第2話


先ほどまで行われていた卒業式では、来賓として国王陛下と王妃殿下はともかく、三人の側妃様方や側妃様がお産みになられた王子様や王女様方も、招かれておりました。それは『王太子殿下の婚約者』である私の卒業を祝うためです。

この学院では、送辞は来年度の生徒会長。答辞は今年度の生徒会長が。生徒会長が不在の年は、卒業テストでトップだった生徒が壇上に立ちます。今年の最終トップは私でしたが、壇上に立ったのは生徒会長です。正直な話、私自身は目立つことが好きではないので、もし今年の生徒会長が在校生でしたら、わざと誤答をして第二位になるつもりでしたので助かりました。


「せっかく、学年トップでご卒業ですのに。答辞の件は残念でしたね」

「いいえ。生徒会長のような素晴らしい答辞は、私には無理で御座います。皆様の前で醜態を晒さずに済んで何よりでしたわ」


卒業式を終えてから、来賓控え室へ卒業の報告とご挨拶のために伺うと、王族の皆様からお祝いの言葉を頂きました。王妃陛下のお言葉に笑顔で返した私に、皆様は微笑んで下さいます。

そんな中でも、王太子殿下はいませんでした。私と比べられるのを嫌い、ウーレイ男爵令嬢の元へ逃げたのでしょう。

すでにどなたからも、王太子殿下のことが口から出ることはありません。

同年齢の私が卒業したのに、王太子殿下は高等科一年からやり直しと先ほど申しました。ですが、来年度に一定基準の学力がないと判断されれば、年度途中でも中等科一年まで戻されることになっております。

その事は、今年度、学院に在籍していた方々ならどなたでも存じ上げております。

来年度に進級できない者。学年を落とされる者。逆に飛び級が許された者の発表が、教職員棟入り口にある掲示板に張り出されるからです。

飛び級が許された者以外は、その年度の学業が修了していないため、卒業式の三日後に行われる修了式当日の登校は許されません。

そして、来年度の処分に納得した学生は手続きをします。ですが、王太子殿下もウーレイ男爵令嬢もそれを怠ったために、昨日、口頭で最終通告されたのです。

たとえ処分に納得していても、学院をやめないといけない学生は出てきます。

学費が支払えないなどの経済的な理由や、爵位を継いだために通えなくなったという事情がある場合、復学可能な『退学処分』となります。休学もありますがその期間は二年間のみで、三年後に復学出来なければ自動で退学になります。そのため、ほとんどの方が退学で手続きを取られます。

それ以外……親や家族が犯罪を犯し、爵位の剥奪処分を受けたなど、で通えなくなった場合、復学は可能ですが各科の一学年からやり直しになる『除籍処分』になります。

どちらの場合も、復学出来る猶予は『死ぬまで』で期限はありません。それは過去に、他国との領土争いで学院に通えなくなった学生たちのために出された救済措置を元にしているからです。

─── そして、学生自身に理由がある場合、『放校処分』になります。

この処分を受けると、二度と学院に戻ることは叶いません。学院に在籍していた記録自体が消去されて『なかったこと』になるからです。もちろん、他校や騎士養成学校や魔術学校などの専門校に入ることも出来ません。たとえ名を変えたり他家へ養子に出たとしても、入学前の事前検査で【 鑑定 】を受ければバレます。もちろん、事前検査に替玉は通用しません。

後日届けられる学生証には、事前検査で採取された『一滴の血液』が登録されています。それは、学院の門に張られた結界の通行手形となります。そして、門には【 鑑定機能 】が付いているため、学生証と所持者が同一人物かを判断しているのです。

もし替え玉をした場合、替え玉を命じた側は重罪になります。そして共犯者も同罪になります。過去の替え玉事件の処分は、爵位剥奪の上、斬首刑です。

法務部の責任者だった公爵様が、ある子爵家に罪を被せてお取り潰しにされました。そして、賢かった子爵家の子息様を引き取り、自身のご子息の名を名乗らせて試験を受けさせました。そして、合格すると口封じのため殺害したのです。ですが、替え玉がバレた上、子爵家の子息様を替え玉にするためにありもしない罪で子爵家をお取り潰しにされたことなどが判明しました。さらに子息様を口封じで殺されたこともあって、貴族として毒杯を仰ぐのではなく、爵位剥奪のうえ公開処刑という重い刑が下されたのです。

この事件がきっかけで替え玉は重罪の一つに加えられました。上級貴族に命じられたら、それがどんなに悪いことであっても聞くしかないのです。断っても口封じで殺されるだけです。立場を悪用した事件が表面化しただけでなく、子爵家の子息様が殺害されてしまったことで大きな問題になりました。学院側も入学の手続きを厳しくして、悲劇が繰り返されないよう対策しています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る