散文
匿名
的
20歳になった年に タイムカプセルを掘り起こさないかという連絡が来た。
僕はさっぱり覚えていなかったがどうやら中学校の時にクラスで埋めたらしいんだ、不登校みたいなものだったし覚えてないのも無理ないだろう、全て忘れたい記憶だったくらいだから。
別に誰かに虐められていたとか嫌われていたって訳じゃ無かったと思うけど、どうやら僕は学校という閉鎖環境ととことんウマが合わないらしい。仮面舞踏会とは一期一会でこそ美しいものであって、3年4年と続けばどうしてもボロが出てくる。自我を押し殺し続けて生きるのはあまりに窮屈だった。
まあそんな僕だけど。行ったんだよ、タイムカプセルを掘りに。
だって思春期の手紙だぜ?白紙で出したりしてたらありがたいけど、誰かに当てたラブレターなんて入ってたら僕は富士の樹海に人生最後の旅行の予定を立てなくちゃいけない。
およそ半分くらいの人が集まった。何人かと他愛もない話をしながら集合時間になって掘り起こす時に大問題。どうやら誰1人として埋めた場所を覚えてなかったらしい。
適当にスコップを刺しながら1時間が過ぎて、先に写真を撮ろうという話になった。土は後で埋めるとしてみんなで笑いながら写真を撮る。誰が誰か正直分からなかったな。話しかけられもしないし、別にもう会うこともないだろうから構わないけどね。
その後1時間くらいまた掘り起こしてみたものの、ついに見つからなかった。
あの1日で僕が得たのは久しく忘れていた自分の生きるべき場所はここではないというどこか遠い景色に向けた張り裂けるような胸の痛みと、久々に帰った地元ですら「ありもしないあの頃の記憶」と「顔もわからない誰か」を思える風景を探していたことだ。人は2年もその地域から離れただけですぐ幻を見れるらしい。快感のために18年も住んでいた場所を幻想化する自分を気持ちが悪いなと笑ったよ。
ともあれ見つかれば燃やす予定だったけどどいつもこいつも覚えてないのを、
僕だけが中学生という偏見や考えが固まる地獄のような忘れたい三年間と思っていた。
けれど案外皆そんな感じだったのかもしれないな。防衛本能からくるものか幸せな記憶の上塗りなのかは分からないけど、全員後者であってほしいよ。
だって皆が幸せなら嬉しいし、なによりこんな最悪な気持ちは世界で僕だけのものという優越感を得たいからさ。
君にだって絶対に渡したくはないね。大切な物なんだ。
散文 匿名 @Muser_wga
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