第72話


「ふざけないで‼︎」

「こんな小娘なんかに従えるか!」


そんな怒鳴り声が彼方此方あちらこちらから響き合い大きくなっていきます。

『サンジェルス国の貴族は貴族籍を廃籍。今これより平民として生きていただきます』と言っただけです。

─── 私財の没収まで申し渡していないのですが。


ねぇ。これでも私は『モーリトス国国王レヴィアス陛下が妹』、つまり王妹ですわ。それも王位継承権第二位の。それを念頭に置いた上での発言ですわよね?」


その言葉に暴言を吐いていた人たちが一斉に口を噤みました。

王族への暴言はすなわち国家反逆罪。それも騒ぎに乗じて「殺されたくなければ今の発言を撤回しろ!」という声も上がりました。

どなたが発言したか存じ上げております。私もサンジェルス国の社交界に王太子の婚約者として王族席で国王陛下と王妃殿下が挨拶を受けているのを見聞きしてきたのですから。

そう、このサンジェルス国では王妃は殿と呼ばれます。ほかの国では国王と王妃は国父・国母として同列に崇められます。ですがサンジェルス国では国王は上、王妃は下の立場に据え置かれてきたのです。

先ほどの発言も、そのような女性蔑視の閉鎖された国で生まれ育ったからでしょうが……。発言には女性からもあがっていました。


「王妹の私に対して数々の無礼な発言に対して、後ほど責任をとっていただきます」


顔を上げて私を見られない時点で、自分の失言を自覚しているのでしょう。ですが、それは一時的なものでした。続けて官庁の閉鎖を発表したときにも騒がれてしまいました。


「それではここ最近の官庁では何の仕事をされておりますか?」

「仕事内容を貴様が知る必要はない!」

「小娘の分際で偉そうに‼︎」

「平民の分際で王妹殿下に対して無礼千万!」


失言を繰り返した男たちに対し、壁に均等に並ぶ戦乙女の皆さんが一斉に腰の鞘を握りました。それだけで、暴言を吐く口を持って生まれた彼らは青ざめて、中央に一歩ずつ集まりました。戦乙女の皆さんは私の許可が出たら抜刀する気でしょう。


「仕事の内容は機密事項のため言えない、のではなく、何をしているのかわからないから言えない、の間違いではないですか?」


あらあら、俯く人と睨む人に分かれましたわ。


「皆さん、ご存知ですか? 官庁が閉鎖されたのは『サンジェルス国が世界から消えた日』ですわ。それからもう何年たっているとお思いですか? そして、その放り出された書類を現在残務処理として片付けているのは私たちです。それなのに、まだ官庁が必要だと訴えるのは何故ですか?」


さらに多くの人が顔を下げましたね。では忘れていることを思い出していただきましょう。


「すでにサンジェルス国は滅び、王族は全員が奴隷として罰を受けています。貴族の中でも同じく罪を問われて、モーリトス国王都で処刑された者もいます。あなた方がここにいるのは、無罪ではなく『さらなる罪を犯すかどうか』を試されているのです」


それによって領地に不利益となる者の一族は王都に引き取られます。そこで有能と無能に分けられるのです。有能と認められた者はその能力に相応しい仕事が与えられ、無能と判断された者はその者にあった仕事が与えられます。

ある者は書類整理に。ある者はメッセンジャーに。ある者は厨房の皿洗いに。

実は今までも王都から呼び出された一族はいます。彼らは一律に『働きが認められての転封』と周りに自慢して去っていきました。当時は王領地のため、喜んで行ったのです。

その先に待っている未来を夢みて……

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