第5話 密会と侵入者
仕事の前日・・・。
昼過ぎに起きてきたユウナギは食事を摂り終えると、
どこかへと出かけて行ってしまった。
その背中を黙って見ていたのはアスティナだった。
「・・・ふぅ~、何とか堪えてくれたみたいね」
そう言葉を漏らすと、背後からエマリアが答えた。
「新しい情報を聞いた途端・・・ブチギレてましたからね~?」
「そうね・・・その気持ちはよく分かるけど・・・ね」
(それに睡眠も取ってないようだけど・・・大丈夫なのかしら?)
2人はユウナギの背中を見えなくなるまで見送ると、
仕事の準備に取り掛かるのだった。
そしてユウナギはと言うと・・・。
露店で串肉を食いながらある場所へと向かっていた。
それはルクナの街を出た小さな雑木林の中にある、
古ぼけた一軒家だった。
ユウナギはその一軒家のドアの前に立つとノックを3回鳴らした。
「コン、コン、コン」
すると中から女の声が聞こえてきた。
「・・・誰?」
「・・・俺だ」
「一応確認するわ・・・「お前の爺さん」・・・」
「・・・ニューハーフっ!」
「・・・ユウナギね?」
「・・・ああ」
「ガチャ」っと、ドアが開き中へ入ると、
薄暗い家の中に、一人の女性が立っていたのだった。
ユウナギはその女性の横をすり抜けると、
リビングらしき場所にある椅子に腰を下ろした。
その女性は何も言わずユウナギの前にコーヒーを置くと、
対面の椅子に座り、自らもコーヒーに口をつけた。
そして一息つくと、その女性が話を切り出した。
「相変わらず5分前には来るのですね?」
その女性は少し笑みを浮かべながら視線をユウナギへと向けると、
ユウナギは口角を上げつつコーヒーに口をつけた。
「・・・これでも意外と真面目なタイプなんでね?」
「フフフ、よ~く知ってるわ♪」
「・・・で?例のモノは?」
ユウナギのツレない素振りに、その女性は少し拗ねているようだった。
「あっそっ!・・・まぁ~いいわ・・・
でも、大急ぎで作ったんだから・・・今度私に付き合ってよね?」
「・・・ヘイヘイ、分かりましたよっと・・・」
ユウナギはその女性から大きい封筒を受け取ると、
中身を確認したのだった。
するとその女性が頬杖着きながら口を開いた。
「ねぇ、その公文書・・・どうやってインガルに渡すのよ?」
「ああ~それか・・・それなら考えがある」
ユウナギはそう言うと、
マジックボックスから10cmほどの円柱状の筒を取り出した。
その蓋を開け書類を入れると・・・。
「さてっと~・・・あとは相棒にっと・・・」
マジックボックスを再び開くと、その中から手が伸びてきた。
その光景に女性は一言・・・「ああ~・・・なるほど♪」そう言うと、
コーヒーのおかわりをユウナギのカップへと注ぐのだった。
「ねぇ、ユウナギ・・・今夜、仕事よね?」
「ああ・・・それがどうかしたのか?」
心配した表情が見て取れたユウナギは、
笑みを浮かべるとこう言った。
「心配すんじゃねぇーよ?
俺の
「だ、だけど・・・相手は・・・」
「お前は相変わらず心配性だな~?」
ユウナギはそう言いながら微笑んで見せると、
続けてこう話した。
「なぁ、ジュリ・・・。
もうそろそろカートのヤツに、
俺との関係を話してもいいんじゃねぇーか?」
その問いにジュリエットは首を振って拒否して見せた。
「何でだよ?カートのヤツをいい加減騙しているのは、
正直いい気がしねぇーんだがな?」
「ユウナギ・・・いえ、リョウヘイ様・・・。
私は王女の命令で、陰から貴方を守ると言う使命を受けています。
ですから、何があろうと・・・私は王女からのご命令を守ります。
それに貴方は私を救ってくれたばかりではなく、
王宮で働く時にもご尽力下さいました。
ですから・・・いえ、例え王女の命令がなくても、
私は貴方のお力になると決めたのですっ!」
その
ユウナギは今回の仕事について、ジュリエットに話を聞いてみた。
「ところでジュリ・・・。
お前、公文書偽造とかできんだな~?
まじで驚いたんですけど?」
「ふふふ・・・リョウヘイ様・・・。
女はミステリアスなくらいが丁度いいんですよ~?」
「ミステリアスも何も・・・お前の全てを知っているつもりだったんだけどな~?
いつの間にそんな事まで出来るようになったんだ?」
「いいですか・・・リョウヘイ様。
逆に聞きますが、一体私のな・に・をっ!知っていると言うんですかっ!」
ユウナギはテーブルに頬杖を着くと、ジュリへと視線を向けたのだが、
その視線は徐々に下がっていき、胸の辺りで固定されると・・・。
「うむ・・・その立派な胸が・・・
サラシで台無しになってしまっている事かな?」
「・・・はぁ?い、いいい、いつ見たんですかっ!?」
「いつって・・・ん~・・・忘れたな」
「ひ、人のっ!私の裸を見ておいて・・・わ、忘れたですってぇぇぇっ!」
「ふぁぁぁ~・・・ねむっ!つーかさ?いや、逆に俺も聞こうっ!
何故・・・何故その巨乳を隠すんだよっ!
勿体ねぇーじゃんよ?」
するとジュリエットは顔を真っ赤にして、怒鳴ってきた。
「もっ、もったい・・・はぃーっ!?
な、何を突然言い出すんですかぁぁぁーっ!?
って言うか、こうなるきっかけは・・・リョウヘイ様のせいなんですからねっ!
わ、わた・・・私のこの胸の話ばかりをリーチェ副団長さんにするからっ!
いっっっつも睨まれていたんですよっ!
特に・・・私の胸が・・・睨まれていたんですってばっ!
あ、あの人の視線って・・・まじ半端ないんですけどっ!?
い、生きた心地が・・・い、いえ・・・自然と死を意識してしまう・・・
あ、あの目が今でも夢に出てくるんですよぉぉぉっ!」
ジュリエットは目を閉じ、当時のリーチェの視線を思い出すと、
条件反射で身体が小刻みに震えていたのだった。
すると・・・。
「あ、あの・・・リョウヘイ・・・様?
えっ!?・・・ね、寝てるっ!?」
「Zzz・・・Zzz・・・Zzz・・・」
ジュリエットがトラウマを語る中、既にユウナギは眠っていたのだった。
目の前のありえない光景に、流石のジュリエットが・・・キレた。
「あ、あんたは・・・あんたって人はぁぁぁっ!」
そう叫びつつテーブルを思いっきり叩くと、
その衝撃でテーブルが破壊され、凄まじい音を放ったのだった。
「う、うぅわぁぁっ!じ、地震かっ!?そ、それとも・・・て、敵襲っ!?」
ユウナギは自分が座っていた椅子にしがみつくと、オロオロとキョドっていた。
そして視線を向けた先に瞳が燃えたぎらせるジュリエットを確認すると・・・。
「フッ・・・何だ、火事の方か・・・。
俺ってば火属性の耐性はほぼ無敵だから問題なしっとっ!」
そう言い切ると、ジュリエットが拳を力強く握り・・・こう言い放った。
「私の敬愛する・・・リョウヘイ様の必殺技っ!」
「えっ!?ま、待てっ!早まるなっ!話せば分かるっ!
お、俺が・・・お、教えたの・・・!?い、いつ・・・?
こ、拳・・・系の・・・必殺わ、技っ!?
あ、あれ・・・?全然・・・覚えてないっつーか・・・
お、教えたっけっ!?
って言うかっ!お、俺ってば仕事で寝てなかったからぁぁぁーっ!」
冷や汗を流しつつユウナギはジュリエットの怒りに震えていると・・・。
「も、問答無用・・・ナリっ!」
「ナッ、ナリっ!?」
「喰らえぇぇぇっ!ひーっさつっ!ジャッキーさんの椅子攻撃っ!」
「へっ!?」
ジュリエットは椅子を掴むと、
物凄い速さでクルクル振り回し始めるとこう言った。
「あ~らよっとぉーっ!」
そのかけ声と同時にユウナギの顔面で椅子が爆発した。
「ボカンっ!」
「ぺぎゃあっ!!」
物凄い勢いで飛ばされたユウナギは、壁にめり込んでしまった。
その様子を見たジュリエットは、手についた汚れを「パンパン」と払うと、
捨て台詞を言いながらその小屋を後にしたのだった。
「・・・おとといきやがれっだいなまいとっ!」
「・・・ま、待て・・・い、色々と、まちがっ・・・て・・・」
「ドカっ!」
「ぐぁっ」
ユウナギは壁にめり込んだまま、反論しようと話し始めると、
壁に設置された棚がユウナギの頭へ炸裂したのだった。
そして意識が途切れる前に、ユウナギはこう思っていた。
(ジャッキーさんって・・・勇者時代に見せた・・・あの椅子芸かっ!?
そう言えばそんなこ・・・と・・・を・・・)
「パタリ」
そしてその夜・・・。
頭頂部に大きなたんこぶを作っていたユウナギが、
地下室で座ってコーヒーを飲んでいた。
この部屋に集まるまで聞かずにいた者達は、
その重い口を開いた。
「ね、ねぇ・・・ユウナギ?
そ、その~・・・その頭のこぶ・・・どうしたの?」
「あ、ああ。実は俺も気になってよ?
な、何があったか・・・聞いていいか?」
エマリアは口を開くのやめ、ユウナギの言葉を待っていると、
ふてくされた口調で口を開いたのだった。
「・・・べっつに~・・・ちょ、ちょっと~
上から物が落ちてきただけだしぃ~?
もう痛くないって言うか~・・・む、むしろ・・・全然平気だもんね~」
「あははは・・・あ~あ・・・」
(あんた・・・一体誰とトラブったのよ?)
ユウナギの言葉に呆れ返ったアスティナだったが、
咳払いをすると本題に入ったのだった。
「こほん・・・え~それではそろそろ準備しましょうか?
えっと~・・・カートは警備隊の秘書官の確保をお願いね?」
「ああ、お前から受けとった冤罪の数々があれば問題ねーよ。
それとこの魔石に記憶されている秘書官のサイン入りの証拠もあるしよ」
「ええ、そっちは任せたわ。
そしてエマリアは・・・男爵の屋敷の警備隊の鎮圧と、
余裕があれば私かユウナギのフォローをお願いね?」
「はい、事後報告になってしまいますが・・・。
男爵は遅い時間にしか帰宅出来ないよう小細工しましたので、
上手く行けば同じ屋敷内で・・・」
「あら?気が利くわね・・・ありがと♪
私は一応念の為・・・男爵の勤務先へ行って、問題なければ捕獲するわ。
まぁ~その時はエマリアの小細工とやらが台無しになっちゃうけどね♪」
「フフフ・・・私の手間なんて、たかが知れていますから、
アスティナが動きやすいタイミングで問題ないですよ?」
「フフッ・・・そう言ってもらえると助かるわ♪
・・・それでっと・・・」
アスティナはいつまでもふてくされているユウナギに視線を送ると、
溜息を吐きつつも話かけたのだった。
「ユウナギ?あんたは・・・」
「わーってるよ・・・心配すんな。
その魔族は必ず
それと・・・だ・・・。
カート・・・公文書の件はインガルに託す事にした。
つーか・・・恐らくそろそろあいつの手に渡っている頃だと思うぜ。
だからお前はまず、地下牢でインガルのヤツを拾ってから、
秘書官の元へ行け・・・いいな?」
ユウナギのその言葉に、カートは笑みを浮かべると・・・。
「ああ・・・あいつが何とかやっているはずだろうからな~?
インガルのヤツも棚ぼたで手柄が転がり込んてくるんだ・・・。
地下牢に入って少しはハクが着くってもんだろ?
それに何があっても、あいつがサポートするだろうしよ~?」
「フッ・・・うちのヒューマの手にかかれば問題なしだぜっ!
ヒューマは俺に似て、出来る子だからなっ!」
2人の気味の悪い笑みに、女達は顔を引きつらせると、
アスティナが続けて話した。
「ねぇ、ヒューマに任せて大丈夫なの?」
「ん?どう言う事だ?」
「い、いや・・・だって・・・インガルは地下牢にいるのよ・・・?
いくらあの子だって、流石に石の壁は・・・」
「おいおい、アスティナさんや・・・
君はまだ・・・本当のヒューマを知らない・・・クックックッ」
「・・・い、嫌な笑い方ね・・・?
あ、あと・・・それって何のキャッチなのよ?
まぁ~いいわ・・・あんたがそこまで言うのなら・・・問題ないわね?」
「ああ・・・問題ない」
ユウナギ達は手はずを整えると、
それぞれの受け持ち先へと向かって行くのだった。
そしてその30分後の事だった・・・。
ユウナギと書かれた表札の前を通る1つの影・・・。
街の人達はぐっすりと就寝中のようだった。
そしてユウナギ邸も同じく・・・灯りは消えていたのだが・・・。
「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ」っと、石砂利の上を何者かが通って行く。
その人影は正面から堂々と階段を上りドアノブに手をかけると、
「ガチャ・・・ガチャガチャっ!」と、数度となくドアノブを回した。
「・・・・・」
その人影はほんの一瞬で家の鍵を開けると中へと侵入して見せた。
そしてあろう事か・・・
天井にある魔石に魔力を送ると、明かりを灯したのだった。
そして侵入者はリビング向かうと再び明かりをつけ、荷物を降ろすと、
ふと、テーブルに置いてあるメモ書きに視線が止まり、
手に取って内容を読んで行った。
するとその侵入者は「プルプル」と震え始めるとこう叫んだ。
「えぇぇぇぇっ!?仕事で誰も居ないのかよぉーっ!」
そう叫ぶとその書き置きには続きがあった。
その汚い文字に視線を這わせて行くと、その内容はこうだった。
「追伸・・・冷蔵庫にご飯があるから、チンして有り難く食べなさいっ!」
そう書いてあると、その男は首を捻ってつぶやいた。
「あ、あの~・・・「チン」ってなんス・・・かね?
それと、何で上から目線なんだよっ!」
こうして家の中で立ち
「えぇぇぇっ!?オレの出番これで終わりなのかよぉーっ!」
そう叫び声をあげると、どこからか苦情を叫ぶ者が居た。
「うっせーぞっ!誰だっ!?こんな夜中に叫びやがるボケはっ!
だいたいだなっ!今、何時だと思ってやがんだっ!」
「あんたもだよっ!?今何時だとおもってんだいっ!」
「バチンっ!」
「ぐはっ」
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