな小屋に視線を向けた時だった・・・。


「ヒィッ!」っと、小さく声を挙げたエマリアは、

すぐさま身をひるがえし距離を取り戦闘態勢をとった。


「・・・あら~?貴女は~・・・どなたかしら?」


「・・・ど、どうして此処にっ!?」


驚きを隠せないエマリアに動揺が体中を駆け抜けて行った。

何故ならば、先程屋敷へと向かって行ったその男が、

平然としてその場に立って居たからだった。


その様子を見た女装したおっさんは、

ニヤリとおぞましい笑みを浮かべながら口を開いた。


「うっふ~ん♪そんなこわ~い顔しないでぇ~♪

 わ~た~しぃ~・・・困ってしまいますぅ~♪」


「・・・・・」


いかにも・・・と、いうようなポーズを決めながら、

その女装したおっさんが親指を咥えながらそう言ったとたん・・・。


「オェェェェェッ!」と、エマリアが木に手を着きながら嘔吐したのだった。


「しっ、失礼ねっ!こ、こんな美しい私を見て吐くなんてっ!」


「ダ、ダメッ!気持ち悪過ぎて・・・う、うぷっ!

 オエェェェェェェェッ!」


「ま、まだ吐くのっ!?あ、貴女どんだけ吐くのよっ!

 ちょっとっ!いい加減に・・・って・・・臭いわよっ!

 もう吐くのをやめなさいよっ!」


「オロオロオロオロオローっ!」


「ちょっと貴女っ!そこまで吐く事ないでしょうがっ!

 って言うか、もうやめてぇーっ!

 わ、私がそんなにキモい訳ないじゃないでしょうがぁぁーっ!」


女装したおっさんがそう叫んだ時、

既にエマリアの姿は消えており、その男は首を傾げたのだった。


「あ、あれ・・・?い、一体・・・ど、どこへ?

 私が・・・この美しい私が感知出来ないなんて・・・あ、ありえな・・・い」


するとその男の背後からエマリアの怒りに満ちた声が聞えてくると、

ポヨンが冷や汗を流しながら微動だに出来ず眼球だけが背後を見ようとしていた。


「この変態っ!トラウマになるような悍ましいモノを見せるなぁぁぁっ!

 はぁぁぁぁぁぁっ!」


「い、いやぁぁぁぁっ!」


女装したおっさんの叫びを掻き消す様に、エマリアの覇気と共に鋭く伸びた爪が、

女装したおっさんのひたいを貫いた。


「ジュプッ!」とした感覚がエマリアの指先から伝わると、

ハッ!とした表情を浮かべ後方へと飛び退いた。


「てっ、手応えがっ!?」


エマリアは自分の指先から滴り落ちる血液を見ながら、

額に大穴開けた男を見て再び驚愕したのだった。


「・・・嘘でしょ?」


放心しつつもそうつぶやいたエマリアに、

その女装したおっさんがにこやかな表情を浮かべ口を開いた。


「フフフ♪いきなりひどい事するじゃないのぉ~っ!

 私の美しさに嫉妬でもしたのかしらぁ~?

 わかるっ!貴女の気持ちすっご~くわかるわよ~?

 私もプレハ様に出会った時・・・嫉妬しちゃったのよね~?

 だ~か~ら~・・・そんな行動を起こした貴女を責めたりしないわよ~♪」


異常なほどまでに身体をクネクネとくねらせ、

それと同時にいちごのパンツがエマリアの視界に入ってきたのだった。


「うっ・・・い、いちごが・・・」


エマリアは再び悪寒を感じるとまたもや再び嘔吐の気配が・・・。

咄嗟に口に手を添え耐えたエマリアに女装したおっさんが声をかけてきた。


「あら~?ねぇ・・・貴女大丈夫なの~?

 でも~安心して?今すぐに殺してあげちゃうからぁ~♪」


その言葉と同時に放たれたその魔力に、

エマリアは今まで感じた事のない旋律を覚えるのだった。


(・・・この魔力・・・あ、相手が・・・悪過ぎる・・・。

 へ、変態でも・・・実力は本物って事・・・ね)


冷静に対処しようとエマリア自身もわかってはいるのだが、

ケタ違いのその魔力にいつの間にか流れ落ちたその汗が頬を伝っていった。



エマリアに緊張が続く中、数メートルほど離れた場所から見つめる男が居た。


(・・・おや?アレは?)


ナイスミドルなライと呼ばれた男が1人・・・

インビジブルの魔法を使用し、

エマリアが対峙している女装した男に記憶を巡らせていたのだった。


(あぁ~・・・そう言えば、大戦の最中さなかに、

 田舎へと逃亡した変態が居たと聞いてはいたのですが、

 やはり・・・あの男でしたか・・・)


変態のおっさんを思い出したライと呼ばれた男は、

静かに静観していると・・・。


「パキンッ!」と、甲高い音が響いてきた。


「なっ!?わ、私の魔法が・・・は、弾かれた・・・」


エマリアは女装したおっさんに鑑定を使用したのだが、

その魔法が弾かれ砕かれたのだった。


そしてその女装したおっさんが歪んだ笑みを浮かべると、

その場でくるりと回転し、ピンクのワンピースの裾を摘まみながら挨拶をした。


「鑑定でも使用したのかしら~?

 まぁ~貴女程度のモノじゃ・・・私を鑑定する事すら出来なくてよ~♪

 だから~今回は特別に教えて~あ・げ・る♪

 私の名は・・・パブロス・ポヨン♪

 魔族階級は伯爵級第2位・・・。

 以後、お見知りおきを・・・♪」


パブロス・ポヨンと名乗った男にエマリアは顔を顰めると、

嫌な汗が再びその頬を伝っていった。


(伯爵級第2位って・・・そ、そんな実力者がどうして此処にっ!?)


「フフフ♪怖がらなくていいわよ~?

 私の事は~敬意と親愛を込めて~

 ポヨンちゃんって呼んでくれてもいいのよ~?」


「・・・・・」


悪寒がエマリアの全身を駆け抜けつつも、

気力を振り絞り、その激しく放たれる魔力に耐えていた。



そして事の成り行きを見守っていたライは・・・。


(おかしいですね?

 伯爵級第2位?あの方ってそんな実力が・・・?)


ライがそう考えていると、ある違和感が生まれたのだった。

その事に気付いたライはほんの僅かに口角を上げると・・・。


(これはこれは・・・また珍しいモノをお持ちのようで・・・。

 さて、それをあの人狼の娘が気付けるかどうか・・・

 フッフッフッ・・・実にこれは見物みものですね~)


そう思いながらライは再び静観した。



重苦しい緊張がエマリアに圧し掛かる中、

ポヨンはその歪めた表情を味わうように舌なめずりした後、

上機嫌に話始めた。


「じゅる・・・。

 貴女のような若い娘の生き血をいただけば、

 私もプレハ様のようにもっっっっと美しくなれるかもしれないわ~♪」


「・・・生き血?」


そう声を漏らしたエマリアにポヨンが、

マジックボックスからあるアイテムを取り出すと、

不気味な笑みを浮かべながら説明していった。



「特別に教えてあげるわ~♪

 この小瓶の中身は、幼い人族達の生き血を魔法薬でブレンドしたモノなの♪」


「・・・お、幼いって、ま、まさかっ!?」


その小瓶の中身を知ったエマリアは、

ブルブルと身体を震わせ怒りが込み上げていく。

先程までポヨンの魔力に委縮していたのが嘘だったかのように・・・。


そんなエマリアの事を気にする事なく、

ポヨンは興奮をさらに高めながら話は続けていった。


「ねぇねぇ~知ってる~?

 幼い人族の血液って、ある魔法薬と混ぜる事によって、

 若返りの効果があるの~♪

 でも本当は~・・・生まれたての赤ん坊がいいんだけど~

 ほら~・・・赤ん坊の血液って少ないでしょ~?

 だから仕方がなく5歳未満にしているんだけど、

 6歳以上になると~もう効果がないらしいのよね~?」


上機嫌で悦に浸りながら話すポヨンに、

エマリアの怒りはMAXを迎えたのだった。

そしてこうつぶいた・・・。


「・・・ムカついた」


そのつぶやきが聞こえないポヨンは、

エマリアに構う事なく話を続け止まる気配すらなかった。

そしてポヨンはその小瓶の蓋を「キュッ」と開けると、

上を向きながら舌を出し、

トロ~っとゆっくりとその小瓶の中身を舌の上に垂らし飲み始めた。


「!?」


その悍ましい光景にエマリアは一瞬にしてポヨンの前に躍り出ると、

その小瓶を蹴り上げつつ、ポヨンの顔面を殴り飛ばした。


「ぺぎゃっ!」


そんな妙な声を放ちながらポヨンは吹き飛ばされると、

大きな大木に叩きつけられ崩れ落ちていった。


殴り飛ばしたポヨンを睨みつつも、

エマリアが蹴り上げた小瓶が落下してくると、

小瓶を掴みその手に力を加わえ「バリンッ!」と音を立てて砕いたのだった。


ポヨンはエマリアの手の中から滴り落ちる赤い血液を見ると、

ワナワナと震えだしそのケタ違いの魔力を放ったのだった。



「あっ、あんたぁぁぁぁっ!

 ちょっ、ちょっとっ!あんたぁぁぁっ!

 一体全体何やっちゃってくれちゃってんのよぉぉぉっ!」


そう叫び怒号を飛ばすポヨンは魔力を容赦なく放出し、

エマリアへと浴びせるのだが、

怒りでブチギレているエマリアはある事に気付いた。


(・・・あれ?あの変態・・・ブチギレているはずなのに・・・どうして魔力量が?)


そう考え眉間に皺を寄せていると、

その様子を静観していたライが(ほほう~)と思いながら、

自分の顎を触っていた。


(あの人狼の娘・・・どうやら気付いたようですね?

 あの怒りの状態でよく気付いたモノ・・・ですね~

 いやはや・・・関心関心♪)


関心しながらもライは自ら動く気は更々なく静観の姿勢は崩さなかった。

そんな時だった・・・。

エマリアの魔力が両手の指先へと凝縮されると・・・。


魔爪まそうっ!」


そう叫び両手の爪が鋭く伸びると、

エマリアの前にユラユラと落ちてきた木の葉を、

ノーモーションで斬り裂いたのだった。


ポヨンはエマリアのその動きに目を細め、

見た目以上の実力に不気味な笑みを浮かべたのだった。


「・・・少しはやるようね?」


そんな言葉がポヨンから聞こえてくると、

エマリアは「ギチッ!」と、奥歯を噛み締め睨みつけていた。


「貴女の血を全て飲み干してあげる・・・」


ゆっくりと立ち上がったポヨンは魔力を放出させると、

エマリアへと駆け出した。


「あんたみたいな変態にっ!やられる私じゃないのよっ!」


そう叫んだエマリアも駆け出し、2人は激突した。

「ガシッ!」っと衝突音が鈍く響く中、

エマリアの魔爪をポヨンは両腕をクロスさせ、

赤い魔石がはめられた装飾品で防御したのだった。


「ガチッ、ガチッ!」と、音が軋む中・・・。

2人は歯を食い縛り力をぶつけ合っていた。


「や、やるじゃ・・・ないの・・・

 た、ただの人狼じゃ・・・な、なさそう・・・ね?」


「・・・黙れ」


2人の力が拮抗しているのだろう・・・。

衝突したままエマリアとポヨンはそのまま動かなかった。


ただ・・・。

2人が踏み締めている地面は次第にえぐれ陥没していった。



「人狼如きがぁぁぁぁっ!

 この美しい私に勝てると思うなぁぁぁっ!」


ポヨンが苦痛に顔を歪ませそう叫んだ時だった。

「ピカーッ!」と、両腕にはめられた赤い魔石が光を放つと、

放出された魔力量が増したのだった。


「こ、これってっ!?」


そう声を挙げたエマリアは、その放出された魔石の魔力で弾かれ、

数メートル後ろへ飛ばされた。


「ザザァァァ」っと地面を滑り転がるエマリアは手を着くと、

咄嗟に力の方向を変え上へと飛び上がり着地と同時に身構えた。


(すぐに攻撃がっ!)


そう予想し防御態勢を整えたエマリアだったが、

ポヨンからの攻撃は来なかった。

不思議に思ったエマリアはポヨンを見てみると・・・。


「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ」っと、肩で息をしていた。


(ど、どう言う事っ!?どうして肩で・・・)


ポヨンの様子に戸惑いを見せたエマリアに、

突然頭の中へと声が聞えてきた。


(あの者の持つ赤い5つの赤い魔石・・・。

 あの魔石があの者に力を与えているのです)


(あ、あなたはっ!?)


驚きつつもエマリアはポヨンから視線をはずさず頭の中で会話していった。


(私はユウナギ様に仕える者で御座います。

 自己紹介などは後に致しましょう・・・。

 僭越ながら少しばかり・・・アドバイスをと・・・そう思いまして・・・)


(あ、有難う御座いますっ!)


(コホン・・・。では早速本題ですが・・・。

 あの者の持つ魔道具の名は「マジック・ファウンテン」と言います。

 魔法の泉・・・と、呼ばれているモノです)


(・・・魔法の泉?)


(はい、あの装飾された赤い魔石に封印された魔力が、

 装着者の力を3倍ほどにさせるのですが、

 しかしその魔力量には限界があり、耐久値もそれほど・・・。

 ですが・・・油断されませんよう気を引き締めて下さいね?

 防御力も通常の3倍とはなりますが、

 防御壁を展開させるまで・・・

 そうですね~・・・この距離ですと・・・0.5秒ほど時間が御座いますね」


(・・・れ、0.5秒ですか・・・?

 わ、わかりました。

 アドバイス有難う御座いました)


ライからのアドバイスを聞いたエマリアは呼吸を整えると、

その態勢を低くし攻撃態勢へと移行し始め魔力を全身に漲らせて行った。


その姿を後ろから見ていたライは僅かに口角を上げると、

未だ肩で息を切らせているポヨンへと視線を向けたのだった。


(ユウナギ様が期待しておられるようですからね・・・。

 私になりに少しばかりテストさせて頂きましょう♪

 0.5秒の壁を超える事ができますかな?)


ライの眼前で攻撃態勢へと移行したエマリアに、

期待を寄せる男の姿があった。


「・・・行くわよっ!ブースト・・・3《スリー》バーストッ!」


エマリアがそう叫んだと同時に、ライの目の前から一瞬で姿を消したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る