4話 颯爽登場、金髪縦ロール金属鎧バトルハンマーお嬢様
「臨時パーティ、ですか?」
「そう、岩亀の討伐をお願いしたいんだけど、如何せん数が多くてね。今複数のパーティにお願いしてる最中なんだけど、厄介な事に岩亀の生息地の近くに白銀狼の群れが移動してきたみたいなの」
「白銀狼の討伐経験があるパーティと組んで岩亀討伐に向かってほしい、という事か」
「話が早くて助かるわ。白銀狼は常に3~5匹で行動をするため少人数のパーティでは危険なの。だけど、ヴァンさんの火力にリンカさんのセンスは岩亀と白銀狼相手に有効だろう、というのがギルドの判断よ」
いつものようにギルドで角うさぎの討伐依頼を受けに来たのだが、その時にこの様な依頼をされた。正直に言えばあまり受けたくは無い。即席のパーティでは連携もろくに取れない可能性があるためリスクが高い。が、ここでギルドの依頼を断るというのは銀等級に上がるという目的を考えるならば得策ではない。
「ヴァンさん、正直に答えてください。白銀狼とやらに私の剣は通用しますか」
「……通用するかしないかで言えば、間違いなく通用する。だがそれは白銀狼1匹ならの話だ。複数匹となればリンカ一人では厳しいだろう」
「ならヴァンさんと私の二人ならどうでしょうか」
「3匹までは安全に仕留められるだろう。それ以上はこちらに被害が出ることも考えられる」
「では受付さん、私たちと組む予定のパーティはどんな方たちでしょうか」
「あなた達と同じ銅等級のパーティで、剣士と重戦士の2人組よ。冒険者歴は3年くらいで、腕は確かよ」
「わかりました、ありがとうございます。ヴァンさん、この話受けましょう。私たちが次のステップに進むためのいい試金石です」
リンカは強い意志をもった眼で真っ直ぐこちらを見ている。覚悟は固いようだ。
「わかった。今回ばかりはガードに専念しよう。やはりパイルバンカーは後顧の憂いが無い状況でなければ気持ちよくブッパなせないからな」
「今回ワガママ言ってるのは私なので後半のセリフは聞かなかった事にしてあげますが、それはそれとしていつか覚えてろよ」
この子ちょいちょい口悪くなるの怖いんだが。
「じゃ、そういう事なのでガードしっかりお願いしますね? ヴァンさん?」
「あぁ、任された。このパイルバンカーに賭けて君を守護すると誓おう」
「カッコイイこと言ってる気はするんですけど、パイルバンカーに誓われるとちょっとアレな感じしますね」
「何故だ……! 最大級の誓いの言葉だろう……!」
「だからパイルバンカー関係で突然情緒不安定になるのやめてくださいって」
「えーっと、とりあえず臨時パーティの件は了承してもらえたって事でいいのかしら?」
「あっ、すみません。それで大丈夫です。相手方のパーティさんはいつごろ来られますか?」
「えぇとその、実はさっきからいたんですの」
振り向くとそこには二人の女性冒険者がいた。一人はリンカと同じように皮鎧を身に付けた小柄な剣士。長いダークブラウンの髪をポニーテールに結わえたスレンダーな美人だ。もう一人は金属鎧を身に付けた背の高い重戦士。プラチナブロンドの縦ロールという華やかな髪型とは反対に、背には重厚な大盾と無骨なバトルハンマーを背負っていた。今声を掛けてきたのは縦ロールの方らしい。
「うわ、めっちゃキャラ濃い人来ましたよ」
小声でリンカが呟くが、それ言葉にしちゃいけないやつだぞ。
「聞こえてましてよ! というかそこのパイルバンカー狂いと組んでて酒場で毎日のように酔い潰れてるような貴女にキャラについて言われたくはないのですけれど!?」
「はぁ!? 酔い潰れた事なんてありませんけどぉ!?」
「リンカ、嘘は良くない」
「はぁ!?!?!?」
「はいはい、とりあえず自己紹介からするよ。私はマリー、見ての通り剣士ね。家名は無いから気軽にマリーって呼んでちょうだい」
手をパンパンと叩きながら二人を諌めるマリー。どうやらこの手の問題児の扱いは慣れっこらしい。頼りにさせてもらおう。
「で、こっちが」
「ワタクシはロザリンド・フォン・フレースベルクですわ! 見ての通り高貴な出自ながら故あって冒険者をやっていますの! ロールとしては不本意ながら重戦士ですわ!」
「ちなみに本名はロゼ・クリント。高貴な出自でもなんでもなく、クリント村の村長の娘よ。バリバリの農民だったけど令嬢への憧れを拗らせてこんなんになってるわ。気軽にロゼって呼んであげてちょうだい」
「ちょっとマリー!?」
「よろしく頼む。マリー、ロゼ」
「よろしくお願いします。マリー、ロゼ」
「うん、よろしくね」
「よろしくないのですが!?」
ロゼはいちいち反応が面白いな。今のやり取りだけで二人の関係がなんとなくわかる。
「次はこちらだな。俺はヴァン・カークルイス。一応魔術師の端くれだが、重戦士としてカウントしてくれていい。俺のことはヴァンと呼んでくれ」
「私はリンカ・タカナシ、リンカでいいです。マリーと同じで剣士です。ヴァンさん以外とパーティを組んだことが無いので今回は学ばせてもらいますね」
「学ばせてもらうだなんて謙遜しなくてもいいわよ。あなた達最近冒険者の間で噂になってるのよ?」
それは初耳だ。角うさぎを狩っているだけなのでそこまで噂になる事もないと思うのだが、一体どんな噂なのだろうか。
「噂、ですか?」
「えぇ。鋭い剣技に華麗な容姿の女の子と、硬い守りに絶大な威力の武器を持つ二人組ってね?」
「いや、なんか照れますね」
「ちなみにその二人は酒乱と変態武器狂いとしても有名ですわ」
「照れるな」
「照れるな! ぐぬぬ、まさかそんな根も葉もない噂がそこまで広がっているとは思いませんでした……!」
「いや、根も葉もあるしなんだったら花も咲いて実まで付けているレベルの真実だと思うが」
「ヴァンさんに関してはそうでしょうねぇ!」
「リンカの酒乱というのも事実だろう」
「あ゛ぁ゛!?」
ヒェッ
「……ッアハハハ! ダメだ、お腹痛い! あなた達本当に面白いコンビね!」
「いや、キャラ濃いですわね。キャラ濃すぎて渋滞起こしてますわよこれ」
「「「いや、それはあんたが言うな」」」
「ちょっと!? 今マリーも混ざってましたわよね!?」
「いやぁ、見た目だけで言えば一番キャラ濃いのロゼだし……」
金属鎧で大盾とバトルハンマー持った金髪縦ロールのエセお嬢様には流石にキャラの濃さで勝てる気はしないな。
「さて、自己紹介終わったわよね? じゃあそろそろ受付業務の邪魔だから他所でやってくれない?」
「アッハイ……」
受付さんのほんのり黒いオーラを幻視した我々は、細かいミーティングをしに酒場の席にそそくさと向かうのだった。受付さん、普段は優しいけど怒ると怖いんだな……
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