第3話 俺の目は誤魔化せねぇーぜ?
家の壁から開放されたユウナギは会議を行っていた。
深刻な面持ちをした一同が対策を練っていたのだが・・・。
「う~む・・・まずいなこりゃ~・・・?」
ユウナギはアスティナ達の情報を纏めていると、そう言葉を口にしたのだった。
そしてそれに同意するように一同が頷くと、
ユウナギが面倒臭そうにボヤキ始めた。
「ここまで完璧に証言やら書類やらを偽造されるとな?
流石・・・冤罪王と言われるだけあるぜ~全くよ~・・・」
「ああ・・・俺もギルドの力で色々と嗅ぎ回っては見たが・・・
ん~・・・正直これはどうにもならねぇな?
完璧な証拠が有り過ぎるぜ」
カートはギルドから持ってきた書類を手に持ちながら、
眉間に皺を寄せていた。
するとアスティナがある書類を手にすると、
目を細めてその内容を読んでいた。
「ねぇ、カート?こいつ・・・何者なのよ?」
アスティナは何枚か書類を手にすると、
その書類をカートへと渡し、ある男の名前を指差した・・・。
「ん~?ああ~・・・こいつか?
こいつはたまにこの街に来る商人だが・・・こいつがどうかしたのか?」
すると今度はユウナギが神妙な面持ちで数枚の書類を並べると、
その内容を照らし合わせ始めた。
そしてユウナギは目を細めるとこう言った・・・。
(ああ~・・・そう言う事か・・・)
「・・・この「ロットル」って・・・男・・・おかしくねぇーか?」
「ええ、私もそいつの名が度々出てくる事に疑問を持ったのよね~。
一個人であるはずの者が、連続して目撃者になんて成り得るの?」
アスティナの発言にカートが書類を何度も見合わせていく・・・。
だが、その書類上は何の問題もなかったのだった。
「んー・・・アスティナ、悪いがこの書類は正式なモノで本物だ。
何者かが偽造したとは到底思えないな」
「・・・で、でもっ!」
書類上は正規のモノでその内容にも疑いようもない事実に、
アスティナが苦悩していたことが見て取れると、
ユウナギが笑みを浮かべ口を開くのだった。
「アスティナ~・・・お前の着眼点は良いんだよ。
だがな?問題はそこじゃねぇーんだ」
ユウナギのその言葉に、
慌てたアスティナ達が書類を再び見比べ始めると・・・。
「何だよ?まだわかんねぇーのかよ?
いいか・・・注目するのは・・・ここだ、こ~こ・・・
それとな?・・・この書類・・・見てみ~?」
静かな口調でユウナギはある場所を指で差し示すと、
驚いたアスティナ達が今度はその男の名がある書類を漁り始めたのだった。
ユウナギは自分のいつもの席に座ると、
くるりと椅子を回し外の景色を眺めていた。
(いい~天気だな~・・・こんな日は・・・仕事したくねぇ~)
そしてアスティナ達が書類を集め終わる頃合いに、
ユウナギは外を眺めたまま再び口を開いたのだった・・・。
「いいか~お前ら~?
注目する点は・・・日付と~・・・」
再びアスティナ達は書類を日付順に並べていった。
そして並び終えた頃・・・。
アスティナ達はある男の名がその全ての書類に記載されており、
驚きの声をあげたのだった。
「これはっ!?ど、どう言う事よっ!?」
「お、おいっ!ユウナギっ!?い、一体どう言う事だっ!?」
「わ、私が一晩で集めた情報では、どこからもこの男の名など・・・」
驚くアスティナ達にユウナギは溜息を吐くと、
面倒臭そうに答えた。
「ったくよ~・・・手間の掛かる事をしやがって・・・」
立ち上がり一枚の書類を手にしたユウナギは、
その書類を見ながらそう言った。
「この商人のロットルってヤツは、言わばデコイ・・・。
つまり囮って事だ。
万が一に備え、手を打っていたみたいだが・・・
それにこの男・・・警備隊の秘書官殿だよな~?」
ユウナギはアスティナ達に、「ちょっと手伝え」そう言って、
その書類を部屋の壁に貼り付けて行った。
そして関連性がある全ての書類を張り終えると、
ユウナギがペンを持って書類を差し示し始めた。
アスティナ達はその指し示された事柄を注目し、
黙ってその話に耳を傾けるのだった・・・。
「まず、日付だ・・・。それと場所と時間。
で・・・これがインガルの勤務表だ」
ユウナギは新たに一枚の書類を壁に貼り付けると、
警備隊隊長であるインガルの勤務表と照らし合わせたのだった。
「う、嘘っ!?全部・・・重なってるわっ!?
それにこのサイン・・・秘書官のっ!?・・・普通はありえないわよね?」
「ああ・・・見事にバッチリはまってやがるっ!
なるほどな・・・警備隊の勤務日程は秘書官が決めるからな?
だからと言って、秘書官が調書を取るなんて事はありえないからな~・・・ 」
「流石はユウナギ様です・・・改めて感服致しました。
ん?えっと~その・・・ユウナギ様?」
それぞれが感想を言ったのだが、ユウナギは目を閉じ無反応だった。
その反応にアスティナ達は動揺し始めると、
再び書類に目を這わせて行くのだが、他に見当たる事がなかったのだ。
「お、おい・・・な、何でお前黙ってんだよ?
他に目新しいモノなんて・・・ないんじゃないのか?」
カートがユウナギにそう言っても、目を閉じ無言を貫いていた。
その反応に何かを察したエマリアが、隅々まで書類を凝視していると・・・。
「あっ!?こ、この書類・・・全てカナールマイケル家の紋章ですっ!」
「はぁー!?」
「う、嘘っ!?」
エマリアの荒げた声に、カートとアスティナは書類を凝視するのだが、
角度を変え少し遠くから眺めて見ても、その紋章を見つける事が出来なかった。
「おいおい、エマリア?一体これのどこに紋章があるってんだ?」
「んー・・・ごめん、私も全然わからないわ」
するとエマリアが貼り付けた書類を一枚剥がすと、
ある場所を差し示めして見せた。
「えっ!?どこ・・・よ?べ、別に何も・・・」
「ここです、ここっ!」
そう言ってエマリアは書類の左下の角を見せると微笑んで見せた。
「ちょっとここを触って見て下さい」
エマリアの言葉の通り、2人は書類の角付近を触って見ると、
あまりの驚きに一瞬言葉を失うのだった。
そしてアスティナがその書類をエマリアから奪い取り、
太陽に翳(かざ)して見てみると・・・。
「こ、これはっ!?カナールマイケル家の紋章っ!?」
「ほっ、ほんとかよっ!?アスティナっ!お、俺にも見せてくれっ!」
カートが慌ててアスティナから書類を手渡されると、
アスティナのように太陽に翳して目を細め確認していく。
「・・・フフッ」
その様子に少し笑みを浮かべたユウナギが楽しそうに話始めていった。
「まぁ~それは透かし彫りってヤツだ。
普通は気付かねぇーとは思うが、生憎と俺の目は節穴じゃないんでね?
それにな?もう一点・・・あるんだな~これが・・・」
「も、もう一点っ!?」
「ユウナギ様っ!?それは本当なのですかっ!?」
「ああ、本当だとも・・・注意してよ~く見てみようっ!
はいっ!シンキングタ~イムっ!」
3人はユウナギの言葉に慌てふためき各自が書類を手に太陽に翳した。
だがそう簡単に事は運ばず、次第に集中力が切れそうになった頃だった・・・。
「み、見つけたわっ!」
額に汗を滲ませ、嬉しそうにそう叫んだのはアスティナだった。
カートとエマリアも驚きつつもアスティナに説明を求めると、
そのアスティナはユウナギに視線を向け口を開いた。
「ユウナギ・・・あんたいつ気付いたのよ?」
アスティナのその真剣な視線にユウナギはくるりと椅子を回し、
外の景色に視線を移しながら答えた。
「あ~・・・エマリアが持ってきたカナールマイケルの極秘資料だけど?」
アスティナはその言葉を聞くと、ソファーの前にある机に向かい、
エマリアが持ってきた極秘資料を探し始めた。
「アスティナ~・・・ほいっ、これ~・・・」
アスティナに背中を向けたままのユウナギが、
その書類をもってペラペラと棚引かせていたのだった。
「うぐっ・・・」
呻き声をあげたアスティナがスタスタと歩き、
その書類をユウナギから奪い取ると、
証拠となるモノを探し始めた。
そしてあっと言う間に見つけ出し、
背中を向けたままのユウナギにその視線を送ると・・・。
「・・・見つけたのなら、一番下の署名・・・見てみ~?」
いつの間にかアスティナの背後にいたカートとエマリアが、
アスティナ共々書類に視線を這わせていくと、
3人が同時に目を見開き声をあげたのだった。
「こ、これって・・・あのクソ男爵の執事の名じゃないっ!?」
「おいおいっ!待て待てっ!?
どうして極秘資料の署名に、カナールマイケル男爵の署名じゃなくて、
ブラッツの・・・あ、あのじじぃ執事の名があるんだよっ!?
お、おかしいじゃねーかっ!
ユウナギっ!説明しろよっ!」
困惑して声を荒げたカートに、ユウナギは椅子を再びくるりと回し、
アスティナ達へと向き直ると、何故かその顔は引きつっていた。
「なぁ~・・・カートさんよ~?
あの執事・・・いつから男爵の執事をやってるんだ?」
「な、何で俺にそ、そんな事を聞くんだよ?」
「・・・いいから・・・話せよ?」
その引きつった笑みに、カートは気圧されてしまったが、
気持ちを落ち着けると静かにユウナギの問いに答えた。
「た、確か・・・じゅ、10年ほど・・・ま、前だったかと思うが?
そ、それが、一体どうしたってんだ!?」
そのカートの答えに、更にユウナギは顔を引きつらせ、
それと同時に・・・殺気が放たれたのだった。
「「「!?」」」
「はっはっはっ・・・こんな所に逃げてやがったのか・・・」
その憎悪とも取れるその殺気に、何かを察したアスティナが口を開いた。
「ね、ねぇ・・・ユウナギ・・・それって、ま、まさか・・・!?」
「ああ~察しがいいじゃねぇーか・・・?アスティナ・・・そのまさかだよっ!
ヤツらの一人が・・・こんな田舎の街に隠れていたとはなぁ~?
灯台下暗しってヤツだな・・・はっはっはっ!」
ユウナギの鋭い眼差しがこの部屋に居た者達を圧倒していたのだった。
するとその圧力に苦悶の表情を見せたアスティナが、
苦しそうに口を開いた・・・。
「ユ、ユウ・・・ナギ・・・ちょっ・・・お、おさえ・・・て・・・」
その苦悶に満ちた表情にユウナギは我に返ると、
慌てて殺気を引っ込めると、バツの悪そうな表情を見せていた。
「す、すまんっ!わ、悪りぃー・・・つ、つい・・・な?」
「はぁ、はぁ・・・べ、別に・・・いいけど・・・。
あんたの気持ちは・・・よく分かるし、私も同じだから・・・」
ユウナギとアスティナの2人だけが分かる会話に、
まだ苦悶の表情を浮かべていたカートが口を開いた。
「お、お前・・・たち・・・、
い、一体・・・な、なんの会話をしてやがる?」
「そ、そうですよ・・・わ、私達・・には・・・さっぱりと・・・」
そんな辛そうな表情を浮かべつつ発せられた言葉は、
ユウナギにはこう聞こえていた。
「・・・俺達の間に隠し事は無しだぜ」っと。
ユウナギはアスティナと視線を合わせると、
軽く頷き合い、その説明をしていった。
そして・・・。
「要するにだ・・・お前達を
この「ルクナ」の田舎街に居るってんだな?」
「ええ、そうよ・・・」
「私は皇太子様から事情は伺っておりましたが、
それは概要だけで、詳しい話は聞き及んでおりませんでしたから・・・」
「ははっ、いいって、いいって・・・別に気にする程の事じゃない」
深刻そうにしているエマリアを見ながら、
カートは再び口を開き、今回の真実を見つけた経緯をユウナギに聞くのだった。
「それで・・・今回どうしてその執事が・・・。
いや、今回の真実を見つけられたのはどう言う事か説明はあるんだろうな?」
さっきの仕返しと言わんばかりに、
カートは威圧を放ちながらユウナギにそう聞くのだった。
だがユウナギはその威圧を物ともせず、
それどころか何か対して言葉を強めて話し始めた。
「ああ~それか?それは簡単だ・・・。
ある特有の種族達ってのはな~?
人族のある文字にだけその
「そ、その文字の癖字ってのが出たからって、
偶然って事もありえるし確実って事でもねーよな?」
するとその問いに嫌な笑みを浮かべたアスティナが、
ユウナギの代わりに答えた。
「ないわよ・・・ある文字の上にだけ・・・変な斜線を入れるだなんて・・・
魔族以外には・・・ありえないわよ」
「「!?」」
「ま、魔族・・・だとっ!?」
「そ、そんな・・・ま、まさか魔族がまた・・・?」
動揺を
ユウナギが静かに・・・
「カート・・・お前言ったよな?
人種を問わず子供ばかりが売買されてるってよ?」
「あ、ああ・・・確かにそう言ったが・・・それが何か関係あるのか?」
ユウナギは再び椅子にドカっと座ると、
くるりと回し外の景色に視線を向けたのだった。
そしてユウナギが言った・・・その悍ましい話をし始めた。
「ある種の魔族にはな?
好んで人族の肉と血液を食するクソ野郎達が存在してんだよ」
「なっ、何だってっ!?
ま、待て・・・ユ、ユウナギ・・・でもそれってヴァンパイヤ達じゃ?」
「ちげーよっ!ヴァンパイヤ達は生きる為に血液を必要としている。
それに・・・あいつらは、人族が一定の年齢に達しないと、
人族の血液は飲まねぇーんだよ。
だから・・・だ。子供ばかりをって事になると、
必然的にあいつらの仕業じゃねぇーって事になるんだよっ!。
そして魔族共の中には居るんだよ・・・
胸糞悪い・・・グルメ
人を
「ユウナギ様・・・でも今更どうして魔族共が?」
「さぁ~な?王都にでも行けば事情は分かるかもしれねぇーが、
俺は行きたくても行けねぇーからな?
それにこんな田舎街じゃ~・・・情報なんて入らねぇーしな?」
「申し訳御座いませんでした・・・は、配慮が・・・」
「いいって、いいって・・・気にすんな」
するとユウナギが再びくるりと椅子を回し正面を向くと、
鋭い眼光を向け口を開きカートに進言した。
「カート・・・悪いが仕事内容を変更する」
「なっ!?お、お前・・・一体どうするつもりなんだよ?」
ユウナギの真意を察したアスティナが、
そのユウナギの傍に立つと代わりに答えた。
「魔族の討伐・・・それに変更よ」
「お、お前達っ!?しょ、正気なのかっ!?
も、もし・・・お前達の居場所がバレると・・・」
「わぁ~ってるよ・・・カート。
お前・・・俺達の職業・・・まさか忘れてねぇーよな~?」
そのユウナギの言葉に、カートはニヤリと笑みを浮かべこう言った。
「フッフッフッ・・・ああ・・・そうだな?
なんてったってお前達は・・・「暗殺者」・・・だからな?」
「ああ、そうだ・・・。俺達は暗殺者だ・・・。
俺を・・・いや、俺達を
色々と手間の掛かる事をやっているみてぇーだが、
フッ・・・俺の目は誤魔化せねぇーぜ?」
そうギラギラとした鋭い眼光で、
ユウナギは目の前に広がる景色の奥を見て、
その血を
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