第77話


使者が来ました。

港についたと聞いた私はイリアお義姉様とお茶を楽しんでいました。使者との謁見は王城に到着した翌日。長旅で疲れているであろうとの配慮からです。

そのため、私は王城で過ごすことにしました。それなのに、ゆっくり過ごしていたサロンに使者が乗り込んできたのです。騒ぎに気付いたイリアお義姉様が止められたため入り込めたようです。


「お初にお目にかかります、傷物令嬢クーデリア。グリュンタール国より手紙を受け取りましたでしょう? 手紙の指示どおり、さっさと荷物をまとめてついてきなさい。ああ、そちらは王妃ですね。戦争に負ければその身体も我が国王の寵愛を受けられますよ。まあ、気に入らなくなれば兵士たちの慰み者になってから娼館で不特定多数の男を相手にすることになりますが」


まるで値踏みするようにイリアお義姉様の身体をみてニヤニヤする使者。────── その目が気持ち悪いです。


「この不埒者を取り押さえなさい!」


イリアお義姉様の声で一斉に戦乙女の皆さんが動きました。


「な! 何をする! 貴様ら弱小国が我が国と戦争をして勝てるとでも思っているのか!」

「その言葉、そのままお返しいたしますわ」

「なんだ……と?」

「我がモーリトス国を敵に回し、あまつさえ王妹であり我がモーリトス国の王太子である義妹を侮辱する言動。許されるとお思いか?」

「モーリトス……! なぜモーリトスが!」

「なぜって、ここはモーリトス国の王城ですわ。何年も前にサンジェルス国はモーリトス国に国を明け渡しました。あなた方の国にどのように話が届いているのか存知ませんが……。私はモーリトス国国王の実妹でこの国の王太子です。私の伴侶はライール・アシュラン。サルブレス公国ウルネイア大公のご子息です」

「サルブレス、公国……。たしか数年前に……大賢者の孫娘と婚姻を結んだ王子がいると……」

「ええ、私と夫のことですわ」


私の言葉に目を丸くしている使者。完全な思い込みだけでここまできていたようです。だからといって、先程の態度は許される行為ではありません。


「大賢者と大魔導師、そしてモーリトスの戦乙女を敵に回しても戦争に勝てると言ったな」

「お、お許しを」

「許さん! この者はモーリトス国の王妃および王太子に対する不敬罪で処刑。首だけ塩漬けにして故郷に帰してやる。ただし大軍を使者にしてな」


自身の言動で戦争を回避できないと思っているようです。死地へ向かわれる前に真実をお伝えしましょう。


「今頃、サルブレス公国が仲裁役としてグリュンタール国の国王を訪ねています」

「なぜ……」

「なぜって? サルブレス公国は夫の国、大公は夫の父。にグリュンタール国王に直接お話しされるのが一番ですのよ」

「護衛に戦乙女がついている。つまり、大公を害そうとすればモーリトス国をも敵に回すことになりますわ。それでも、このモーリトス国の王太子を手に入れるおつもりですか。そのような気概をあなたの国の愚王はお持ちなのかしら?」


愚王だからこそ、その結果がどうなるのかを考えられなかったようです。

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