第2話 仕事の依頼と冤罪と・・・。

昼食を食べにリビングへ行くと、既に準備は整えられていた。

ユウナギは気だるそうに椅子に腰を下ろすと、

丁度いいタイミングでコーヒーが目の前に置かれた。


「ん~・・・。今回は負傷はしていないみたいですね~?」


「あははは・・・ま、まぁーね」


ユウナギの顔をまじまじと見つめながら、

苦笑していたのは、ユウナギ達の仲間で、

名を・・・「エマリア」と、言う・・・。


※ エマリア 23歳 160cm 女 細身 独身 人狼族

  白髪のマニッシュショート 盗賊・密偵

  Cランク冒険者

  見た目はまぁ~・・・野性味溢れる美人系ではあるが、

  メイド服の黒いロングスカートの中には・・・

  ナイフなんて仕込んであるんだぜ?

  まじ・・・ヤバくねっ!?

  スタイルは・・・ぺったんこなんだ、勘弁してやってくれっ!

  身体強化系 生活魔法 特殊魔法

  体術及び格闘術に優れてはいるが、

  魔力が多くない為、魔石を使った特殊魔法を習得している。

  隙きを見つけては、ユウナギ(俺)の匂いを嗅ぎに来る・・・

  所謂いわゆる1つの・・・

  変態人狼さんだ・・・がっかりだよもう・・・。

  メイン武器 ダガー

  特技 「気配隠蔽を使用して、背後から声をかける事」など。

  ・・・・それって特技なのか!?と、疑問に思う俺。



遅めの昼食を食べ終えた3人はコーヒーや紅茶を飲みつつ雑談。

冒険者活動していない時は、いつもこんな感じだ。


そして一通り雑談を終えると、席を立ち部屋へ戻って行くのだが・・・


「ねぇ、ユウナギ?あんた・・・何処へ行くのよ?」


「はぁ!?何処って・・・自分の部屋だが?」


何事もなかったかのように、平然と答えるユウナギに、

アスティナは眉を釣り上げた。


「あんた、何か忘れてない?」


「・・・何かって言われても・・・なぁ~?」


ユウナギは視線をエマリアへ送りながらそう答えると、

そのエマリアは苦笑いを浮かべていたのだった。


「・・・あんたねぇ~?冒険者ギルドに書類を持って行くって事、

 完全に忘れちゃってるわよね?」


「・・・あっ!?忘れてたっ!あ~あ・・・」


「あ~あ・・・じゃないわよっ!とっとと行って来なさいよねっ!」


「へいへい・・・行ってきますよーだ」


ぶつぶつと言いながら、冒険者ギルドへ提出する書類を取りに2階へ上がると、

渋々出掛けて行ったのだった。


「はぁ~・・・元・勇者の名がすたるわね?」


「フフ、でも私は勇者時代の彼よりも、今の彼の方が好きですよ?」


「ま、まぁ~・・・殺伐としているよりはいいけどね~?

 って・・・、いやいやいやっ!今のアイツは怠け過ぎでしょっ!」


「フフ、とても可愛くて・・・素敵じゃないですか~?

 目もとろ~んとしていて・・・それはもう・・・食べちゃいたいくらいにっ♪」


エマリアの目が怪しく光るのを見たアスティナは、全身を悪寒が駆け抜けた。


「ちょ、ちょっとその言い方っ!

 あんた人狼なんだから洒落にならないわよっ!」


「そうですか~?・・・じゅる♪」


「じゅるって何よっ!じゅるってっ!」


「フフフ・・・♪」


「全くもうっ!」


のんびりと冒険者ギルドへ向かうユウナギの知らない所で、

そんなやり取りがあったとかなかったとか・・・。



そしてその夜・・・。


部屋で寝ていたユウナギは、その騒がしさに目を覚ました。

(んっ!?・・・こんな時間になんだよ・・・ったくっ!)


すると音もなく扉が開かれると、

暗い部屋の中へ入ってきたのはアスティナだった。


重く感じる身体をベッドから起こしたユウナギは、

いぶかしげな表情を浮かべながら口を開いた。


「・・・何かあったのか?」


アスティナは扉横の壁にもたれかかると、その問いに静かに答えた。


「多分・・・カートが依頼を持ってきたんじゃないの?」


「はぁ~・・・カートめ、一体今何時だと・・・」


「・・・まだ21時なんですけど~?」


時計がある場所をクイっと顎で示すアスティナの視線が、

とても冷たかったのである。


「へっ!?はは・・・そ、そうですね。

 へ、へぇ~・・・い、意外とまだそんな時間だったんだ~

 俺・・・ぜ、全然知らなかったな~・・・なんつって~♪」


「そう・・・じゃ~永遠に眠らせてあげましょうか?」


「え、遠慮・・・しておきますです・・・はい」


少しの沈黙が続いた後、階段を昇ってくる2つの足音が聞こえてきた。

そしてユウナギの部屋の前でノックすると・・・。


「ユウナギ様?カートラル様がお見えですが?」


ユウナギが黙ってアスティナに頷いて見せると、

返事をする事もなくその扉を開けた。


そしてそこには、アスティナが予想する通り、

カートラルがエマリアの後ろに立っていたのだった。


「・・・入れよ」


「あ、ああ・・・」


アスティナが部屋の灯りを着ける為、魔力を流して点灯させると、

ユウナギは座り慣れた椅子に腰を下ろし、エマリアに軽く頷いて見せた。


「いつまで突っ立ってんだよ?」


「ああ、すまねーな」


そう言ってカートラルは気が重そうにソファーに腰を下ろしたのだった。


※ カートラル 愛称カート 34歳 188cm 独身 人族 重戦士

  薄い緑色の髪アシンメトリーカット ごつマッチョ体型

  元・Sランク冒険者で通り名は「戦斧せんぷ

  今現在、ルクナの街の冒険者ギルドのギルドマスター。

  ギョロ目のいかついおっさんで、

  見た目とは違いとてもファンシーな一面を持っている・・・

  アレだ・・・こいつも・・・変態だなっ!

  身体強化系 生活魔法 

  体術及び格闘術に優れ、その豪快な力技に特化している。

  魔力は並程度ではあるが、スキルと併用時の強さは圧巻。

  メイン武器は両手斧系・大剣

  特技 「・・・料理っ!」って・・・Sランク冒険者関係ねぇーっ!


少し雑談をしていると、エマリアがコーヒーを持ってきた。

そしてコーヒーに口をつけ息を漏らした時、カートが口を開いた。


「ユウナギ・・・依頼だ」


「・・・期限は?」


「期限は5日以内だ・・・」


「早いじゃねぇーか?で、相手と人数は?」


「1人だ・・・それと相手なんだが・・・」


言い淀むカートに目を細めたアスティナが口を開いた。


「・・・まさか、私達の知り合いだったり・・・?」


「・・・あ、ああ、その通りだ」


そう答えたカートにユウナギはくるりと椅子を回し、

窓の外を眺めると、大きく背伸びをした。


「ふぁぁぁ~・・・ねむっ!なぁ・・・寝てもいいか?」


背を向けたままユウナギは眠そうにそう言った。

その言葉には「受ける気はない」と言う意思表示だった。


だがカートは背を向けたユウナギに重苦しい表情を浮かべていた。


「・・・まぁ、確かにやりにくいよな?」


「それはそうでしょ?知り合いって・・・目覚めが悪くなるわよ」


少し怒りながらもそう言ったアスティナだったが、

カートが険しい表情を浮かべていた事に少し驚いていた。


「な、何よ・・・そんな顔して?」


「ああ、ちょっと・・・な?

 こんな時間にって・・・別にそんな時間でもないが、

 邪魔したな?」


そう言って立ち上がろうとするカートを

気だるそうにユウナギが、

椅子をくるりと回し正面に向き直ると声をかけた。


「・・・カート、全部話せよ?」


「・・・い、いや・・・しかしだな?」


「いやいや、逆に気になるって・・・」


「・・・わかった」


再び座り直したカートは事の説明を始めた。

そして・・・。


「だぁぁーっ!まじかっ!?」


「ああ・・・大まじだ」


カートの話はこうだった。


この街の警備隊隊長である「インガル」が、

陰で人身売買をしていると・・・。

しかも・・・売買されているのは・・・人種を問わず子供だった。

そんな話を聞いたアスティナが眉間に皺(しわ)を寄せると・・・。


「あいつ・・・陰でそんな事をしていたなんて・・・

 絶対に許せないわね」


殺意剥き出しでそう言い放つアスティナだったが、

一人・・・机に伏してゴニョゴニョと何か言い出した。


「あ~・・・俺ってばあいつに借りがあんだよな~?

 まじやりたくね~・・・。

 しかも色々と俺達に世話を焼いてくれるし~

 あぁぁぁ~・・・気が重いぜ~」


机に伏したまま項垂れるそんなユウナギの背後から、

そっとエマリアが覆いかぶさり抱きついてきた。


「ユウナギ様・・・お辛いでしょうね?

 もし良ければ私の胸の中で泣いてもいいのですよ?

 さぁ~・・・嫌な事は全部私の胸の中で・・・」


そう言ってエマリアは、

ユウナギの背中に胸をグリグリと押し付けるのだが・・・。


「・・・エマリアさんや?」


「はい♪・・・もっと・・・ですね?」


「・・・お前の肋骨(あばらぼね)が刺さって痛いから止めろっ!

 俺の筋肉でも擦(す)り下ろす気かっ!

 俺の肉は賞味期限切れだから、食っても美味くねぇーぞっ!」


「ガーンっ!」


「・・・ガーンって、お前・・・それを口で言うのかよ」


床にぺたんと座り込み、悲しみに暮れているエマリアを、

カートは痛そうな眼差しを向けていた。


(・・・いつもの事だが、痛過ぎる・・・

 もう少しユウナギの周りにまともな連中が居たらな~?)


そんなバカなやり取りを見ていたアスティナが、

眉を釣り上げながら焦れて口を開いた。


「ねぇっ!バカやってないで、どうすんのよ?」


「えぇ~・・・俺のダチなんだぜ~?」


「知ってるわよっ!?私達もそうでしょうがっ!

 でも、これからも子供達が犠牲になってもいいのね?」


「い、いや・・・そ、それは・・・」


あーだこーだといつまでも言っているユウナギに、

アスティナはいい加減限界を迎えた。


「・・・リョウヘイっ!あんたっ!」


「・・・は、はぁ!?・・・お、お前っ!?バ、バカっ!?」


「あっ・・・ご、ごめん、つい・・・」


苛立ちに身を任せてしまったアスティナは、

つい・・・ユウナギの本名を口走ってしまった。

慌てて自分で口を塞いだアスティナだったが、

悪気のない事だと分かっているので、それ以上は何も言わなかった。


「あぁぁぁぁっ!もうっ!やるよっ!やればいいんだろっ!やればっ!」


変な空気になってしまったその空間ごと打ち消すように、

ユウナギはカートからの依頼を引き受ける事にした。


「す、すまねぇ・・・ユウナギ。

 本当ならこの依頼は別のヤツにやらせたかったんだけどよ~

 他にヤレるやつの心当たりがなくてな?」


「・・・だろうな?」


コーヒーに口を付けながら、ぶっきらぼうにそう言い捨てると、

エマリアが口を挟んできた。


「ところで・・・カート様・・・報酬のほうは?」


「あ、ああ・・・大金貨・・・6枚だ」


「ゴフッ!ま、まじか!?」


「・・・ああ」


大金貨6枚・・・それは日本円にすると、およそ6000万に相当する。

本来なら多く見積もっても、大金貨1枚が妥当なところだろう。

だが・・・実際の報酬は・・・大金貨6枚だ。


ユウナギが思わずコーヒーを吹き出すほどの報酬の多さに、

他の者達も同様に驚くのだった。


するとユウナギが険しい表情を浮かべると・・・。


「・・・カート・・・あのさ?何か、きな臭いんだが?」


疑問を呈したユウナギがそう言うと、

カートもまた同様に険しい表情を浮かべながら話を切り出した。


「ああ、俺も正直そう思う・・・だからお前にこの話を持ってきたんだ」


「ねぇ、つまりそれって・・・?」


「裏がある・・・って事ですね?」


アスティナ、エマリアの2人もこのきな臭さを感じ取っていた。

するとカートは視線をユウナギへと向けると・・・。


「・・・なぁ、ユウナギ。

 改めて言うが、この依頼・・・引き受けてくれねーか?

 恐らくこの話には裏がある。

 だからこそお前に頼みたいんだ・・・頼むっ!」


「・・・冤罪だったら洒落にならないしな~・・・仕方がねー

 ところで・・・依頼主は?勿論、話してくれるよな?」


依頼主・・・ユウナギの言葉にカートの顔が少し痙攣していた。

だが、この依頼をユウナギ達に押し付ける以上、

筋を通す以外道はなかった。


「あ、ああ・・・トラブルが決定しているようなモノだからな?

 勿論・・・依頼主が誰かを伝えるつもりだが・・・そ、それがだな・・・」


「はぁ~・・・カート、お前な~?最初に全部話せっつったろ?

 その様子から察すると、依頼主は・・・貴族・・・なんだよな?」


「あ、ああ・・・す、すまねぇ・・・そ、その言いにくくてな?」


ユウナギ始め、アスティナやエマリアも、

顔を手で覆いながら深い溜め息を吐いていた。


「め、面倒臭せーなぁーっ!もうっ!」


「ほ、本当にす、すまねぇ・・・こ、この通りだっ!」


「・・・で?カート・・・その貴族ってのは・・・誰なのよ?」


アスティナの言葉に思わず喉を鳴らしたカートは、

渋い表情を浮かべながらその貴族の名を口にした。


「カナールマイケル男爵様だ」


「あ、あのド腐れ豚親父かっ!?」


「あちゃ~・・・あのクソ親父なのね!?」


「一体あの方は、どれだけトラブルを起こせば気が済むのでしょうか?」


「カナールマイケル男爵」その男は別名「冤罪王」とも呼ばれ、

ユウナギ達の間では特に有名だったが、

証拠を何も残さない事でもまた・・・有名だったのだ。


ユウナギ達は、その貴族の依頼を決して受ける事はなかった。

何故なら、全てが胡散臭かったからだった。


だから関わる事を一切しなかったのだが、

今回はそうもいかない。

ユウナギ達の友への暗殺依頼だったからだ。


「もう冤罪確定じゃねーか!?

 なぁ、カート・・・もう、隠している事はないよな?」


「ああ・・・全て話した」


座ったまま頭を下げたカートに、ユウナギは無言で頷くと、

気だるそうに立ち上がり指示を出していく。


「エマリア・・・時間は余りないが依頼主周辺を探ってくれ・・・

 やってくれるか?」


「・・・はっ!、ユウナギ様のご命令とあらば・・・」


「アスティナ、お前は警備隊を洗ってくれ・・・頼むぞ?」


「・・・任せて」


「それと・・・カートっ!今回ばかりはお前にも手伝ってもらうからなっ!

 最悪な仕事を俺達に押し付けたんだからなっ!

 ギルドの底力に期待しているからなっ!」


「お、おうよっ!」


そう指示を出すと、ユウナギは再び椅子にドカッと腰を落とした。

そして椅子をくるりと回すと窓から見える月を眺めていた。


「フッ・・・眠れない夜になりそうだぜ・・・」


すると、アスティナは眉を釣り上げると、ユウナギの机の前へと歩いてきた。

そう・・・最悪な答えが返って来るであろうと予想を立てて・・・。


「ところでさ・・・格好付けているところ悪いんだけど、

 ねぇ、ユウナギ?あんたはどーすんのよ?」


その美しい月に哀愁を感じつつ笑みを浮かべると、

ゆっくりと立ち上がり不敵な笑みを浮かべつつ振り返った。


「決まってるだろ?・・・俺は念の為・・・寝ておこう」


「「「はぁ?」」」


「はぁぁぁぁーっ!?」


「う、嘘ですっ!ご、ごめんなさいっ!ま、まじでやめてぇぇぇっ!」


「1回死んでおきなさいよぉっ!」


「いやぁぁぁぁっ!」


「ドカッ!」と2階から衝突音が響いていた。


静まりかえった部屋から3人が仕事へと出掛けて行く。

そしてその部屋にただ一人残されたユウナギは・・・。


頭部が壁を突き抜け、首から上が外へと突き出てしまっていた。


「いててててててっ!おぉ~まじ痛てーっ!死ぬかと思った・・・。

 アスティナめっ!ほ、ほんのかる~い勇者ジョークじゃないかっ!

 な、なのに思いっきり蹴り飛ばしやがってっ!

 って言うか・・・あれだ・・・人って~蹴り飛ばされただけで、

 家の壁を突き抜ける事なんてあるんだな~・・・フッ・・・驚いたぜ・・・

 って、感心している場合かっ!」


そう文句を言いながらも、必死に脱出しようとするのだが・・・。


「あ、あれ~!?ぬ、抜け・・・ないっ!?

 う、うぉりゃぁぁぁっ!・・・ぬ、抜けぇぇぇぇないぃーっ!

 ア、アスティナさぁぁぁんっ!た、助けてぇぇーっ!

 エ、エマリアさぁ~ ん?いらっしゃいませんかぁ~?

 カートっ!お、お前がこんな依頼をだなーっ!

 うぉぉぉぉっ!ぬっ、抜けねぇぇーっ!

 だ~れか助けてよぉぉぉ~っ!

 ヘ、ヘルプ・ミーっ!」


闇夜に木霊するユウナギの声に、

答えてくれたのは、虫達の声だけだった・・・。


「Zzz・・・Zzz・・・Zzz・・・」



「コーケコッコ~♪」

早朝に戻ってきたアスティナ達が見たモノは、

壁に埋まりながらもスヤスヤと幸せそうに眠るユウナギの姿だった。


「「「・・・はぁ~」」」


溜息が漏れるユウナギの部屋で、鳥達の囀(さえず)りだけが、

虚しく聞こえるのだった。



暗殺期限まで・・・あと5日。




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