第76話
私は岩壁の撤去が終わるまでの間、実家にて領地経営を学んでいました。そしてライールとは、兄の友人から恋人を経由して婚約者となりました。サルブレス公国は、ライールに熨斗をつけて差し出されました。その時に皆さまから言われたのです。
「一番ありえない王子が大物を釣りあげた‼︎」
なんか……男女逆にした話をどこかで聞きました。─── ええ、レヴィアス兄様との馴れ初めを話されたイリアお義姉様からです。
「兄といい妹といい……アシュラン家は捕獲対象の大きな魚ですか」
「そういうアレクシス兄様はどうなのです?」
「俺か? 俺は違うぞ」
「ええ、リリィ様。アレクシス様はお魚ではございませんわ。獣道にいくつも穴を掘って底に真綿を敷き詰めて待っていたんです。そうしたら穴に気付いて飛び越え、また穴に気付いて飛び越えて……って繰り返されたんです。ですがある日、ちょっと穴の位置を動かしたら踏み出すタイミングがずれて落ちたのですわ」
「─── 俺はイノシシか?」
「いいえ、シカです」
「そして美味しくいただかれた……」
「はい、私が美味しくいただきました」
「ブランシア!」
アレクシス兄様は顔を真っ赤にして奥様の口を塞ごうとされます。
「フフフ。
「だから、ミドルネームは呼ぶな!」
「あらあら、失礼をいたしまして」
「わざとだろ」
「はい、そうですわ」
サンジェルス国の男性は成人するまでミドルネームをつけることが決まっていました。成人になってミドルネームを取り外すことで一人前として認められます。逆に女性はミドルネームがそのまま愛称になっていることも多いためつけたままです。
実はその決まりはサンジェルス国のみです。昔は世界各国でもミドルネームを付けていたそうです。ですが貴族同士でミドルネームが同じだった場合、下の貴族はそのミドルネームが使えません。そのためファーストネームを短くして呼んだりしているうちに廃れたそうです。
私の子供たちはモーリトス国の生まれなのでミドルネームは付けていません。
「ああ、そういえばリリィ。グリュンタール国が無事に滅びたそうだよ」
「まあ、それは吉報ですわ」
話を変えるようにアレクシス兄様が吉報を齎せてくれた手紙を受け取りました。情報に疎くなりがちの領主に対して王都から届く報告書です。私はまだ拝領前のため、アレクシス兄様に届いた手紙をお借りしています。
グリュンタール国には大変無礼な態度を取られてきました。
まず最初に、グリュンタール国の国王から無礼千万な内容の手紙がレヴィアス国王陛下と私に送られました。
『傷物令嬢を二十三番目の愛妾として娶ってやる。さっさと荷物をまとめて、送ってやった使者と国へ来い。来なかったら殺しに行く。お前のせいで戦争になりたくなかったら言う通りにしろ』
簡単に言えばこんな内容です。国王陛下宛に届いた手紙はもっとひどい内容だったようで、久しぶりに本気で怒っている姿を見ました。
「ふーん。戦争なんか起こせない弱小国の分際で」
「お兄様、私は『傷物令嬢』などと嘲笑われているのでしょうか?」
「ひどく愚鈍な国王だな。正しい情報を集めず、聞いたことだけで判断するとは」
「あなた、私を国使として送ってくださいな。このような手紙を送る無礼千万な国など短時間でつぶしてきますわ」
「やめなさい、イリア。さて……リリィ、手紙には『使者を送った』とあるんだね?」
「はい、戦争になって国を滅ぼしたくなければその者と来い、二十三番目の愛妾にしてやる。だそうです」
「へえ、このモーリトス国を滅ぼす? へええ、その国王は
「お兄様、実は『サンジェルス国に送られた可能性』があるのですが……。私を傷物令嬢と嘲笑っていますし」
「そうか、そうか。あの愚鈍な国王だった者なら、リリィを送っただろうねえ。───────── この私の大切な妹を侮辱したことを後悔させてやろう」
「私の義妹を侮辱したのです。戦乙女は決して許しませんことよ」
この世界で一番怖いお二人を共に敵に回してしまいましたわ。これでグリュンタール国の未来は、ほかにもある
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