第39話 年の初めの試しとて



ガンガンガン



寝ている私の耳元で大きな音がする。



ガンガンガンガン


その音は段々と大きくなる。


ガンガンガンガンガン


「もぉ、うるさいなぁ」


私は目をこすりながらベッドの上で起き上がる。

隣では桜子も起き上がっている。

そして、ベッドの横では着物姿の草薙さんがフライパンを片手に仁王立ちしている。


「ほぇ?」


私の寝ぼけた頭はこの状況を良く理解出来ない。


「えーっと、この状況は、っと・・・」


私はまだ覚醒してない頭で結論を出す。


「そっか、私と桜子は草薙さんのお嫁さんになったのね。勿論、私が第1夫人よね」



ガンッ



「いったーい」


私は頭を押さえてうずくまる。


「どう? 目は覚めた?」


草薙さんの勝ち誇ったような声がする。

草薙さんがフライパンで私の頭を叩いたのだ。

このアマ、ドSにも程がある。


「フライパンで殴らなくても良いでしょ!まだ痛いよぉ」


「フン。元旦にお昼まで惰眠を貪るヤツには当然の報いよ」


着物の上にエプロンを着けた草薙さんがドSの目でニヤリとしている。

隣では桜子がクスクスと笑っている。

そうだった。昨夜の大晦日から3人で年越しパーティをしてたんだった。


「2人とも早く着替えなさい。お雑煮を持って来るから」


そう言って草薙さんはフライパン片手に部屋を出て行った。


「はい」


そう答えた桜子はパジャマのボタンを外し始める。

草薙さん程じゃ無いけどあまりバストがない桜子は薄いグレーのスポーツブラをしている。

私もまだ痛む頭を押さえながら渋々とパジャマのボタンを外す。


この年越しパーティは草薙さんが持ち出したのだ。3人で年越しパーティしない? と。

私と桜子は喜んで2つ返事でオッケーしたけど親を説得するのに苦労した。私の両親も桜子の両親も自分達の家に草薙さんを招待したい、と言い出したのだ。

そこで草薙さんの出番となった。


草薙さんはそれぞれの両親の前で正座してこう言った。


「私のような者をご招待頂くのは身に余る光栄です。また大切な娘さんを未成年である私の家に外泊させるのをご心配するお気持ちも重々理解しております。しかし、娘さんももう高校生です。皆様もご経験されておりますように高校生の頃の思い出は何事にも変え難い大切なものです。娘さん方と一緒に年を越せるのは普段1人暮らしをしている私に取りましてもこの上ない喜びです。それは私達高校生だけで過ごしてこそ得る事の出来る大切な思い出となりましょう。どうか私、草薙を信用して娘さんの外泊を認めて頂けないでしょうか。切に切にお願い申し上げます」


そして、両手を揃えて深々と頭を下げたのである。

私と桜子の両親はこんな草薙さんに逆らえる筈は無かった。

却って慌てて姿勢を正して「娘をよろしくお願いします」となったのだ。


大晦日の午前中に買い出しをしてる時に桜子が笑いながら言った。


「あたしの両親泣いてましたよ。まるで娘を嫁にやるようだ、って」


そんな桜子に草薙さんは平然と言った。


「だって年越しに1人でウオッカ飲んでてもつまんないだもん」


このアマ、やっぱり酒目当てだったよ。

そりゃ、ウチの両親の前でウオッカのがぶ飲みなんて出来ないもんね。

あっ、未成年の良い子はマネしないでね。



それから一旦解散して午後6時に草薙さんのマンションに集合した。



そして、年越しパーティならぬ年越し飲み会が始まったのであった。






つづく



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