第25話 草薙さんを助けなきゃ!




「・・ターニャ。草薙ターニャ」



何かがアタシを呼んでいる。


アタシは暗闇の中で膝を抱えて浮かんでいる。



「草薙ターニャ。目を覚ませ」



何かは執拗にアタシに呼びかける。



うるさいなぁ。


何が言いたいのよ ?



「お前は何の為に闘っている ? 」



何かはアタシの中に入ってこようとしている。

アタシの足がむず痒くなる。

アタシの手が痺れてくる。


ああ、そうか。

この暗闇の中では結界は意味をなさないんだ。

そう言えば母さんの形見も見当たらない。



アタシの身体だけが暗闇の中に浮かんでいるんだ。




「お前は誰の為に闘っている ? 」



え ?

アタシって闘ってたっけ ?


何か気だるい。

考えるのもめんどくさくなってくる。

もう、どうでも良いや。



「人間の為か ? しかしお前が闘ってきたモノの殆どは人間が作り出したモノだ」



「そんな人間を守る価値などあるのか ? 人間が地球にとって良い事などしたか」



「常に誰かを恨み妬み呪う。同じ種族同士で殺し合う生物は人間だけだ」




だから、うるさいって。

どっちでも良いよ、そんなの。

このままアタシを眠らせてよ。



何かはアタシの胸に入り込んできた。







「おっかしいなぁ」



私、橘音美はマンションの入り口で佇んでいた。


今日は土曜日だから午前中から草薙さんのマンションで修行をする約束なのに。

朝から何回も電話をしたけど草薙さんは出ない。

仕方なく彼女のマンションに来たけど入り口のタッチパネルで彼女の部屋番号を入力しても応答が無い。


「寝坊でもしてるのかなぁ」


しかし草薙さんはそんな事しないのは私が1番判ってる。

どうしようか、と思っていたら私のブラの中で何かが動いてるのに気がついた。

長老さまから頂いたネックレスだ。


ブラの中から引っ張り出すとネックレスが小刻みに振動してる。

私が考え込んでいると私の中の弟橘媛が反応した。

草薙さんに何かが起こってる!


「え ? え ? 」


私は動揺した。

どうすれば良いんだろう ?

私は途方に暮れてしまった。



そんな私を風が吹き抜けた。

草薙さんの香りがしたような気がした。

私は前を向いた。


しっかりしなさい!

私!


私は何の為に草薙さんと一緒に居たの。

草薙さんを助ける為じゃないの。

私が助けなきゃ誰が助けるの。


「だって!」


私は叫んだ。


「私は弟橘媛なんだから!」


それは私自身に気合を入れるようだった。

そうよ。

私がやらなきゃ誰がやるのよ、橘音美!


「だけど」


私は呟いた。


「具体的にはどうしたら良いのぉぉ」


いや、考えろ。

考えろ。

今の私に出来る事は ?


「あっ、そうだ。長老さま」


長老さまなら何かアドバイスをくれるに違いない。

私は急いで熱田神宮に電話した。


「はい。熱田神宮社務所ですが」


「あの、長老さまはいらっしゃいますか ? 」


しばしの沈黙が流れた。


「・・失礼ですが、どちら様ですか ? 」


いかにも胡散臭そうな声だ。


「あ、私は橘音美と申します。えっと、弟橘媛と言えば判って頂けると思います」


「オトタチバナヒメですか ? あの、その方はどなたですか ? 」


電話の声は胡散臭げなものから警戒的なものに変わってる。


「草薙さんが。草薙ターニャさんが大変なんです。何とか長老さまにお取次ぎを」


私の声は涙声になっていた。


「・・草薙。長老さまは今はご外出をされています。お帰りになりましたらお伝えします。貴女の連絡先をお教え下さい」


草薙と言う名前を聞いて相手の女の人の口調が変わった。

私は私のスマホの番号を告げると何度もお辞儀をしてスマホを切った。

さて、次に私がする事は何だろう ?


「あ、首なし地蔵さま!」


でも、私が首なし地蔵さまと話なんて出来るんだろうか ?


いや、今は行動する時だ。

私は意を決して歩き出した。






つづく





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