5話 いかにパイルバンカーを目立たせるかの作戦会議


 白銀狼。小型魔獣の中では中堅より少し上くらいの強さで、銅等級の冒険者の壁の一つでもある。素早い動きに鋭い爪牙。それだけでも十分脅威足り得るのだが、白銀狼が最も恐れられているポイントは別に有る。それは知能だ。常に3~5匹のグループで行動し、獲物に襲いかかる時は数の利を活かした連携攻撃をしかけてくる。また味方が攻められている際はすかさず空いている個体がフォローに入る。

 

「と、白銀狼に関してはこんなところですわね」

 

「聞けば聞くほど厄介な相手ですね。具体的な弱点とかはあるんですか?」

 

「弱点ねぇ。強いて言うなら、耐久力はそこまで無いってことくらいかしらね」

 

「そうだな。相手の攻めを見極めカウンターの一撃を入れる。いつもリンカが角うさぎにやっている事がそのままできれば問題無く対処できるだろう」

 

 どんな魔獣相手でも基本は同じだ。敵の攻撃は通さず、自分の攻撃のみを通す。魔獣の強さが変わってもその本質的な部分は変わらない。

 

「ただし、それは白銀狼が1匹だった場合の話ですわ」

 

「そう、白銀狼は複数匹になれば討伐難度が一気に上がるわ」

 

「リンカ、複数の魔獣を相手にする時のコツを覚えているか」

 

「常に全体に気を配り、1匹相手に深追いしすぎない、でしたね」

 

「正解だ。白銀狼相手にもそれは通用する。慢心して油断するのは論外だが、不必要に敵を大きく見ることもまた良くない。リンカなら大丈夫だ、というギルドと俺の判断を信じるんだ」

 

「へぇ、中々良いコーチっぷりですわね?」

 

「……そんなんじゃない。ちょっと俺の方が冒険者としての経験が長いから、それを伝えているだけだ」

 

「あ、もしかして照れてる? なんだ、ヴァンも可愛いところあるじゃん」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべるマリーとロゼ。そして何故かリンカは少し不機嫌そうな顔をしていた。

 

「んんッ! それで、白銀狼に遭遇した際はどういうフォーメーションでいくんですか?」

 

「基本的には私とヴァンさんが前衛を務めますわ。複数で攻められたとしても、二人でならば防ぎ切ることも可能でしょう」

 

「そして攻撃を防がれて怯んだ個体を私とリンカで仕留めていく。もちろん深追いは厳禁だけど、数を減らせばそれだけ前衛が楽になる。狙えるところは狙っていくよ」

 

「数を減らすのは有効だ。単純に攻めの手が減るというだけではなく、白銀狼の動揺を誘うことができる。知能の高い白銀狼には尚のこと効くだろう」

 

「白銀狼に関してはこんなところですわね。何か疑問に思った事はございまして?」

 

「とりあえずは大丈夫です。あとは一回対峙してみてからですね」

 

 リンカは今の会話の内容を反芻しながら頭の中でイメージしているようだった。思えばリンカは出会った当初から頭の良い子だった。俺が一つアドバイスをすればそれを即座に吸収し、更にそこから一つ先の事まで自分で考え、実践できる。恐ろしいまでの戦闘のセンスだと思ったが、まだ経験が足りていない。地道に角うさぎを狩ることで戦闘に慣れさせている途中だったが、まさか一足飛びに白銀狼に挑むことになるとは思わなかった。

 

「ヴァン、あなた何でそんな優しげな顔してるのよ」

 

「いや、リンカも成長したなと」

 

「マジモンのお父さん目線ちょっと気持ち悪いですわね」

 

「父親面やめてもらえます?」

 

 パーティメンバーのツッコミがいちいち辛辣で辛い。

 

 

 

「白銀狼はとりあえず良いとして、本来の依頼の目的である岩亀はどうします?」

 

「あー、岩亀ねぇ」

 

「まぁわたくしとヴァンさんで殴るだけですわよね」

 

「そうだな。強いて言えばリンカとマリーには周辺警戒を頼むくらいか」

 

 岩亀は名前の通り、岩のような甲羅を背負った亀だ。動きは鈍重で、攻撃手段は噛み付きのみ。主食が岩や鉱石のため、噛み砕く力は強いのでそこは気をつける必要がある。が、射程も短くのんびりとした動きしかできない岩亀の攻撃を食らうことはまずない。なので背後に回って叩くだけで事足りるのがほとんどだ。岩亀相手ならば一人で5匹くらい同時でも楽に勝てるだろう。もっとも岩亀の装甲を抜く火力があれば、の話だが。

 

「岩亀狩りの時には噂のパイルバンカーの火力、頼りにさせてもらうわね」

 

「あぁ! 任せてくれ!」

 

「滅茶苦茶嬉しそうな顔してますわね……」

 

「この人パイルバンカーに関する感情の振れ幅ぶっ壊れてますんで」

 

「ま、うちのロゼのバトルハンマーにも期待しててよね。農作業で鍛えた筋肉が唸りをあげるわよ?」

 

「令嬢は農作業なんて致しませんが???」

 

「いやそれを言ったら令嬢はバトルハンマーなんて使わないのでは……?」

 

「え? 令嬢はバトルハンマー普通に使いますわよね?」

 

「何言ってんだこの縦ロール」

 

 リンカ、口が悪いのが漏れてるぞ。

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