第15話 何かが何かを引きずって行く



ズルッズルッズルッ



彼は布団の中で目を覚ました。

何か変な音が聞こえて来る。

彼は布団から身を起こし部屋の照明を点けた。


「何だ ? 何の音だ ? 」


彼は時計を見た。


午前2時12分


時計の針はその時間を指していた。


「何かの音が聞こえたような気がしたけど。寝ぼけたのかな ? 」


彼は耳を澄ましてみた。

特に何も聞こえない。


「やっぱり寝ぼけてたんだな。早く寝よっと」


その瞬間だった。



ズルッズルッズルッ



確かに聞こえた。

何者かが何かを引きずっているような音だ。

彼の家の前の道を。


「何だ ? こんな時間に ? 」


彼は道に面した窓を開けようとした。

すると。


「開けてはならぬぅ」


誰かが、そう言った。


「うわっ」


彼は腰を抜かしそうになった。

部屋の中を見回しても彼以外に誰もいない。

背中を冷や汗が流れた。


「なんだ ? 何なんだよ!」


さっきの声は彼の頭の中に直接響いて来たようだった。

結局、彼は窓を開ける事が出来なかった。






「ねぇねぇ。あの噂知ってる ? 」


「あの噂ってどの噂よ ? 弟橘」


「だーかーら!そのオトタチバナって誰なのよ!」


学校の昼休み。

私はいつものように草薙さんと中庭でお弁当を食べていた。

これはもう定番になっていて、この場所は私達専用みたいになっている。


私と草薙さんの仲は、もう学校では知らない人はいないみたい。

そりゃそうよね。

今まで親しい友人がいなかった草薙さんがいつも私と一緒にいるんだから。


中には「あの2人はデキている」とか「百合カップル」なんて言ってる人達もいる。

私なんか下級生のいわゆる「草薙さんファンクラブ」と呼ばれてる子達に詰問までされちゃったよ。

その子らに「貴女と草薙さんはどういう関係なんですか ? まさかホントに百合 ? 」なんてね。


私は「ご想像にお任せしまぁす」と言っておいた。

その子らはショックを受けたように「嘘よ」とか言って泣き出しちゃったなぁ。

その事を草薙さんに言ったら「否定しなさいよ!」って怒られたけど。



「アタシが渡した、古事記と日本書紀はちゃんと読んだの ? 」


草薙さんはジロリとした目で私を見る。


「だってぇ。私は読書なんてあまりしないんだもん」


「変な雑誌の変な記事は読むくせに」


あー。これはまた例の「もういいかい事件」の事を言ってる。


「変な雑誌って何よ!女子高生がティーン向け雑誌を読むのは当たり前じゃない」


「アタシは読んだ事無いわ」


「それは草薙さんが異常なのよ」


「何ですって!」


「草薙さん、人が見てるよ」


「あっ、オホン」


こう言うとドSの草薙さんも大人しくなる。

何だかんだ言っても、草薙さんも年頃の女の子だもんね。

こういうギャップがとても可愛いんだけど。


「それで、どこまでは読んだの ? 」


「えーっと。スサノオさんがヤマタノオロチを退治したあたり」


「まだ、そこまで ? これは先が思いやられるわ」


草薙さんが大げさなため息をつく。


「草薙さんが教えてくれれば良いのに。そのオトタチバナって人の事」


「だって貴女は完全に弟橘に覚醒したワケじゃないし」


「言っておくけど私はそこまで読むのさえ苦労したんだからね」


私は神話とかにはあまり興味は無い。

それよりも、もっと気になってる事があるから。


「アタシと行動を共にする以上は古事記くらいは読んで知識をつけて欲しいんですけど」


「はいはい。頑張りますよ。それよりさぁ」


「何よ ? 」


草薙さんはメンドクサイ、って言う態度を露骨にとる。

さすが、ドS。


「今、学校内で噂になってる事。夜中に何かが何かを引きずって行くって」


あ、私が気になってる事って、この事じゃ無いからね。


「あぁ、その事ね。知ってるわよ。何人かの人から相談も受けてるし」


「そうなんだ。やっぱりこう言う事は草薙さんにしか相談出来ないものね」


「あのねぇ」


草薙さんはちょっと怒ったように言った。


「アタシは、ゲ〇ゲの〇太郎じゃ無いのよ。全く」






つづく



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