3話 ようするにリボル〇ングステーク
「……そこだッ!」
大きな炸裂音と共にシールドの先から杭が打ち出される。杭は狙いを外さず角うさぎの身体の中心に当たり、激しい衝撃をもたらし臓物と肉片を周囲に撒き散らす。この威力、やはりパイルバンカーこそが至高の武器である事を再認識させられる瞬間だ。超気持ちいい。
「ヴァンさん、正座」
「……?」
「何言ってんだコイツみたいな顔しないでくれます? 何度も言ってますけど、角うさぎにパイルバンカー全力で打ち込むのマジでやめてくれません?」
「善処する」
「ちくしょうパイルバンカー狂いめ!!」
「そんな、照れるじゃないか」
「褒め言葉じゃないやい!! はよ正座しろ!!」
精神年齢が幾分低下しているよう見えるが大丈夫だろうか。まぁ、さして問題は無いか。とりあえずリンカを落ち着けるために正座をする。
「と、まぁいつものやり取りはいいとして」
「は? こちとら毎回ガチで言ってますからね? 様式美とかじゃないですからね?」
「ふふふ、まずはコイツをみてくれ」
そう言いながら俺は背中に背負っていた例のアレを取り出す。リンカはきょとんとした顔でマジマジと見詰めている。
「……? なんですコレ? ちょっとゴツめのトンファーみたいな、いや先端部分に穴が空いてますね。ってことはこれはまさか……!」
「そう、パイルバンカーだ。正式名称を携行型指向性爆雷内蔵杭射突装置という」
「は? なんて?」
「携行型指向性爆雷内蔵杭射突装置。愛称はハンドヒートパイルだ」
「ちょっと待って理解が追いつかない」
「こいつはルヴィステラ特殊武器愛好会全面協力の元作成された俺の相棒の模倣品の試作弐号機でな」
「今なんか怪しい組織出てきませんでした?」
怪しい組織だなんてとんでもない。80年の歴史を誇る立派な伝統ある組織らしいぞ。
「小型化と杭を完全に射出するという新たな技術によって射出機構の簡略化に成功していてな。射出する度に新たな杭をリロードしなければいけないという難点はあるが、その分貫通力は増したんだ。ただ杭自体のサイズが小さくなっているために破壊力が大幅に減ってしまった」
「んん……? つまり小型の魔獣に当てても爆散しないって事では? それなら良いじゃないですか! 最初はまたトンチキな事やってんなコイツ、と思ってましたがたまには真っ当にモノを考える事ができるんですね!」
「リンカは時々パイルバンカーのような言葉の杭を俺の胸にぶち込んでくるな? まぁ、それはともかくとしてだ。もちろん破壊力の減少に関しても対策済みだ」
「は? そこは対策しなくてもいいところなんですが? 余計なことするの本当にやめてもらえます?」
視線が絶対零度過ぎて背筋凍るの本当に怖いんだが。この娘前世でスノーゴーレムか何かだったりしないか?
「ええと、この射出する杭の先端に指向性を持たせた時間差起動炸裂術式が刻み込まれていてな。相手の装甲をぶち抜いたら内部で炸裂術式がドカン! だ。装甲の厚い表面部を貫通させ、内部から爆発を起こせばどんな魔獣も一撃だ!」
「おい立ち上がるな。正座だ正座」
おっと興奮のあまりつい立ち上がって力説してしまっていたようだ。
「ひとつ聞きたいんですけど、そのハンドヒートパイルとやらを角うさぎに使ったらどうなりますか?」
「弾け飛ぶな。なんなら角も危ういかもしれん」
「二度とその不愉快な武器を私の視界に入れないでもらっていいですか?」
「な、何故だ……!? こんなに高性能な武装、銅等級の冒険者が持てることなんてまず無いんだぞ!?」
「理由、言わなければわかりません?」
ヒェッ
「ええと、炸裂術式を省いた杭もあるので、そちらの使用なら許可頂けないだろうか」
「最初からそっちだけ出しましょうね?」
「いやしかしパイルバンカー足るものやはり破壊力がだな」
「返事は?」
「はい……」
あぁ、さよならハンドヒートパイル。君の勇姿は角うさぎ狩を続けている限りは見る事はないだろう。すまない特殊武器愛好会のみんな。実践でのテストはできなさそうだ。いや待てよ、この後の狩りで何食わぬ顔で今装填してある炸裂術式のある杭を打ち込むのはギリギリセーフではないだろうか。一発だけなら誤射かもしれないし。
「よし、じゃあ炸裂術式の無い杭に装填しなおして。今すぐに」
駄目でした。
「はい、これ今日の依頼分の角うさぎの角10個です。あと今日は毛皮と肉、それから魔石の買取もお願いします」
「えぇ!? ヴァンさんがこんなに真っ当な量の角以外の素材を!? どんな手品を使ったの!?」
ギルドの受付さんに今日の成果を渡したところ、こんなお言葉を頂いた。逆の意味での信頼が辛い。
「いやぁ苦労しましたよこの狂人に言うこと聞かせるのは!」
「狂人はちょっと言い過ぎではないだろうか……」
「「は? パイルバンカー狂いはちょっと黙っててもらえます?」」
カレンと受付さん、仲良すぎでは?
「うーん、しかしこの素材は……」
「え? 何か問題がありましたか?」
「あぁいえいえ、問題どころかかなり状態が良いものばかりだったので。他の皆様が持ってこられる素材、特に毛皮なんかは剣でズタズタにされてる事も多いんです。しかしこれを見る限り心臓を一突きで仕留めているように見えます。もしかしてヴァンさん武器変えました?」
「俺がパイルバンカー以外の武器を持つとでも? 冗談でもそんな事を言われるとは心外だ!」
「パイルバンカーの事になると情緒不安定通り越してぶっ壊れるのなんなんですこの人。……えぇと、ちょっとした新兵器ってやつです。なんちゃら愛好会とかいう怪しい組織とヴァンさんが共同開発したらしいんですけど、詳しく聞くと滅茶苦茶長くなるんで聞かない方が無難ですよ」
お? お望みとあらば詳しく説明するが? しちゃうか? 語っちゃうか?
「あ、じゃあ大丈夫です。どうせ知っても他の冒険者の方たちには真似出来ないような事でしょうし」
「そうか……説明はしなくていいのか……」
「めっちゃがっかりしててウケる」
「ふふっ、それにしても随分仲良くなりましたね?」
ふむ、パーティメンバーとして仲良く見えるというのは悪いことではないだろう。リンカもきっと同じ思いだろう。
「は? ビジネスライクな関係ですけど?」
違ったみたいだ。バリバリ俺の勘違いだった。ちょっと気持ちしょんぼりしたがなるべく顔に出さないように努めよう。
「あら、ヴァンさんはそう思ってないみたいですね?」
何故バレたのか。流石百戦錬磨の受付さんだ。
「な、なに言ってるんですか。やめて下さいよ。ほらヴァンさん、行きますよ! 受付さん、素材の査定お願いしますね! 酒場の方に行ってますから!」
「あぁ、今行く。受付さん、よろしく頼む」
「はいはーい。査定終わったら呼び出しますからリンカちゃんはまた酔い潰れないようにねー」
「酔い潰れたことなんて一度もございません!」
いやそれは嘘だろう。最近毎日酔い潰れてるだろう。そう思ったが余計なことを言えばまたぞろ面倒な事になりそうだし黙っていよう。
ちなみに受付さんに呼び出される頃には案の定酔っ払いが一人完成していた事は言わなくてもわかるだろう。
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