第43話 紐 弐




「どうして写楽が死んだの?」



写楽とは死んだ柴犬の名前だ



そしてやはり答えはない



「あたしが紐を引いたから? あたしが紐を引いたから写楽は死んじゃったのね!」









「うーん、やっぱりお日様の光は気持ち良いわね」


私と草薙さんと桜子の3人は今日も中庭の芝生の上でお弁当を食べていた。

最も桜子は草薙相談ポストの中の手紙をチェックしてる。私も手伝おうとしたけど「いえ、あたし1人の方が効率が良いですから」と体よく断られてしまった。

間違いない。桜子もSだ。


お弁当を食べている私と草薙さんから少し離れたところで数匹の雀が餌らしきものをついばんでいる。


「見て見て、草薙さん。可愛いね。あっ!」


私がそう言った矢先に鳶のような鳥が高速で滑空して来て雀の1羽を捕まえて飛び去って行った。


「あー、可哀想。あの雀」


「何、言ってんの。あんなの自然の摂理じゃない」


悲痛な声を上げた私に草薙さんが非情な声で答える。


「だってぇ。やっぱりあの雀が可哀想だよぉ」


そう言う私に草薙さんはため息をつく。


「あの鳶だって生きる為に雀を捕まえたのよ。遊びでやってる訳じゃ無いわ。それともあの鳶が食べるものが無くて餓死した方が良いって言うの?」


「でも、やっぱり残酷だよ。目の前であんなの見せられたら」


草薙さんはそんな私を見て「やれやれ」と言った様子だった。


「そう言う見方をするのは人間のエゴよ。それで言ったら人間の方が遥かに残酷だわ」


「残酷? 人間が?」


「そう。同じホモ・サピエンスと言う種族で殺し合うのは人間だけよ。しかも動物は自分が生きる為に捕食してる。それに対して人間は自分達の利益や目的の為に同じ人間を殺してる。中には快楽を得る為に人殺しをしてる人もいる」


草薙さんにそう言われたら私は反論する事が出来ない。

確かに人間の歴史は戦争や紛争の歴史でもある事くらいは私だって判ってる。

今、この瞬間にも世界の何処かでは理不尽に殺されている人はいるだろう。


「それに人間は人間同士で傷つけ合っている。それは物理的なものだけじゃ無い」


「物理的なものだけじゃ無いって?」


草薙さんは卵焼きを口に放り込む。


「精神的なものよ。判りやすい例えは学校でのイジメね」


「・・・イジメ」


確かにイジメで自殺した、って言うニュースは観た事あるけど。


「今はネットでの誹謗中傷も多いわね。有名人で自殺した人も居るでしょ? アタシはネットに興味が無いからどんな誹謗中傷かは知らないけど」


「それって、ツイッターの事だよ。私は怖いから利用して無いけど」


草薙さんは軽くため息をつく。


「その他には悪意の無い言動もあるみたい。その人には全く悪意は無いのに、その人のネット上の言動で傷ついてる人もいるみたいね。バカみたい」


「・・・バカって言うのはちょっと」


サスガに私は草薙さんに抗議する。

私も「もういいかい事件」の時はマトモな精神状態では無かったから。

確かに私の場合も物理的な実害は無かったけど。


「アタシから見たらバカにしか見えないって事。人にはそれぞれの事情や価値観がある。他人の言動を勝手に判断して被害妄想になってるだけよ。ホントに困ったかまってちゃんよ」


「うーん。私もそう言う、かまってちゃんの事は良く判らないかなぁ」


そんな事を喋ってる私達の所へ桜子が1枚の葉書を持って来た。


「草薙さん。これ、ちょっと気になるんですけど」


草薙さんの瞳が紅く染まったように見えた。


「見せて」


草薙さんが桜子に向かって手を伸ばす。

桜子は持っていた葉書を草薙さんに渡す。

そして、草薙さんはその葉書を真剣な顔つきで読んでいる。


「何? どんな内容なの?」


「この葉書をポストに入れた人の友達が原因不明の昏睡状態になってるらしいわ」


昏睡状態?

そんなの医学的な問題じゃ無いの?

私の顔に疑問符がついているのを見て草薙さんが付け加える。


「その子が昏睡状態になってからその子の家で飼っていた数匹のペットが原因不明の急死をしたらしいわ。それにこの葉書にはアタシの母さんの形見が反応してる」


「反応って、それじゃ」


草薙さんは私を見て大きくうなづく。

それから桜子に声をかける。


「この葉書を出した子と話が出来るように手配して。なるべく早く」


「了解しました。この葉書を出した子はあたしの隣のクラスですから今から会いに行きます」



そう言って桜子は校舎の方へ駆けて行った。






つづく






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