第27話 草薙さんを助けなきゃ! 参
「・・・・さん。・・・・さん」
また誰かがアタシを呼んでいる。
もう、うるさいなぁ。
アタシは眠っていたいのに。
「く・・・さん。く・・・さん」
あれ ?
何処かで聴いた声だ。
誰だっけ ?
「草薙さん!」
アタシは目を開いた。
音美。
間違いない音美の声だ。
「音美!」
アタシの意識が戻ってきた。
アタシの胸で母さんの形見が発光してる。
アタシの胸の中に入り込んだモノを消滅させてくれたんだ。
「チッ」
アタシは舌打ちした。
こんなヤツに囚われてしまうなんて。
草薙ターニャともあろうものが。
草薙の剣の継承者ともあろうものが。
アタシは母さんの形見を右手に握った。
「お前が闘ってきたモノの殆どは人間が作り出したモノだ」
何かは、まだ戯言をほざいてる。
うっさいわねぇ。
人間なら誰だって負の側面は持っている。
負の側面が全くない人間なんて気持ち悪いわよ。
「人間が地球にとって良い事などしたか」
何言ってんの、コイツ。
そんなものは誰かが判断するものじゃない。
地球と言う惑星が消滅した後で地球外知的生命体とやらが居るのなら、ソイツらに憶測でもさせれば良い。
「同じ種族同士で殺し合う生物は人間だけだ」
それはそうかもね。
でも人間は信じ合う事も出来る。
愛し合う事だって出来るのよ。
「言いたい事はそれだけ ? 」
何かの気配が小さくなっていく。
逃げるつもりだ。
させるかぁ!
「草薙の剣。コイツを滅せよ」
アタシが叫ぶと同時にソイツは消滅した。
光の剣を使う必要も無かった。
こんなヤツに囚われていたアタシにちょっと自己嫌悪。
アタシの周りにあった闇は消え去りアタシはパジャマ姿で自分のベッドの上に立っていた。
「音美ちゃん!音美ちゃん!」
アタシの部屋の入り口で貴美子さんが音美を抱きかかえて呼びかけている。
音美はグッタリとして動かない。
アタシは自分の顔からサァッと血の気が引くのを感じた。
「貴美子さん!音美は!」
アタシは2人に駆け寄った。
そして素早く音美の胸に手を当てた。
「大丈夫。脈はあるわ」
貴美子さんの言う通り音美の心臓は鼓動している。
アタシは心から安堵した。
そして音美を抱きしめた。
アタシの草薙の剣の力を与える為に。
音美の顔に血色が戻ってきた。
「もう心配は無いと思います。貴美子さんも来て下さったんですね。すみませんでした。アタシが不甲斐ないばっかりに」
草薙は下を向いて唇を噛んだ。
「草薙さんのせいじゃないわ。悪いのはあの黒い塊でしょ」
「・・いえ」
草薙は貴美子の言葉を遮るように言った。
「このアタシ達のマンションの部屋には強い結界が張ってあったんです」
「そうなの ? 」
貴美子の言葉に草薙は頷いた。
「今までこの結界が破られた事はありませんでした。とても強力な力を持った何かが1点突破で結界にほころびを作ったんです」
「その強力な力を持った何かって ? 」
貴美子はとても心配そうに尋ねた。
「現状では判りません。いずれ対決する事になるでしょう」
「そう。その時にはわたしにも声をかけてね。足手まといになるかも知れないけど」
貴美子は努めて明るく言った。
「足手まといなんて。あっ!座敷童さまはご無事ですか ? 」
「大丈夫よ。今は眠っていらっしゃるわ」
貴美子は握りしめていたドングリを草薙に見せた。
「大変!回復させて頂きます」
草薙は母の形見をドングリに近づけた。
母の形見は座敷童を労わるように優しい光りを放った。
「座敷童さまは簡単には消滅しないわ。だって神様なんだもん」
「そうですね。貴美子さん、左手に傷が」
貴美子は左手を草薙にみせた。
「かすり傷よ。大した事ないわ」
「かすり傷じゃ無いですよ。裂けてるじゃないですか。ちょっと待ってて下さい」
そう言って草薙は自室を出て行った。
戻ってきた草薙は2つの薬草水とガーゼと包帯を持っていた。
「それは ? 」
「消毒用の薬草水です。ちょっと沁みますよ」
草薙はガーゼに薬草水を含ませると貴美子の傷痕を丁寧に拭いていった。
貴美子は「うっ」と顔をしかめたが、それからは草薙の手際のよい手当てを見守っていた。
草薙は別のガーゼにもう1つの薬草水を含ませるとそれを傷痕に当て丁寧に包帯を巻いて行った。
「そちらの薬草水は ? 」
「細胞の修復に効果があります。この薬草水はお渡ししますので包帯とガーゼは毎日取り替えて下さいね。そうすれば傷痕は残らないと思います」
それから草薙と貴美子は手を取り合った。
「また会えて嬉しいわ。草薙さん」
「アタシもです貴美子さん。でも」
草薙は下を向いた。
「どうしたの ? 」
「今回は貴美子さんも含めて色々な方にご迷惑をおかけしてしまって」
「そんな事、言わないの」
貴美子は笑顔で言った。
草薙は顔を上げた。
「草薙さんは沢山の人を助けて来た。たまにはわたし達にも草薙さんを助けさせてよ」
「・・貴美子さん」
「それにね」
貴美子はウインクした。
「今回、1番頑張ったのは狸さんじゃなくて、音美さんなんだから」
「そう、そうですね」
そして2人は笑い合った。
「・・うーん」
寝かせておいた音美の声がした。
2人は音美の方へ歩いて行った。
そして、音美の両脇に座った。
「もう、心配は無さそうね」
「はい。もうすぐ意識が戻ると思います」
音美は少し寝返りをして静かに目を開けた。
「お目覚め ? 狸さん」
「早く起きなさい。狸さん」
「だから、狸って言うなぁ」
音美はそう言いながらも自分を覗き込んでいる草薙の笑顔を確認した。
「・・良かった。草薙さん、無事だったんだ」
「ええ。貴女のお陰よ。音美」
音美は心から安堵した笑みを浮かべた。
「本当に。草薙さんを助けたのは貴女よ。音美ちゃん」
「貴美子さんこそ。私を助けに来てくれてありがうございました」
草薙の部屋からは太陽が西の空にあるのが判る。
「もう4時かぁ。よーし、今日の晩ご飯はわたしが奢るわよ。なんでも好きなもの食べて」
腕時計で時間を確認した貴美子が言った。
「ホントですかぁ!」
寝ていた音美が跳ね起きた。
「あ、えーと。なるべく予算内でね」
貴美子の額から冷や汗が流れる。
そこへ草薙が追い打ちをかける。
「こら。貴美子さんは新入社員なのよ。しかも1人暮らし。あまり高いものは・・あっ」
貴美子はジロリと草薙を見る。
「ふっ。草薙さん。なかなか痛い所を突いてくるわね」
「あ、えーと」
草薙は視線を外してとぼけている。
「大丈夫です!私、安くて美味しいお店いーっぱい知ってますから」
そんな音美の一言で皆は吹き出し大笑いになった。
夏の終わりを告げるような爽やかな風が
この現世を慈しむように吹き渡っていた
第13章 終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます