第2話 パイルバンカーとは何か?人生、かな……


 パイルバンカーの話をしよう。

 

 パイルバンカーとは、金属製の杭を爆発などで高速射出することによって相手をブチ抜く近接武装だ。師匠曰く本来のパイルバンカーは火薬で杭を射出するらしいのだが、俺のパイルバンカーは魔力で爆発を起こし、更に杭を内部の加速術式によって高速射出する。つまりパイルバンカーは魔術なのだ。

 

 また射出部以外は巨大なシールドで覆われていて、そのシールドの先端から杭が飛び出すようになっている。シールド自体にも防御術式が組み込まれていて、射出機構の部分も併せて、現在の技術では再現不可能な程高度な武器らしい。つまりパイルバンカーは古代魔術なのだ。

 

 そしてパイルバンカーは一度射出すると、排熱が完了するまで再発射はできない。正確に言うとできないわけではないのだが、射出機構への負荷が極端に掛かるために基本的にはしない。一発一殺、正に浪漫武装。つまりパイルバンカーとは浪漫溢れる古代魔術なのだ。

 

 

 

「一度魔術師の方々に土下座してきてはいかがです?」

 

「ちょっと辛辣が過ぎるのでは?」

 

 いつものようにギルドに併設された酒場でリンカと二人で安酒を酌み交わしていたところ、改めてパイルバンカーとはなんぞやという質問を頂いたので、それに答えた結果が今の返答だ。ひどい。

 

「パイルバンカーは魔術ではないでしょう。兵器ですよ兵器。元ネタはボト〇ズですし。確かにベル〇ルガはクッソカッコイイですけど」

 

「いやそれがな、パイルバンカーはギルドの登録上では魔術兵装になっているんだ。そして実は俺も魔術師で登録されているんだ」

 

「は? 魔術師? 重戦士でしょ?」

 

 ロール的には重戦士の扱いで合ってはいる。が、パイルバンカーの作動に魔力が必要不可欠な以上は登録区分上は魔術兵装扱いになる。そしてそれを扱う俺は正式な区分では魔術師になるのだ。

 

「まぁ言わんとする事はわかるが、区分が違うだけでロールはタンクだからな」

 

「ロール以前に見た目の段階でおかしいと思うんですけど?」

 

 確かに俺の装備が魔術師に見えることはまず無い。そこまで重装備という程では無いにしろ、そこそこしっかりした皮鎧に相当な大きさのパイルバンカーだ。とてもでは無いが魔術師には見えないだろう。

 

「魔術師というと、一般的にはローブを羽織っていて杖を持ったヒョロっとした冒険者を指すと思うんですが? 貴方どう見たってガチムチファイターじゃないですか。ムッキムキじゃないですか」

 

「確かに俺は特に目に見えて筋肉が付いてはいるが、一般的な冒険者の魔術師もそこそこ筋肉は付いてるぞ? そもそも冒険者は基本的には肉体労働だ。移動や戦闘、剥ぎ取りや採取と身体を動かす場面しか無い。大体の魔術師はローブ羽織っていてもその下はムッキムキだぞ?」

 

 リンカの言うところのヒョロっとした魔術師というのは研究専門の魔術師だろう。冒険者なんてやっていれば個人差はあれど筋肉は付くものだ。

 

「魔術師以前に冒険者ということですか。よく考えたらそんなあからさまにガリガリの冒険者なんてギルドで見たこと無いですし」

 

「魔術師の絶対数が少ない、というのも少なからずある。魔術師になるには才能と運の両方が必要だからな」

 

「才能は分かりますけど、運ですか?」

 

「運だ。才能があったとしても魔術を独学で学ぶことは非常に難しい。なので魔術の師となる人に見出してもらわなければならない。そもそも魔術師自体が少ないというのに、そこから更に師となってくれる魔術師を探さなければいけないわけだ。魔術の素養を持つ者の一割しか魔術師になれないという俗説があるくらいだ」

 

「へぇ、一割ですか。そんなにハードル高い職業だったんですね。ヴァンさんは地球に帰ったとかいう師匠から魔術を習ったんですか?」

 

「師匠もパイルバンカー使いだったからな。あの人は一日中パイルバンカー振り回してドッカンドッカン杭を打ち込んでも平気な顔してるような化け物だったよ。それに比べると俺はまだまだだな、半日程度で魔力切れで音を上げてしまう」

 

「ならガードに専念しろや」

 

「善処はする」

 

「クソっ!! やっぱり聞く気ないじゃないですか!!」

 

 善処した結果パイルバンカーをブッパなしたいのだから仕方ないのではないか。そう思ったものの、それを口に出してしまえば先日の二の舞いになる事は目に見えていたのでそっと口を噤んでおいた。

 

「まぁそれはいいです。いえ本当はよくないんですけど今はいいです。前にも聞いたかもしれませんが、そのヴァンさんの師匠さんは結局どうやって地球に帰ったんでしょうか。改めてじっくり思い出してみても何もヒントはありませんかね」

 

「これは以前伝えたが、やはりこのルヴィステラの街に何かあると考えるのが良いだろう。師匠とは拠点を転々としながら冒険者を続けていたが、師匠と別れる直前にいたのがこの街だ。滞在期間も一番長かったし、ここで何かを見つけたと考えるのが自然だろう」

 

「やっぱりですか。地道に調べていくしか無さそうですね。こっちに来て一年近く経ちましたけどそう簡単にはいかないですね」

 

「師匠という手掛かりがある分まだマシだろう。チキュウに帰還する方法がある、という明確な情報無しで探すのはさぞ辛かったろうな」

 

「そうなんですよね。何はともあれまずはギルドの等級を銀等級まで上げて、ギルド内の資料室を使わせて貰えるようになるのが当面の目標ですね」

 

「あぁ、こればかりは地道に活動していくしかないだろう。冒険者とパイルバンカーは一日にして成らず。師匠も口を酸っぱくして言っていたよ」

 

「何言ってるのか訳分からない部分もありましたが、概ね賛成です。銅等級から抜け出せれば暮らしも格段によくなりますからね」

 

 

 

 等級という制度がある。冒険者がギルドへどれだけの貢献をしたか、というのを表すもので、下から順に無、銅、銀、金の三つの等級に分かれている。等級の違いはそのまま実力の違いに繋がり、それによって受けられる依頼の内容や利用できる施設に制限が掛かったりする。

 

 無等級はギルドへ登録したての新人だ。最初は街道付近での薬草採取、荷物運び等の単純かつそこまで実入りの良くない仕事を回される。利用出来る施設も基本的にはギルド提携の安宿のみとなる。そもそも、酒場や賭場の利用制限が無かったとしても使う金なんてほとんど貯まらない。節制のできない者、忍耐の無い者達は大抵ここでふるい落とされていく。

 

 ある程度の依頼をこなしてギルドが問題無しと判断すれば銅等級に上がる。受けられる依頼も小型魔獣の討伐、森の奥地での薬草採取等、″冒険者らしさ″というのが出てくる。銅等級に上がればギルド併設の酒場や賭場、少しだけ良い宿も利用できるようになる。つまり銅等級で仕事をこなせればある程度の余裕が出てくるのだ。銅等級で生涯を終える冒険者も少なくはない。

 

 そして銀等級、ここからが中々難しい。討伐の依頼を確実にこなし、問題行動を起こさず、ギルドからの心象がよい冒険者が銀等級に上がれる可能性がある。具体的にどうすれば上がる、というのが開示されている訳ではないのではっきりとは分からないが、簡単には上がれるものでは無いだろう。単純に長く冒険者をやっているだけで上がれる、という事も無いのは銅等級に長い間燻っている層がいる事をみればわかる。一定以上の戦闘力が求められるのでは、という噂を聞いた事がある。確かに銀等級になれば大型の魔獣の討伐が受けられるようになるため、実力が足りないものではお話にならないだろう。そして銀等級になればギルド内の施設がほとんど利用可能になる。資料室や訓練場、ラウンジ等だ。銀等級に上がれる者は冒険者の中でもごく一部しかいないため、周囲から一目置かれる事になるだろう。

 

 金等級は銀等級よりも更にハードルが上がる。何せまず貴族に気に入られなければならないからだ。金等級は国付き、もしくは貴族付きの冒険者を指す。具体的にどのような待遇を受けているかは知らないが、悪い暮らしはしていないだろう。

 

 と、等級について思いを馳せていたら気づけば杯が空になってしまっていた。そろそろ宿に戻って相棒の整備をしなくてはならない時間だ。というかリンカが先程から静かなのだが、どうかしただろうか。

 

「ね、寝てる……」

 

 この娘の危機管理意識にちょっとした疑問を抱きつつ、なんとか起こしてその日は解散した。毎回の様に酔い潰れてる気がするのだが、そろそろ酒を控えた方が良いのではないだろうかコイツ。

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