7話 決戦、白銀狼
「ふぅ、これで岩亀討伐完了ですわね。白銀狼に見つかる前にさっさと帰りましょう」
岩亀の血に濡れたバトルハンマーを、払うように一振りしてロゼはこちらに向き直った。こちらも丁度排熱が終わったところなので、リロードをしてからリンカとマリーの方を見る。
「ロゼ、残念だが一足遅かったようだ」
二人は剣を抜き放ち、森から視線を逸らさずにいつでも動ける姿勢をとっていた。恐らく気配を察知してこちらへの合流をしようとしているところだろう。
「白銀狼、ですわね。迎え撃つ場所はどうします?」
「何とか二人にこっちまで来てもらった方が良いだろう。森が近いと木の影から不意打ちされる恐れがある。幸いこの辺りは岩場になっていて開けている。マリーもそれはわかっているはずだ」
「了解ですわ。ではわたくしは手頃な石でも拾って、投石で援護をしましょう」
「では俺は二人がここまで来た時に素早くガードに入れるように備えよう」
ハンドヒートパイルを背中に戻し、パイルバンカーを改めて構える。すると、リンカとマリーがこちらに向かって走り出した。それと同時に森から白銀狼が5匹飛び出してきた。こちらとリンカ達の距離はおよそ100mほど。そのまま走るだけでは白銀狼に容易く追いつかれてしまうだろう。
「ンゥオリャァ!!」
およそ令嬢とはかけ離れた雄叫びをあげながら、その声とは真逆の美しいフォームで拳大の石を白銀狼へ投げつけるロゼ。
「ギャイン!?」
見事先頭を走る白銀狼に直撃し、手傷を追わせる。そして次の投石を警戒しているのか、リンカ達を追うスピードが緩められた。それでもやはり獣と人のスピード差は大きい。あっという間に距離を詰められ、リンカの後ろ足に噛み付こうと飛びかかる白銀狼。
「させん!」
リンカと白銀狼の間に身体を滑り込ませ、パイルバンカーのシールド部分でその牙を受ける。白銀狼は想像もしていなかったシールドの硬さに目を白黒させている。その隙に蹴りを入れ、後方に押し戻す。そうこうしているうちにロゼも俺の隣に並び、マリーとリンカがその後ろに位置どった。
「ヴァンさん! ありがとうございます!」
「ロゼ、ヴァン! 疲れてるとこ悪いけど、前衛よろしくね!」
「任せろ」
「ガッテン承知ですわ!」
改めて白銀狼を見る。1匹は先程の投石のダメージが残っているため少し後方で待機していて、俺が先程蹴り飛ばした個体はほとんどダメージは無かったのか、怒りを露わにして俺を睨みつけている。そして残り3匹はジリジリとこちらを囲むように動いている。
そして痺れを切らしたのか、蹴り飛ばした個体が俺に向かって飛びかかってきた。冷静さを欠いているのか、真っ直ぐ飛びかかってくる。ガードすること自体は容易いのだが、恐らくこちらを囲んでいたうちの1匹がフォローにくるだろう。それを考慮しつつ動かなければならない。
「グァウ!!」
こちらの喉笛を噛み切ろうと飛びかかってくる白銀狼をあえて前にでて、シールドを押し出すようにして受ける。白銀狼はこちらが前に出るとはまるで思っていなかったのか、シールドの勢いに押され後ろに弾き飛ばされる。
「ガァゥ!!」
そしてやはりと言うべきか、その隙を狙っていたかのように別の白銀狼が飛びかかってきた。だがそれは最初から予想していた事だ。
「リンカ!」
「はい!」
俺の背後からリンカが飛び出し、白銀狼を切り裂く。が、深くは入らなかったようだ。しかし確実にダメージは入った。手傷を負わせればその分動きが鈍る。
「すいません、浅かったです!」
「問題無い。これを繰り返すだけだ。気負うなよ」
「はい!」
体力、魔力共に問題無し。リンカも変に固くなったりもしていない。マリーとロゼも問題なく対処しているようだ。というかロゼの馬鹿力ばかりに目がいっていたが、マリーの剣技の冴えが凄い。こちらと同じようにロゼが盾で弾き飛ばした1匹をフォローしにきた個体を一刀のもとに切り伏せていた。
「すぐに次が来る、合わせるぞ」
「はい!」
最初の投石のダメージを受けていた1匹が飛びかかってくる。最初の1匹のように喉笛にバカ正直に来ることはなく、爪で足を切り裂こうと低い姿勢で飛び出す。
「ギャウン!?」
ならばそれを上からシールドで叩き潰す。パイルバンカーは相当に重い武器なので、体重を乗せてやればかなりのダメージが入るはずだ。が、当然大きな隙が生じるし、白銀狼もそこを逃さない。怒り狂った個体が再度俺の喉笛に食らいついて来ようとしているのが見えた。
「そこっ!」
もちろんそうなればリンカが迎撃する。先程の一撃よりも一歩深く踏み込み、鋭い一撃を白銀狼の顔面に浴びせる。体重の乗った一撃は見事頭蓋を両断し、1匹仕留めることに成功した。
更に俺が押し潰していた個体に背負っていたハンドヒートパイルを取り出し、素早く撃ち抜く。これでもう1匹。
マリーとロゼもどうやら2匹仕留めていたようで、白銀狼は残り1匹となった。
「よし、残り1匹だ。油断せずいくぞ」
唸り声をあげてこちらを警戒する、というよりも怯えているような素振りを見せる白銀狼。先程リンカの一撃が浅く入った個体だ。
どう攻めるか悩んでいると、白銀狼は突然遠吠えを一度大きくして、後方に飛び退った。そしてそのまま森の中へ走り去っていく。
「……最後は締まらない感じだったけど、とりあえずは何とかなったかな?」
マリーは剣に付着した血を払い、鞘に収めながら安堵の表情を浮かべているようだった。
「あぁ。魔石だけ手早く回収して森を抜けよう。先程の遠吠えは恐らく別の群れを呼び寄せるものだろう。追いつかれる前に森を抜けられたら御の字だ」
「了解ですわ。流石にこれ以上の連戦は堪えますものね」
「いやロゼさん普通に元気そうなんですけど。一番体力使うような動きしてた割にピンピンしてますけど」
「令嬢の嗜みですわね」
「令嬢とは一体……」
リンカが令嬢という謎の生き物に頭を抱えているのを横目に、白銀狼の魔石を取り出すためサバイバルナイフを抜いた。
魔獣には心臓の近くに魔臓という独自の内臓がある。魔臓は魔力を蓄積するための器官で、その内部に凝縮した魔力の塊である魔石がある。
「角うさぎの魔石と比べると流石に大きいですね」
「あぁ、魔獣の強さは魔石の大きさに直結する場合がほとんどだ。岩亀みたいに魔石は小さいが倒しにくい、という場合もあるにはあるが」
「あ、そういえば岩亀の魔石はどうする? 依頼達成の証拠にもなるし回収したいけど、流石に時間かかるわよね?」
「全部ではありませんが、少しは回収しておきましたわ。岩亀は動きも鈍いですし、余裕がありましたので」
「俺も爆発から免れた分は拾っておいた。数は少ないが」
「さっすが! じゃあ白銀狼の分回収してちゃちゃっと帰りましょ!」
と、その時。森の木々から鳥が一斉に飛び去って行くのが見えた。
「これは、不味いかもしれないな」
「大物の気配ですわね。どうします?」
「そんなん撤退一択よ。依頼は達成してるんだし、これ以上の面倒はゴメンよ」
「賛成です。それじゃさっさと行きましょう」
各々が装備を整え、大物に見つかる前に街へ戻るため森の中へと入っていく事にした。なんとか無事に帰れるといいのだが。
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