異世界パイルバンカー
hallelujah!!
第1話 パイルバンカーはいいぞ
かつて父は言った。
「何か一つでいい、自分で誇れる武器を持て。それは剣でもいいし槍でもいい。形あるものじゃなくてもいい。学問の知識だったり商売のノウハウでもいい。そういうものを一つ持て」
当時6歳だった俺には少し難しかったが、何となくそれはカッコイイことだと思い、わかったと返事をした。
その翌年、父は魔物の群れから村を守るために独りで闘い、村の被害を最小限に抑えたものの深い傷を受けて亡くなった。
かつて母は言った。
「例え何があっても挫けないで。目の前にどんな壁が立ち塞がろうとも、笑いながらその壁を超えていくような、そんな生き方をなさい」
父を亡くし、女手ひとつで自分を育ててくれた母は強い人だったように思う。そんな母に憧れ、わかったと返事をした。
俺が10歳になった時、母は流行病に冒され亡くなった。必死に働いて得た食料をろくに食べもせず、息子である俺にほとんど食べさせていたようだ。幼い俺には気付くことはできなかった。
かつて師は言った。
「パイルバンカーはいいぞ」
母を亡くし、天涯孤独となった俺を冒険者である師匠が引き取ってくれた。ある日俺の両親の話を聞きたいと請われ、話したところ先程の言葉が返ってきた。正直に言えばその時はよくわからなかったが、とりあえずわかったと返事をしておいた。
俺が16歳になった時、師匠はチキュウに帰る目処が着いたと言って別れた。本当はもっと早く帰れたんだろうと思うが、俺が一人前になるまで待っていてくれたんじゃないかと思う。
別れ際に、向こうじゃ使わないからと言って、師匠が愛用していた武器を貰った。
こっちに転移した時に神様から貰ったとかなんとかいう胡散臭い代物だったが、相当な逸品である事には代わりなかったし、何より師匠との繋がりの証のような気がしたのでありがたく貰っておいた。
師匠との別れから2年が経った頃、俺ことヴァン・カークルイスはサテラ領ルヴィステラの街で師匠と同じように冒険者をやっていた。
ギルドに併設された酒場、そこは冒険者の憩いの場である。依頼達成後の祝杯をあげていたり、翌日に向けて英気を養っていたりと様々な冒険者が集う。
「さて、ヴァンさん。早速ですが今日の依頼の反省会を行おうと思うのですが?」
そんな憩いの場で、簡素な皮鎧を身にまとった艶やかな黒髪の美少女に俺は睨まれていた。端的に言ってすごい怖い。
「そうだな、やはり角うさぎという小さく素早い魔獣を相手にする場合、翻弄されないよう守りを固め、相手の攻めを受けたところを仕留める。そういうシンプルな作戦が功を奏したな。今回の依頼も無事達成だったし何か反省する点はあったか?」
「確かに今回の依頼である角うさぎの角を10個集めるという依頼は達成しています。でもですね、ご存知かとは思いますが角うさぎって角以外の部位も有用なんですよ」
「あぁ。主食が木の実なので肉に臭みが無く食用に適しているし、毛皮はそこそこ丈夫なので駆け出し冒険者の皮鎧なんかにも使われる。今回の依頼で収集を頼まれた角ももちろん有用だ。加工して安価な槍になったり、磨り潰して魔術の触媒になったりするな。あとは魔石だ。魔獣が体内で溜め込んだ魔力が結晶化したもので、ギルドが買い取ってくれるので冒険者の主な収入源の一つになる」
「はい100点満点の解答ありがとうございます。ではヴァンさんはその角うさぎをどうやって倒しましたか?」
「俺のこのパイルバンカーで身体の中心をズドン、と打ち抜いてやった」
師匠から譲り受けた、相棒のシールド付きパイルバンカーを誇らしげに撫でてやる。今日も一日お世話になったので宿に着いたらしっかり整備してやらなければ。
「その結果、角うさぎさんはどうなりましたか?」
「頭から下は見事に爆散したな」
さもありなん。パイルバンカーは威力に全振りしているようなピーキーな武器だ。連射ができないからこそ一撃で相手を打倒する事に全てを掛ける。角うさぎが爆散したのも当然の結果と言えよう。
「ですよねぇ!? 毛皮も肉も魔石も全部グッチャグチャにしてくれましたよねぇ!? そもそもヴァンさんがガードしてその隙を私がつくっていう作戦でしたよねぇ!?」
「いや、そのだな。確かにそういう作戦だったが、隙を見せた敵を攻撃しないでいる事は、それだけリスクを背負うという事に繋がる。現に複数の角うさぎを相手にした時等は何回かヒヤッとする場面もあったじゃないか」
「確かにそういった場面もありましたよ! ですがヴァンさん、あなた普通に一匹の角うさぎ相手で、周囲の安全が確認できてるような時にも景気よくブッパなしてましたよねぇ!?」
「安全の確認ができていたと言うが、それも絶対という事は無いだろう。草むらの影に潜んでいた別個体がいるかもしれない、木の影から油断した俺たちに襲いかかってくる魔獣がいたかもしれない。そう考えれば手早く倒すことは当然の事なのでは?」
「それはわかりました。で、パイルバンカーをブッパなして気持ちよかったですか?」
「超気持ちよかった。一発打つ毎に一回射精するのと同じくらい気持ち良かった」
「でしょうねぇ!! というか下ネタァ!!」
机を叩きながらこちらを糾弾する少女、名前はリンカ・タカナシ。どうやら師匠と同郷のようで、チキュウという場所に帰る方法を探しているらしい。ギルドのパーティ募集の張り紙を見て師匠と同じような響きの名前に興味を持ち、その後なんやかんやあってパーティを組むことになったのだ。それからおよそ一ヶ月が経っていた。組んでしばらくの間は猫を被っていたのか随分と大人しかったが、今ではご覧の有様だ。元気があって大変よろしい。
「ちょっとヴァンさん聞いてます!? 依頼達成しただけじゃなく、剥ぎ取りもしっかりしなきゃやってけませんよ!?」
「善処する」
「絶対嘘だぁ! どうせ隙あらばブッパするんだコイツゥ!」
否定はできなかったのでとりあえず目の前の安酒を飲んで誤魔化しておく。相変わらずここの酒は薄い。もっとも喉を湿らせるならこのくらいが丁度良いのだろう。濃い酒ばかり出していては悪酔いする客が出てきてしまう。
「何優雅に酒飲んでるんです!? 聞いてます!?」
しかしリンカは普段から酒を飲まないからか、ここの安酒でも大分酷く酔っ払ってしまうらしい。明日に響く可能性を考えてそろそろお開きにすべきか。
「まぁ、落ち着け。確かに俺が魔獣を木っ端微塵にしてしまうため収益が減ってしまうのは事実だ。だからこそ依頼で外に出た際に薬草を採取したり、他の冒険者が避けるような硬い敵を倒す事で代わりに収益を上げているだろう」
「木っ端微塵にしなけりゃもっと稼げてるって事じゃないですか!」
「あぁ」
「あぁじゃないんですよぉ! とにかく! 明日も東の森に行く依頼を何か受けますからね! 明日こそは魔獣の原型を留めるような倒し方でお願いしますよ!」
「善処する」
翌日も森にパイルバンカーの炸裂音が響き渡り、その直後に少女の怒声が続くのだが、それはまた別のお話。
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