第3話 分岐点
その日も強制的な労働を終えて、晩ご飯を食べようと近くの食堂に入った。
中は丁度ピークの時間帯でほとんど満席状態だった。
奥へ歩きながら席を探していると、カウンターの方に1つ空いているのを見つけ、僕は早歩きで向かった。まさに【椅子取りゲーム】をしているかのようにお尻から滑るように座ると、そこを狙っていたと思われる男の舌打ちが聞こえてきた。
一切気にせずに食事の注文をしたが、心の中では『ムフッ』と喜んでいた。
何せ、ここには僕の大好きな《チャーハンうどん》があるからだ!
見た目はただのチャーハンなのだが、専用のダシ汁をかけると、うどんがチャーハンの中から触手の様にニョロニョロと出てきて物凄く食欲をそそらせる!!
まあこの話はいいとして、この店がいつもより賑わっているのに気がついた。
店員の人に聞くと、なにやら遠くの方からの人達が来ているそうだ。
年に何回もくるわけじゃない人達がいると知った僕は、新鮮な話が聞けるんじゃないかと思い、食べることよりも聞き耳を立てることに集中した―――。
「おい...聞いたかあの話。」
「ああ、レジスタンスだろ?この辺りにもいるって話だから今回俺達が呼ばれたって噂だぜ...。」
『レジスタンス!?なんて好奇心をそそられる言葉だ!!』意味は理解していないが何となく【暇つぶし】に一役買ってくれそうな匂いを感じ、心が起き上がった。
「抵抗したって無駄なのにな―――。愛がどうとか言ってる連中だろ?」
「まあ、明日南地区に行ってみれば分かるだろ...」
『.....南地区.....明日そこで何かが行われるのか。』僕は触手の様なうどんを口一杯に頬張りながら頭では既に、どう南地区へ行こうかと考え始めていた。
退屈なマンネリの闇に差しこんだ純粋な光。
まさに【遠足の前日】の様な期待感でこのイベントを楽しむつもりだった。
お陰でこの日はなかなか寝付けなくなってしまったのだが――――――――――――
――――――そんな気楽に関わる事では無かったという事は、
まだ知る由もなかった―――。
そして次の日、僕は南地区の仕事を頼まれたと嘘をつきなんとか潜り込むことに成功した。
案外堂々としていれば嘘も本当になるのかもしれない。まあ内心は【女子と初めて手を握った時】くらい穏やかでは無かったが...。
―――とにかく昨日会話していた者達を見つけようと探索していると、ひとつの家から言い合いをしている声が聞こえてきた....。
しかし、中を覗こうと家の入口に向かっていくと扉が物凄い勢いで蹴り開けられ!咄嗟に開いた扉の裏側に隠れるように張り付いた。
息を殺して正に扉と一体化していると、中から2人程出てきた。彼らはブツクサ言いながら遠ざかって行ったのを耳で感じながらとりあえず、『はぁぁぁぁ』と大きく息を吐いた。
そこへ―――
「二度と来るな!この野郎!」
家の中から聞こえて来たのは女の声だった。
扉に隠れたまま【ひょっこり】覗いてみると、僕と同じくらいの年代物らしい見るからに攻撃的な何かを纏った人物が、頭から蒸気を発しているかのごとく仁王立ちで立ち尽くしている。
「なんだお前は!?」
『しまった....!』
あまりにも興味をひかれるその人物の観察に熱中しすぎて、ひょっこりしていた事をすっかり忘れてしまった。
「何覗いてんだよっ!お前、さては覗き魔かぁ!」
「待ってくれ!覗いたけど覗いてないんだ!」
自分で何言ってるのかわからなくなってしまったが、とにかく何とかしなくては―――。
「そもそも覗くって言うのは片方が見つからないように身体を隠して一方的に相手を見ることだろ?僕の場合は身体の一部を出してるわけだから覗くという意味からは取り除かれる事になり、つまり覗いた事にはならないんだよ...。」
とにかくいっぱい喋って論点をズラしていこう―――こういう場合内容なんてどーだっていいのだ。むしろつじつまがあってない方が迷走するってもんだし。
「訳わかんないこと言ってんじゃねぇ!」
そう言うと力づくで家の中へ引きづられ―――挙句には放り投げられた...。
『迷走作戦が通用しないとは―――』
どうやら彼女の様な感情型verの者には今回の作戦は通用しないようだ...。
「こいつどうしてやろうか。」
引きずりこまれた家の中には、明らかに僕より力のありそうな男や男や女や女に取り囲まれて全方位から睨みつけられている。
まさに【闘技場に放たれたグラディエーター】の気持ちになったのだが―――なっただけで、普通に考えれば逃げれない、勝てない、とあっては相手が大人だけに大人しくするしか無かった。
「おめえ、何処のもんだ?」
威嚇する様な低めの声で髭が逞しい冗談が通じそうにない男が問いかけてきた。
「実は―――――――――」
僕は今日ここに来た理由と経緯を嘘偽りなく話した。犬で言うなら仰向けになってお腹を見せている状態....つまり降参した。
すると先程の色々と逞しい男が呟いた。
「こんなガキにまで嗅ぎつけられるなんてな...」
なにやら落胆した様子だった。
「何かすみません。」
僕は空気に謝らされた。
「おめえのせいじゃねえが、好奇心も程々にしとかねえとその内酷い目に合うことになるぞ。」
脅しではないが経験からくる警告なのは彼の傷だらけの身体を見ればコケ脅しでは無いと理解した。
「まあ、知っちまったら仕方がねぇ。俺達は俗にレジスタンスと呼ばれてる者だ。この国のやり方に納得しない連中達が集まって活動を行っている。つまり非国民って事で国の奴らが今日みたいに捕まえに来るんだ。」
すると先程の女の子が口を挟んできた。
「お父ちゃん、こんな奴に話すことないよ!
―――あんたもさっさと出ていきなさいよっ!あたしらといると疑われてとっ捕まったって知らないからね!」
全く女の子らしからぬ女の子だ...。
「何も知らずにただ生きてた方が幸せなんだから...バイバイ。」
そういう割には悲しそうな顔に見えたのは僕だけだろうか...。
そして、人生の分岐点とは何の準備もできないまま突然やってくるものだ。
どちらが正解なのか解らないままどちらかを選ばなければいけない。
まあ、人生とはこの連続であると思うのだけれど、この時の僕には初めての二択クイズだったのだ。
せめてマルチエンディングならハッピーエンドであって欲しいと思いつつも、僕は1つ目のルート選択を決めたのだった...。
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