第6話 大地の侠客参上っ!

此処はルクナの街の地下牢入り口付近・・・。


壁に持たれ地下牢を伺う者が冷めた目で門番を見つめていた。


「ふっ・・・門番がたった2人とは・・・」


その容姿に似合わずとてもイケボな男(?)が、

レイバンタイプのサングラスをはずすと・・・。


「・・・隠蔽」


そう言葉を漏らすと、男は気配と姿を消し行方を眩ませた。



そして此処は地下牢の中・・・。

ピチャン、ピチャンと水音が響く中、

冤罪で捕らえられている男がベッドに座り頭を抱えていたのだった。


(くっそーっ!どうして俺がっ!俺が何故こんな目にっ!?

 恐らくあのクソ秘書官野郎が何かしやがったに違いねーっ!

 俺は目の敵にされてたからな~・・・。

 くそっ!一体俺が何をしたってんだよっ!

 それに俺は自分の容疑も聞かされてねぇーんだっ!

 此処を出たら必ず・・・覚えてやがれ秘書官野郎っ!)


苦悶に満ちたインガルが地下牢のベッドでそう思っていると、

かすかにどこからか音が聞こえてきた。


(な、何だ・・・こ、この音は?)


耳を澄ませていると、次第にその音が大きくなり、

その音の方角へ視線を向けたインガルは驚愕する事になった。


「ギュイィーンっ!」


その音にインガルは思わずベッドから立ち上がり離れると、

鉄格子の柵にその身を預ける形となった。


「ギュイーン・・・」


(お、音が・・・と、止まったっ!?)


すると音が止まった辺りから、小さめの爆発音が聞こえると、

土煙が舞うその穴の中から・・・何かが出てきたのだった。


「ボンっ!」


「・・・な、何だっ!?」


地下牢の中は薄暗くその正体が掴めないでいると、

突然がインガルの耳に声が響いてきた。


「・・・よう、インガル・・・久しぶりだな?

 元気そうで何よりだぜ・・・。

 ふっ・・・そんな所で縮こまっていねぇーで、もっとこっちに来いよ?」


インガルはどこか聞き覚えのある声に、少し落ち着きを取り戻せたようだった。

そしてその声に導かれるように、インガルは歩み寄ると驚きの声をあげた。


「なっ!?あ、あんたは・・・っ!?」


「がっはっはっはっ!

 インガル・・・暫く会わないうちに言うようになったじゃねーか?

 あんなベイビーが・・・フフフッ・・・成長したもんだぜ」


インガルが見たモノは・・・。

サングラスをかけたわずか体長10cmほどの生物だった。

それが何か把握したインガルは、

その場に片膝を着き頭を垂れ礼を取って見せたのだった。


※ ヒューマ オス 10.4cm 年齢不詳 Sランク獣魔拳闘士 

  魔獣ハリマジロ族・・・ハリネズミとアルマジロのハーフ。

  今では世界にたった1匹だけの超希少種で、

  勇者の四神と言われる者の1匹。

  「大地の侠客きょうかく」と呼ばれていた。

  その性格は・・・ダンディで義理と人情に厚い男だ。


  以前は魔王軍所属で、魔獣を1000頭も率いるボスだったが、

  勇者時代のユウナギの圧倒的な力の前に破れ、

  臣下となりそれ以来、主と呼ぶようになった。

  その時の怪我で左目が見えなくなってしまい、

  ヒールをかけようとしたが・・・断られた。

  何でもこれを教訓に忠誠の証としたいらしい。


  生活魔法、全属性魔法が使用でき、その魔力量は竜族に匹敵する。

  自分の針を硬質化させ、剣術も魔将軍級。

  また、丸くなる事で針のボールとなり、敵を貫く豪快な技もある。

  今現在、自ら回転し飛び、その速度はMAX 147kmにもなる。

  そしてヒューマを素手で掴む事が出来るのは、ユウナギただ一人。

  因みにだが・・・俺が投げるとMAX 400km程になるんだぜ♪

  ふっ・・・これが俺の四神・・・いや、相棒だ。

  特技「裁縫とカクテル作り」俺の服はヒューマのお手製なんだぜ♪

  

  

「こ、これは失礼致しました。ヒューマ様っ!

 大変ご無沙汰しておりますっ!お元気そうで何よりですっ!」


「フッフッフッ・・・ベイビー・・・お前も元気そうで何よりだぜ」


「はっ!元気ではありますが・・・」


頭を垂れたインガルは思わず顔をしかめてしまった。

その様子にヒューマは口角を上げると、

マジックボックスから酒瓶とグラスを取り出したのだった。


「フッ・・・湿気しけた顔してんじゃねーぜ?

 まずは景気づけだ・・・飲みな」


「は、はいっ!あ、有り難く頂戴致しますっ!」


ヒューマは「トク、トク、トクッ」と、グラスに酒を次ぐと、

自らも酒を注ぎグラスを合わせ一気に喉へと流して行った。


※ 説明しようっ!

  ヒューマはその小さな体格ではあるが、

  片腕で数百キロある重さのモノでも軽く持てるのだっ!



「プハァーっ!」


「うむ・・・どうだ?」


「は、はいっ!この酒は・・・き、効きますねっ!?」


「はっはっはっ!そりゃ~そうだぜ・・・ベイビー。

 この酒はな?我が主より下賜された一級品の酒なんだぜ?

 不味い訳があるはずもねぇーだろ?」


「・・・はっはっはっ!た、確かにそうですね?

 流石は勇者様が選んだだけはありますね?」


だがそのインガルの言葉にヒューマは少し顔を顰めて見せたのだった。

その表情に気付いたインガルが慌てて口を開いた。


「な、何か、気に入らない事でもっ!?」


「いや・・・なに・・・大した事じゃねーんだがな?

 ふむ、少し訂正しておく必要があるな?

 この酒はな?我が主の魂が込められた嗜好品だぜ?

 それを気軽に・・・。

 ふっ・・・まぁいい・・・

 それとな?・・・我が主の事を勇者と呼ぶんじゃねぇーっ!」


「は、はいっ!う、迂闊で御座いました。とんだ失礼を・・・

 そ、それと酒の作り主が、ゆう・・・い、いえ、ユウナギ様とも知らず、

 重ね重ね失礼致しましたっ!」


「はっはっはっ!ベイビー・・・わかっていれば問題ねぇー。

 この街が我が主の為に作られたって事は知らねぇーからな?

 だから決して・・・気取けどられてはならんぞ?」


「はっ!我が生命に代えましてっ!」


「はっはっはっ!俺はな?主には楽しく暮らしてもらいてーんだ・・・。

 だからカートの小僧の話に乗ってやって、この街を作ったんだからよ?」


「はい、我々この街に住む住人達は、ユウナギ様に恩義ある者達ばかりです。

 その恩に報いるためにも、我々はこうしてこの街に居るのですからね」


「ああ・・・お前達にも苦労かけるな?」


「いえ、ユウナギ様の為ならば・・・と」


「はっはっはっ!」


ヒューマから出された酒を2杯ほど飲み干した時だった。

「カツン、カツン、カツン」と、

石畳をこっちに向かってくる足音が聞こえてきた。


「もう・・・来やがったか?」


「ヒューマ様、この場はとりあえず穴の中に・・・」


ヒューマを背後に庇うように、インガルが立ちはだかると・・・。


「いや、倒しておいた方が楽だからな?」


「た、倒すって・・・一体どうやってっ!?」


「お前はその態勢のまま居ろ・・・一瞬だ・・・一瞬で全てが終わる」


「・・・わ、わかりました」



インガルは緊張した面持ちを見せるが、牢番ろうばんが1人顔を見せると、

そのインガルの表情は引き締まり、戦士としての面持ちを見せていたのだった。


牢番の男は、インガルのその醸し出す雰囲気に気圧されつつも、

引きつった笑みを浮かべ口を開いた。


「はっはっはっ・・・イ、インガル・・・てめぇーも焼きが回ったな?

 警備隊隊長として上手くやってたってのによ?

 どうしてまた幼児売買に手を染めやがったんだ~?」


その牢番の言葉に、インガルは険しい表情を浮かべると、

鉄格子に飛びつき、背後に居るヒューマを隠しつつ喰ってかかった。


「な、何でそんな話になってんだよ・・・

 全然身に覚えがねーんだけどよぉーっ!説明しろやコラっ!」


鉄格子に飛びついたインガルに牢番は「ひぃっ!」と、声あげ、

背後にある石壁まで下がってしまった。

そしてオドオドとしながら言葉を漏らしていった。


「お、おおおお前が・・・や、やったんだろうが・・・

 ひ、秘書官・・・殿が・・・そ、そう言っていたぞっ!」



「はぁ~?まじでそれ言ってんのか・・・てめぇーっ!」


「あ、あた、当たり前だっ!秘書官殿が・・・

 俺達に嘘なんて言うはずないだろうがよっ!」


「て、てめぇーら・・・腑抜けやがってっ!」


インガルが怒りに顔を歪ませた時だった・・・。


「シュッ!」っと、インガルの股の間を何かが通り抜け、

風切り音だけが耳に届いた時、

牢番の男が「ドサッ」っと音を立て崩れ落ちたのだった。


その様子に慌てて振り返ったインガルだったが、

ヒューマの姿が見当たらなかった。


再び慌てたインガルがキョロキョロとしていると・・・。


「ベイビー・・・こっちだ」


「・・・えっ!?」


突然背後から聞こえたヒューマの声に、

インガルの心臓は一瞬大きく弾んだのだった。


ヒューマを見たインガルは心の中で声を漏らしていた。


(い、いつ・・・移動したんだよ?

 そ、それに・・・こ、この牢番は・・・?)


インガルがそう考えていたのを見越したように、

ヒューマは笑みを浮かべると・・・。


「はっはっはっ!心配はいらねーよ?

 こいつは俺の麻酔針で眠らせただけだからよ?」


そう言いながらヒューマは牢番の膝の防具の隙間から針を抜くと、

インガルに笑顔を見せたのだった。


「さ、流石ですね?」


インガルがそう言った時だった。

何かを気にしたヒューマがマジックボックスから円柱状のモノを取り出した。


「インガル・・・てめぇーにプレゼントだ」


僅か10cmほどのモノを受け取ると中身を取り出し確認した。


「一体・・・これは?」


「・・・・・」


「こ、これはっ!?こ、公文書っ!?

 な、何々・・・?」


内容を読んでいくインガルは、書かれていた自分の罪状を読むと、

顔を真っ赤に染め上げながら呻くように言葉を吐いた。


「あの秘書官野郎・・・っ!

 絶対にただじゃおかねぇーからなっ!」


インガルの表情を見ていたヒューマは薄く笑みを浮かべけると、

これからの行動について話していくのだった。


「いいか?まずここでカートの小僧と合流する」


「こ、こんな所で合流って・・・?」


「うむ、当初は違う予定だったんだがな?

 我が主がお前に手柄をって事になってな?」


「ユ、ユウナギ様がですかっ!?」


「ああ・・・相変わらずお優しい御方なのだ・・・我が主はな?

 だから貴族どもにめられちまったんだがな?

 フフフ・・・ハッハッハッ!」


盛大に笑うヒューマに、インガルは再び公文書を見ると、

その手に力が込められたのだった。


「ユウナギ様・・・」


自分の罪状がずらっと並んだ上・・・。

「極刑」と書かれた文字を見た時、インガルの表情が怒りに満ちた。

その時、イケボなヒューマの声が耳に届いたのだった。


「怒るのは後だぜ、ベイビー・・・とりあえずここから出るぞ?」


「わ、わかりました・・・

 で、ですが・・・この牢番鍵を持ってないようですが?」


インガルの視線は牢番の腰の辺りを見てそう言うのだが、

ヒューマはニヤりと笑みを浮かべていたのだった。


「ふっ・・・こんなモノ・・・」


そう言うとヒューマは、鉄格子の間に立つとニヤりと笑みを浮かべた。


「ベイビー・・・見てろよ?」


「は、はいっ!」


「・・・はぁぁっ!」


そのヒューマの気合と共に、鉄格子はグニャリと曲がり、

1mほどの半円が出来たのだった。


「すっ、すげー・・・」


「さぁ・・・こっちだ」


「は、はいっ!」


ヒューマの指示に従ったインガルはその後を着いて行き、

階段の傍まで来るとヒューマのハンドシグナルでその場にしゃがみ込んだ。


「うむ・・・カートの小僧め・・・やっと来やがったか?」


ヒューマの声にインガルが耳を澄ますと上の階から何やら話し声が・・・。

するとヒューマがインガルへと振り返りこう言った。


「少し様子を見てくる・・・お前はここから動くなよ?」


「・・・わかりました。気をつけて・・・」


「・・・ふっ・・・ああ」


ヒューマが向かおうとした時だった。

突然金属音が鳴り響くと叫び声が2人の耳にも届いたのだった。


「お、お前ら・・・ここがどこかわかっててっ!?」


「だっ、誰かーっ!詰め所に連絡をっ!」


「てめーらっ!ギルドのっ!?こんな事やっておいて・・・貴様らっ!」


「ぞ、増援をっ!」


その声が聞こえた後・・・

すぐに静まり何者かが階段を下りてくる足音が聞こえた。


「・・・ヒューマ殿っ!」


その声を聞いたヒューマは一度振り返りインガルを見上げると、

軽く頷いて見せ、階段の隅からその身体を現した。


「・・・小僧、ここだ」


その声に階段を下りる音が早くなると・・・。


「・・・ヒューマ殿。ご無事で・・・」


「ふっ・・・当たり前だ。

 本来なら俺一人で事足りたんだが・・・な?」


「も、申し訳ない・・・」


「ふっ・・・いいって事よ・・・。

 奴らも腕は落ちていないようだな~?

 重畳ちょうじょう、重畳・・・。


その言葉にカートは苦笑して見せていた。

そしてヒューマの後ろに居たインガルがその姿を現し、

苦笑いを浮かべていたのだった。


「よぉ~インガル?

 はっはっはっ!お前も災難だったな~?」


「あ、ああ・・・全くだぜ。

 俺は容疑も何も聞かされずここに閉じ込められたからな~?

 ヒューマ様から受けとったこの公文書を見て愕然としたぜ~」


「だろうな?だがまだ解決してないからな?

 むしろ・・・ここからが本番だ」


「・・・だな。わかった」


ヒューマを肩に乗せたカートが階段を登って行くと、

そこには数十名の兵達が捕縛されていたのだった。


「こっ、これは・・・一体っ!?」


インガルが目の当たりにしたのは、

兵達がギルド職員の手によってロープで縛られ、

部屋の隅に纏められていた姿だった。


「な、なぁ~・・・カートさんよ?」


「・・・何だ?」


「こ、こいつらって・・・ただのギルド・・・職員・・・だよな?」


「はっはっはっ!・・・今は・・・な?」


「!?」


今は・・・。そう言ったカートは含みのある笑みを浮かべると、

ギルマスらしく、テキパキと指示を出して行った。


そしてギルド職員達に後を任せたカート達は、

急ぎ秘書官が居る庁舎へと、馬車に乗り込み走り出して行く。


(待ってろよ・・・秘書官殿っ!)


拳を握りしめたインガルの鋭い眼光が闇夜で光っていたのだった。




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