第2話 独立国家

地図によると【ザルバ】という名のこの国は、現国王が支配するようになって30年近く過ぎていた。


この国には嫌という程の決まり事があり、述べるのも嫌なので辞めておくことにするが、とにかく【超束縛する女】といえば解ってもらえるだろうか。


ただし、中には生死に関わる決まりもあるので、それだけは頭に叩き込んでおかなければ明日はやってこないだろう。それ故に内容は簡単である。



国外に出ない事。



産み落とした者と近づかない事。



国外に出ないと言っても、この国の広さは端から端まで行くのに空飛ぶ乗り物で5時間かかるほどの距離であるからして、よっぽどのおマヌケさんでない限り出ることは無いであろう。


さらに付け加えるなら国境にはよじ登れないほどの壁が覆っており、どこかの巨人以外では越えることは出来ないのである。


こんな莫大な国を収めているやつがどれだけヤバいのかくらいは、いかに学のない者達でも理解出来る。だからこそ、この理不尽な【超束縛女】のむちゃなルールに従うしかないのだ―――。


なにより、この国に産まれてしまったのだから生きるためには仕方がない...。


これだけである。


『愛がなければ争いは終わる』


――至る所に貼り付けてある国王のポスターにはそう書いてある...。


この言葉の意味はよく分からないが、どうやら愛と言うのがいけないものという事は伝わってくる。


そもそも分からないものを無くせと言われても全くもって迷惑な訳だが、今の所は生活に不自由はないので特に気にする事柄でもなさそうだ―――。


それについては先程の2つ目のルールでも当てはまる。


産み落としたもの『この国ではパレントと呼ぶ』に近づくなと言われても、その者の顔や名前など一切の情報がないので気をつけようがないのである。


まあ、すぐに隔離されているらしいのでたまたま近づくという事故はほとんどないよう管理してくれているらしいが....。


それなりに信用できる国であるとは思う。


国王の生い立ち等については一切公表されておらず。どのように国を作ったのかさえ不明である。


気づいた時からこうなっていたので別にこのままでいいかと思っていた―――。


ただ不満を上げるならば、毎日がつまらないな...という事だけである。


これはおそらく僕一人のものではなく、誰もが心のどこかに『何か面白い事が起こらないかな』と思っているだろう。


それ故にこの間の件で皆が必死に集まってくるという現象は仕方の無いことなのだと、そしてあんな事が起こっても彼らには【ただの暇つぶし】程度のイベントなのである...。


この間の一件から数日した頃、僕の未来は分岐点を迎えることとなった。


後で思えばやはりあれが全ての始まりだったのだろう。


今となってはどうすることも出来ないのだが、人は選択肢に立たされるとやはりどちらの結末も見てみたいものだ。


「欲の塊め...」


どこからか言われたのか、自分で発してしまったのか解らないがそう聞こえた。


欲があるからこその人なのである。


どんなに精神を鍛えた人でもそれが0になる訳では無い、抑えているだけなのだ。


見えないけど常にそこに漂っていると言う点では、空気みたいなものなのかもしれない。


何も無い日常で僕はそれに少しづつ興味を持ち始めていた...。


『もっと他人の衝動的なものを見たい―――』


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