6話 パイルバンカーでもぐら叩きをやったらどうなるの?

鬱蒼と茂る森を抜けた先、少し開けた場所の岩肌が剥き出しになった斜面の周辺に岩亀は大量にいた。体長はおよそ1m程、ほとんどが成体のようだ。その数およそ30匹程。普段であれば森を歩いていて1匹か2匹程度しか見かけない事を考えれば、これがどれほど異常な数がいるかがわかるだろう。

 

「ちょっとこれは数が多いんじゃない?」

 

 マリーは冷や汗を垂らしながら改めて数を数え、それが間違いでない事にうんざりしているような面持ちだった。

 

「応援を求めようにも、他のコロニーがこと同じような状況であればどこも手一杯になっているだろうな。気は進まないが、我々だけでここは対処するしかないだろう」

 

「気は進まないとか良いながらウッキウキでパイルバンカー構えてるのなんなんです?」

 

 仕方ないじゃないか。音につられて白銀狼が来るかもしれないが、時間を掛けすぎては日が暮れてしまう。

 

「手早く岩亀を処理して、最短で森を抜けますわよ。白銀狼に備えてはいるものの、遭遇しない事に越したことはないのですから」

 

「了解した。師匠から譲り受けたこのパイルバンカーが貫けぬものなど無いという事を見せてやろう……!」

 

「あ、ヴァンさんはパイルバンカーじゃなくてハンドヒートパイルの方使ってくださいね。そっちの方が音小さいんで」

 

 なん、だと……? 

 

「いやその、ハンドヒートパイルはまだ試作段階の武器で岩亀に通用するかはまだ試した事がないから分からなくてだな。確実を期するならパイルバンカーを使った方がいいんじゃないかと思うのだが。魔力消費自体は変わらないが、ハンドヒートパイルの方は杭を消費する事を考えれば温存していった方が良いのではないか」

 

「パイルバンカーの事になるとメッチャ早口になりますわねこの人」

 

「ダメです。ハンドパイルの予備弾が20程あるのはこちらで把握済みなので大人しくそっち使ってください」

 

「予備弾の数把握されてるんじゃ勝ち目無いんじゃない?」

 

「いやしかしだな……」

 

「まぁもし、もしですよ?ヴァンさんとルヴィステラ特殊武器愛好会とかいうクッソ怪しい組織が作ったハンドヒートパイルがたかが小型魔獣である岩亀ごときの装甲を貫く自信が無いのであれば、仕方ないですからパイルバンカー使っても良いですけどね?」

 

「リンカもリンカで煽る時メッチャ早口になりますわね」

 

「……岩亀ごとき、我々の努力の結晶であるハンドヒートパイルで貫く事ができないわけないだろう! やってやるとも! ハンドヒートパイルの威力、しかとその目に焼き付けるといい! うおおおおおお!」

 

「ヴァンって煽り耐性無さすぎるんじゃない? 大丈夫?」

 

「あ、大丈夫です。ああなるのパイルバンカー関連だけなんで」

 

「それはそれでヤベー気がしますわね。まぁそれはともかくわたくしも行って参りますわ。周辺警戒頼みましたわよ」

 

「了解、異常があればすぐ知らせるから」

 

 そんこんなで、岩亀討伐戦が始まったのだ。

 

 

 

 

 のそのそ動く岩亀の背後に素早く回り込み、ハンドヒートパイルの先端を岩亀の甲羅と足の隙間に照準を合わせる。岩亀はこちらの気配に気付いてはいるようだが、その重い身体が邪魔をして振り向くことすらまだできていないようだった。

 

「1匹目、もらった!」

 

 魔力を流し込み、ハンドヒートパイルの炸薬術式を起動させる。爆発により押し出された杭は、シリンダー内部の加速術式によって更に勢いを増して射出される。射出された杭は狙いを過たず岩亀の甲羅の隙間に突き刺さる。岩亀が苦悶の声をあげるが、これだけではトドメ足り得ない。

 

「指向性爆雷、起動!」

 

 突き刺さった杭の先端、そこには前方へ爆発を起こすための魔術式が彫り込まれている。いかに硬い装甲を誇る魔獣といえども、装甲の内側にダメージを与えれば一溜りもないはずだ。遠隔で術式を起動すると、そこそこ大きな爆発音と共に弾け飛ぶ岩亀。やはり爆発だけでは甲羅は砕けなかったようで、甲羅と魔石だけが地面に転がった。

 

「お見事ですわヴァンさん! 次はわたくしの番でしてよ!」

 

 1匹目を倒したことを確認したロゼがすかさず近くの岩亀に踊りかかった。岩亀相手ということで大盾は背に持ったまま、バトルハンマーを両手で持っているようだ。

 

「ズェリャアァァァァ!!!!」

 

 怒声を放ちながら、背を向けた岩亀の甲羅に向けてバトルハンマーを振り下ろす。瞬間、鈍い音が響き渡り、岩亀はたたらを踏んだ。甲羅を通じて衝撃が伝わってはいるようだが、トドメには一歩足りていない。

 

「いただき、ですわァァァ!!」

 

 ロゼは素早く岩亀の正面に回り込む。セオリー通りであれば岩亀の正面は避けるべきなのだが、先程の一撃でまともに動けないようなので問題は無いだろう。そして岩亀の頭部に向けてバトルハンマーを横薙ぎにフルスイング。ゴシャリ、と完全に岩亀の頭は潰れすぐに動かなくなった。実にいい手際だ。

 

 ロゼが岩亀を1匹倒し終わった頃、ハンドヒートパイルの排熱が終わった。手早く弾帯から予備弾を取り出し、リロードを行う。次に狙うのはロゼに程近い位置にいる個体だ。

 

「ロゼ! 右のは任せろ!」

 

「了解ですわ! ではわたくしは左のをいただきますわね!」

 

 仲間が2匹やられているのに気がついたらしい岩亀は、口を大きく開きこちらを威嚇してくる。馬鹿め、わざわざ脆い部分をさらけ出すとは。

 

「文字通り、食らうといい!」

 

 その開いた口に向かって杭を射出する。杭が口内を通じて身体の深くまで穿たれた。そしてすかさず術式を起動。先程の個体と同じ末路を辿った。

 

 ロゼの方も程と同じように頭をかち割ったようだ。この調子でいけば残り26体、あっという間に終わってしまうかもしれない。が、こういう時ほど油断せずに行動しなければならない。

 

「次、いきますわよ!」

 

「あぁ!」

 

 

 

 

「ロゼさん凄いですね、あんなんもうゴリラですよゴリラ」

 

「リンカ、お願いだからそれ本人に言わないであげてね?」

 

 ヴァンさんとロゼさんが次々と岩亀を屠っていくのを少し離れた場所で見ながら周辺に目を光らせる。マリーさんも同じように気を配りつつ剣の柄に手を添えいつでも動けるように備えていた。

 

 

 

 

 それからおよそ1時間程経っただろうか、ロゼさんが最後の1匹の頭を叩き潰した。これで依頼達成だ。

 

「……っ!」

 

 カサリ、と森の方から落ち葉を踏みしめる音が聞こえた。マリーさんもそれに気付いたようで、その方向を睨みつける。

 

「向こうが終わったタイミングで良かったと言うべきか、一休みくらいさせなさいよって文句を言うべきか迷うわね」

 

「まったくです。心苦しいのですが、あの二人にはもうひと働きしてもらいましょうか」

 

 チラリ、とヴァンさんとロゼさんに意識を向けると、こちらの異変に気付いたのか走ってこちらに向かっているのがわかった。一つ息を吐き、いつでも動き出せるように集中を高めていく。

 

 第2ラウンドの、開幕だ。

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